第31話 今日も充実 (午後はもっと変)偏 

< 15時・・15時・・午後の練習 始まるよぉ~ >


「よし、午後の練習、開始するぞ」


「みんな、全員コートに入って」

と、瞳コーチが大きな声を上げた。

「これから、スイングチェックをしていきます。各自間隔を取って、フォアスイングを、自分のペースでするように。

コーチは、個別指導をしていってください」


「はい!」・・・エネルギー充填120% 破天荒どもが、コートに散って行く。


  ドレミの指導は、瞳コーチが行った。

よく見ると、体の使い方は、悪くない。ブレイクダンスをやってきたせいか、体も柔らかく、リズム感というか、スイング全体の流れが、スムーズである。

「あれな、いい感じよ。ただ、スイングスピードが足りないな。腕の力で振るのじゃなくて、下半身から、動き始める動きでね。腕は、勝手に後からついてくる感じで」

「はい」

しばらく、スイングを続けた後に

「ドレミ、ちょっと私の手を、思いっきりギュッと握ってみて」

そう言われて、何だろうと思いながらも、瞳コーチの手を、けっこう思いっきり握った。

「やっぱり、握力あるね。ブレイクダンスのおかげかな」

それだけの力があれば十分。スイングスピードが無いのは、やっぱり体の使い方がわかってないからね。それと自信の問題かな」

「自信はないです」

「ダンスの方は、自信あるでしょ?」

「もちろんです!」

「随分、ブレイクダンスの練習したんでしょ?」

「はい、お兄ちゃんに連れられて、朝から晩まで毎日。でも楽しかったです」

「テニスも一緒」

「自信を持ってスイングが出来るようになるまで、苦しいけれど、その苦しさも楽しさに変えて、頑張っていこ」

「はい、よろしくお願いします」

そして瞳コーチは、手取り足取り、テイクバックからフィニッシュまでの形を教えていった。


  続きましては、カレーと、穂乃香コーチ

「カレー、ちょっと相談なんだけど、『カレー』ってなんか言いにくいんだけど」

「私に言われてもぉ~」

「そんなのわかってるわよ。でね、自分としては何がいい?」

「ん~、カトリンとか」

「何、それ?」

「加藤玲子と、野田鈴也コーチが付き合ったら、カトリン」

「聞いた私が、悪かった。葉山監督と相談してくる」

「また、変なの付けられそうな予感しかしませんが」

「とにかく相談してくるね」

・・・・・

「葉山監督、ちょっとご相談ですけど」

「金ならねぇよ。帰っとくれ」

「あいよぉ~ って違います。カレーの呼び方変えてもらえません。なんか呼びにくて」

「実は、俺もそう思ってた」

「何ですか、自分で考えておいて。で、何に変えます?」

「いっその事、本名変えちゃうか」

「まじめに考えてください!本人の一生が係ってるんですよ!」

「そんな大げさな」

「大切な事です!」

「じゃぁ、無難に『カトレ』は?」

「そんくらいにしときますか」

(一生が係ってるって言った割には、そっけない返事)


「玲子、新しい顔だよー」

「アンパンマンじゃないですぅ」

「あ、間違えた。新しい愛称だよぉ~」

「普通、間違えませんけど。それで何になりました?」

「『カトレ』 ちなみに、カタカナだよ」

(既に、葉山の影響を強く受けてしまっている。恐ろしや~)

「それでいいです。早く指導をお願いします」

「やる気になってるね。いいよぉー」


という【くだり】があった後、スイング練習に入った。

やはり、良くもなく、悪くもなく。

元気がいいのは、魅力だが、スイングに力強さが無かった。

そこで、ヒップヒンジの仕組みからの力の伝え方を教えていった。

テニス指導を受けている時の、カトレは、実に素直だ。

「テイクバックの時、腕が伸びすぎかな。もう少し腕をたたんで、軽く引いてみて」

「はい」

・・・

「次は、今よりも少しだけ、ラケットを引いてみて」

「はい、わかりました」

・・・・

すると、スイングスピードが上がってきた。

「ねっ、ちょっとした事で、随分違ってくるでしょ?」

「はい、全然違います。別に力一杯振ってる訳じゃないのに」

「これからも、バックスイングの時に腕を伸ばしすぎると、安定感がなくなる事が多いから、注意してね。とくにカトレは、前衛だから、安定感重視。いい?」

「はい」嬉しそうに、カトレが答えた。


各クラブ員が、それぞれ個別の指導を受け、わずかな歩みかもしれないが、それでも確実に前へ進み始めた。

【継続は力なり】

コーチもクラブ員も、それぞれに手ごたえを感じ始めていた。


「よーし、スイングチェックは、終わりにして、また走るぞー」

「えーーーーーー」

「えーーーやないわぁ~」

毎度の会話が交わされ、クラブ員が、コートの周りを走り始める。


 やすこは、オーバーワークにならないよう、真子コーチに付いて、柔軟体操をさせた。


 クラブ員が、5週回って、葉山の前へ来た時、

「もっと走れー ロミオー」

「ハァハァ~  走っとるがにぃ~」


「全員ストップ」と葉山監督が、ランニングを止めさせる。


「その短い足、もっと動かさんかい!」

「ハァハァ~・・・そう言うのって、ヘンハラじゃん」

「何だ? ヘンハラって」

「変態ハラスメント 略して ヘンハラ 知らないのぉ~」

「知らんわー」

「何がヘンハラじゃ。お前らの方が、俺にパワハラしとるんやないけ」

「何がぁー」

「何がじゃないわ!俺の事を、変態じじぃとか、腐れ納豆とか言っとるの全部聞こえとるぞ。 ちなみに納豆が腐っとるのは当たり前やがな。」

「あれま」

「あれまやないわ」

「罰として、もう5周、走ってこい!」

「えー、変態。ドS。」

「変態か、ドSか、どちらかにしろ!」

「ワァー、認めた、認めた」

「全員、あと10周」

「もう、ロミオのせいで、増えたやないの」

「あ~ん 監督ぅ、私は何にも言ってません。私は許してね💛」と、ナナミー が言う。

「あー裏切者」

「なにがよぉー、巻き添えはごめんよ」

「監督ぅ。耳だけは異常にいいから、気を付けんといかんよって、昨日、ナナミーが言ってました」

「んだ、んだ」(賛同する者あり)

「ほう、それは、それは」

「顔もいいとは、言ってなかったか?」

「まさかぁー」と、しおりん が間髪入れず、答える。

「君達には、美的感覚というものが無いのか?」

「美的感覚ってなにぃ?」すーあん が真顔で、隣にいた、あべち に尋ねる。

「あんたねぇーそんな事も知らないの。要は、監督が、芸能界には絶対に入れんと思った子は、美的感覚ありで、監督でも入れると思った子は、絶望的美的感覚欠乏症末期ちゅう事やねん」

「ほう、ほう、実におもしろい」福山正治の真似をして、葉山が言う。

「福山さんがかわいそう」

「そうだ、そうだ、福山さんに謝れ」

「あのなぁ~お前ら」

「で、もうすぐ6時ですけど監督ぅ」

 日頃から表向きは、沈着冷静な、あれな が言う。


 結局、ランニングは、そこで終了となった。


「そんじゃぁ、整理体操をして解散!」

「生理だって。いやらしいィー」


「はぁあぁ~、もうこんな人生、いやだ!」


・・・そんなこんなで、今日も日が暮れていく・・・


「それにしても、思ってたよりは、みんな体力あるかも」と、真由香コーチが感心して言った。

すると、真由香コーチが、「走った後でも、あれだけ、おしゃべり出来るんだから、大したもんよ」

「だよねーって、あんたたちも、おしゃべりだけは、先輩に勝ってたもんね」

と、瞳コーチが、締めの言葉を言った所で、本日の練習は終了となったのである。




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