第18話 クラブ員自己紹介⑤
「さてと、後呂 美織、いってみようか」
「はい、後呂 美織です。中学の授業の時、
『後呂! 前を見ろ!』って、よく先生に怒られてました。
「みんな、小ネタを持ってるなぁ~ 感心、感心」と葉山。
「という事で、勉強は苦手です。テニスも、後呂なのに、バックが苦手です」
「それも、ネタ?」
「先っきのも、今のも、ネタじゃありません。定番の挨拶です」
「そーゆーのを、『ネタ』って言うんだ。
ところで、後呂の愛称だがな、【ロミオ】だ。理由は、もうわかるよね」
「私は、特技って何もないです。家でゴロゴロして和菓子を食べてるのが好きで、お母さんに、『もう、あんたはいつもゴロゴロして。多岐商に行ったら、何かクラブに入りなさいよ。テニスクラブが無いから、卓球とかの運動系クラブへ』って言われてて、どうしようかなぁて思ってたら、テニス部が復活して良かったです」
「そうか、いつもゴロゴロしてんのか」と葉山。
「なんか、嫌な予感」と、ロミオの顔が少し引きつる。
「では、ロミオ の他に、「ゴロ民」(ゴロミン)も加えよう」
「ヤダァー。
「まあ、それはそれとして、他に何かあるか?」
「家は和菓子屋の『織部庵』《おりべあん》です。『柚餅子』《ゆべし》の『織部子』《おりべし》とか、
柚餅子は、くるみや柚などが中に入った半生菓子の事で、石衣は、松露とも呼ばれるあん物の半生菓子です。一口サイズの団子で、小豆のこしあんに水飴を加えて練り、白砂糖のすり蜜をかけて作ります」
「あべし、北斗珍拳秘奥義 『ゆべし』」
「言うと思った」と、真由香コーチ
「比較的、新しいお店だよね?」と、穂乃香コーチが聞く。
「名賀屋市から、こちらに引っ越してきました。名賀屋市内は、和菓子屋も多く、競争が激しいので。」
「そうだったのか。もしよかったら、うちの会社へ一度、主な和菓子を持てきてくれないか。失礼な言い方かもしれないが、おいしかったら、会社と契約して、定期販売とか、お客様来訪時のお菓子として出したいから。従業員も、5,000人以上いるから、商売になるだろ」
「本当ですか?」
「ああ。本気だよ。
皆に言っておくけど、ここに集まったのも、何かの縁です。私は、この『ご縁』というものを大切にしたい。今は個人情報がどうのこうのという事で、名簿も簡単に出来ないような世の中になりましたが、私は、困った時などに、お互いに助け合える事を目的とした、しっかりとした名簿を作りたいと思っています。名簿といっても、紙ベースではなく、WEB上での名簿となりますが。例えば今の話で、ロミオの所には、和菓子屋の『織部庵』の住所や電話番号、お勧めのお菓子名・写真などを専用サイトに載せたい。お店へのリンクを貼るのもいいかも。喫茶『しらかば』もそうだし、『英語を教えてほしいなら、元国際線スチュワーデスの真由香コーチへ』なんていうのもいい。もちろん本人や、ご家族の了解を得た上での事だが。それが、何年も続けば、大きなネットワークが出来上がる。みんなが会社に入った時、例えば、何か売ってこなければならなくなったとして、そのネットワークが活用できるようになれば、うれしい。・・・お互い助け合って行こう。
一人で出来る事は、限られている。でもみんなの力を借りれば、もっと大きな事が出来る。ネットを利用すれば、どこでもデータが見れるし、何か変更事項が発生すれば修正も簡単。了解が得られれば、結婚しましたとか、子供が出来ましたとか、そういう情報も載せたい。もちろん部外者閲覧を阻止するために、強固なパスワードは設定するが。・・・パソコンやスマホって使い方次第で本当に役に立つ。
これも例えだが、郵便局に就職したとして、メンバーに「年賀状注文受付中!連絡待ってまーす」て全員にメール連絡する事も、簡単に出来てしまう。コーチ陣は、もう社会人だから、今まで、それなりに苦労もしてきただろうから、そこら辺の苦労などもよくわかるかと思うが。この事は、保護者会の場でも説明する。強引には作らないから安心して」
と、突然、葉山がグラつく。
「どうしたんですか?監督」と、人愛コーチが、心配そうに言う。
「あまりにも、長くまじめに話したもんで、軽い貧血がおきた。
ひょっとして、今、心配してくれたのか?人愛コーチ」
「はい、とっても心配しました。社長が倒れたら、私の退職金が出なくなるんじゃないかと」
「それを言うなら、せめて『お給料が出なくなる』ぐらいにしておけ」
「また、無駄な時間を過ごしてしまった。次は、江藤 樹里だな。
ここで、みんなに、クイズです。正解者には、織部庵の『しおり』を差し上げます」
「『しおり』はそこにいます。織部庵の『葉織』です」と、ロミオが冷たく言い放つ。
「さて、江藤 樹里の、愛称は何んでしょうか?」
・・・・・・・
「はい、えとうじゅ」
「何、それ」
「きり。樹を、き、里を、り、と読んで」
「シンプルに、じゅりは?」
「無い、ない、監督がそんな単純な名前つける訳ないやん」
「さよかぁー」
「あーーーー私、わかっちゃった。」と美弥コーチが、手を上げた。
「はい、美弥コーチ」
「後呂 美織が、『ロミオ』だったでしょ。とくれば、江藤 樹里は【ジュリエット】
(じゅり えとう)でしょう」と自信満々に言う。
「う~、正解!」
「あったぁー、『葉織』GETだぜ!」
「ロミオとジュリエットか、おもしろいね。これも『ご縁』かな」と真子コーチ。
「おぉっ、ジュリエット、どうしてあなたは、ジュリエットなの、どうして。
それは、えとう じゅり だから」と、また、葉山。
「あれっ?何かおかしくない?」
「『おおっ ロミオ! あなたはどうしてロミオなの』が正解。
勝手に名作を変えると、シェークスピアさんが怒ってきますよ、監督」
と、あべち が答えた。
「そんじゃぁ、ジュリ江藤、どうぞ」
「もう、多分そうなるんじゃないかと思ってた。
まさか、ロミオとペアを組ませるつもりじゃ」
「私では、不服?」とちょっとだけ、ムッとして、ロミオが言う。
「御免、ごめん、説明が足りなかった。ロミオと、ジュリエットがペアになって、試合に出たら、絶対にいじられるやん。
『頑張れ!ロミオー』『走れ!ジュリエット』なんて声援が飛んだら、絶対に笑われるし」
「確かに」とロミオ
「あっ、それ、私のセリフぅ」大木ルミが、少しムッとして言う。
「御免、ごめん、気配りが足りなかった」とロミオ。
・・・本当に、『ご縁』とは、不思議なものである。
(更に不思議な『ご縁』は続く事になる)
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