第3話 喫茶店での三人(ちさき視点)

 わたしは家に帰って私服に着替えると、すぐに駅前の喫茶店に向かった。


「話しが違うじゃない!!」


 席に着いて真っ先に真香が不満の声を荒げた。注文を取りに来た女性店員がビクッと驚いた顔をする。


「そんなこと言っちゃダメだよ、ちさきがどんな想いで演技してるか分かってるよね」


 とりあえずわたしはアイスコーヒーをみんなの分注文した。


「でも、わたしの気持ち全く届かないよ」


「性急すぎだよ。十六年だよ。隼人はその間ゆっくりとちさきとの想いを育てきたんだよ」


「えっ!?」


 わたしは知らなかった。そんなにもわたしは愛されていたのか?


「計画自体、崩壊しそうだね」


 拓也は自嘲気味に笑った。


「まあ、それでもいいんだけどさ。どちらにせよ、こんな形ばかりのハリボテ上手くいくわけないんだ」


 それではダメだ、わたしは真香と約束した。このままでは、わたしと真香の関係は壊れてしまう。


「ねえ、上手く行くかわからないけど、計画通りやろうか?」


「もう、やらなくていいんじゃないの」


「だめだよ、それじゃあ。今辞めたらみんなバラバラになっちゃうよ」


「でも、今辞めたら、ちさきと隼人の仲は取り戻せるかもしれない」


「だから、わたしのことは良いんだって……、今は真香のことを考えてあげて」


「君も頑固だよな」


「わたしは一度決めたら辞めないよ」


「結局、やるのか」


「うん、きっと上手く行くと思ってるよ」


 アイスコーヒーを持ってきた先ほどの女性店員は話しが気になって仕方ないようだった。きっと、厨房では恋バナトークが繰り広げられているのだろう。


「なあ、真香。明日は休みだろ。お前は何か理由をつけて、隼人を呼び出せ……そして夕方、渋谷のホテル街にいろ」


「えっ!? 何をする気?」


「私服なら止められないだろ。俺はちさきとホテルに入る」


「嘘……、もしかしてふたりはそんな関係なの?」


「そんなわけあるわけないよ。ふりだよ、ふり!」


「でも、今日キスしたよね」


「してない……ふりだけだよ」


「でも、隼人が見たって言ってた」


「角度だな。手品でもあるじゃん。本当は見えてるものが見えない角度とか。それの応用だよ。本当はしてない」


「でも、びっくりしたよ。あんまり近くって、本当にキスするのかと思ったよ」


「あそこまで近づかないと気づかれるからね」


「でも、なんか悪いことしてるみたいね」


「そんなことないよ。お前は友達思いだよ。俺は本当言うとこんなことしたくない」


 ここまで来たら、後には引けないよ。ずっと心の中に開いたぽっかりとした大きな穴。隼人のこと、こんなに好きだったんだね。


「じゃあ計画は決まったけれども、どうやって呼び出すか、だね」


「なにか方法ある?」


「お前、馬鹿だから図書館で勉強教えて欲しいって電話すればいい」


「馬鹿は余計だよ!」


「馬鹿じゃ無いのかよ?」


「馬鹿だけどね」


 真香は明らかに不満そうだ。拓也は優しいんだけれども、言葉がキツいことがある。もう少しやんわりと言えばいいのにね。


「それいいね。図書館からの帰りなら、ホテル街は近道だもんね」


「本当にいいんだね?」


 拓也がわたしをじっと見た。大丈夫、何度も考えた。わたしは隼人とは結婚できない。なら、隼人の隣にいるのは真香の方がいいんだ。わたしは自分の本音を冗談で誤魔化した。


「えっ!? わたし押し倒されたりするの?」


「馬鹿言うなよ。そんなこと言ってると本気で押し倒すよ」


「そんな勇気ないくせに」


「やってみないとわからねえよ」


 拓也の表情に真剣さが増す。言いすぎたかな。もし、本当に押し倒されたら、わたしどうなるんだろ?


「なんで、そこで黙るんだよ」


 少しびっくりした表情に変わる。その表情がおかしかった。


「びっくりしたんだよ。本気なのかなって」


「待ってよ、俺は紳士だよ」


 その言葉に思わず笑いが漏れてしまう。


「なんで笑うんだよ」


「なんでも、ない」


「なんだよ、それ」


 知ってるよ。凄いチャンスなのに、拓也はわたしに指一本触れないんだから……。


「じゃあ、計画決まったから今から電話しろ!」


「えっ! 嘘っ。LINEで良くない?」


「LINEだと相手の気持ち分かんねえだろ」


「うううっ、わからなくても呼び出せればいいかと……」


「何、及び腰になってんだよ。俺もちさきもお前のためにやってるんだぞ」


「分かってるって!」


 真香がスマホから隼人の連絡先を選択する。胸の中がズキリと痛む。数回のコールの後に隼人の声が電話越しに聞こえた。


「あのさ、明日空いてる?」


 隼人は何を言ってるのだろうか。スマホ越しだからハッキリとは聞こえない。


「うん、なぜって? 勉強分からないとこあって、図書館で教えてくれないかな?」


 とりあえず真香は、辿々しい声でなんとか言い切った。きっと一緒に勉強しても頭の中は隼人のことでいっぱいのはずだ。


「ちさきと四人でって、なんでよ!」


 ちさきと言う言葉に心臓が大きく脈を打つ。心では諦めたつもりなのに身体がついて来てない。


「今日のこと忘れたの?」


 簡単に言ってのけるのは、真香だけだろう。わたしなら言えない。


「そうだよ! これからはさ。わたしがちさき達の代わりだからね」


 わたしの代わり? と言うことは幼馴染であり、えと妹キャラで……そして、そして……。


「図書館の話、拓也に聞かなくていいのかって? 何言ってるの! なぜわたしが拓也に聞かなくちゃいけないの」


 お伺いを立てるっていかにも隼人らしい考えだね。それにしても隼人は真香のことどう思ってるんだろ?


「だから、わたしは拓也のこと好きでもなんでも無いから!!」


 そうか、わたしもそう思ってたもんね。隼人も同じ気持ちだったんだ。


「イケメン好きだから、ってわたしだって誰でもってわけじゃ無いんだよ」


 顔が見えないからか真香は結構はっきりと言うなあ。面と向かって言えないよね。


「俺の勘違いかって、……そうだね」


 で、図書館の話はどうなったんだろ?


「図書館で教えるなら、ちゃんと教われるくらい勉強しとけよ、って分かったわよ」


 どうやら図書館デートは断られなかったらしい。もっともデートと思ってるのはわたしたちだけだが……。


 わたしは何をやってるのだろう。本当にこんなことしてて、わたしの心は持つのだろうか。想像したよりかなりキツイ。


 スマホを切った真香は本当に嬉しそうに笑った。


「やった、やったよ。明日は図書館デートだよ!!」


 本当に嬉しそうな真香を見て、わたしは少しだけ救われたような気がした。




◇◇◇




なんか気になるセリフありましたね。


なんかあるのかな?


読んでいただきありがとうございます。


もうすぐラブコメ100位突破です。


応援ありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る