第14話 夜のファミレス(拓也視点)

「お久しぶり」


「女の子がこんな時間にファミレスにいて大丈夫か?」


「まだ、9時前よ。流石にこの時間で補導されたりはしないわよ」


「でも、帰りは危ないだろ」


「それは大丈夫……、拓也が送ってくれるからね」


 強引な性格は変わらないよな、と思う。女の子は男に優しくしてもらえると思って疑わないのだ。


「本当にいい性格してるよね」


「ありがとう」


「褒めてないよ!!」


 俺と真香はドリンクバーを注文した。


「で、お姫様は何を飲まれますかね?」


「アイスコーヒー……かな?」


「分かった分かった。アイスココアね」


「なぜ、そうなるのよ」


「お前、部類の甘い物好きだろ。隼人の前だけでいいって……、俺の前で気を使う必要はないよ」


「じゃあ、ココア……」


「そうしてる方が可愛いよ」


「うるさいわね」


 俺は自分のアイスコーヒーと真香のアイスココアを淹れて、席に戻った。


「ありがと……」


 真香は俺のココアを受け取ると一口飲む。


「やっぱりココア美味しいね」


「だろ……無理する必要なんかないよ」


「そうもいかないわよ」


「ありのままでいいと思うけどな」


「わたしのこだわりだよ」


「まあいいや、で、さっきの話だけれども、本当なのか?」


「隼人とちさきは、血のつながった兄妹と言う話ね。思い当たるところはあるでしょ」


「まあ、流石に隣同士の仲良しさんが、同じ病室で、同じ日に生まれたと言うのは出来過ぎだ。ただな、別にそれだけなら不自然と言うほどでもないだろ」


「そうだね。世の中には幼馴染で同じ日に生まれた例など別に珍しくもないと思う」


「そうだ……、確率的には低いと言っても、グループを抽出すれば一定の確率で存在するのは間違いない」


「そうね。それだけで兄妹と決めつけるのは横暴だよね」


「何か決定的な証拠があるのか?」


「うん。無かったら呼ばない……」


 確かにそうだ。この女、何を企んでいるんだ、とは思うが、兄妹と言うには何か確信できるものがあるはずだ。


「あのね、わたしの母親は看護師なんだ」


 そういや昔、真香は何度か言ってたな。


「当時、隼人のお母さんが入院してた病院にいたの」


「本当か!!」


「間違いないって言ってた。その時は面識があったわけじゃないけどね。隼人のお母さんはその病院で男の子と女の子の双子を出産したんだよ」


「面識もないのに、いやにはっきりと覚えてるんだな」


「隼人のお母さん、ちさきちゃんに似て美人だったからね。印象に残ったんだよ。それと、大きな大学病院から、その病院に移ってきて初めての出産の立ち会いだったから印象に残っているんだって」


「そういや、お前の誕生日11月15日は隼人やちさきの誕生日の五ヶ月後だよな」


「そう、お母さんのお腹の中にはわたしがいた。その頃はつわりが酷くなかったから、仕事をしてたらしいわ」


「でも、人の記憶ってあやふやなもんだぜ。それだけじゃ、決定打とも言えないだろ……」 


「うん! もちろんだよ。お母さんはカルテも見せてくれた。そこには確かに二人の子供の名前が書いてあったの」


 カルテを持ち出すなんてあり得るのか。犯罪のにおいしかしないんだがな。そうは言ってもカルテのコピーを取れないとも言い切れない。


「そんなことできるのか?」


「大病院なら無理だよ。中小の病院だと不可能じゃないわ」


 なんか釈然とはしない。そもそもカルテのコピーを取る必要なんてないと思うんだがな。


「それと血液型……」


 俺はごくりと唾を飲み込んだ。これが1番の山だろう。


「ちさきのお父さんはB型。お母さんはO型なんだよ。だから、A型のちさきか生まれる事はあり得ない」


「その話は本当なのか!」


「本当だとは……思う」


 何故か一瞬躊躇したように感じた。でも血液型の話が本当であれば、確かにおかしい。


「ねえ、隼人はさ。あなたがちさきの彼氏だと思ってる。もし、あなたが頻繁に病院に足を運ぶようになったら、行くのを、その……自重すると思うんだよ」


 俺は頭を抱える。それが目的なのか……。確かに兄妹なのであれば、それを気づく前に少しずつ距離を離してあげる必要があるかもしれない。


「拓也は、どうしたい? ちさきちゃん大好きでしょ」


「それは否定しない。否定しないが……」


「兄妹は結婚できないよ。事実婚なんて悲しすぎるわ」


「それはそうだが……」


 真香の表情が勝ち誇ったように変わる。俺の心の中を見透かされたような気がした。俺は本当にちさきに近づいていいのだろうか。


「少し頭の中を整理したい」


「うん、待つよ。でも、そんなには待てない。少なくともちさきちゃんが起きてしまったら、近づきにくくなるでしょう」


 確かにそうだ。ちさきは俺が彼氏じゃない事を分かってる。だが、目覚めた時に俺が目の前にいたらどうだろう。


 何かが変わるような気がした。


「これは、ちさきを救うためだからな」


 俺は拳を強く握った。


「うん、わたしもそうだよ!」


 絶対嘘だ。でも、兄妹ならふたりが付き合ってはいけない。それだけは間違いない。


 俺たち四人は幼馴染だ。本来ここに踏み込む事は許されない事かもしれないが、幼馴染だからこそ許される気がした。




――――――――――




なんかややこしくなって来た予感。

さてどうなるんでしょう。


真香の言ってる事は本当なんでしょうかね?

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