第29話 今日も充実 (午前中変)偏
・・・2023年4月23日(日)・・・
クラブ員が、ワイワイおしゃべりしながら、コートに集まってくる。
コーチで、一番早くやって来たのは、メイクもバッチリの真由香コーチ
《ほっといてんかー》
「真由香コーチ、おはようございます」
クラブ員から、元気な挨拶。
(若いって、すばらしい! 一見、昨日の疲れも残っていないようだ。
名前も、きちんと呼ばれて、ちょっとした事だが、それもうれしい)
その他のコーチも、続々と、コートにやって来た。
「ほれほれ、もっとしっかり、歩けんのかねぇー」
最後にやって来たのは、葉山と、ゾンビのように歩いてくる、澪コーチと、人愛コーチの3人。
(昨日の一本打ちにフル参加していた、コーチ2人は、今日は、使い物になりそうにない状態。しかし、ある理由により、無理して、出てきたのである)
「お殿、おはようございます。本日は、よろしく、お願いいたします」
コーチ陣が、にこにこして、葉山に、挨拶をする。
「ん?」・・・変な感じ。
クラブ員達は、何か違和感を感じていた。
しかし、すぐに、その理由は判明する事となる。
コーチ陣の雑談により、今日、食事処【雅】で、監督とコーチ陣だけの【宴会】があり、お店で最高額ニューの【大名御前】が、食べられ、しかも全額、葉山の【おごり】だと言う事がわかった。
・・・要は、おごってもらえるんで、【お殿様】扱いだった訳だ・・・
〈昨日は、監督の事、けっこうメチャメチャ言ってたのに。よくもこれだけコロッと変われるもんだ。・・・ある意味すごい!〉
クラブ員は、こうして、【世の中の上手な渡り方】を、身に着けていくのである。
社会の中で揉まれた百戦錬磨のコーチ陣から、良くも悪くも、学ぶ所は多い。
「葉山監督、今日、コーチ達と、お食事会行くんですか?」とジュリエトが聞いた。
「ああ、そうだが」
「私たちも食事会に連れてくって、言ってたじゃないですか」
「そんな事言ったっけ?」
「言いました」
「この、かわいいお耳で、しっかりと聞きました」
「記憶にございません」
「もう!、穂乃香コーチぃ~、監督って、ちゃんと私たちも食事会ご招待とか言ってましたよねぇ」
「監督、約束はきちんと守らないと、教育上、良くありませんよ」
「穂乃香コーチから、『教育上』という言葉が出るとは思わんかった」
「何、それ!」
「今日は、急に決めた、食事会なんで、みんなの席まで取れなくてな。今度、コーチとクラブ員全員の食事会をするから、俺を信じて、待て」
「しまった!、今の録音しとけば良かった」
「俺が、信用できんのか?」
「出来ましぇ~ん」
ジュリエットに加え、近くにいた、あれな、ミルキーも声を揃えて言った。
<あっ、そ>
「そろそろ、練習を開始するぞー」
「ちょっと待ってください。監督ん」と、すーあん が言う。
「なんだ。これから練習を始めようという時に」
「ねぇ 監督ん、今日、男子の方に、新しいコーチがくるって本当ですか?」
「だから、『ん』を付けるな、『ん』を。誰から聞いたかしらんが、その通りだ。 歳は25歳、独身。長身で、俺よりは劣るが、なかなかのイケメンだぞ。 もうすぐ来るんじゃないかな」
「なんだぁ イケメンじゃないのか。期待して損した」
「ん?」と葉山。
「『ん』は付けないでください。『ん』は」
すると突然、テニスコートに悲鳴が、響き渡る。
男子コーチの 野田 鈴也(のだ すずや)が、やって来たのである。
「きゃー」
「えー うそぉー」
「監督の話と全然違うじゃん」
「あー恋の神様 ありがとうございます」
「お母さん今日までありがとう。樹里はお嫁に行きますぅ~」
「博之君、元気でいてね。私は新しい彼氏が出来たから大丈夫」
「しおりん、あんた、彼氏いたっけ?」
「バーチャル博之君、今までありがとう」
「そーいうー事ね」
「みなさん、こんにちわ。男子コーチの、野田 鈴也です。よろしく」
と、さわやかな声が響き渡る。
芸能人で言えば、吉沢 遼 と瓜二つ、双子と言ってもいい程のイケメンであった。
あっという間に、女子クラブ員全員に囲まれてしまい、男子コートへ行く前に、挨拶をする事になってしまったのだ(野田)。
「野田コーチ、女子も指導してくださいますか? なんなら葉山監督と交代して頂いても、私たち女子一同、一向に構いませんので」
「ハッ ハッ ハァ」と、笑ってごまかすしかなかった野田。
「野田コーチって、どんな字を書かれるんですか?」と、すーあんが唐突に尋ねる。
「一般的な、野田で、鈴は、弘瀬 鈴の鈴で、や は、也(なり)という字です」
「じゃぁ、野田の 田(だぁ) と 鈴 で、ダーリン ですね 💛」
「あーそれ、いい!」と、大木 ルミ。
(心から、男子のコーチで良かったと思った。葉山社長、大変そーだな)
「おい!全員、第3グラウンドまで、走ってこい!
なんなら、もう帰ってこなくていいぞ!」
「はいはい、行きましょ。 ダーリンも一緒に💛」
「もう、おしゃべりは無し! 全員、集合!」 瞳コーチが声を掛ける。
「午前中は、準備体操、軽いランニングの後、昨日の一本打ち。ただし今日は、フォアのみで、1セット1時間を、2セット行います。その後は、ランニングをします。
コースは、葉山監督が、良いコースがあると、言ってみえましたので、そこを走ります。
あっ、言い忘れたけど、一本打ちの間隔は、ゆっくりでいいから。1本1本を丁寧に打ってください。ボール出しの子は、打つ子の体制が整ってから、正確に出してください」
「はい、わかりました」
「お願いします」
「準備体操は、真子コーチに、全日本チームで行ってた体操を教えてもらいます。
真子コーチ、お願いします。」
初めてなので、体操に少し時間がかかったが、今後、この全日本代表チーム式で準備体操をしていく事とした。
(一歩、全日本代表に近づいたのである。・・・ただし、アリさんの一歩ぐらいだけどね)
「全日本チームに入った時、これって役に立つね」
言ったのは、しおりん。
その後、全コートを、10週して、一本打ちに入った。
クラブ員の組み合わせは、ナナミーキャプテンが、昨日とは違うメンバーで、入るコートを、テキパキと指示をした。
(コーチが何も指示しなくても、そういった行動がとれるナナミー。
社会人になった時、こういった事は、とても大切になってくる)
「えっ~と、ゾンビ二人は、暗くなるまで、駄目ね。
天音コーチと、美弥コーチは、一本打ちに入ってください」
「えーーー私ぃ~」と、天音コーチ
「そう、わたしぃ」
「瞳コーチ、申し訳ないですが、持病の腰痛が、昨晩からひどくなり、肩も痛く、急に頭痛もしてきました」
美弥コーチも
「私は、陣痛がひどくて、とても無理です」
「あっそ。 監督ぅ~、2人とも体の調子が悪いという事なので、夜の打ち合わせ会は、欠席するそうです」
「おばんゲリオン初老機発進!」
「
天音コーチと、美弥コーチが、勢い良く、コートへ飛び出していった。
・・・・・・・
「手打ちしてると、最後まで続かないよぉ~」
8+1-2(ゾンビ)-2(ガンダム関係者)=5名で、休憩番の者に、ヒップヒンジの使い方を少しづつ教えていった。また、目立った欠点がある場合は、その都度、指摘をしていった。
【ヒップヒンジとは股関節を中心に屈曲する動作で、この動作ができると、パワーを溜めて、体全体を使ってラケットを振る事が出来、パフォーマンスアップや怪我などの障害の予防にもつながるが、理屈はわかっていても、これがなかなか、実戦では、難しいのである】
昨日は、張り切り過ぎたというか、初めてで、慣れていなかったせいか、自然とボール出しの間隔が早くなっていってしまったが、今日は、ほど良いテンポで、各コートとも、ボール出しが出来ている。
(練習において、補助者の技量は、技術向上の上で、重要な要素である。
例えば、ボレー練習なら、球を打つ後衛の、正確なコントロール。打ったボールが、ネットしたり、あっちに飛んだり、こっちに飛んだりでは、前衛の練習にならない。
また、レシーブ練習では、サーバーが、フォルトばかり出していては、これまた、練習にならない。
ボール出し一つを取ってみても、それは言える。
そう言った意味でも、素晴らしい技術を持ったコーチが、8名と、ついでに監督もいる、この体制は、クラブ員の成長に、多いに意味のある事であった)
やすこは、昨日と同様のコースを、回った。
自分で走る方法を決めていた。昨日走った区間は、今日も走る。ただし昨日よりも早く走るのではなく、昨日よりも、少しだけ長い距離を走るのである。
こうすれば、理論上、昨日よりも早いタイムで、走り切る事が出来る計算になる。最終的には、時計を見て、昨日よりも早いタイムで、帰れるように調整するが、常に時間を気にしながら走るよりも、昨日より長い距離を走る事に集中した方が、一区間一区間ごとの、具体的な目標を持て、回る事が出来て、良いと、自分で考えたからだ。
水筒は、職員室の窓辺に、置かさしてもらう事となった。
(葉山は、今日、コートへ行く前に、昨日、水筒が置いてあった、朝礼台に一番近い山の土手付近に行き、水筒を探した。
『水筒を家に持って帰る事は無いだろうし、出来心なら、近くの山にでも捨てるだろうから』と考えていた。
10分ほど探すと、やはりそこに水筒はあった。
『この水筒は、休憩所に飾っておこう。やすこのくやしさ、そして、皆の、やすこへの思いを、忘れない為に』)
やすこが、走っていると、やはり今日も、陰口が男女を問わず、飛んだ。
わざと本人に聞えるように言って、自分の優位性を楽しんでいる。
「デブ、 相撲取り、 地面が割れる、 震度7、 目ざわり・・・」
もっと酷いのになると
「この世から、消えろ!、うっとおしい」
走り出すと、昨日の疲れや、筋肉痛から、思うように、体が動かない。でも絶対に昨日より、1秒でもいいから、早くみんなの所へ、帰って行きたい。
そんな強い思いと、焦りから、数々の罵声も、昨日ほど、やすこには聞こえてこなかった。
やすこが回るコースの近くで活動しているクラブの、顧問の先生方には、やすこの見守りを、校長先生が、お願いしてくれていた。
しかし、先生がいる所では、さすがに、罵声を浴びせる生徒はいなかったので、それを止める事は出来なかったが、少なくとも、体調の急変など、緊急時の対応については、ある程度、安心が出来た。
テニスコートでは・・・・・
「ドレミ、今の良かったよ」と、穂乃香コーチ
「はい、ありがとうございます」
「細かな所は、私がチェックしておくから、ドレミは、あれこれ考えず、今の打ち方の、だいたいのイメージを忘れないように」
「はい」
一流のコーチ陣である。
テイクバックは、どの位置まで上がっていた?、打点の高さは腰の位置?、打った時のポイントは?、どの辺だった?、ヒンジは?、構えに余裕はあった?、フラットな面だった?、フィニッシュは、どうだった?
自分たちも、最初っから、上手かった訳ではない。一つ一つ積み上げて、今の技術を身に着けたのである。だから、各チェックポイントについても、十分、理解している。
各コートも同様である。コーチは、テニスノートに、気付いたことを、走り書きをしていく。
葉山は、これを見て、ある事を思いついた。テニスノートは、いいアイデアだが、都度書き込んでいくのは、大変だし、限界もある。
〈よし、経理部長に、お願いしてみるか〉
・・・会社の人は、社長さんに振り回されて大変!
〈振り回されるとは、人聞きの悪い。未来を背負っていく、女子高生の為に、少し協力を願うだけだ〉
各コーチは、クラブ員を、褒める事を重視した。
【いい所を伸ばす】・・・この方針は、瞳コーチからも、再度指示があり、徹底されていた。
ただし、お世辞を言う必要も理由も無い。本当に良いと思った時に、それを本人に伝えた。
だから、言われたクラブ員も、うれしいし、もっと頑張ろうと思えた。
籠のボールが無くなり、昨日と同様に、競争で、ボール集めが行われた。
「よーい、スタート」瞳コーチが、号令を掛ける。
すさまじい、ボール争奪戦が始まる。まるで、デパートのバーゲンセールで、開店と同時に、お目当ての目玉商品に群がる、ご婦人方のように。
隣にいる男子部員は、その勢いに、引いてしまっている。
〈巻き込まれたら、怪我だけでは、済まないかも?〉
そうこうしていると、野田コーチの前にあった1個のボールに、5人が群がった。
「野田コーチ、そのボール、私に下さいます?」
「この子はダメです。変な病気が移りますよ」(美弥コーチ)
「野田コーチ、この1球は、無二の一球。それをわたくしに託してくださいますか」
「なぁ~にが、無二の1球よ!、あんなにボールがあんのに」
訳の分からない言葉が飛び交ううちに、このくだらない争奪戦に、全く加わらなかった、あべち副キャプテン率いる、Aコートのメンバーが、他のボールを拾いまくる・・・
結果発表!
優勝Aコート(圧勝!)、2位、Bコート、以下、C,D、E、圧倒的ビリが、しおりん、ドレミ、そして美弥コーチのFコートとなった。
「はいはい、Fコート、コート3周、全速力で走ってらっしゃい!、ビリは、もう1週追加ですよ」
「はい、スタート」
結果は、美弥コーチが断トツのドベだった(当たり前か)
「美弥コーチ、ドベだったから、もう一周ね」
笑いながら、瞳コーチが言う。(もちろん冗談だったが・・・)
「えーーーー、そんなぁ~、今、走っちゃったけど、そもそもコーチは、走る対象外じゃなかったですか?」
「そんな事、言ったっけ?」
「ねぇ、真由香コーチぃ、確かに言ったよね。コーチは対象外だって」
「さぁ どうだったっけ」
「二人とも、老化現象が進んでない?」
「ふたりとも・・・今の言葉に対する罰として、しおりんと、ドレミも一緒に走ってらっしゃい」
「えーーー どうして、そうなるんですかぁ?」・・思わぬトバッチリを受けた二人
( 典型的な『その一言が死を招く』ちゅうやつやね、これ)
突然、美弥コーチが歌い出す。
(^^♪ ざーんーこぉーくぅーな、ひぃーとみこぉ~ち♬
コーおート から、やがて とびたつ ^^♪)
「さあ、あきらめて走るよ」
仕方なく3人は、もう1周走り出していったのである。
他のクラブ員達は、このくだらないやり取りのおかげで、少し多めに休む事が出来た。
そんな、こんなが繰り返され、一本打ちを終えた。昨日よりも、順調かつ有意義な練習となった。
コーチもクラブ員も、手探りながら、一歩づつ前へ進んでいる感じである。
葉山は、小田コーチと相談事があったため、しばらくの間、男子コートの方へ行っていた。そして、女子コートへ戻って来て、澪コーチと、人愛コーチは、どうしているかなと休憩所を覗くと、
「ゾンビが、もう一人増えとるやん。どないしたんや、美弥コーチ」
(美弥コーチが、走らされていたのは、見ていたので、状況は理解していたが、わざと聞いてみた)
「監督、もうあかん、死にそー」
「じゃあ、死んだら教えてやー」
10分の休憩後、集合の号令がかかる。
「これから、ランニングに入る。
コースは、ここから、あそこに見える、光子力総合研究所の途中まで。往復で10kmのコースだが、行きは、上りが多いから、足腰鍛えられるぞぉ~」
学校側から見て、山の中腹に、研究所の一部が見える。小さく見えるので、一見たいした所ではないように感じるが、実は広大な敷地を有している会社である。
学校近くのインターチェンジを降りて、500mほど行くと、研究所までの4車線の専用道路がある。勿論、一般車は通行禁止で、道路の入り口には、警備所があり、警備員が複数名、日夜、常駐している。
専用道路は、一本道で、他から侵入する道路は無いのだが、ただ一か所、道路を造成する時、特殊工事車両搬入のため、学校の山手から、道路が作られていた。
本来、工事が終われば、閉ざされるべき所ではあったが、当時の校長先生から、部活生徒のランニングコースとして使わせてほしいとの依頼があり、ひとまず、車が侵入できないようにして、そのまま、残しておいたが、山中でもあり、何かあった時、責任が持てないという結論に至り、一度も利用される事なく、そのままになっていた。
しかし、時がたち、全道路が、強化ポリエチレンに覆われた透明ガードフェンスに覆われた事により、不審者や、野生動物の侵入不安が無くなり、各種セキュリティーシステムの飛躍的な発達により、何かトラブルが起こっても、すぐに対応ができる体制が、現在では構築されていたので、葉山は、ここをランニングコースとして、利用する事を決断したのである。もちろん、多岐商の他のクラブから、利用したい旨の依頼があれば、即、OKである。
道路の両側には、3mもある歩道が整備されている(本当は、自転車用だが、出退勤時間以外、利用する者はいないので、ランニングには、何の支障も無いのである)
「コーチの体力不足も、大きな課題だという事が、判明したが、今日の所はコーチ陣は、車で行って良しとする。会社と、警備室には連絡済みだ。ウインクが、合言葉代わりにしてあるから、それで通してくれるはずだ」
すると、いつの間にか、休憩所から出て来ていた、ゾンビ4名(一本打ちに加わっていた天音コーチ1名も、ゾンビ追加)が・・・
「お代官さま、ありがとうごぜぇますだ」
「おら、もう動けねえずら」
「ありがたやぁ、ありがたやぁ」
「しかたないなぁ~、瞳コーチ、ゾンビ4名、車で連れってってくれますか」
「ほんと、仕方ないわねぇ~」
「あと、穂乃香コーチ、車出してもらえます?」
「仕方ないわねぇ~」
「じゃあ、私たちは、先に走ってますので。
やすこが途中で帰ってくると、みんながいなくてビックリするので、張り紙しときます」
【やすこへ、
只今、地獄のランニング中!
もし、生きてかえれたら、一緒にご飯食べよう!
ナナミー】
「ちょっと、監督、人の名前、勝手に使わないでくれます」
「もう書いちゃった。
水筒は、コーチ達に預けて、行くぞぉー」
「おーーーーー」
〈なんにしても、新しい取り組みには、興味が湧くみたい〉
行きは、相当きつい。上りが多く、早く走るどころではなかったが、元より今日は、完走重視なので、ゆっくりとしたペースで、クラブ員を引っ張って行った。
クラブ員が、かなりの距離を走った頃、コーチ陣は、専用道路の、警備所の所まで来ていた。
先頭者の、瞳コーチが、警備員さんに、
「多岐商テニスクラブの者です。よろしくお願いします」
と言って、警備員に、とっておきのウインクをした。
それに続いて同乗していたコーチ達も、ウィンク。
二人の警備員さんは、突然の、ウインクに、胸がときめいてしまい、顔を真っ赤にしている。・・・というのは、真っ赤な嘘で・・・
〈この人達、大丈夫か? 社長も、変なのに捕まったな〉
と思い、眉をしかめた。
その様子を見ていて、瞳コーチは、全てを悟った。
・・・・・・(はめやがったな)
穂乃香コーチが運転する後続車も、同様にウインクし、同様に警備員の【悪い物にでも取り憑かれたような顔】を見て、葉山に、おちょくられた事に気づく。
(普通は、ウインクをと言われた時点で、それはおかしいと気づくものだが、そこは、天然素材の集合体!、さすがと言うべきか、なんと申しますか・・・)
その内、コーチ陣の車が、クラブ員に追いついて来た。片側2車線の直線道路なので、超ゆっくり車を走らせても、支障は無かった。
それまでの車内では・・・
「今日は、食うよぉー」
「大名御前って、私、食べた事ない。楽しみ~」
「お酒飲んでいいかな?」
「それは、ダメでしょ」
「後で、会費請求されない?」
「葉山監督のことだから・・・」
「全く、洗剤の話ね。・・・・・アリエール(有り得る)話」
「あっと、それ、私の渾身のボケなのに、横取りしたぁー」
「特許取った?」
「取ってない」
「じゃあ、使われても文句言えないね」
「ところでさぁ、瞳コーチ、葉山監督の処分、どうします?」
「学校のシュレッダーで、切り刻んで、自然乾燥するまで、外に放置しておこうと思う。今日の宴会が済むまでの命じゃ」
〈恐ろしやぁ~〉
「それはそうと、ファンデーションのお勧め有りませんか?、汗に強いやつ」
「クラブ員見てると羨ましい。お肌なんかピチピチしてるし。汗なんか、はじけ飛んでる感じだし」
「そうよねぇ~。美弥コーチなんか、汗がしわに、しみ込んでいくでしょ」
「瞳コーチも、干し柿の刑、確定!」
(テニスの神様は、思う)
〈あのね、両車両のみなさん、少しは、今、一生懸命走ってる、クラブ員さんの話をしてあげたら〉
一本打ち後のランニングは、きつかったが、ペースはゆっくりだったので、なんとか、全員揃って、中間地点の展望台まで来た。
(入口から3kmはど行った所に、展望台が設けてあり、多岐市の街が、一望できる。もちろん、多岐商業高校の校舎も見える。
自転車通勤者のために、ベンチや、屋根付きの休憩スペースもあり、ジュースの自動販売機も置いてある。さすが、一流企業といった感じ)
「よーし、ここで休憩するぞ」
「はい」
クラブ員が、ベンチにへたり込む。
「はぁ~死にそ」
「それな、禁句」
「景色いいね」
「お弁当持ってくればよかった」
「しおりん、【ひき肉】じゃないんだからー」
「なに、それ?」
「あっ、間違えた。ひき肉じゃなくて、【ピクニック】だった」と、ドレミ。
「町がえる訳ないし。そんなの」
「ジャガリコ、あんたも間違えとるし。町違えると、間違える」
と、国語が得意のナナミー
・・・・・・???
そんなこんなの会話が飛び交う中、コーチの車がやってきた。
(学校を出て、専用道路の入り口までは、山沿いに、ぐるっと回っていくので、車だと、思いのほか、時間がかかるのである)
「景色いいね~」
「学校見えるじゃん」
「お弁当、持ってくればよかったね」
すると葉山監督が、
「『見た目は大人、中身は子供、迷探偵 こんなんばっか』てか。」
・・・・・
「監督、素敵な場所ですね」と、瞳コーチ。
〈瞳コーチの方が、もっと素敵ですよ💛〉
すると、瞳コーチが
「ここ、少し涼しいわね。なんか悪寒がしたわ」
「何か変な者に、とり憑かれたんじゃありません?」と、美弥コーチ。
「やめてぇーーーー」
例のごとく、オカルトが大の苦手な、天音コーチが、叫ぶ。
「自販機あるじゃん。監督ぅ~」
「やったぁーーー」
「私、コーヒーでいいですよ、か💛ん💛と💛く」
「カードも、お金も無い」
「社長だから、なんとかなりません。顔認証システムとか、指紋認証とか」
「警備室に電話して、お金持ってきてもらったら?」
「あのぉ~、コーチの方々、ちょっとは、クラブ員に、『ここまでよく頑張ったね』とか、『つらいけど頑張ろう!』とかなんとか声掛けしてあげたら?」
すると、穂乃香コーチが
「みんな、ピンピンしてるじゃん。心配する必要なし」
<あっ、そ>
「あと残り2km、平坦だから、ペース上げて、走るぞ」
「さあ、立って、立って」
葉山に、促されて、クラブ員が走り出す。
気候が良かったせいもあり、順調に走り切り、第二警備所の所までやって来た。
葉山が一人、警備室前まで行くと、警備室から2人の警備員が出て来て、深々とお辞儀をした。葉山も、丁寧にお辞儀をし、何やら、楽しそうに話をしている。
「社長、第一警備室から、『いきなりウインクして、ゲートを強行突破していった車が2台、こちらへ来るので、注意するように』と連絡がありました」
と、ニコニコしながら、そう葉山に伝えた。
事の経緯を警備員に伝えると、
「そんな事じゃないかと思っていました。しかし、ぱっと見、綺麗な方ばかりですね」
「来月の集団健康診断の時、視力検査をしっかり受けた方がいいですよ」
・・・・・・
水分補給中のクラブ員や、コーチ陣は・・・・
「へぇ~、葉山監督って、誰にでもフレンドリーやね。警備員さん達も、楽しそうに話してるし」
「何、話てんだか、わかったもんじゃないよ」
(そのとお~り。ピアノ売ってちょうだい(^^♪)
「すっごい会社やね」
「何?あれ。延々と続く、リング状の物体」
(全周33kmにも及ぶ、大型ハドロン衝突型加速器と、大型電子陽電子衝突型加速器、重力加速器、光子力分散加速器の超大型複合加速器【 J トロン】が、光子力総合研究所の、近未来的な建物群を取り囲むように、設置されている様子は、圧巻であった)
「ネットで調べても、あまり情報が出てこないね。こんなにすごい会社なのに」
「なんか、怪しい会社だったりして」
「悪の、秘密結社だったりして。・・・ねぇ、監督」
「イーーーーーーーッ」と言って、葉山が、右手を、ピンと伸ばし、上にあげた。
「ほらね、やっぱり、ショッカーのアジトだった」
(相変わらず、わかる人にしか、わからない話が続く)
「穂乃香コーチも、そこで働いてたりして」と、真由香コーチ
「なによ、それ?」
「怪人として」
「葉山監督、真由香コーチは、帰りは、クラブ員と一緒に、ランニングしてくそうです」
「おお、草加(そうか)煎餅、感心!感心!」
「瞳コーチ、助けてください」
「自業自得ね」
「そんなぁ~」
「無理して走らせると、またゾンビが増えて、午後の練習に差し控えるんで、
首領、勘弁してやってくれませんか?」と、葉山が、瞳コーチを見て言った。
「まあ、今日は、勘弁してあげますか」
「あいがとうごぜえますだ。首領様」
【人生に、無駄な時間など無い。全ての時は、何か知らの意義を持っているのである】と言った、有名な人がいたが、無駄な時間の見本の様な時が過ぎ・・・
「さあ、ノンストップで、学校まで帰るぞ!」
「えーーー、もうちっと休憩」
「えーーーーやないわー、早よ立て!」
「へーーーーい」
ゲルショッカー候補生達が、重い腰を上げ、走り出した。
コーチ陣の車は、万が一に備え、最後尾に付き、ゆっくり車を進める。
帰りは、平坦か、下り道なので、順調に走る事が出来たが、結局、お昼を大幅に過ぎて、14時チョイ前に、コートに戻る事となった。
コートが見える所まで来た時、そこには、やすこの姿があった。
ペースはゆっくりではあるが、集中して(知らんけど)、素振りをしている。
クラブ員も、コーチ陣もコートに着き、
「やすこ、タイムどうだった?」
「張り紙見た?」
「腹減って、しゃべる事も出来ん」
「お互い、生きて帰れてよかったね」
「男子コートの方ばっか見て、素振りしてたでしょ」
「景色いいとこだったよ。夏までには、一緒に走れるようになろう」
「やすこ、早弁してない?」
「絶対してるよね」
各自が、好き勝手に、言いたいことを言う。
「やすこ、タイムはどうだった?」と葉山が尋ねる。
「はい、45秒早く帰ってきました」
「♪45秒で何ができるぅ~(^^♪の、45秒?」
「です」
「途中で、足が重くなってしまって、思うように走れませんでした」
「でも、【昨日より早く】 は、目標クリアーだから、よくやった。やすこ!」
「ありがとうございます」
「腹へったぁ~」
「だな」
「では、休憩!」
「ありがとうございましたーーー」
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