第2話:本番は一週間後

 私は窓から差し込む朝の光を浴びながら、椅子の背もたれにぐったりと寄りかかった。

 頭が重く、しかし峠を越えてしまったことでもはや眠気すら感じない。

 ふと、控えめなノックの後、寝室の扉がそーっと開かれる。


「あのぉ……イレーネですけどぉ……あ、おはようございます……」


 朝のお茶を運んできたイレーネだが、酷く不満げな様子だった。

 私は楽譜が散らばる机から顔だけ向け、


「ういー、おはよ」


 と答えると、イレーネの眉間にぎゅっとしわが寄る。


「……ちゃんと寝ました?」


「寝てない」


 昨日私は、所謂[ラビリスアイドル化計画]の記念すべき第一歩を踏み出すことができた。

 しかしここでふとした問題に気づいたのだ。

 私の元の世界の名曲たち。

 確かにラビリスには通用した。

 クリティカルヒットだった。

 が、ラビリス以外全ての人たちにもちゃんと通用するのか――? という問題である。


 ふ、不安……。


 私は好きだけどこの世界の人たちには見向きもされない可能性を考えてしまったのだ。

 映画でもあったあれだ。ええと……過去にタイムスリップをした人が未来の名曲をノリノリで引いた結果、曲調が未来過ぎて周囲からドン引きされたやつ。

 なので、こう……確かに新しいけどドン引きされるほど新しくは無い[程よい革命]的な曲が……思い浮かばないのだ。


 ああでもない、こうでもないと思案を続け、譜面に落とし、実際に引き、没にするを繰り返していたら朝が来てしまった。


 イレーネは深々とため息を付いてから、いつものようにテキパキとカップにお茶を注いでいく。


「濃いめですけど、どうぞ」


「ん、ありがと」


 私は、この子に甘えすぎているかもしれない。しかし、どの道私が失敗すれば国中が戦火に巻き込まれてしまうのだ。子供だから、という理由で出し惜しみはできない。

 いや、しかし、そこに正しさはあるのか――?

 私は、イレーネの未来のために、イレーネの今を……犠牲にしているのではないか……?


 と、お茶を一口含みながら、私は別のことも考えていた。

 本当は珈琲の方が好みだが、そのためには安全な海路か空路の確立をしなくてはならない。だけどまだ技術力が不足しているから、現状のミュール家ができることは――。


「……あの、一応もう一度確認しておきたいんですけど、歌で食べてくって、本気なんですよね?」


 イレーネが眉間にしわを寄せながら言うと、私は思考に海から現実へと引き戻された。

 未来と、可能性を重視しすぎた結果、私は負け続けているのだ。

 とにかく今を、乗り切らなければならない――。


「うん、本気」


「……はぁ、そうですか。…………でもラビリス様を誘うのは本当に無理だと思いますけど」


「それはもう昨日誘って許可取ったから大丈夫」


「え、早、こわ……」


 とイレーネはドン引きし、ややあってから深々とため息をついた。


「……それで、あの、あたしにお手伝いできることってあります?」


「んー?」


「徹夜は絶対にしちゃ駄目ってお母さんからも言われました」


 私は少しばかり考える。


 彼女はミュール家で暮らすようになってから一年ほど経つ。

 出会ったのは五年前。イレーネがまだ一歳の時だ。

 当時、私は人を探していた。

 優秀かつ既存の技術に囚われない柔軟な発想を持ち、それでいて国の重要な役職にもついていない魔導具師、という極めてレアな存在を求めて各地を奔走していたのだ。

 そんな時に偶然見つけたのが、グリス工房、という小さな魔導具屋だった。


 私の理想に驚くほど合致していたその工房をミュール家に取り込むべく、懐柔策を行った。

 やがて私は工房が提示した多くの条件を呑み、その中に『生まれたばかりの孫、イレーネを貴族の学園に通わせたい』という要求があったのだ。


 あれから五年。学園の改革は既に成った。

 であれば、来年から学園の初等部に通う彼女には、貴族的な作法を学んでもらう必要がある。


 しかし――。

『わたしも、ちゃんと働きたいです』


 生来の生真面目さに強い好奇心が合わさり、彼女は働きたがった。

 結局根負けした私は、ちょっとしたままごと程度ならと考えていたのだが……。


 イレーネは脇に抱えていた資料をパラパラとめくりながら言う。


「とりあえず、昨日のパーティはフリーダ様抜きで無事に終わりました。何故かあたしが乾杯の音頭を取る羽目になりましたけど」


「ん、それで?」


「…………昨日、寝る前にフリーダ様から渡された……色々書かれた、紙の、やつ」


「うん」


「あれ、なんなんです?……お爺ちゃんのとこで頓挫してるやつ……[自動車]の完全な設計図に見えました」


 天才児、か――。

 頭の作りが違うのか、見ているものが違うのか。あるいは――。


 イレーネは困惑しながら続ける。


「それだけじゃありません。物凄い小型の……鎧っぽいのに、鎧じゃないですよね? ミスリルをかけあわせた……この、重なってるやつ?……わかんない」


 私が死に戻りをする度に、必ず初日にやっていることがある。

 それは、過去のループで得た知識を紙に書き、イレーネに渡すことだ。

 イレーネが、ゴクリと唾を飲み込む。


「フリーダ様が天才って言われる理由、わかった気がします」


 違うよ、イレーネ。

 この図面は全て、過去のループのキミが書いたものだ。

 キミはここから十年かけて、家族と一緒に、様々な魔導具を完成させることになる。

 私では、無いのだ。


 私はおもむろに、イレーネのくすんだ髪を軽く撫でた。


「なんです?」


 怪訝な顔になるイレーネを見て、私は思う。

 だからこそ、未来をラビリスに壊させるわけにはいかんのだ。


 私は濃い目のお茶を飲み干し、立ち上がった。


 ――しゃーない。今日も行くか! 学校!


 ※


 徹夜明けの重い頭で何とか授業を乗り切った放課後。

 私はラビリスを学園の空き部屋に呼んだ。


「ごめんっ! まだ曲できてない!」


 まずは謝罪から入る。

 これに関しては、私の落ち度もある。

 良い曲ならきっと伝わる、という想定の甘さがあったのだから。


 だが、私が恐れている事態も目の前にある。

 即ち――


 ラビリスがふわりと微笑み、私の手に優しく触れた。


「フリーダ様が頑張ってくださっているのはお顔を見ればわかります。そんなに気に病まないでください」


 これである。

 ……彼女がこの笑みで、この仕草で、こういう台詞を言う時は、心の中で相手の評価を何段階か下げている時なのだ。

 口には出さずとも、ラビリスは私に一日で名曲を作ることを求めているのだ。

 そして、良い曲なら伝わるという甘い想定を信じ続けている。


 この過ちを、真っ向から正さねばならないのだ。

 あのラビリスを相手に――。


 ……今の状況、割りと不味いかもしれない。

 これ以上評価が下がる前に、行くぞ……!


「数曲には、絞れたんだけど……聞いてみる?」

「――では、はい。お願いいたします」


 私は戦慄した。

 こいつは既に別のことを考え始めている。

 たったこれだけのことで既に私に見切りをつけようとしているのだ。

 昨日のあれはなんだったんだ、怪物め。


 ……折れるな、私。かつてのループで製造した銃は簡単にコピーされた。だがよく考えてみれば現実でもそうだった。構造が単純だからだ。

 これならどうだと気合を入れてこの世界にもたらした、魔力で動く戦艦でも、空を飛ぶ飛空艇でも、人型の魔導マシン[魔導アーマー]でも駄目だった。


 だが、歌は、曲は……芸術は違うはずだ。天才から学んだ弟子全てが、天才になるわけでは無い。そう安々と超えていけるものでは無いのだ。そのはずだ――。


(ゆくぞラビリス。――南無三!)


 私は気合を入れ、ギターでいくつかの曲を奏でる。もう形振り構わずだ。

 悩んでいた曲全てと、ついでに流石に雰囲気に合わないということで選外となったその他の世界的名曲、名歌を複数弾き語ってみせた。


 と、私は恐る恐るラビリスを見る。

 彼女は感動に打ちひしがれ、わなわなと震えていた。


 か、勝った。

 全部他人の曲だけど、とにかく勝った――!


 ラビリスは乱暴に立ち上がり、私の両手をぎゅっと握りしめた。


「か、感動しました、本当に!」


 彼女は先日よりも更に頬を赤く染めている。

 興奮しすぎて頭に血が登っているのかもしれない。


「昨日貴女がおっしゃった[歌の革命]、一晩考えたらやっぱり無理なんじゃないかと思い始めていましたが――」


 こいつ凄い失礼……。

 でも、それが常識的な人間の考え方だとは思う。

 既存の概念をぶち壊すってそういうことなのだ。


 ……ん? こういう常識があるのに何で毎回変な理由で革命起こしてるんだ……?

 ――????


 ラビリスが興奮した様子で言う。


「本当に、本当に世界を変えられると思いますか?」


 な、なんだ?

 なんか良くわからないけど物凄い重要なイベントがいきなり始まった気がする。

 でも色んなジャンルの曲を一気に演奏し過ぎたせいで何がお前の琴線に触れたのかわからない。


 よし、ちょっと怖いから適当にはぐらかしておこう!


「うん! きっと変えられるっ!」

「今適当にはぐらかそうとしましたね?」


 あ、強い。不味い。ちょっと勝てない。

 いいや、負けるな私。話しながら考えるのだ――!


「あのね、世界を変えるためには――本当に凄くて新しいことをやっても、そういうのは大抵受け入れられないの。歴史の授業で習ったじゃん? [最初の魔法使い]は悪魔として討たれたって」

「教会は実際に悪魔だったと教えていますが?」

「ごめん、例えが悪かった。そういうことを言いたいんじゃなくて、全く新しい最初の一歩は忌避されるものだって言いたかったの。ラビリスは……そういう経験、無い?」


 私の手を握るラビリスの力が僅かに弱まる。


「――そう、かも……しれません……」


「だからまずは、世界よりも先に一番身近なとこ……この[アルマシア学園]に通う生徒たちを変える。それができれば、次はもう少し広げて親とか、街とか、国に広がって、世界が見えてくる……と思う」


 ……どっかで聞いたそれっぽいことを適当に言ってしまった……。

 誤魔化せるか? 行けるか……?


 私の手を握るラビリスの手に、ぎゅっと力が込められる。


「……そうですね、わかりました」


 い、行った! 勝った! やった!


「では今週の末にでも、わたくしたちの歌と音楽を皆に披露しましょう」

「今週の末って明日なんだけど」

「はいっ!」


 行き過ぎだよ……。

 なんでお前はこう、中間が無いんだよ……。

 もっと段階刻んでよ……。


「駄目。せめて来週の末に変更して」

「見くびらないでください。既に先程の曲は覚えました」


 まあ、うん。お前はそういうことできるやつだ。

 でも私負けない……!


「一応聞いておくけど、明日やるとして何を歌うつもり?」

「無論、全部です」


 こいつと話すの疲れる……。


「あのね、ラビリス。まずは、ちゃんと宣伝をしないとだし、見に来てくれる人たちにも、新しいことをやりますってことを周知させないと駄目」

「ですが、フリーダ様の歌は――」


 ラビリスって本当に人の話聞かないなぁ。

 でも考えてみればちゃんと聞いてくれる子なら、私こんなにたくさん死んでないしな。

 これがラビリス・トラインなんだもんな。

 だったら言葉で殴り合うしか無いな――!


「歌とか、音楽とか! 興味が全く無い人にいきなり見せても刺さらないの! だからまずは刺さる土台を作らないといけなくて、それには時間がかかるって言ってんでしょ!」

「わたくしには刺さったから言ってるんです! こんなに良い曲なのに、それが伝わらないっておかしい! 間違ってます!」


 ゴッホの絵が生前ほとんど売れなかった理由を時間かけて説明してやりたい。

 でもここでゴッホ持ち出してもこの世界の人たちには伝わらないのだ。


「だったら証拠だして」


 ラビリスはぴたりと押し黙る。


「この曲を今すぐ世界に出したとして、ラビリス以外の人たちが良いと言ってくれる証拠があるのなら、私も納得する。証拠、出して」


 不意に、ラビリスは遠くを見つめ、口を開く。


「こちらに近づいてくる気配が二つあります。彼らに判断してもらいましょう」


 ややあって、二人の青年貴族が部屋の扉を開け、姿を現した。


「ふたりとも、先生が怒ってるよ? 時間をかけ過ぎだって」

「もう日が暮れてきてるし、俺たちで送っていくよ」


 ……よりにもよってこいつらか。


 最初に声をかけてきた青年の名は、マティウス・ルフト。

 くすんだブラウンの髪はこの世界で私が売り出したシャンプーとリンスのおかげでふんわりとした膨らみを持ち、まだどこかあどけなさの残る顔立ちをしている彼は、私の婚約者だ。

 しかし、と私は思う。

 彼と私には、奇妙な境界線があった。

 マティウスが穏やかに言う。


「父も、フリーダにもしものことがあってはいけないと考えているから……いくらキミの[魔導灯]で夜が明るくなったとしても流石にね」


 嫌になる。

 父も、父は、父が。こいつの言葉はそればかりだ。

 親同士が決めた結婚なんてのはそんなものなのかもしれないが――だからと言って、私を捨ててラビリス側につくなんてのはやりすぎだろう……。

 そうして、毎回毎回断頭台で私の罪状を読み上げるのだ。

 ……本当に、嫌になる。


「……ありがとうマーティ。少し夢中になっちゃってさ。でもすぐに終わるから」


 と上辺だけの明るい声で言ってから、それはあちらも同じかと心の中で吐き捨てる。

 しがらみ、か――。


 すると、彼の隣にいた生真面目そうな青年、クロード・ベインが呆れた様子で口を開く。


「お前なぁ……親父さんが厳しいマーティのことも考えてやれ」


 そう言った彼は、外見こそ綺麗な黒髪をしている美男子だが、内面は貴族としての振る舞いよりも騎士としての鍛錬や戦いを重視している男だ。顔立ちが良いからか妙にモテる男だが、私からすれば粗暴なだけだ。


 それに、私だってマティウスの事情くらいは考えたさ。何度何度も繰り返しているのだ。

 しかし、結果は変わらなかった。というか悪化したことすらあった。

 だから、私はクロードにも作り笑顔で答える。


「だからー、ごめんって。ちょっと盛り上がっちゃって。あ、そうだ、二人にも聞いて欲しい曲があるんだけど……初等部の子が作ったみたいでさ――」


 と、私はラビリスが口を挟む前に、すぐに演奏の準備に取り掛かる。


 ――人は情報に支配されている。

 だからまずは、[初等部の子]の曲であること、そして私の語り方と雰囲気で少し呆れたような空気を作れば、それが[土台]となりお前たちも流されるしかないのだ。


 ラビリスは一瞬訝しげな顔になるが、特に何も言わず猫かぶった微笑をたたえているだけだ。それはまだ、良いものは良いと伝わるはずと信じる純真さを感じさせるものだったが、容赦はしない。


「二人共せっかくだから聞いていってよ。わたしは結構好きなんだけどっ」


 そして、『わたしは好き』『おれは好き』という逃げ道を先に与える。

 ……勝ったな。これはもう消化試合だ。


 私は、ラビリスが小賢しい真似をする前にギターを引き始めた。

 ……演奏で手を抜くつもりは無い。それは流石にラビリスに色々とバレる。ラビリスとは、そのレベルの相手でもある。


 いくつかの曲を弾き終え、私は苦笑を作って二人に問うた。


「どう? 嫌いじゃ無いんだけどなー」


 すると案の定、私に釣られたマティウスが苦笑で答える。


「……うん。ちょっと独特だよね」


 ふ、勝った。

 彼らにはこの音楽やテンポの概念が無い。

 芸術とは、見る側の教養も問われるのだってどっかで聞いたが、どうやら当たりらしい。


 マティウスは少し考えてから、続ける。


「好きな人は、好きかもしれないけどね」


 言葉を選んだようだが、私にはわかる。

 今、ラビリスは微笑を浮かべたまま、マティウスの評価を落とした。


 業を煮やしたのか、ラビリスはクロードの袖に触れ、言った。


「クロードはどうでしたか? わたくしはとても良い曲だと思ったのですけど」


 ふ、もう遅いわ。なぜならクロードは――。


「え、ああ。……ごめん、俺、曲のことはよくわからないから……」


 ああ、良かった。

 今回のクロードもちゃんとつまらない男。

 そしてこれが、ラビリス・トラインの婚約者だというのだから、彼女としてはたまらないだろう。


 良く言えば真面目。

 悪く言えば朴念仁。

 ラビリス以外の女性になびくことはしないが、代わりに髪型や服やアクセサリー諸々を褒めることもしない。

 こればかりはラビリスに同情しないでもないが……。


 ともあれ、勝ちは勝ちだ。


「んじゃ、来週の末に、ね?」


 にっこり笑顔で言ってやると、ラビリスは一度だけ唇を噛む。


「……そう、ですね。わかりました」


 よし、勝った。

 私は勝利の余韻に浸りながら家路についた。


 ※


「……やっべぇ、来月の末とかにしときゃ良かったわ――」


 自室に戻った私は頭を抱えた。考えてみれば何も解決していない。それどころか時間を無駄にしただけだ。


「……結局、私がやるしかないか」


 構成も考えなければ。実際、ポップな歌や音楽は文化が遠すぎて、良い悪いの前に理解されないだろう。少しずつ、少しずつ、削り取るように観客を此方側へと引きずり込まねばならない。

 貴族の受けが良いだけでは駄目だ。大衆も巻き込まなければならない。


 そして何より、私とラビリス、二人だけでは駄目だ。


 このままだとたぶん、最終的に全部ラビリスに奪われて過去と同じ結末になる。

 ……ならば、グループだ。二人だけではなく、アイドルのグループを結成するのだ。できれば十人は超えたい。


 いや、待て。

 そうなると普通の子らに一週間で楽器の弾き方諸々教え込むの無理だ。

 ……ひょっとして詰んだ?

 いやいや諦めるな。何か、良い案が私の記憶のどこかに転がってるはずだ。


 楽器は既存のものを使うしか無い。グループ、十人以上。実力は一週間程度の付け焼き刃……。……場所は、学園の敷地内にある教会だったな。


 教会、教会、付け焼き刃、グループ……。


 ――閃いた!


 ※


 次の日から、私は学園を駆け回った。


 人、人、人、とにかく人を集めなければならない。多少性格に難があろうとも、実力が不足していようとも、個性的なメンツが必要なのだ。

 即ち、スター性。

 既に目処はたっている。何せ、私は三十三回もやり直しをしているのだ。そりゃもう良い意味でも悪い意味でも濃いメンツは山程知っている。


 将来ラビリスの側近になって私を殺しに来るやつ。


 ラビリスの狂信者みたいになるやつ。


 十回くらいラビリス側について、五回くらい私側について、他はなんか山ごもりとかしてたらしいやつ。


 とにかく私はいろんな人たちに声をかけ、


『ラビリスを中心に教会と神々を称える聖歌隊を作ろうと思うの!』


 と適当に嘘をついて人を集め続けた。

 それと同時に、あのフリーダ・ミュールがまた何か凄いことをやろうとしている、という土台を作る。


 この辺は生まれてからずっとやってきた現世知識チートの成果だ。

 噂が噂を呼び、学生たちの期待がどんどん膨らんでいき、しかし教師や教会関係者には『これただの聖歌隊なんです、噂って怖いですねっ』みたいに伝えておけばちょろいものだ。


 そして皆の期待が魔術師の炎のように燃え広がり、偽装聖歌隊の練習が無事に始まり、あっという間に一週間が経過し、さあいよいよ明日は発表会!


 ……となった辺りでラビリスの父、皇帝バルタザール・トラインから発表会の中止が言い渡されたのだ。

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