第8話
花火大会当日。私は佐々木のおばちゃんの病室で、彼女と一緒に夏の夜空を見ていた。
「綺麗に見えるといいね」
私が言うと、おばちゃんは本当に幸せそうな顔をして頷いた。
「本当に、ありがとうね。おかげで花火が見れるよ」
「おばちゃん、私、考えたの」
私が言うと、おばちゃんは私の言葉も続きを促すよう、目を細めた。
「私の父親……お父さんは、私のこと愛してくれてたのかなって。きっとお金に困って、仕方なく家を出て行ったんだって。でも本当は私、そんなのどうでもよくて。ただ、そばにいて欲しかっただけなの。だからね、お父さんに会ったら言いたい。今までずっと寂しかったんだって。そして、これからは一緒にいようねって……」
「そうかい、そうかい。沙奈絵ちゃんはいい子だ」
おばちゃんの全てを包み込んでくれるような温かさが愛おしくて、私はまた泣いてしまいそうだった。その時、夜の空が花を咲かせた。
「あっ。おばちゃん、花火! 花火だよ!」
「まぁ……綺麗な花火だわ……」
いくつもの色彩が、咲いては散って、また咲いて。まるで私の心の情景みたいだ。今までずっと暗かった感情が、今少しずつ色づき始める。
花火を見ながら、東京に行くっていうことはこの町を離れるっていうことなんだなぁと思った。当たり前だけど、それは自分の育った土地、そして自分の大好きな人たちと離れるということなんだ、と。
「ありがとうね……本当に、ありがとうね」
昔、おじいちゃんと見た花火を思い出すわ……。おばちゃんはそう言って、涙ぐみながら夜の空を眺めていた。
半年後。私は志望していた高校になんとか特待生として合格し、東京への進学を勝ち取った。
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