第30話 今日も充実 (お昼も変)偏

お弁当の時間(クラブ員側)を実況中継・・・・・


「あーーーー腹減った」

「さあ、食べるよぉー」

「んン~、おいしい」

「鮭弁が、こんなにおいしい食べ物だったとは」

「あんた、昨日も鮭弁だったじゃん」

「文句ある?」

「私、来週から、お弁当箱2つ持ってこ。一個じゃ足りんし」

「男子なんか、もう食べ終わって、練習しとるがね」

「もう走っとる途中、卵焼きの事しか、思わんかった」

「今度、あそこまで走る時は、マジで、お弁当持って行こうね」

「やすこ、今日は、がんもどき 食べれるといいね」


 この一言をきっかけに、昨日、お弁当を忘れたジャガリコへの【いじり】が始まる。


「今日は、さすがに持って来たか」

「感心、感心」

「持ってくるのが、当たり前やて」

「で、昨日のお返しは? ジャガリコ」


「へ?  お返し?」

「なによ、その 『へ?』は。あんた、まさか、一宿一飯の恩義を忘れた訳じゃないよね」と、あべちが言う。

「ところでさぁ、【一宿一飯の恩義】って何?」

「もう、面倒くさ。それはね・・・


【ちょっとした事でも、他の人の世話になったら、その恩義を忘れてはいけないですよという戒めの言葉で、「一宿」は旅先などで一晩泊めてもらう事。「一飯」は一回の食事をごちそうになるという事を言います。昔は、旅の途中で泊めてもらったり食事を振る舞われたりして世話になると、生涯の恩義とする仁義があったの」


(今では『恩義』や『仁義』という言葉・感覚が、薄れて来ちゃって、さみしいなぁ~):葉山


と、あべち孔明が、明確に答える。


<これ、学年末テストに出すからなぁ~覚えとけよー>・・・国語の金田一(かねだ はじめ)先生より>・・・知らんけど。


「要は、昨日みんなから、ご飯とか、おかずとか一杯もらったから、今日は、みんなに、その恩返しをするのが、【当たり前だの、クラッカー】っちゅう事やね」と、レイナが言った。


「なに、それ? あたりなんとかちゅうの」

「あれ、知らないのぉ~」

「知らんし」

「もう、めんどくさいな~。 それはね・・・」とレイナが説明を始める。


【1970年頃に、菓子メーカーの前田製菓が、「当たり前だ」に「前田のクラッカー」を掛けたコマーシャル用語を作って、その当時、すごく流行した言葉だよ。今でも、クイズ番組なんかで、時々、テレビで取り上げられているから】


すると、瞳コーチから

「よく、そんな言葉知ってたわね。わたしも、1度くらいしか聞いたことがないのに」


<絶対に違げーし、前田クラッカー世代の瞳コーチが知らない訳ないし>


(瞳コーチのスタンド 【ザ・デストロイヤー】が、葉山のスタンド【バンビ】に、強烈なロケットパンチと、ブレストファイヤーを、おみまいした。【バンビ】は、ダイヤモンド・ダストと化し、はかなくも、この世から消滅したのであった)


「一番、日本人離れしたレイナから、その言葉の説明が出るとは」

「なんか、だいぶ横道それてない」

「なんの話してたっけ?」

「世界平和の話」とジャガリコ

「あんたねぇ~、それで、ごまかせると思ってるの?」

「そうそう、ジャガリコ、一ちゅっく一般の恩義返しなさいよぉー」

「なんか、違うような」

「だいぶ違うし」

「んな事より、返せ、返せ、おかずを返せ、おぉーーーー」


「えぇ~ん、コぉ~チぃー、助けてください」


「自業自得ね」

「恩義は返さなきゃ、ね」

「ジャガリコの、卵焼き、おいしそぉ~」


「これは、ダメです。これが無くなったら、私、生きていけません」


「じゃぁ、本当にそうなるか、食べちゃおっと」

「あんた、カルビーのお菓子か何か、持ってきてない?。あれば、それで許してあげる」


「あ~ん、味方が誰もいないよぉ~・・・・・

そうだ、 やすこ、やすこだけは、私の見方だよね?」


「みなさん、そんなに言ったらかわいそうじゃないですか。今日の所は、勘弁してあげましょ?」


「やすこぉ~、心の友、やすこぉ~」と、ジャガリコ。


「来週が楽しみ💛」と、やすこ。


「べ?」



しばらくして、ダイヤモンド・ダスト化した葉山が、再生し・・・

そして、男子コートの方へ、ふらふらと歩みを進めた。


「小田先生、久しぶりに、打ちますか?」

「いいですねぇ。やりましょう」


葉山と小田先生が、男子のHコートに入った。


 最初は、ロブから。

ゆっくりとしたボールだが、正確に相手のフォア側に、しかも、ほぼ同じ位置に、ボールが落ちている。

 アウトかな?と思うようなボールでも、ライン際でストンと落ちて、入っている。


 男子は、練習をやめて、全員が、二人を見ている。


対照的に、女子は、相変わらず、おしゃべりに夢中。


 次第に、二人の打つボールは、低く、そして早くなっていく。

乱打を開始して、5分ほどした後、二人が、本気で打ちはじめる。


二人とも、ボールのスピードが半端ないので、自分が打ち終わると、すぐに相手のボールが飛んでくるような感じで、息つく暇もないほどである。


「すげぇーーーーー」

 打球スピードだけなら、男子の中で一番の、仙道 傑(せんどう すぐる)が、思わず、声を上げた。


 仙道のボールスピードは、かなり速い。県内でもトップレベルと言ってもいいほどである。まだまだ安定感には欠けるが、本人も打球ピードには、かなり自信を持っており、天狗になりかけていた。

 しかし、小田先生と、葉山監督の本気の乱打を見て、自分が【井の中の蛙】であった事を思い知らされると同時に、『あんなすごい球を、自分も打ってみたい!』という、強い思いにかられたのであった。


【『井の中の蛙、大海を知らず』とは、「小さな井戸の中にいる蛙は、大きな海などの井戸の外にある、別の世界のことを全く知らない」と言う意味で、自分の狭い知識にとらわれてしまい、物事の大局的な判断ができないことを例えて言った言葉である】・・・諸葛 葉山


<これ、中間テストに出すからなぁ~覚えとけよー>・・・化学の蓮人 玄先生(れんと げん)先生より>・・・知らんけど


(絶対、電子(出んし)、化学のテストには)


「パーーーン」と言う、球が破裂するような音が続く。

とにかく、打球の伸びがすごい。

見た目にも、重そうな打球であった。

バックハンドも凄かった。フォアハンドと同等の威力があり、糸を引くような軌跡がすごい!


 男子は、もう二人の乱打に、釘付けである。

「すっげーーーーーー凄すぎる」

「カッケーーーー」

「小田先生、今までかなりセーブして、俺たちと打ってたんだ」

「なんか、惚れるし」

「おめぇーそっち系やったか」

「お前は、カッコいいと思わんのか?」

「そりゃぁ~思うけど」

「だろ」

「あんな球打てたら、女子の心を独り占めできるやん。見てみろ、女子の方」

・・・・・・

「あれ? ・・・なんで?・・・誰も見とらんような」


 女子コートの方は・・・


ロミオが、お店の新作和菓子『柿きんとん』を持って来ていて、それを、みんなに配っており、大騒ぎになっていた。

「あんぽ柿を使用して、栗きんとん風にした、新作和菓子です。どうぞお召し上がりください。」

「ありがとう」

「いい後輩ね」

「ロミオぉー、ところで、『きんとん』ってよく聞くけど、何?」

「『きんとん』って言うのはね、


【「金団」とは金の団子もしくは金の布団という意味です。金塊や金の小判などに例えられ、商売繁盛・金運・財運をもたらす福食として、正月のおせち料理の定番となったものです。糖分濃度が高く粘り気の強い餡で、栗もしくはサツマイモを材料にするのが一般的なんだけど、黄金色をより鮮やかにするためにクチナシが用いられることもありますよ】


「すご!、学校の授業より為になる」

「そんな事言うと、先生が泣くよー」

「じゃあ、頂きましょうか」

「いっただきま~す」

・・・・・・

「めっちゃ おいしい!!!」

「柿の風味、抜群!」


すると、ロミオが、

「言い忘れてましたが、食べた感想をジャンジャンお願いします。試食の意味で、今日、親に持たされましたので、いい事も、悪い事も、遠慮なく言ってください」

「悪いとこなんて、ないよー。めっちゃおいしい!」

「柿だけでもおいしい」

「甘さがちょうどいいね」

「私には、柿が甘すぎ」

「1個、いくら?」

「330円とか言ってました」

「330円かぁ。JKには、無理ね」

・・・・・

「それはそうと、 ねえ、小田先生、カッコ良くない?」

「元々、男らしくて、いいなと思ってたけど、テニスしてると、また素敵」

「小田先生って、既婚者だよね?」

「三人、子供さんがいるって」

「なんで、そんな事知ってるのよぉ」

「だって、気になったから、直接聞いた」

「あんた、既婚者でしょ」

「そんなの関係ねぃ。そんなの関係ねぃ」

「既婚者だって、キムタクに憧れるでしょ?」

「理屈が通ってるやん」


(女子コートの方では、二人の乱打に、ほぼ無関心であった。

コーチ陣は、『全日本代表選手』の実力を、よく知っている。だから、元全日本メンバーの葉山と小田が、すごい球を打つのは、当たり前だし、打てなかったら、大ウソつきだったという事になるので、驚きもしなかった。

 一方、クラブ員は、午前練習で疲れていたのと、和菓子の魅力に取り付かれていて、葉山など、眼中に無かったのである)


乱打を終えて、二人がそれそれの所へ帰っていった.


「小田先生、すごいです」

明らかに、小田先生を見る、男子クラブ員の目の色が違う。

【強い憧れ】と【尊敬】の念をもって、見つめられている。


女子の休憩所へ戻った葉山は・・・

「監督ぅ~、觔斗雲きんとうんあるよ」

「あのね、きんとうんは、そんご食うのやつ。ロミオが持って来てくれたのは、柿きんとん雲」

「もう私、頭がおかしくなりそう」


「柿の金団だな。おいしそうだ。干し柿の中に、栗金団が入っているのは、食べた事があるが、これは逆に、栗金団で、干し柿が丸っとくるんであるのか」

・・・・・

「うまい! が、大きすぎないか。干し柿を半分にして、金団でくるんだ方が、大きさも上品で、和菓子らしくなるんじゃないか? その方が、値段も抑えられるし」


すると真子コーチが、

「せっかく、ロミオがもって来てくれたのに。ねぇ」


「あのな、多分、お店から試食目的で持って来たんだろ?

だったら、率直に意見を言ってあげた方が、持って来てくれたロミオの為になる。

まあ、この大きさ、お前たちの口には、ピッタリだがな」


「う~   負けた」と、真子コーチ


、やけに素直やないか」


「今日です」 (だって、夜に食事会あるし~)


 


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