第16話 立ち話(拓也視点)
「おかえり、遅かったね」
「えっ、なぜ拓也がここにいるの!?」
俺が家の前で待っていると帰って来た真香が黄色の目を大きくして驚いていた。時計を見てみると15時を少し回っていた。
「昨日の話の続きをしようと思って、待ってたんだよ」
「えっ!? 昨日の話は終わったでしょう。それで拓也はちさきに毎日会いに行くって……」
「俺に嘘ついたよね」
「えっ!?」
「お父さんの血液型。知らないでしょ」
「何を言ってるの。そんなわけ……」
「あるでしょう。俺はね。隼人ほどお人好しじゃないんだよ」
「うるさいわね。それがどうなのよ!!」
本当に真香は可哀想な娘だ。一つでも嘘をついたら、もう何も信じられなくなると言うのに……。
「そして、カルテも嘘だよね」
「何を根拠にそんなことを……」
「顔に書いてあるんだよね」
「馬鹿な事言わないでよ。顔になんて書いてあるわけないでしょ!」
「嘘ですってその表情が言ってるんだよ。俺はね。少し人の心が見えるんだよ。間違ってるか答え合わせしてみるね」
俺は真香に一歩近づいた。殴られるのかと思って反射的に真香は一歩後ろに下がる。
「君は何も分かってないね」
「何がよ……」
「殴られると思ったでしょ。俺が真香を殴るわけないのにね」
「嘘をついたことを許せないと言う顔してるもん」
「うん、嘘はいけないよね。でも、真香はちさきと隼人が兄妹だとは思ってる」
「そりゃそうよ」
「それには理由があるんでしょ」
「そうよ。母親が双子を見たって話までは本当。でも、それだけじゃ、拓也を動かせないと思って、少し脚色した……」
「分かってたよ。だってさ。小さな病院だって本人の同意もなしにカルテなんてコピーでも持ち出したら立派な犯罪だよ。そして、真香のお母さんは常識人だ」
「分かった風に言うわね」
「そりゃ、何度もおじゃましてるからね。それに家の雰囲気とかで分かるもんだよ」
「で、何しにしに来たの? それを理由に脅しにでも来たの?」
「そんなことしないよ。俺は隼人じゃない。ちさきでもないんだ」
真実に辿り着くのは二人が自分自身ですべきだ。他人が手助けをすべきじゃない。ちさきの前に俺がいなければ、当然の結果としてちさきは戸籍を調べようとするだろう。
「ただ、忠告をしたいと思ってね」
「手伝ってくれないなら、聞きたくない」
「もう、充分に手伝ったよ。それと、この話を隼人に言おうとも思わない」
「言わないの?」
「言ったら俺を恨むでしょ」
「そりゃそうよ。当たり前でしょ!」
「なら、言わないよ。俺が言ったからって隼人に感謝されるかわからないし、少なくとも真香には恨まれるでしょ」
俺はこの件に関しては、関わりたくない。もう、勝負はついてる。
「じゃあ、何を言いに来たの?」
俺はじっと真香の黄色い瞳を見つめる。真香はきっとどんなことをしてでも、隼人の側にいたいんだろう。
「隼人には言わなくていい。彼は冷静にはなれない。隼人にはちさきから言うべきなんだ」
俺はずっとそう思っていた。もし、真香が言うように兄妹だと言う最悪の未来が待っていようとも、ふたりで解決していくべきなんだ。
「でもね。真香はちさきには言わないといけない」
「ちさきには、カルテとか言ってないわよ」
そうか。俺は少し勘違いをしてたのか。てっきりちさきを動かすために血液型まで……、あーそれはないか。俺は苦笑いした。
「なら、真香が思ってる本当のことを伝えるべきだよ」
「本当のことって何よ? わたしは今でもふたりが双子だって信じてるわ」
「その話を聞いたのは嘘じゃない。でもね、その話をしたのはもっと別の理由でしょ。まずはその謝罪をしないといけない」
真香は視線を落として、俺から目を逸らした。本当は悪い娘ではないんだ。恋が人を狂わせる。
「でも、二人が兄妹じゃなかったら、わたし……、隼人の恋人じゃいられない!」
「負けると思う?」
「勝てっこないよ。この半年で隼人の気持ちよく分かったもん。わたしじゃ無理なんだ」
「だから、俺を巻き込もうとしたんだよね」
「そうよ。拓也に手伝ってもらえれば、隼人はお見舞いに行かなくなり、わたしの方だけを見てくれる……」
「それこそ無理だよ」
「えっ!?」
目の前の娘は何も分かってない。隼人のちさきへの想いはこの半年間で、好きを超越したんだ。結ばれなくても、ずっと支えていきたい。俺が言わなくても、その感情はとても仲の良い兄妹のそれに似ていた。
「俺が来ても来なくても隼人はちさきのお見舞いに行く。それがふたりの今の関係なんだよ」
「そんな……それじゃ、彼氏の拓也に悪いと思うでしょう」
「いや、俺が言っても変わらないと思うよ。時間などをずらしてでも会いにくる。だって、隼人にとって、ちさきは運命の人だから……」
真香は泣いていた。本当に脆い……。こんなに脆くて大丈夫なのか。
「この半年、ちさきを待ち続ける苦しみから生きることを拒絶し、それでもちさきのために生きようと思った時、隼人は恋人ではとても到達できない所に辿り着いたんだよ」
少し長い立ち話になってしまった。真香はずっと項垂れていたが、俺のその言葉を聞くとすっと視線を合わせた。
「家、寄ってく? 長い立ち話しになっちゃったけど、もう少し話したほうがいいかも……。コーヒーくらいは淹れるよ」
真香は唾を飲み込んで、もう一言付け加えた。
「今、親いないから……」
――――――――
まあ、親いない時もありますよね。
ここ突っ込むところ?
今後ともよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます