第24話 お弁当の時間③

「コーチ陣は、ちょっと和室に集まってくれませんか。話したい事がありますので」と葉山。


「わかりました」といってコーチ陣が、和室に集まり、葉山は扉を閉じた。


 「今後1年間の行動計画についてですが、大まかに伝えれておきます。

8月1日(火)から10日(木)の10日間、ひるがみ高原のペンションで、夏合宿を行う事とします。もう宿は抑えてあります」


「10日間も?」


「はい。それでコーチの方々には、極力、参加をお願いしたいが、期間が長いので、都合のつく範囲内でいいですから、来てほしいです。詳しくは、今月の『雅』での食事会の時に説明します。


 それで、その合宿までの事ですが、校内戦・対外試合とも一切行なわず、ひたすら基本練習に徹します。


 よって、春の新人戦も辞退するので、そのつもりでいてください。

理由は、今の彼女達では、試合に出ても、勝てない事は、火を見るよりも明らか。

こてんぱんにやられて、自信を失うだけです。ならば、基本練習に徹し、安定したフォームを作り上げてから、試合に臨んだ方がいいと考えました。


試合をしている時間がもったいないというのが、正直なところです。

 下半身強化のための走り込みも、徹底して行います。


上半身の柔軟性は高めていきますが、特別に上半身の筋力強化のためのトレーニングは行わず、自然な筋力アップがあれば、それでいいです。


 幸い、クラブ員12名に対して、コーチが、私も含めて8名もいます。ほぼマンツーマン的な指導が出来る事も、基本練習に徹しようと思った理由の一つです。


 家庭や、仕事の事情で、指導に来れる日、来れない日があるのは、当然、承知していますが、極力、1年を通じて、同じコーチから指導を受けられるような体制を作りたいと思います。


 各コーチには、他のコーチの指導方法を意識することなく、自分の指導方法に自信を持って、自分のやり方で、指導してください。みなさん、実績のある方ばかりです。私は、その力を信じていますし、そうでなければ、ここへ来てもらってません。


 とはいうものの、あまり指導内容に差があっては、クラブ員も困惑してしまうかと思いますので、瞳コーチと穂乃香コーチには、大変ですが、そこら辺の微調整役をお願いします。


 もうひとつ、お願いですが、欠点を矯正するよりも、まずは、良い所を伸ばしてやり、自信をつけさせてやりたいと思ってます。


 一人一人、必ず良い所はあります。それを見極めるのもコーチの大事な役目。

それと、もうわかって見えるとは思いますが、練習を離れた時は、こんな感じでいきたいです。ただし、一旦、練習に入れば、挨拶・礼儀の徹底から始まり、クラブ員には、コーチが絶対的上の立場という事も意識させます。それは、やがて社会人になった時、役に立つと思うからです。


 私たちもそうでしたね。クラブ活動を通じて、先輩後輩とういう関係性を経験していたからこそ、会社に入っても、スムーズに上司・部下の関係性を受け入れられたと思います。


 更にお願いですが、彼女たちを指導する時、なぜそうしなければならないのかの理由も教えてやってください。


 例えば、ランニングひとつにしても、ただ単に走らされるのと、なぜ走らなければならないのかの理由を納得してから走るとのでは、意気込みが違ってくると思います。


 ただ単にボールを打ち返す。ただ単にボールを追いかける。では、いづれ壁を越えられなくなります」


「監督、一つ質問がありますが」


「何でしょうか」


「最初の挨拶の時、ペアは1か月後くらいに決めると言ってみえましたが、クラブ員の自己紹介の時は、ナナミーとあべちがペアになると発表してみえました。

この点が少し気になってましたが」


「そうでしたね、矛盾がありますね・・・・・

私は、昔、女子中学生クラブのコーチをしたことがあって、その時の話から始めますが・・・・


 私は、チーム内のバランスをとろうとして、後衛の一番手と前衛の2番手、後衛の2番手と前衛の1番手をペアにして、チームの平均化を図りました。


 しかしこれが大失敗でした。チームの絶対的エースペアの存在が曖昧になってしまい、結果、最も大事な中体連地方予選決勝で、第一試合を落とし、次の試合も、相手チームのエースチームを倒す事が出来ず、負けてしまいました。


 やはり、中心となるエースペアは、チームにとって、絶対に必要です。


今、このチームで言えば、明らかにナナミーとあべちは、実力が他の者よりも抜きに出ています。


 私は、一刻も早く、エースペアを決めて、この2人にチームを引っ張って行ってほしいと思た。


 以上が、この二人だけ、ペアである事を発表した理由です」


「わかりました。ありがとうございました」


「他に何かありますか」


「基本練習に徹するという事でしたが、具体手にはどのようにされますか?」


「まず、コーチが付きっ切りの、素振りによるフォーム矯正を行います。この時のポイントは、『ユニットターン』の取得です。


「ユニットターン?」


「私たちが高校でやってた頃には無かった、言葉です。


私たちの頃は、左手で、ボールを掴むような感じで肩を入れて、右手でラケットを引くというような感じでと教えてもらってたかと思いますが、今は、男女とも、ボールスピードがかなり早くなって、より早い構え、よりコンパクトで、捻りを利用した素早いスイングが求められるように変わって来ています。


 それを可能にするのが、ユニットターンなんですが、実際に練習する時に、詳しく説明します。


 前衛も、ルール変更により、ストローク力が必要となっていますから、後衛同様の練習をします。


 あとは、定位置での一本打ちなどですね。動いてから打つのは、だいぶ先になると思います。


 前衛も同様に、定位置でのボレー、スマッシュを徹底します。

状況を見ながら、ステップアップしていってください。


この状況だと、ポジション取りなんかの指導は、合宿からになりますかね。

 ちなみに、ナナミーと、あべちは、コーチと徹底的に打ち合ってください。

あの二人は、フォーム修正は、ほぼ要らないと思っていますから。


 完璧なユニットターンではありませんが、型は出来つつあります。コーチの早いボールを打ち返そうと、本人も、あれこれ工夫するはずですから、あれこれ指導されるよりも、自分の力で理想のフォームを見つけるのが、一番いいし、あの二人ならそれが出来る力を持っていると信じています。


しおりんも、筋はいいと思います。


 やすこは、別メニューで、減量、足腰強化とスイング矯正をします。

 以上、ごちゃごちゃと言いましたが、各クラブ員の担当者決めや、全体の練習方法は、基本、コーチの方にお任せしますから、瞳コーチを中心に、どんどんチャレンジしていってください。クラブ員も底辺からの出発だし、コーチ達や私も、失う物は何も無いですからね。思い切って指導していきましょう」


「はい、お願いします」


「では、いよいよ練習に入りますか」


「はい!」

 







 

 



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