第28話 反省会

「よーし、では、生理体操でもして、今日は、早めに切り上げるか」


「もう、動けないし、監督の字違いギャグに、突っ込み入れる気力もありませんでしゅ」

と、すーあんが言う。

(早くも、すーあんは、イントネーションの微妙な違いから、葉山の、しょうーもない、ボケにも対応出来ていた)


「瞳コーチ、どしますか」


「そうねぇ・・・じゃあ、これから、今日一日の反省会をします。

みんな、トイレ休憩した後、休憩所に集合」


「はい!」

とりあえず、体は動かさないでもいいとわかり、けっこう元気な返事が返ってきた。


そして、全員が、休憩所に集まり、コーチ陣と、クラブ員に分かれて、椅子に座る。


「お茶とか、自由に飲みながらでいいからね。

今日は、長い長い自己紹介から始まって、4時間ぶっ通しの、一本打ちまでいろいろあったけど、それぞれ、何か思う事、感じた事は、あったと思うの。

それを、何でもいいから、クラブ員の方から、発表してもらいます。

出来た事、出来なかった事、他の子を見て、すごいなと思った事、私たちコーチへの不満や、意見。なんでもいいよ。

・・・では、キャプテンから、左周りで、発表していこうか」


「左まわりって、どういうふう?」

「ナルトの渦のような回り方だよ」

「あのね、ナルトが、裏返しになったら、回り方も逆になるんですけど」

「時計回りの逆だよ」

「時計ってどっち周りだっけ?」


(極度の練習疲れから、一部、錯乱状態の者がいるらしい)


 ななみキャプテン・・・

「え~と、バックの事なんですけど、私も含めて、みんな、バックが下手だなと、思っちゃいました。特に、バックのストレート打ちなんて、ネットや、アウトばかりで。


(あまりにも打てないので、途中から、バック練習をやめて、フォア練習に変更になっていたぐらいである)


 すごいと思ったのは、じゃがリコの、バック。どんでけん打っても、フォームが綺麗だし、アウトも、ネットもほとんどしないし、そんなにスイングが早そうに見えないのに、ボールはビューンと飛んでくし。

 私なんか、最初は、何とか打てたけど、疲れてきたら、もう、ラケットも振れなくなってきて。・・・真似したいと思いました」


<さすが、キャプテン。自分の事だけでなく、皆がバックが打てない事など、ちゃんと周りも見てくれている。でなきゃ、そんな反省の言葉は、出てこないはず>


 じゃがリコのバックの安定感には、コーチ陣の誰もが、感心していた。


(各コーチは、自分のテニスノートに、発表内容と共に、それぞれの思いを、真剣に書き込みしている)


「発表ありがとう。一人一人の意見に対して、コメントしていきたい所だけど、自己紹介の二の舞になりそうだから、今回は、個々の発表だけにするね。

では、次」


ミルキー・・・

「はい、・・・今日、不思議な事がありました。練習が始まって1時間後くらいの時かな、体が急に軽くなって、ボールが、めちゃめちゃ良く見える時があって。

自分でも『なに?これ?』って。訳わかんないけど、とにかく、自分の思った所に打てちゃうんです。それは、そんなに長く続かなかったけど、とにかく不思議な感覚で、いつも、ああ言うふうに打てたら、いいなと思いました」

 

(各コーチには、それがどの様な状態か、わかっているようで、みな、心なしか、ニヤニヤしていた)


ジュリエット・・・

「私、体力ないなぁ~て言うのが、一番思う事です。最初は、声も出せていたのに、だんだん、声も出なくなって、ラケットを振るのもつらくなってきて。周りを見たら、みんな、平気そうな顔をしてるし。高校でテニスするつもりが無かったので、去年の秋から、素振りはもちろん、ランニングとかも全然やってなくて。ラケットが振れる体に、早くしたいと思いました。以上です。」


あべち副キャプテン・・・

「あのぉ~、すっごく、生意気な質問なんですけど、この4時間1本打ちの意義が良くわかりません。苦しくなって、フォームは、メチャメチャになってくるし。

体力作りなら、別にランニングでも構わないと思いますが。」


すると、瞳コーチが、

「先ほど、コメントなしとは言いましたが、この問いに関しては、今、答えます。

副キャプテンが心配したように、フォームを壊してしまかもと考えるのもわかります。4時間もかかる試合も無いし。


(まっ、4時間1本打ちをしたからといって、全員、フォームの崩れを心配するほどの、レベルではないんだが、あべちのプライドも傷つけないよう配慮してっと)


 ただ、今日は、みんなのフォームを矯正しようとかは、全く考えていませんでした。

私たちの目標は、インターハイ優勝です。そのために、あなた達に今、足りない物を、感じて欲しかった。

 まだ、4人しか発表していませんが、需要なポイントは、ほぼ出ていると思います。


 まずは、体力が無い事を自覚してほしかった。インターハイは、真夏に行われます。しかも、全国から来た、鍛え上げられた強いチームとばかり、戦わなくてはなりません。何試合もこなせる体力がなかったら、技術があっても、勝ち上がれません。


 二つ目は、バック。一本打ちで、打つには優しいボールなのに、それでもミスが多い。定位置で打って、これだから、実際の試合で、走らされたら、とてもじゃないけど、今のままでは、試合にならないと思います。


 三つ目は、4時間打ち続けて、1球もいい球が打てなかった子っている?

いないと思うの。ちょうど、その事を、ミルキーが発表してくれたけど。

ミルキーは、一汗かいて、体が軽くなり体の切れも良くなって、しかも多少の疲れから、余分な力が、体中から抜けた事によって、ボールも見えて、体と心が、最高の状態になり、自分でも不思議なくらい、いい球が打てた。

 ただ、真に身に付いた技術じゃないから、いつの間にか、元に戻っちゃたんだけどね。

 個人差はあるけど、絶対に、その子に合ったスイング、その子にしか打てないような、素晴らしいボールはあります。それを練習を積み上げる事によって、いつでもそれが出来るようにしていくの。

 これからも、意味のない練習はしません。

だから、私たちコーチを信じて、必ずついてきて!」


「はい!」


(瞳コーチは、自信満々に言い切った。ここは、クラブ員に、凛とした態度を見せておくことが、必要と思ったからだ)


 (・・・だが、この先、実際には結構、思い付きで、その日の練習方法を決めたりもして、なに?この変な練習と思う事も、経験していく事になるのだが、それは、それとして・・・・)


その後、残り8名からの発表を終え、

「監督、締めの言葉をお願いします」


「では・・・・・

 今日、とても感心した事があります。それは、みんな、コーチやクラブ員の名前を覚えるのが早かった。日中、みんな、きちんと相手の名前や愛称を、間違いなく呼べていた。

これって、けっこうすごい事だよ」


 すると、ロミオが、

「自己紹介が、メチャメチャ面白くて、なんか、その時、顔と名前が結びついたというか、自然とイメージみたいなもんが出来て、すぐに覚えちゃいました」


穂乃香コーチも、

「だね。私も、クラブ員が12名もいるのに、それぞれの自己紹介が、インパクト強くて、すぐに覚えられた。ながぁ~い自己紹介も、無駄じゃなかったね」

「ところで、あなたは、どちら様?」と言って、真横を向く。


「痴呆症か」

真由香コーチが、冷たくあしらう。


「まあ、痴呆症患者は、放おっておくとして、またまた良い無駄話しが、飛び出したね。・・・それは、イメージの事。

 テニスでも、イメージを持つ事は、とても大切。今日、練習の中で、うまく打てた時のイメージを、忘れないように。

 実際に、打つ瞬間に、『力をぬいて』とか『コンパクトに』とか、『スタンスは広く』とか考えながらやってたら、打てるもんも、打てなくなる。

 いい時のイメージがしっかりもてれば、好不調の波も、少なくなるしね。

・・・では、話はこれで終わります。

解散!」


「ありがとうございました」


それぞれが、帰り支度をしている中、葉山は、やすこを呼んだ。

「今日、自宅まで送ってやるから、ご家族にその旨、電話しといてくれないか」


「もう、私、大丈夫ですから、いいですよ」


「今日あった事の報告もあるが、それと共に、やすこのダイエットの事も、お話ししておきたいし」

 

「そういう事でしたら、お願いします。・・・本当は、立っているのも辛いし」


すると、瞳コーチが、

「私も、同行します」


「大丈夫ですよ、瞳コーチもお疲れでしょうから、早めにお帰りください」


「監督、瞳コーチは、やすこの事を心配して、言っているんです」と、美弥コーチ


「それなら、俺も同じなんだけど」


そると、天音コーチが、

「もう、そう言う事じゃなくて・・・瞳コーチは、やすこと、監督が二人っきりになる事が、とっても危険だと言っているんです」


「なぁ~んだ。そういう事かぁ~  って、お前らなぁ~

瞳コーチ、そうなんですか?」


「えへっ」


〈本日、何度目かの、電撃ショック〉


またもや、天音コーチが

「やすこに、スタンガン持たせたら?

誰か、スタンガン持ってない?」


「あるけど、家にあります」と、人愛コーチが言う。


「何で、そんなもん、持ってるのいよ?」と、澪コーチ


「そりゃぁ、護身の為だよ。他に使い道ある?」


「若い男を、捕獲するためとか」と真子コーチ


・・・・・・・・


「誰か何か言ってよぉ~、人愛は、そんな事しないよとかさぁ」と、人愛コーチ


ここで、真子コーチが、わかりにくいボケを入れた

「全く、洗剤の話ね。・・・・・アリエール(有り得る)話、人愛コーチなら」


「あのぉ~、脱線事故は、以上でしょうか?

皆さん、お疲れでしょうから・・・

もう、いいかげんに、とっとと、帰れェー!!!!!!」


「は~い」


 やすこは、何事も無く無事、自宅に送り届けられた。(よかったぁー)

よほど疲れていたのだろう。夕食を食べ終わるとすぐに、自分の部屋に入り、眠り込んでしまった。


 葉山は、今日一日の出来事を話し、責任をもって、やすこさんを見守って行く事と

「やすこさんは、本気でダイエットに取り組もうとしています。『みんなと一緒にテニスをしたい』という思いは、とても強いです。私たちも全力で、応援していきますが、これは、ご家族のご協力がないと、絶対に成功しない事でもあります」


「やすこから、聞いています。家族として、全面的にサポートを、必ずしていきます。

監督、いろいろとご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」

そう言って、父親が、頭を下げた。


 水筒の件も、とりあえず、様子見をするという事で、同意を得たので、葉山は、帰って行った。


(如月 孔明の告白の事は、両親に言わなかった。その事は、明日、やすこに伝えておこう)


自宅に着くと、天音コーチに、電話した。

「天音コーチ、今日はご苦労様でした。」


「いえいえ、楽しすぎて、あっという間の一日でした」


「それは、良かった。

ところで、急な事ですが、明日、コーチ陣で、臨時の打ち合わせ会を、行いたいですが、席は空いてますでしょうか」


「えーと、ちょっと待ってくださいね。・・・・・

宮下先生を入れて、9名ですよね、大丈夫です。貴賓室が、ちょうど空いてます」


「では、大名懐石 9名分頼めますか。別に、船盛りも二つ」


「大丈夫です。板長にお願い💛 しときますから」


《ちょっと、無理をお願いしてしまったかな》


「これから、他のメンバーに電話して、出欠を聞いて、人数をまた、連絡します」


「殿、誠に、ありがとうございます」


 結局、全員参加で、宴会・・・じゃない、打ち合わせ会が行われる事になったのである。





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