第21話 練習開始は、いつ?

 葉山が、女子コートへ戻って来て、クラブ員の前で、

「誰かが、やすこに、『やすこ。頑張れる理由が増えたね』って言ってたのが聞こえたが。

 やすこに対して、思いやりのある、温かく素晴らしいエールだったね。」


「わたし、わたし、わたしで~す」と、ジュリエット。


「あ~残念、今のがなかったら、良かったのに。前言撤回」


「あれまっ」


「美魔女のみなさん、休憩しま・・・・」


<・・・・もう、休憩しとるし>


 こちら、第一中継所の葉山です。それでは、美魔女のみなさんの雑談の様子をお伝えしま~す。


「はい、はいぁ~い、こちら、オバンゲリオンです。盛り上がってますぅ~」

と、穂乃香コーチ


「穂乃香コーチって、根に持つタイプ?」


「根に持つというか、言われた事は、いつまでも忘れないタイプ」


「怖わ」

・・・・・・・


「いやぁ~もう、素敵すぎるっちゅうか、『ザ・青春』やねー」


「言い方が、昭和ぁ~」


「最初は、なんちゅうひどい奴って思ったけど、何んだか、わかんなくなっちゃった」


「そうよね。みんなの前で、女子に体重を言わせるなんて」


「こうなる事がわかってて、言わせたのかなぁ。監督は」


「まさかぁー。たまたま、いい結果になっただけよ」


「そうだよね」


「そう、そう」


「如月君だっけ。かっこいいね。男らしくって」


「今の子は、ああいう事が平気なんだね。すごい!」


「と言うか、羨ましい。あんな風に、自分の思いを言えたらいいなぁ」


「あんたねぇ~、普段から思いっきし、自分の思いばっか言ってるやん」


「あんたもね」


「うちの主人のプロポーズも、あんなだったなぁ~」


 ・・・・・・・


「確かに、やすこはチームにとって負担ね、今は。でも、そのやすこが、監督の言ったように、秘めたる力を発揮したら。そして、他のみんなも、やすこに負けじと頑張ったら・・・すごいチームになるね」


「なに言ってるのよ、そーいうーチームにするために、私たちが呼ばれたんじゃない。ねっ、瞳コーチ」


「両方ね。クラブ員は、もちろん頑張らななきゃならないけど、私たちも、気合を入れて頑張らないと」


「イエッス、ボス」


「今、思ったんだけど、私たちも、ここに入学した時、カスばっかじゃなかった?それが、先生やコーチのおかげで、どんどんうまくなって」


「『カス』じゃなく、私たちが先生から言われてたのは『お前たちは全員 スカ(はずれ)だ!』て、しょっちゅう、言われてたじゃん」


「んだ」


瞳コーチが、真子コーチに

「お願いがあるんだけど、看護師の知識を生かして、やすこの『ダイエットプログラム』を作ってほしいの。できる限り、リバウンドをしないようなプログラムを。

前に監督が、8月の初めに合宿をする予定とか言ってたから、とりあえず、それまでの期間のを」


「承知しました、ボス」


「その言い方、やめてよね」


「では、あ・ね・ご は?」


「それも禁止!」


一方、クラブ員の方は・・・・


「ああ、もう、焼け鮭でも食べたい気分」


「なにそれ?」


「たぶん『やけ酒でも飲みたい気分』のパロ、未成年者だから『焼け鮭』ね」


「くだらん」


「他に、彼氏のいる人、手を上げてぇー。後でバレると大変な事になるよー」


 ちょっと間をおいて、観念したように、ドレミ と あれなが手を上げた。


「えーーーーーー」


 当然のように悲鳴が上がる。


「ふっ ふっ 二人もぉぉぉ~」


「誰と付き合ってるのよぉー」


「私は、ブレイクダンスやってる、他校の1年先輩と」とドレミ。


「まあ、他校なら許そう」


「で、あれなは?」


「言わなきゃダメ?」


「ダメです!」とほぼ、全員。


「まさか、私たちの近くにいる男子?」


「言わないと絶交、言っても絶交」


「まあ、それは冗談として、誰? 吐かないと、国交断裂よ」


「神聖な、お白洲おしらすの場である。観念せい!」


「そんなに迫ったら、言いにくいやん。ねえ、あれな」


「私にだけなら、言えるよね」


 ・・・・・・


「仙道 馨(せんどう かおる)君・・・です」


 ・・・・・・


「オーマーガー」


「それを言うなら、『Oh my God』」


「仙道くーーーん」レイナが、白状したよー」


とナナミーが大声で、仙道に呼び掛ける。

(もう、何かの犯人扱いである)


 男子コートも、もう練習どころではない。


<職員室で、久しぶりに葉山と会った時に感じた、わずかな暗雲は、これだったか>

小田は、もう諦めた。


<やっぱり、葉山が絡むと、こうなるんだよなぁ~。わかってたけど>


「って、ことは、彼氏がいるのは、3人(ミルキー・ドレミ・あれな)で、予約ありが、1名(やすこ)ってことか」


「早くも、チーム分裂かな」


「ならん、ならん。そんなことで、ならんわー」


「ジョーダンだってば」


「目が笑っとらんし」

 

「一に恋愛、二に食事、三四がなくて、五に勉強」


「テニスは何番?」と、やすこが言った。


「あっ、忘れとった」


「あきまへんがなぁ~」


 これを聞いていた葉山は、とっても嬉しかった。

<やすこが、はじめて、みんなの中に入って、会話に参加してくれた>


 今まで、下を向いて、何も言わなかった、やすこが初めて、みんなの輪の中に入ってくれた。小さな一歩ではあるが、そこには大きな意味を持つ。

 ふと、コーチ陣を見ると、瞳コーチと目が合った。


<良かったですね。葉山監督>

<はい、こんなうれしい事はないです。これからも、二人で頑張っていきましょう>

<こちらこそ、お願いします。頼りにしてますわ。葉山か💛ん💛と💛く>


 二人は、目と目で通じ合う仲、二人に言葉はいらない・・・・・


そう、これは、葉山の妄想、空想、現実逃避であった。


「監督ぅ~、いつまで休憩ですかぁ~」


「瞳コーチ、どうしますか」と葉山。


「そうですねぇ、もうすぐお昼ですし、今から練習を始めても、中途半端になりますから、早めに食事にして、午後から、みっちり練習しますか」


「では、みんなー、整理体操だけして、ちょっと早いが食事に入るぞー」


「生理体操だって、いやらしい」


「もう慣れた。それ」


「じゃあ、次のいじり手、考えなきゃ」


なんだかんだで、いつもの葉山ファミリーに戻ったのである。

めでたし、めでたし・・・ってか。


<ファミリー違げーし。縁起でもない>



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