第15話 兄妹の形(隼人視点)

「おっ、珍しいな。拓也がお見舞いに来てくれるなんてな」


「いや、まあ、……真香がね。たまには見舞ってやれって……」


「そうだよ。仮にも彼氏なんだろ」


「今までごめん……」


「いいよ、気にしてないからさ」


「そうじゃなくてね」


 俺がいつものようにちさきの見舞いに行くと先に来ていた拓也が俺を真剣な表情で見ていた。


「なんか言いたいことあるのか?」


「いや、……いい」


 拓也にしては歯切れが悪かった。


「ちさきを幸せにしてくれよ」


 今だにちさきのことを引きずっていないと言えば嘘になる。でも、ちさきは拓也を選んだのだ。俺の出る幕ではない。


「あっ、ああ……ごめんな。あんまり来れなくて」


「いいさ、お前も色々事情あるみたいだしさ」


「これからは俺がなるべく毎日来るからさ。お前の面倒はかけないようにするからね」


「いや、面倒でなくて、これは俺のやりたいことだったから……」


「なら、これからも見舞いに来てよね」


「それでいいのか?」


「ふたりの関係は兄妹に近い関係だと思ってる。切り離すことができる関係だとは思わない」


「それは……」


「好きと言う関係はいつかは破綻するかもしれないけど、君たち二人はそうじゃない」


「兄妹か。言えてるかもな」


「そうだ。……、生まれた時から一緒だったんだよ。君たちは兄妹だと言っていい」


「兄妹でも仲の悪い奴もいるだろ?」


「いるかもしれないけど、君たちはそうじゃないだろ」


 確かに仲の良い兄妹と聞けばそうかもしれない。俺はちさきが好きだと思っていた。でも好きと言う気持ちは、ちさきの隣に別の誰かが出来たら破綻してしまう。


「なんか、しっくり来たよ」


「だろ! これからもよろしく。お兄ちゃん」


「馬鹿なこと言うなよ。お前にちさきはやれん!」


「ははははっ、確かにそれは言えてる」


「だろ!!」


 俺たちが笑いながら話してるとちさきの母親が病室に入って来て、拓也に頭を下げた。


「以前、あなたなんか恋人じゃない、なんて言って、ごめんなさい。あの時は隼人から凄く怒られました……」


「いえ、いいんです」


「それにしても、ちさきがね」


 意外そうな顔をしながら、拓也を見る。


「イケメン好きだったなんてね」


「その言い方じゃ、俺はイケメンじゃないみたいじゃない」


「えっ、分かった?」


 ふふふっ、とちさきの母親が笑った。この笑顔が出せるまで時間がかかったな。


「これからもよろしくお願いします」


 ちさきの母親が頭を下げると、いえいえそんな大したこともできてませんから、と拓也が珍しく焦っていた。


「そうだ! 拓也くんケーキ買って来てくれたのよ。とても有名店のやつね。真香ちゃんもケーキ大好きでしょ」


 手をパンと叩いてニッコリと微笑んだ。


「俺、呼んでくるよ。あいつ待合室にいるからさ」


「いや、今日は俺が呼んでくるよ」


 拓也が珍しくそう言った。


「こう言う雰囲気、慣れてなくってさ……」


 そうか。確かに半年の間に拓也が来たのは数回だった。俺もちさきの母親も気にしてないのに……。まあ、ちさきの母親は来なくなった理由が自分にあると思ってたようだが……。


「分かった。お願いするわ」


「じゃあ、隼人はお皿とかスプーンとか出してくれる」


「承知いたしました」


 俺は慣れたものだ。半年の間にどこに何があるのかハッキリと分かっていた。


「拓也が美味しいケーキ持って来てくれたって!」


 ニコニコと笑いながら、真香もこちらにやってくる。


「ちょっと待っててね」


 ちさきのお母さんが切り分けたケーキを皿に移して渡してくれる。


「はい、これが真香ので、これが拓也の分な」


 皿を二人に渡して、俺はスプーンで切り分けたケーキを一口食べた。


「うまいな、これ」


「だろっ、ここの店すぐに無くなるんだよな」


 確かにこの店はいつも長蛇の列だ。


「よく、買えたな」


「少し早く並んだ」


「早くって、ここに来たの9時だろ!」


「うん、5時から並んだから……ちょっと早すぎたけどね」


「それは早すぎるよ」


 俺たちが笑ってる間に真香も一口食べる。


「本当に美味しいね」


 真香は大の甘いもの好きだから、きっと大喜びだろう。ただ、気になったのは……。


「真香どうしたんだ?」


「うううん、なんでも……ないよ」


 何故か真香の拓也を見る目が厳しかった。小声で何か言ってる。


「何で、こうなってるのよ?」


「いいじゃない。あるべき形だよ!」


「でもさ、……これじゃ何の解決も……」


「なってるよ」


「お前たち何の話してるんだ?」


「うううん、何でも……ないよ」


 なんか、真香だけが無茶苦茶挙動不審なんだが……。たまにしか病室に来てないから焦ってるのかもしれない。


「まあ、ならいいけどな」


 その後、拓也がちさきの母親に不思議な質問をした。


「そうだ、俺。血液占い得意なんですよ。あのね、血液型だけで今後のちさきさんの未来が分かるんです。ちさきさんとちさきさんのお母さんの血液型は何ですか?」


「面白いね。わたしはO型でちさきはA型よ」


「じゃあ、ちさきさんのお父さ……」


「ちょっと何言ってるのよ! 占いなんか当たらないわよ。そうよ!」


 その話に真香が割って入った。その顔を不審そうに拓也が見ている。


「そうか、うん。まあ、そうだね」


 拓也はそれだけ言った。


「ごめん、俺ちょっと用事思い出したから、行くね」


「あっ、ああ。ケーキありがとうな」


「いえいえ。それより、これからもちさきのことよろしくね」


 拓也はニッコリと微笑んで、病室を出た。


「あいつ何がしたかったんだろうな?」


「さあ、最近は血液型占い流行ってるし、やりたくなったんじゃないの?」


「流行ってたかなあ?」


「女子の間では流行ってるのよ」


「あいつは男だぜ」


「イケメンは別枠!」


「あっ、それ差別だぞ」


 それを聞いてちさきの母親が笑った。


「あら、ちさきも少し笑ってるわよ」


 見るとちさきが少し笑ったように見えた。


「あっ、あのさ。わたし待合室で待ってるから」


 その顔を見て真香は慌てて病室を出ていく。


「あいつ、ここにいていいのになあ」


「妬いてるのかもしれないわよ」


「そんなもんかな」


「そんなもんよ」


 それにしても、拓也は何をしたかったのか。俺は少し気になった。




――――――




少し動きましたか?


次から?


よろしくお願いします。




 

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