第15話 クラブ員自己紹介②
「次の者から、成績発表はしなくていいから。こう言ってはなんだが、まあ大した成績は無いだろうからな」
「えー失礼な。それって偏見じゃないですか? 差別・区別の世界やん」と加藤 玲子が喰い付いてきた。
「じゃぁ聞くが、何か自慢出来る成績がある者、今、まとめて聞くから、手を挙げて」と葉山。
「・・・・・・・」
ナナミーが、「玲子、何かないの?」と聞く。
「えーと、えーと。 中学3年の時、青年の主張コンクール県大会で、優勝して、全国コンクールまで行きました」
「おぉー、すごい」と歓声が上がる。
「でしょ。えへっ」と玲子。
「テニスの成績では無かったが、なんにしろ、全国まで行って、おしゃべり しまくってくるという事は、大したもんだ。」
「なんか、悪意のある言い方」と真子コーチ。
「いや、本当に大したもんだ。そのくそ度胸を、今後のテニスに生かしてくれ。
他に発表者がいなければ、加藤 しおりの紹介に入る。
愛称は、【しおりん】だ。『かとう しおり』だからね。ちなみに、ひらがな。
では、しおりん どうぞ」
「只今、ご紹介に預かりました、かとう しおり こと しおりん です。
よろしくお願い申し上げます。
わたくしごとではございますが、せんえつながら、ごあいさつを申し上げます。」
「しおり、今日も、なんか変だよ。極度の緊張。それとも、何か悪いものでも食べた?」
と須藤 あかり子が聞く。
「今日も、の『も』ってどういう意味よ、あかりィ
昨日、お父さんが家で、何かのスピーチの練習を、ず~としててさぁ。あっち行ってやってよって言ったのに、わざと私の近くに来て、練習するもんだから、耳に残っちゃって。」
<しおり と あかり子は仲が良いらしい。それと父親とも>
なにげない会話の中にも、読み取れる情報は一杯ある。その辺の能力は、社長である葉山は、ずば抜けて高かった。
<しおりんの、父親は、しおりんを、お客様に見立てて、練習がしたかったのだな。
それと、しおりんは、普段から『変』だったのか>
(読み取る能力には長けていたが、その読み取った事が、正しいか、ポンコツ解釈か、必要な情報か、全く無用な情報かは、別物であった)
「後衛をやってます。ソフトテニスは、お父さんに教えてもらってたんだけど、お父さんのやってたテニスは、ソフトテニスじゃなかったんだよね。本当は、硬式テニスをさせたかったみたいだけど、家の近くの、ジュニアテニスクラブが、ソフトテニスしかなくて、それで始めました。
だから、ちょっと変な打ち方って、周りのみんなから言われてます。
自分じゃ、ちゃんと打ち返してるから、変だとは思ってないけど。バックは少し苦手です。だから、コーチに、バックハンドを教えて欲しいと思ってます。
あかり子とは、ジュニア時代から一緒で、あかり子も、私のお父さんの犠牲者。
ジュニアの時は、私よりもチビだったのに、あんなになちゃった。
(須藤 あかり子は、身長182m いや、182cm。それでもチーム内、第3位。ヒエェ~)
「あのぉ~、意味がわかんないけど」と大木 ルミが言う。
「それはだな、昔話しの、『一寸須藤』だな。大昔は、『打出の小づち』を振ったが、現代では、『金槌』を振り回すと、あんなに大きくなれるんだ」と、葉山が感心した様に言う。
それに続いて、「それなら、私も振りまわそっと」と、加藤 しおりが、真顔で言う。
「しおりん。どうせ振り回すなら、テニスラケットにしてね」と、穂乃香コーチが、微笑みながら、優しく言った。
<さすが、穂乃香コーチ。的確な指示だ>と葉山
(このチーム、大丈夫か?)
「では、諸君、いろんなもんを振り回しながら、頑張って行こう!
次はっと、須藤 あかり子だな。最初は、『ジャイ子』にしようと思ったが、『すどう あかりこ』だから、【すーあん】で、試合中は【すーあんこ】と呼ぶ事もある。
ちなみに『四暗刻』《すーあんこ》って知ってるか?」
<『ジャイ子』と言った途端、叶 安子の表情が一瞬曇って、下を向いたのを、葉山は見逃さなかった>
すると、真子コーチが、
「『四暗刻』とは、麻雀用語で、手のなかで暗刻を4つ作ると成立する役で、役満です。とても点数が高く、なかなか出来ないんだよ。何の事かわからないと思うけれど、要は、素晴らしい選手であると言う事を、葉山監督は、言いたかったのだと思います」
「その通り、さすが真子コーチ」と葉山。
<絶対違うし。なんか、あかり子をいじろうとして、考え付いた物としか思えんし>
と、瞳コーチ。
(御名答!、試合中すーあんが、ポカした時にいじる為に考え付いた物であった)
「麻雀仲間も見つかった事だし。めでたし、めでたし。話はそれてしまったが、自己紹介の続きを頼む」
<それっ放しやん>と空を見上げて思う、天音コーチ。
(^^♪ それは誰のせい? ♬ ああ、葉山のせいぃ~♪)
「こんなになってしまった、すーあんです。って、監督ぅ~、もうちょっといい名前なかったですか? 今一なんだけど」
「『ジャイ子』とか『ジャイアン』の方が良かったか?」
「もう!『すーあん』でいいです。
しおりんのお父さんには、感謝しています。よくファミレスで、おごってもらったし。
<感謝のポイントは、そこかい!>
「背が高いから、スマッシュは得意って思われがちですけど、パコーンて打つと、たいがい、ネットかオーバーで、しょっちゅう、チームメイトが、試合中にコケてました。なんか、打ち方も、ポジションも、動き方も、全部わかんないです。
テニスよりも、バスケとかバレーの方が向いてるのかなって思った事もあったけど、お父さんが『テニスをとことんやった上で、そう考えるのなら、いろいろやってみるのもいいけど、もう限界と思えるほどにテニスやってないだろ?』て言われた事が前にあって。クラブが復活したので、もう3年間頑張ってみようと思いました。テニス大好きだし。
本当に下手で、コーチや、みんなに迷惑かけると思いますが、頑張るので、いろいろ教えてください」
「人の前で『自分は下手だ』て言うのは、
すると・・・
「私も下手です」
「私も~」
「わたしなんか、どへたですぅ~」
「はいはい、わかりました。ありこの様に、素直な子ばっかりで、コーチ陣もよかったね。やりやすくて」
「あのぉ~監督ぅ。私は、『すーあん』ですか『すーちん』ですか、それとも『ありこ』ですか?」
「おっ、おう。須藤の場合は、出世魚と同じで、上手になっていくにつれて呼び方が変わっていくんだ。
『あかり子』→『すーあん』→『すーちん』→『ありこ』→『四暗刻』
とステップアップしていく、特別な存在だ。」
「素直に『間違えました』って認めればいいのに。成長の見込み無しね」
と瞳コーチ
「監督ぅ~、『でようお』って何ですか?」と綾小路 レイナが訪ねた。
「『でようお』ではなく、『しゅっせうお』だな。
例えば、魚のブリは・・・
モジャコ→ワカナ→ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ
マグロは・・・
カキノタネ→メジ→チュウボウ→ダルマ→マグロ
などと、成長するにつれ、呼び方が変わっていく。まあ、地方によって、呼び方に違いはあるがな」
「『柿の種』が、マグロに出世するのか。大出世ですな」
と、美弥コーチ。
「『突っ込み禁止令』作ろうか?」と、穂乃香コーチ
そんな会話を無視して、またもや、葉山が口を開く。
(誰か、ガムテープ持っとらん?超強力なやつ)
「ところで、すーあん、どこのファミレスに連れてってもらってた?
そこまで大きくなれたのは、そのファミレスのおかげかも」
「県道沿いにある、『婆ーミヤン』です」
「あそこかぁ~、老夫婦がやってみえる所だな。あそこ、おいしいんだよなぁ~
いくらでも食べられちゃう。
ちなみに、道路の反対側にある、『爺フル』もおいしいぞ」
誰も『早く挨拶済まして、練習しようよ』て言わなくなってきた。
どんどん、葉山のペースにはまっていく多岐商の面々。
『慣れ』とは、本当に恐ろしい!
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