閑話 後日譚:あかりんの歌枠配信

 今日のあかりんの配信はいつもと一味違った。


 いつもの配信なら開始からゲーム画面とコメント欄が天使のような顔を挟んだ左右にそれぞれ配置されているが、今日はそのどちらもない。


 あるのは人気曲のタイトルがずらりと箇条書きされているボード。


 そう、いわゆる歌枠配信というやつだ。


『お、おっはりん〜。今日はこの間言ってた罰ゲームの歌枠配信をするよ〜』


 初めての試みのおかげか、いつものゲーム配信より同時視聴数が多かった。


 :おっはりん!待ってた!

 :ちゃんと実行するところ最高ww

 :あかりんの歌声聞けるってマ?


 緊張と不安で声が震えていたが、リスナーはそれに気付いてないようだ。

 まぁそれも無理はない。


 あかりんはなんでもできるキャラクターとしてリスナーから人気を博している。

 だからあかりんも苦手なことは言わないし、リスナーは苦手なものを知らない。



『私本当に下手っぴなんだけど大丈夫かな…一応この間カラオケで練習したけど!』


 :健気で可愛ええなぁ……

 :あかりんでも苦手なものってあるんだ

 :仮にジャ○アンでもあかりんのことは愛し続けるぞ

 :ジャイ○ン言うな笑

 :ジ○イアンなら一応すぐにミュートにできるようにはしておくw


『ど、どうだろ。もしかしたら、そうかも……あはは』


 罰ゲームで歌枠配信することになったからと聞かされ、九重さんと一度カラオケに行った。

 確かに俺も最初はそこまでだろう、なんて思ってはいたが、ぶっちゃけ音痴だった。


 綺麗な声のジャ○アンみたいな感じ。



『とりあえず昨日SNSで募集した歌をまとめたから、そこから順番に歌うことにするね』


 :あの募集ってこの配信のためだったのか

 :『歌枠配信するため』って文頭に書いてあっただろ笑

 :俺がリクエストした歌も入ってる!


 配信の右側にリクエストされた曲のリストが書いてある曲を見て、リスナーがそれぞれコメントする。

 ジャンルは様々で、おそらくランダムというよりも九重さんが知っている曲を抜粋した感じだと思う。


『じゃあ早速始めるよ〜――はぁ、緊張する! まず一曲目はこれね!』


 曲が始まった。

 歌い出しがこの間カラオケした時とは違った。


 明らかに上手くなっている。

 九重さんの基本スペックとして、そもそも声は綺麗だった。だから俺の表現としては間違ってはいない。


 問題は音痴の部分。

 だが、その問題はカラオケでの練習で改善されたようにも思える。


『……えっと、どうかな? 最近放課後はカラオケばっかり通いつめて、前よりは点数良くなったんだよね!』


 :全然うますぎて草

 :俺よりはうまい(確信)

 :と、とりあえずお金払っておいた方がいい? ¥10,000

 :追加請求来ないように多めに払っておきます¥50,000


 負けず嫌いって言うよりそれはプロ意識に近いと思う。配信者として人の耳に入る歌声を、最低限心地よく届けるプロ意識。


 元を知っている俺は今と前との違いを実感している。九重さんはかなり努力をしていたようだ。


『いや、さすがに大袈裟だってみんな! 褒めてくれるだけで私は嬉しいから…みんなのために頑張った甲斐があったよ!』


 :これは天使 ¥10,000

 :逆に金払わせにきてる

 :無料で聞く方がおかしいよな ¥5000

 :¥50,000

 :無言で5万置いていくニキかっこよすぎて草


 俺も次会った時何か奢ってあげよう。

 いや、奢ってあげるべきだ(義務感)


 リスナーのコメを見ていると、俺もついそのテンションに流されてしまう。

 もはや視聴者参加型のような感じだな(?)


『じゃあ2曲目! これはこのリストの中でも自信ある方です! 聞いてください――』



 そうやって上から順番に歌い終わっていく。

 おじいちゃんと孫のようにデレデレのリスナーと湯水の如く湧いてくるお小遣いという名のスパチャの嵐。


 俺も九重さんと同い歳ではあるが、最近母性本能が出てきたような気がする。


 この間まで近寄り難かった女神のような女の子だが、今ではその印象も180度変わった。



 とうじ:これからも応援しています ¥1000


 微力だが、俺もスパチャしておいた。

 学生の俺にとって1万円は厳しいので、とりあえず気持ちだけど置いておいた。


『みんなありがと!!』


 そして十数曲を歌い終え、無事にあかりんの歌枠配信は終わった。


 配信が閉じたあとも、少しの時間だけ開放されるリアルタイムのコメント欄では余韻に浸るリスナーで溢れかえっていた。

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