第7話 全員集合

・・・2023年4月22日(土) 7:50・・・


 葉山がコートへ行くと既に生徒は、全員集まっていた。

「おはよう」

「おはようございます」

「4日間、ちゃんと走っていたようだな。感心、感心」


 すると、ななみが、

「すれ違う先生全部が、監視員に見えてきて、さぼれませんでした」


「ハッハッハー、小田先生からも、しっかり走ってたよって報告を受けている。

よく頑張った。」


「で、今日から、いよいよクラブ活動が本格的に始まる。

コーチ陣は、家庭の事情などで、バラバラにやってくるが、10:00までには、全員来る予定になっている。

 全員集合したら、コーチの紹介、そして君たちの自己紹介をし、その後は、コーチ達に、君たちのプレーを見てもらう予定だ。

 コーチが揃うまでに、2時間ぐらいあるから、まずは準備体操をし、その後は乱打を行う。そして、サーブ・レシーブ練習へと入っていく。以上だ」


「よろしく、お願いします」


(本当は、今日もランニングをみっちりと行い、下半身強化に取り組みたい所だが、体力なさそうな者ばかりだし、今の段階で彼女達が出来るベストなテニスをしっかりと、コーチ達に見てもらうためにも、みんなが揃うまでは、軽めのメニューでいこうと決めていた)


<長谷先輩と、ジンジンは、知っているけれど、そのほかのコーチには、初めて会うからな。ワクワク、ドキドキ>

そんな事を思いながら、(うわの空で)部員の練習を見ていると、長谷コーチがやって来た。


「おはようございます」と部員から大きな挨拶が飛ぶ。


「おはようございます」と返す長谷コーチ。

・・・・・・

「どうかされましたか?」と葉山が聞く。

「みんな、大きいですね。というか大きすぎるんじゃないかと」

「でしょ。 何食ったら、あんなになるんだか。もう、アニメの『新劇の巨人』状態です」


そうこうしているうちに、次々とコーチが集まって来た。

(長谷コーチと、陣内コーチことジンジンには、〇〇〇〇〇の社長である事は、まだ言わないようにお願いしてあった)


「陣内と申します。よろしくお願いします」と言ってジンジンが、コートへやってきた。


「かわいいー」とコートから声が上がる


それが聞こえたジンジンは、小さな声で、葉山監督に

「いい子たちですね。 ウフッ」と。


<何が、『いい子たちですね ウフッ』 じゃ!お前の真の姿を知ったら、みんな引くわ!>

・・・・・


「よーし、集まったな。」

「全員集合! まずは、コーチ陣、こちらに 」

「奥から、年齢順に並んでください」


その時、背中に刺さる無数の殺気 いや 殺意を感じた。

(しまった。やってもうた)


「間違えました。美しい順に奥から並んでください」

「はーい」と長谷コーチ

(誰も文句は言えない。最年長だし、実際に超絶美人であったから)


「次は私ね」

「なんでよ、私じゃない?」

「先輩を差し置いて、それはないよねぇ~」

「卒業しちゃえば、関係なしですぅ~」

「まあ、ここは引き分けということで、私が前へ」

「あら、まあ。こういう時は、鏡に聞いてみれば?」

「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で2番目に美しいのは、だ・あ・れ?」

「私」

「私、私ぃー」

「私だってば」

 

こんな会話が、繰り返されたのち、やっとコーチ全員が、一直線に並んだ。

(なんだかんだで、結局、年齢順に並ぶ結果となった)


「いいか、これが多岐商女子テニスクラブのお家芸である 下剋上げこくじょうだ!その他にも、数々のお家芸・伝統芸がある。楽しみにしておいてくれ」


「では次にクラブ員だ。キャプテン、副キャプテン、その他大勢の順に整列」


「はい」元気な声が飛ぶ。


こうして、コーチ陣と、クラブ員が一直線に向かい合わせで並んだ。

その列の先頭、中央に、葉山が立った。


<でかい! なに?この子たち。バレー部?バスケット部?>

コーチ陣皆が思う事は、ほぼ同じであった。


<わぁー綺麗! なに?このコーチの人たち。モデルクラブの人みたい>

部員が思う事は、この一点のみであった。


<なんじゃこの人 危なそー、近づかんとこ>

葉山に対して、免疫が出来つつある、長谷コーチと、陣内コーチ以外のコーチが思った事はこれのみ。

(今日もまた、もじゃもじゃ頭と、アニメTシャツで来てたから、当然と言えば当然の結果ではあるが・・・・・)


「いいか、これがうわさの、多岐商女子テニス部の黄金期を支えてくださった先輩方だ。自己紹介の時、主な成績も発表してもらうが、全員、素晴らしい技術をもったコーチばかりだ。練習が苦しくても、頑張ってついていけば、君たちは確実に強くなる。それは俺が約束する。」


「では、次に各、魔女の皆様、自己紹介をお願いします」


「葉山監督、それを言うなら、魔女ではなく、美・魔・女」と長谷コーチ

顔は笑っているが、そこには、得体のしれない凄みがあった。

それは、クラブ員全員も感じており、もうこの段階で、コーチ陣とクラブ員との、確固たる主従関係が確立したのである。


「しっ しっ 失礼しました。モデルの皆様、ご挨拶を順にお願いします」


 <大丈夫か?この監督>

コーチ陣の頭の中が、名画『ムンクの叫び声』状態となる。


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