第10話 コーチ陣自己紹介③

「じゃあ、ちょっと休憩しようか。自己紹介中に休憩を挟むのもどうかとは思うが、

10分休憩」

「ありがとうございました」


クラブ員が集まって、何やらコソコソ言っている。

コーチ陣も別の所へ集まって、ワイワイ騒いでいる。


「なんか、めっちゃ綺麗な人ばっかりやん。そんでもってさ、病院長夫人とか、めっちゃ、お金持ちやん」

「あー私もあんな風になりたい」

「話すと面白いし」

「飛行機って、いくらぐらいするのかなぁ~」

「あんたねぇー飛行機はいらんでしょ。 置く場所無いし」

「彼氏と一緒に、二人っきりで世界の果てまで飛んでいきたい!」

「飛んでけ、飛んでけ、どこまでも飛んでけー。 そして帰ってくるなよ」

「ひど~い!」

「ところでさぁ~、あんた、彼氏いたっけ?」

「いたらの は・な・し」

「ねえねえ、コーチ達って、お事会、無料って葉山監督が言ってたよね」

「いいなぁ~、私たちも連れてってくれないかな」

「そりゃぁ かわいい生徒が頼めば、連れていなかい訳にはいかんでしょ」

「あっ いい方法思いついた。さっき天音コーチだったっけ、『葉山様』って言って頼み事してたよね」

「してた。してた」

「ねえ、葉山様ぁん、かわいい女子高生達がお腹をすかして、倒れそうなんですぅ~。猛練習に耐えたご褒美に、雅 へ連れてってくれませんか。JKに囲まれて、お食事が出来るなんて最高ですよ。とか何とか言って」

「それ、いいかも」

「さすが、5人兄弟の末っ子、世渡りが、 お・じょ・う・ず」



 一方、コーチ陣はと言えば・・・・・


「めちゃめちゃ、でかい子ばかり。テニスがだめだったら、バスケット部に売ろうか」

「人身売買禁止」

「別にお金は、もらわないわよー」

「そーいうー話じゃなくて」

「それはそうと、なんか、在学時代よりも随分綺麗になってない?」

「もともと、素材がいいからね」

「ねぇねぇ、ご主人とはどこで知り合ったの?」

「無視しないでよぉ~」

「主人もソフトテニスやっててさ、私に一目惚れ」

「どっちが、どうだか」

「なによぉー」

「私は、ローマのサンタ・マリア・イン・コスメディン教会広場の『真実の口』の前で、『こんな僕で良かったら、結婚してください』って言われて・・・」


<こいつは、真由香コーチだな> 

葉山は、みんなより、少し離れた所にいたが、何を話しているのか注意深く、聞き耳をたてていたのである。耳は良かった。

(バキッ、ボコッ、ベコッ)・・・耳も良かった。


「それって、もしかして、『ローマのお休み』?」

「まぁ、そうとも言うけど」

「言わない、言わない、『ローマの祝日』が正解!オードリーのやつね」

「オードリーって、日本の芸能じん・・」

「それ以上言わないで! 頭がおかしくなる」


<あれっ、今日会ったばかりにしては、みんな、やけに馴れ馴れしいなぁ>と葉山。


 そう、彼女たちは、ほとんどが、顔見知りであった。多岐商OGは、卒業後も、よく学校に顔を出していて、テニス指導をするのが、良い慣例となっていた。全盛期の頃は、その伝統が継承されていて、そこで年齢が離れた先輩とでも、顔見知りとなっていたのである。

 更に、卒業後も、大学・実業団・社会人クラブや、地方クラブなど、何かしらの形で、テニスに関わっており、世代を超えた懇親を深め合っている者達もいた。

(ただ、最近のお互いの状況は知らなかったり、昔聞いた事は、痴呆も進み<バキ!ボコ!ベコ!>【訂正】昔聞いた事は、忘れていたりもしている事はあった。) 



 <さすが瞳コーチ。そこら辺の事も把握した上での、コーチ人選をしていてくれたか。 瞳コーチに一任した俺も立派!>


 例のごとく、自己満足に浸る葉山であった。

(こー言うー性格、得なんだよね。悩み事が少なくて。)

<悩みならあるわー! 人を何んやと思っとるねん>

(何んとも、思うっとらんけど)


「ねえ、ねえ、最近どっか行った?」

「コロナのおかげで、どっこも行けてない」

「どっか旅行したいよね」

「多岐商テニスクラブの、立上り式っちゅう事で、温泉でも行く?」

「いいね、いいね・・・ねえぇ~監督」

「聞いてますよね~ か・ん・と・く」


「区切って言うな、区切って。何も聞こえましぇーんですがな」

「聞こえとるがね」


 大企業の社長である事を知っている 瞳コーチが・・・

「早期に、コーチ陣の結束を固めるため。そして、監督さんとコーチ陣の絆を深めるためにも良い案だと思いますよ。 ね、 か💛ん💛と💛く さん」


「行くー。よし、コーチ陣で旅行計画を立ててくれ。

バスは、会社のスペシャル・デラックス・バスを借りるから心配せんでよろし」


「ところで、旅費の方は?」

「そりゃー社ちょ・・クラブ経費から出るでしょ」と陣内コーチが言う。

「出んわ、クラブ経費から、出せる訳あるかぁー」

「じゃあ、会社の交際費からは?」と陣内コーチ

「何よ、援助交際費って」

「援助はまずいでしょ。援助は」

「あのなぁ、何の話だ。それ?」と、ごまかそうとする葉山

「まあ、なんとかなるわよ。ねっ か💛ん💛と💛く」と瞳コーチ

「うん」

 <あーもう、やだ!>


「監督」

「なんだ!」

「コーチだけずるい、私たちも旅行行く。」と南条ななみ

「何で?」

「チームの結束を固めるためと、監督の事をもっと知りたいし、もっと仲良くなりたいし」

「知らなくてもいいし、仲良くならんでもよろし」

「なんでよー」

「おまえらの魂胆など、見え見えだわ!」

「コーチは良くて、私たちはダメだなんて、ひどい。ひどすぎる」


「さぁ、10分たったし、自己紹介再開するぞ」


「あー、話をそらした。ずるい」

「だまらっしゃい!」


 また、余談ではあるが・・・

地球上での10分は、『アバターも笑窪』の世界では、1年に相当する。

なんのこっちゃ。

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