第5話 コーチ陣

 愛称は、大体、苗字と名前から、テキトー(適当かい!)に決めた。

その発表は、クラブ員とコーチ陣が全員揃い、自己紹介をする時にする事としよう。


 さて、次はコーチ陣を決めなくては。という事で、4月17日(月)の夕方に、長谷先輩・宮下先生と、葉山が、白樺にて、打合せを行った。

 宮下先生は、コーチの人選には、ほとんど関係はないが、葉山は、決して女性と、

二人きりにならないよう、日頃から気を配っていた。それは会社でも同じで、職権を利用して女性社員と二人っきりで・・・・なんて事は、1度もない!(信じてね)

 いつ週刊誌の記者に、写真を撮られるかもわからないし・・・(それは、無いと思うけど)

 ではなく、あらぬ誤解で、大切な物を失いたくは、なかったからだ。

『火の無い所に煙は立たず』だ。

一旦火が付くと、誤った情報でも、たちまち広まってしまう。

特に、SNSが発達した現代では、あっと言う間に情報が拡散してしまう。そんな訳で、宮下先生も同席となった。


「長谷先輩、コーチの適任者いましたか?」

「はい。まず、私の同期ですが、残念ながら、全員、この近くに住んでいないんです。一人ぐらいは居てくれると心強かったんですが。それと私の先輩たちですが、数名当たってみたんですが、年齢的な事や、家庭の事情、もう動けないからとかで、これまた全員、断られてしまいました」


「それは、残念でした」


 言葉とは裏腹に、内心は良かったと思った。長谷先輩と同期もしくは、それより年齢が上の人だと、何かともめるんではないかと思っていた。特に女性は、いろいろあるからね。理想は、長谷先輩の後輩で、コーチ陣を固めてほしいと思っていたのである。

 絶対にその方が上手くいく。長谷先輩の実績は、みんなが知っているし、尊敬もされている。

 私たちが学生の頃は、特に、先輩・後輩の上下関係が厳しかった。だから先輩の言う事は絶対というような面があり、それは、大人になっても根付いている。

 よって、長谷先輩の、先輩もしくは同学年の候補がいなくて、内心ホッとしたのであった。


「それで、結局、コーチ候補は?」


「既に7名の後輩から、承諾をもらっています」


「7名も。すごいですね」


「まず、一人目ですが、 陣内 人愛(じんない とあ)さん。24歳だったかな? インカレ・チャンピオンです。」

「えぇーーーージンジン」

「ジンジン?  人愛さんをご存じでしたか?」

「ご存じも何も。うちの社員です。とんでもないヤンキー社員。インカレ・チャンピオンではなく、イカレ・チャンピオンです」

「そうなんですか。」と驚きつつも、

「ヤンキーには、見えないけどなぁ~」


「悪夢じゃぁ~」


「何が、悪夢ですか。こんな天使に向かって」


いつの間にか、ジンジンが後ろに立っていた。


「わっ、出た。なんでお前が」

「憧れの、瞳先輩に呼ばれたから、来たんですぅ。ちなみに家は、すぐそば」

(長谷コーチが、近所だし、これから一緒にやっていくんだから、よかったら来てねって頼んでいた)

 

 ジンジンは、ちょくちょく喫茶店に来ていた。そこで、長谷先輩とお客さんが、ソフトテニスの話をしているのを聞いていて、ある時、

「ソフトテニスをされていたんですか?」と声を掛けたのが、二人が仲良くなったきっかけであった。


葉山社長とは・・・

 ある日、葉山は、環境整備点検のため、社内を隈なく歩き回っていた。(ロイヤルファミリーは従えずに一人で)暗がりの書庫の廊下を曲がろうとしたところへ、山積みにした書類を抱え、陣内もやって来て、二人がゴッツンコし、陣内が倒れ込んだ。

「あいたたたぁ~。 ちょっと、おじさん。どこ見てんのよ!変態!」

 たまたま、陣内のスカートがめくれ上がり、それを見下ろすように、しばらくの間、葉山が立ち尽くしていたのである。

「ちゃんと、前向いて歩いてよね。おじさん。

あー労災、労災。どうせぶつかるなら、野田さんが良かったのに」


(野田と陣内は、同じ課であった。)・・・野田君も大変だなぁ


 それが二人の出会いであった。ちなみに採用試験時の面接は、葉山の個人的な都合で総務部長が、この時は行っており、直接会ったのは、初めてではあったが。

  ん? でも待てよ。会社のパンフレットには、俺の顔写真が出ているし、社内のビデオ放送で、何回も出演しているし・・・こやつ社長の顔も知らんのか?


 ぶつかった時、葉山は、スーツではなく、作業着を着ていたのである。だからかも。

 アルバイト・パートさんも含めた、全社員を大切にしたいという思いから、自ら、会社周りの草取りやら、便所掃除などもして、出来るだけ、会社を影の部分で支えてくれている人たちの気持ち・苦労も、理解できればとの思いから、時々ではあるが、環境整備点検と称して、社内・外を回っていた。


それから、数日後、葉山は、第一営業部(野田・陣内のいる部署)に所用で、出向いた。(この時も、作業着を着ていた)


「あっ、すけべジジィー」陣内が大声で叫ぶ。


<はっはっは、おじさん から、じじぃ に昇格したぞぃ>


 もう事務室内、天地がひっくり返りそうなぐらいの大騒ぎになった。

「陣内君!、君ねぇー」と、真っ赤な顔をして、新間課長が、飛んでくる。

(しんま課長を、新聞課長と呼ぶと、すごく怒られる)


「よいよい。元気があって、大変良い」

(後でわかった事だが、日頃から、猪突猛進型の子で、課のほうでも、入社当初は、随分、手を焼いていたのだが、その元気さ、自由奔放な言動が、いつの間にか、営業職場の上司・仲間に元気を与える存在となっていた。

 日々、数字に追われる営業。時にはひどく気持ちが落ち込む事がある。

そんな時、陣内と話をすると、不思議と元気が湧いてくる。次は頑張ろうという気持ちになってしまうのだ)

 ちなみに、話の内容は、仕事に全く関係のない、くだらないものばかりではあるが。

  

「社長、すみません。厳しく指導しておきますので。本当に申し訳ありませんでした」

「えぇ 社長さん、ぇえー 社長様ー」と陣内。

「そうそう、こう見えても社長さん。・・・この前は、覗いたりして悪かったね」

「あーーー、やっぱり見てたんだ」


 (他の社員には、何の事やら?)


「社長に対して、何だ、その溜口は!」と、新聞 いや、新間課長。

「いいよ、いいよ、友達だから」と葉山。

「おじさんの友達かぁ。まぁいいか、何んでも。 お小遣いもらおっと」


もう課長は、失神寸前である。

 

それ以降、あれやこれやと不思議に縁があって、先輩後輩、社長と部下という垣根を越えて? 忖度無しの関係が続いていたのである。


<これも、運命か> 葉山は、陣内の入閣?を了承した。


最終的にコーチ陣は


長谷 瞳   (はせ ひとみ)   チーフコーチ   主婦(夫・喫茶店経営)

日野 真由香 (ひの まゆか)   サブコーチ    専業主婦

桜井 天音  (さくらい あまね)スマッシュ・前衛 主婦・(夫・食事処経営)

北川 美弥  (きたがわ みや)  ロブ・後衛    30歳 専業主婦

藤井 穂乃香 (ふじい ほのか) サーブ・レシーブ  主婦(夫・病院経営)

二宮 真子  (にのみや まこ)  1年生総合     35歳 看護師

相澤 澪   (あいざわ みお)  前衛技術総合    24歳 OL

陣内 人愛  (じんない とあ)  後衛技術総合    24歳 OL

(順不動・・・本当は年齢順)


となったのである。


メインコーチという言い方は、長いし、なんだか言いにくいという事で、『監督』 と呼ぶ事となった。

 

 上記、コーチ 8名加えて


宮下 茜   (みやした あかね) 顧問  音楽の先生 テニス歴1年

葉山 俊博  (はやま としひろ) 監督

小田 雄二  (おだ ゆうじ)   男子顧問 女子の臨時指導 (英語の先生)

野田 鈴也  (のだ すずや) (愛称)ダーリン 男子コーチ 女子の臨時指導


の、計12名による指導体制が出来上がった。

(ここまでは、実に、スムーズ)









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