第7話 『剣聖』

「ほら、さっさと着替えて。仮面も着ける」

「嫌だって言ってるのに……これでもSSS級ハンターだから滅多に依頼を受けないでいいはずなのに……」


 俺はさめざめと涙を流しながらも、麗華ちゃんに急かされて嫌々外套と仮面を着ける。

 しかし、いざ仮面を着けると、一気に『赤司彰人』の意識が鳴りを潜め、『陰の王レイド』としての意識に切り替わる。


「それで……今回はどんな要請なのだ?」

「い、いきなり変わると戸惑うわね……まぁいいわ。———今回は第7前線の海域でモンスターが縄張り争いを始めたらしいわ」

「第7前線……旧秋田県辺りか。チッ……此処からは少し時間が掛かるな」


 俺達が元々居たのが旧東京都。

 現在時速500キロ程度で移動しているが、後1時間は余裕で掛かるだろう。


 更に海のモンスターは平均的に陸地のモンスターよりも倒しづらい。

 海では、陸での生き方に全振りした人類は呼吸や機動力などの問題から、同格のモンスターであってもハンターが負ける確率の方が高いのだ。


 実際、世界が融合した時、陸ではまだギリギリモンスターと対抗出来ていた。

 しかし、海は機動力も破壊力も集団力も人類に遥かに優れたモンスターに軍配が上がるため、あっという間に人類は陸地に追いやられ、海はモンスターの巣窟となったと言う経緯が何よりの証拠である。


 つまり———俺達の到着が遅れると、その場で対処しているハンターの命が危ない。


「どうする麗華?」 

「そうね……なら彼女を使えばいいわ。彼女の力とアンタの力なら、一瞬で到着するわよね?」

「……鈴音すずねか? まぁ俺と彼女がやれば可能だな」

「なら話は早いわ。今呼んだから、後少しで来るはずよ」


 俺達が動いては彼女の到着が遅れるので、ゆっくりと減速して立ち止まる。


 因みに俺達の言っている鈴音とは、世界でも有数の技量を誇る凄腕転移魔法使いハンターである。

 彼女ならば、普通1人を転移させるのにも膨大な魔力を使うにも関わらず、自力で大人数を100キロ以上離れた場所へも転移出来る。


 そんなことを考える内に、既に肉眼で捉えられる所にまで彼女は近付いて来ていた。

 鈴音はプラチナブロンドと呼ばれる薄い金髪の様な髪を靡かせ、元気溌剌な笑顔を浮かべて俺達に手を振る。

 

「———呼ばれて来ました鈴音だよー! 何となく聞いているから早速始めよー!」

「ああ。じゃあ申し訳ないが、顔に触れるぞ」

「あいあいさー! レイ君なら触れられても全然大丈夫だよー!」

「鈴音アンタ……相変わらず変な呼び方するわよね……」

「そうかなー? 私的には全然普通なんだけどなぁー」


 呆れた様にため息を溢す麗華に、鈴音がコテンと首を傾げる。

 2人の感性は全く違うので、恐らく分かり合えることは一生ないだろう。


 俺は鈴音の目を覆う様に手を被せると、スキルを発動する。


 発動させるのは、空間把握。

 転移魔法は転移する所の情景を術者本人が明確に覚えていないといけない。

 だから俺が読み取った空間の情報を鈴音に流して転移先の空間を確立させ、鈴音の転移魔法を発動させるのだ。


 俺の金色の瞳が仮面の中で光り輝き、脳内に数百キロ先の第7前線の空間の情報がまるでインプットされるかの様に入り込む。

 その情報をそのまま鈴音に流すと———


「あ、見えたよー! それじゃあ行こー! ———《転移》」


 鈴音の言葉と同時に、俺達3人はその場から掻き消えた。









「———第4隊は下がれ! そして休んだ第5隊と7隊は前線に復帰するんだ! もう少し踏ん張れ! もう少しでSS級ハンターの『剣聖』が到着するはずだ! それまで何とか持ち堪えるぞ!」

「「「「「「「はい!」」」」」」」


 俺達が到着すると、ハンター達と縄張り争いで殺気だった海洋モンスター達の混戦が繰り広げられていた。

 しかし戦況はハンター側がかなり押されており、防衛で手一杯と言った感じである。


 今回呼ばれたのは麗華だけだったので、麗華が先頭でこの現場の指揮官に会いに行く。

 指揮官は40代の男で、自身も魔法で攻撃をしながら周りのハンターを鼓舞している。


 麗華は俺に一瞬目配せしてくる。

 俺は瞬時に指示を汲み取ると、金色の瞳が輝くと同時にハンター達を保護する様に巨大な空間の膜を発動。

 これにより一時的にモンスターはハンターを攻撃出来なくなった。


「こ、これは……」

「貴方がこの場の指揮官ね? 要請に応じて来た『剣聖』の東堂麗華よ」

「偶々近くに居たレイドだ」

「麗華に呼ばれて来た鈴音だよー!」

「お、おお! まさか『剣聖』だけでなく、『運び屋』と、かの有名な『陰の王』まで来てくださるとは……! 感激です……!」


 指揮官の色付いた言葉に、ハンター達は一斉に俺達の方に視線を向ける。

 それと同時に緊迫した雰囲気が少し弛緩し、楽勝ムードが漂い始めた。


 確かに俺と麗華の2人で過剰な程の戦力だからそうなるのも仕方ないと思うが、ハンターならば最後まで気を抜いてはいけない。

 最後まで何があるか分からないのだから。


「興奮するのはそこまでよ指揮官。それで、現在の状況は?」

「はっ! 現在はシーサーペントの群れと群れ同士の縄張り争いが巻き起こっており、ハンターの被害は死者0名、負傷者多数で、あまり良くない状況です!」

「報告ありがとう。そして全てのハンター達は退きなさい」


 麗華は何処からともなく濃密な魔力を纏った一振りの剣———『魔剣断空』と呼ばれる魔剣を召喚する。

 これも彼女のスキルの1つで、彼女が『剣聖』と言われる所以だ。


 麗華は『断空』を一振りすると、遠く離れた俺の空間膜ごと空間膜を攻撃していたシーサーペントの尾を断ち切った。



「これからは———私達に任せるといいわ!」



 さて、俺もそろそろ仕事をするとしよう。

 

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