第11話 デビュー後の打ち上げ

 結論から言うと、俺のデビューは成功と言えるらしい。

 配信を閉じた翌日、SNSでは『天魔るい』や『白髪ショタ』など、複数の関連ワードが同期メンバーたちと差をつける形でトレンド入りを果たした。


 とはいえ、8対2位の割合で賛否両論があったらしく、その2はキャラクター性を重視したスターフラワーのファンたちからの批判だった。



『すごいですよ! さすがはあかりんと社長が見込んだけのことはあります!』


 なんて嵐山さんから電話で朝一起こされた時はビックリしたけど。


 そのあとにはスターフラワープロダクションの社長の黒江さんや、イラストレーターの〈俺のサイダー返せ〉さんからも大袈裟なお祝いメッセージが来ていた。



 素人だからか、デビューを周囲の人間はかなり心配していたらしく、ある意味成功に終わったようで心底嬉しそうだった。




 そしてそんな波乱万丈のデビューを果たした一週間後。

 俺たちはいつものファーストフード店で小規模の打ち上げをしていた。


 メンバーは九重さんと優馬の二人だ。


 優馬は九重さん実際に言葉を交わすのは初めてらしいが、気さくに、いや無神経と言った方がいいのか、緊張見せることなく会話していた。


「いやー、ほんとすごいね! 僕もあの配信見てたけど、冬慈の緊張っぷりは最高だったねー、たまに声裏返ってたし超分かりやすい! なんなら切り抜きも何個か――」

「お前のアカウントブロックしてやるから教えろ」

「僕も冬慈…いや、天魔きゅんの専門切り抜き師になろうかな!? あ、もしよかったら公式って名乗っていい!?」

「お前……」


 こいつ人を小馬鹿にする時はいつも以上に舌が回る。そんな優馬と俺の会話を見て、九重さんはオレンジジュースに刺さったストローを加えて小さく笑った。


 それを見逃さなかった優馬が、九重さんに話しかけた。


「――なんでさ、冬慈をVTuberに誘ったの? しかも死体撃ち(笑)してきたやつをさ」

「なんというか、簡単に言えば私の直感だと思います。昔から親にも言われるんですよ、かりんの直感は当たるって。だからスターフラワーの社長に言った時、すんなりとこの話を受け入れてくれたんです」

「ふえー、すごいね。僕はどう? VTuber向いてそう?」


 九重さんが苦笑いしてるだろ。やめとけ。


「それはそうと、ここから本題っていうか、相談なんだけど――」


 俺の言葉に、二人とも顔付きが変わった。

 いつもふざけてる優馬も真剣な表情に切り替わった。


「なんか俺ってダークホースみたいな感じでサプライズ登場したキャラじゃん? ほかの同期メンバーも本当に知らなかったみたいで、メッセージに連絡来たわけ。これどうしたらいいと思う?」

「さすが陰キャだな!」


 同期メンバーは四人。

 男女それぞれ二人。男二人の方はデビュー日から結構仲良い感じで、デビューして一週間で今後のコラボ配信の予定もいくつか決まってるくらいで、正直最初から絡み辛かった。


 俺もデビュー後に何回か配信していて、何度コメントでコラボの予定を聞かれたか。

 なんとか誤魔化しているけど…



 女の子は万人共通で絡み辛い。

 優馬の言う通り陰キャだからな。



 そして肝心のメッセージというのは男からだった。お互いの共通のリスナーからそのコラボ云々の話を聞いたのだろう。


「これ」


 俺は内容を見せた。

 軽い自己紹介と挨拶。そして今後のコラボのお誘い。


「あ、この人あれだ。名前が確か…」

「〈白犬 琥珀〉さんです。王子様系をコンセプトにしていて、どちらかというと女子高生をターゲットにしている人ですね」

「絶対冬慈と性格合わないだろうなぁ…冬慈めっちゃ捻くれてるもんね」


「そうだよ、合わなさそうだからこういう時どう断るかを相談してんの」


 とはいえ、仕事として企業からお金を貰っている限り、性格が合わなさそうでコラボを断っていたら怒られてしまう。


「私はいいと思いますよ。白犬さんみたいなタイプだと、逆に〈天魔るい〉のキャラクター立たせられる気がしますし!」

「それは一理あるな」

「白犬さんのファンも獲得できるか、も…あれ、それはダメです。やっぱり。コラボやめておきましょう!」

「え、急になに?」

「私の直感です! ダメです!」

「だから理由を――」

「直感なので!」



 そのあと嵐山さんも交えて相談した結果、白犬さんとコラボすることになった。

 何故か分からないが、それから三日ほど九重さんは俺と口を聞いてくれなくなった。

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