第19話 学校での日常(隼人視点)

「校長の話、長すぎだよな?」


「本当、そう思うよね」


 俺は終業式が終わるとすぐに拓也に会いに行った。


 拓也の席は窓際なので、廊下側の俺の席の対面にある。後ろの席の真香はこちらには来ないで、じっと自分の席に座って俺と拓也が話しているのを見ていた。


「で、今日は会いに行くんだよな?」


「ちさきのことか。目を覚ましたようだな。良かったよ……。でもまだ、記憶が曖昧なんだろ」


「うん。何故か分からないけど、俺のことは覚えてるらしい。まあ、腐れ縁だよな」


 俺は昨日の夜、拓也を驚かせないようにLINEで、ちさきの現状をまとめて送ったが、返事はそうか、と送られてきただけだった。


「やはり、ちさきは隼人のこと覚えてたか……」


 拓也は嬉しそうに笑った。


「俺もちさきが落ち着いたら、行ってみるわ」


 拓也はそれだけ言うと席を立とうとする。俺は部外者だが、彼氏の拓也が今日もお見舞いに行かないことがどうしても納得いかなかった。


「俺も今からお見舞いに行くから、お前も来ないか?」


「いや、俺はいいよ……、ちょっと用事があるから帰るわ」


 そう言って教室を出ようとする。


「ちょっと待てよ。お前、彼氏だろ! なぜ、俺が毎日お見舞いに行って、彼氏のお前はちさきが起きても行かねえんだよ!」


 俺は慌てて追いかけて、拓也の肩に手をかけた。拓也はそれを見て立ち止まり、真香の方を向く。


「なあ、もう辞めない? こう言うのうんざりなんだけどね」


「お前、何言ってんだよ! 真香は関係ないだろ」


「関係なくもないんだよ。ごめん、今日は行くね」


 いきなり真香に話を振られて俺はびっくりしてしまった。絶対連れていくと心に誓っていたのに、いざとなると気を使ってしまう。


「あっ、ああ……お見舞い、今日じゃなくていいからさ。行ってやれよ」


「考えとく……」


 それだけ言い残すと拓也は教室を出て行ってしまう。拓也が居なくなると慌てて真香がこちらに近づいてきた。


「拓也もさ。忘れられてることに動揺してるんだと思うよ。ねえ、それよりお見舞い行くんでしょう。わたしも行っていいよね」


 そう言って真香はニッコリと微笑んだ。拓也と違い真香は、ずっとついてきてくれる。真香だって、忘れられていて辛いはずなのにな。


「なあ、お前も会うの辛かったら言ってくれよな。そのさ、待合室でいつものように待っててもいいからな」


 真香は俺の言葉にゆっくりと頭を左右に振った。


「いいよ。わたしは大丈夫だからさ。それより、隼人は覚えてくれていて良かったね」


「うん、でもよ。俺だけ覚えられてるってのは変だと思うんだ。絶対、お前らのことも思い出させてやるからな」


 俺は握った手に力を入れた。あの時とは変わってしまったかもしれない。ちさきは拓也を選び、俺は真香を選んだ。でも、四人の中にある友情は変わらないと信じたい。


「また、そう言って自分の責任にする。そうじゃないでしょ。隼人はね。ちさきの彼氏じゃないんだから、本当は距離を置いてもいいくらいなんだよ」


 そうかもしれない。でも、唯一覚えてる俺が行かないでどうするんだ。


「ごめん、真香には悪いけどやはり、俺は暫くちさきのお見舞いは続けたい」


「そっか……負担にならないなら、いいよ。わたしも一緒にいるからね」


 そう言ってニッコリと笑う。そうだ、記憶が曖昧なちさきにも今の関係を少しずつ伝えて行かないとならない。


「それじゃ、行こうか」


 俺が手を差し出すと、真香が手を取った。そして、俺たちが教室から出ようとする。それを見た担任がこちらに向かって慌てて走ってきた。


「お前たち、付き合ってるのはみんな知ってるからいいけど、節度ある交際をしろよ!」


「大丈夫ですよ。今も清い交際してますから……」


「ならいいけどさ」


「あれ、先生。これからも清い交際続けないと駄目ですか?」


 隣の真香が俺の手を離し、俺の腕に手を回した。結果、胸が押しつけられる。


「お前たち高校生だからな。それに赤ちゃんとかできたら……」


「ちょ、待ってくださいよ。そんなことしませんって」


 俺が慌てて否定すると、真香は教師の方に目を向けた。


「そうですよ。ちゃんと避妊しますし……」


 おいおい、そう言うつもりで言ったんじゃないって。それのどこが清い交際だよ。


「ここ進学校だから、あまり校則とかうるさくないけどさ。頼むから俺の前でそんなこと言うの辞めてくれる」


 先生も男女交際は否定しないものの、性行為まで認めるわけには行かないわけだ。


「もちろんですよ。なあ、真香?」


 隣の真香は納得いってないようだが、それを教師の前で言うのは駄目だろ。


「あまり先生を困らせたら駄目だって」


「うっ、うん。ごめんね……、先生大丈夫です。その……そういうことは公にはしませんから……」


「まっ、まあ。お前らも若いから、まあ、なあ……。でも、揉め事になるようなことだけは辞めてくれよな」


 なんか奥歯にものが挟まったような言い方だが、先生も先生の立場というものがあるのだろう。


「じゃあ、俺たちはこれで……」


 俺はそれだけ言うと真香と一緒に帰ろうとした。


「いや、お前たちを呼び止めたのはそうじゃないんだ」


「はい? なんですか?」


「今日も凪乃のお見舞い行くんだろ! 先生も行かないとならないことはわかってるけど忙しくてさ。これ、持って行ってくれないか?」


 そう言って、紙袋に入った荷物を渡される。


「冬休みが終わって、暫くしたら学校来ると思うからな。これは凪乃の宿題だ」


「これ、先生が作ってくれたんですか?」


「あいつ、頭がいいからすぐに追いつくと思うけどな。でも、半年も寝てたんだ。ついていくの大変だと思ってさ。そうだ……、出来ればでいいんだが、冬休み中、お前が教えてやれよ!」


 幼馴染で学年一位なんだからさ、と俺の肩を二、三回叩いて一人納得して去って行った。


「俺が教えることになるんだよな?」


「そう言うことだよね。話の流れからすると……」


 俺自身は凄く嬉しいんだが、真香の気持ちはどうなんだろう。


「お前も一緒に教えてやるからな」


 そうだ。よく考えたらこれは真香の復習にもなる。


「えーっ、わたしも一緒に勉強するの?」


「いやか?」


「嫌じゃないけどね。なんか遊ぶ時間が減りそう」


「お前、追試ギリギリの科目が何個かあったよな。お前も勉強しろよ」


「分かったよ。まあ、ちさきとふたりきりと言うわけにも行かないし。もちろん、わたしも付き合うよ。でも、その代わり、せっかく水着買ったんだから、今年の夏はふたりきりで海水浴行こうね」


 そう言って、俺の手を強く握った。俺はその言葉に少し戸惑いを感じたが、ちさきは拓也の彼女だろ、と考え直し、そうだな、とだけ応えた。




――――――――




隼人の真香への信頼は鰻登りに上がってて、拓也への信頼は急降下してますね。


現実とこうも逆だとか本当に人は見えないものです。


今後どうなるんでしょうかね。


ラストがどうなるかはもちろんしっかりと考えます。


これからもよろしくお願いしますね。

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