第4話 目指すもの
とにかくデカい!今時の女子高校生は、こんなにもデカいのか。
そしてみんな細い!(1名を除いては)
良い言い方をすれば、スリム 悪い言い方をすれば、ひょろひょろもやし。
葉山は187cmあった。決して小さくはない。
しかし、ざっと見ても180cmを超える者が、3名はいる。
女子で、180cmだよ。180。 信じられる?
他の者も、165から175cmはありそう。
180cm以上あったら、バレーボール部か、バスケット部からのオファーが絶対にあるはず。
そもそも、そでだけの上背があれば、他校も、特待生や推薦入学の対象として、ほっとかないであろう。
それが、なぜここにいるのか。しかも3名も。その時は不思議に思った。
「みなさん、こんにちは。メインコーチの、葉山 俊博です。
あなたのヒーロー、トシヒーローと覚えてください」
と言って、右手を上にあげ、人差し指を天に向けた。
ドヒャー と大うけした。狙い通り、一発で、JKのハートをつかんだのである。
・・・そうなるはずだっだ。
ん? なんだ。この静けさは ???
「おもしろ過ぎて、笑えなかったようだが、そんなの関係ねい。そんなの関係ねい。
オッパッピィー」
(これなら、どうだ)
・・・・・
シーーーーーン
(生徒の顔に、不安げな表情が浮かぶ)
・・・・・「宮下先生、もう帰る」
「そうですね、そう言われるなら、止めませんね」
「そんなぁ~、こう言う場合、普通は、顧問の先生が、何んとかフォローしてくれるんですよぅ」
「フォローのしようがないかと」
この二人の真顔でのやり取りを聞いて、生徒たちには大うけ。
<変だけど、面白いかも>
ちょっぴりだけど、受け入れられた。(かな?)
これが、始まりであった。
クラブ員が12名集まった事は、非常に嬉しかった。できれば全員試合に出してやりたい。テニス協会の方針で、教育上の観点から、出来るだけ多くの選手を試合に出してやれるよう、Aチーム・Bチーム、場合によっては、Cチームまでの、レベルに応じた試合が、数多く組まれるようなシステムになっていた。マンモス部員を抱える学校は別として、大体、3年生は試合に出してやれる。そんな高校テニス界になっていた。
自分は、高校時代、目立った選手ではなかった。下手ではなかったけれど、勝つことに対する欲が足りなかった。どちらかと言えば、楽しくテニスが出来れば良い と考えていて、試合に出られなくても、さほど悔しくは思わなかった。
大学に進み、少し大人に近づいたのか、試合に出られない事を、『悔しい!』と感じるようになり、そこからどんどん変わっていったのである。
12名なら、ちょうど2チーム出来、補欠選手無しで済む。この考え方は、勝負の世界において、考えが甘いと指摘を受けるかもしれないが。
「まずは、そっちから、名前と、前衛か後衛か、テニス歴何年かを言ってくれ」
と言って、右端の生徒を手で指した。
順に、簡単に自己紹介をしていく。
葉山は、人の顔を覚えるのが早かった。会社で5千名の頂点に立つ身として、自然に身に付いた能力でもあった。
「俺の細かい自己紹介は、後日にする事として、まず俺が、君たちと共に、目指す事を伝える」
真面目に話すと、さすが会社の社長である。それなりに威厳がある。生徒達も幾分か、ピリッとしたように見えた。
「過去、この学校は、県内トップで、11連覇も果たしている。団体・個人とも全国準優勝している。この事は、皆も知っていると思うが。私はその時の、ここの男子部員だった。
一旦は、クラブが消滅してしまったが、この学校には、大きな財産が残っている。
それは、多くの優秀な先輩だ。日本代表もいる。インカレ、天皇杯、国体・国際大会で活躍していた者も、数多くいる。
俺は、一人ではやらない。ここに見える宮下先生や、君たちの先輩の力を借りて、クラブの復活を果たし、最終目標は、インターハイ優勝を果たしたい!
これが、俺が君たちと共に叶えたい目標だ。
コーチは、まだチーフコーチしか決まっていないが、最終的には10名以上の体制で君達の指導を行っていく。
そこで、君たちに、お願いだが・・・・・
まず、テニスを楽しんでほしい。楽しむというのは、おしゃべりをしながら、ワイワイやるという事ではない。テニスに限らず、スポーツの本当の楽しさは、【試合に勝つ】という事に他ならない。努力をし続け、苦しみを乗り越え、勝利した時にしか味わえない感動を、君達全員に味わってほしい。
私は、高校生の時、その気持ちがわからなかった。負けたいとは当然思わないが、絶対に勝ちたいという強い気持ちも無かった。大学に入って、勝ちたい と強く願うようになり、努力を重ねた結果、全日本の代表選手にまでなれた。
そんなの無理と思ってしまえば、そこで終わり。みんなソフトテニスが好きで、ここに集まってくれたのだと思う。君たちは1年生だ。まだ十分強くなれる。
勝つことに拘りを持たなければ、テニスの本当の面白さは、わからない。俺は、そう思う。
だから、俺を信じて、ついてきてほしい」
「 2つ目は、ここに集まってくれたのは、12名だ。ちょうど2チーム出来る。これがどういう事かわかるか。Aチーム戦またはBチーム戦のどちらかは、必ず試合に出られるという事になる。しかし、裏を返せば、一人でも欠ければ、それが叶わなくなる。ペアの子にも迷惑を掛ける。練習が嫌になったら、一人で抱え込まないで、誰かに相談して欲しい。私たちは、全力でバックアップするから。それは約束する。
そして、君達には『自分だけじゃないんだ』という気持ちを常に持っていて欲しい。
例えば、遊んでいて怪我をして、試合に出られなくなったとする。すると、どうなる? チームとして出場出来なくなる。みんなに迷惑が掛かるわけだ。だから、日頃から、怪我や病気をしないよう、注意をして欲しい。私たちも、そうならないよう、怪我や、病気に強い体作りのための指導・アドバイスもしていく。しかし、当の本人に、その気が無ければ、どうにもならない。
『自分だけの体じゃないんだ』と常に思っていてくれ。
以上だ。」
「よろしくお願いします」
と大きな声を出した生徒がいた。南條 ななみ であった。
それに続いて、全員が
「よろしくお願いします」と頭を下げた。
<へぇ~、やるな、あの子。確か ななみ さんだったな>
「そんじゃぁ、取り合えず、みんなの呼び名を決めよう。できるだけ呼びやすく、インパクトのある呼び名をね。なんだかワクワクするなぁ。
俺、そういうの得意なんだ。さっきも言ったけど、俺は、『トシヒーロー』てな具合に。そうだ! ヒーローコーチて言うのもいいかな」
<何ですか、突然に。先ほど、ちょっとだけスピーチに感動していた自分が恥ずかしい>と、宮下先生は思った。
生徒も、以下同文!
「んじゃぁ。今日はこれで帰るわ。愛称の発表は、また後日。
あっ、そうだ、明日は、これないから。自主練よろしく。では」
と言って、葉山は去っていってしまった。
(せっかく来たのに、会社から急用の電話がかかって来て、とんぼ返りする事となってしまった。初日そうそう不吉な予感?)
・・・・・なに、あれ? 自分の言いたい事だけ言って、さっさと帰っていっちゃった。変な人に、つかまっちゃったなぁ。と、ほぼ全員が思うのであった。
それにしても、変な人だと言う事は、最初に見ただけでわかった。
葉山の風貌は・・・・・
天然パーマ系の髪で、おかっぱ頭、眼鏡の奥の目が、ギョロっと光る。
髭もボウボウで、遠目で見ると、熊みたい。
そしてなにより、その服装が問題であった。
白のTシャツ に 美少女アニメの絵柄
ワァー これ、絶対に危ないやつ、これ絶対に近寄らない方がいいやつ である。
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