第5話 歌枠配信のお手伝い
「VTuberさんの配信には歌枠ってのがあるんです。知ってますか?」
「聞いたことはあるけど、見たことは無いな」
ハンバーガー店でポテトをつまみながら、俺は九重さんと雑談をしていた。
内容としてはVTuberのことや、学校の何気ないことなど。
ついこの間まで話したことの無い正しく学園のアイドルと、俺は今ポテト食べて話している。
ここだけ見ると頭に浮かぶのはクエスチェンマーク。
未だに自分でもこの状況が理解できない。
「それがどうかしたのか?」
「私、ゲーム配信しかしたことないですし、今後その予定だったんです。そもほもVTuberさんがしてることをジャンルの違うワタじやる必要は無いんです。ですが、昨日の配信でリスナーさんとの賭けで私は負けて……」
「負けて?」
「罰ゲームで歌枠をすることになったんです」
ほうほう。
そういえば、九重さんのSPEXのユーザー名〈天使のあかりん〉も罰ゲームでつけられたと言っていたな。
賭け事が好きなんだろうか?
仮にそうだとしても、彼女の表情はその罰ゲームに納得してない様子だ。
頬を膨らませながら、口にポテトを運ぶ速度を徐々に上げていった。
「まぁそれは残念だったな? あんまり歌枠っていうの自体詳しくないから返答に困るけど」
「歌枠ってのは簡単に言えばカラオケです。リスナーの前で歌います」
「あー、俺歌苦手だし、やりたくないなそれ」
「春科くんは私と違ってVTuberですよ? 周りの人はやっているんですから、春科くんもしてください! 私だってやりたくないんですから」
九重さん。あなたに関してはやる必要のないことを賭けるからでしょう。
ここは敢えて口は出さないけど。
前配信を覗いた感じ、純粋無垢なリスナーが面白半分で九重さんをからかっているような感じがする。もちろんその関係自体はいいことではあると思うけど。
「好きな歌は?」
「私はボカロ全般を基本的に聞きます! ドラマ主題歌とかで話題になったものでも、ハマったらずっと聞いてるかもですね? 春科くんはどうです?」
「強いて言うなら俺はアニソンかな?」
「春科くんがアニメ見てる印象、正直なかったです」
クラスメイトからした俺のイメージはおそらくゲームオタクだと思うけど、SPEXを始める前はずっとアニメばかり見ていた。
見たアニメより見たことがないアニメの方が少ないくらいには、詳しかったりする。
「最近は追うほど見てないけど、何がやってるかは基本チェックしてる。ちなみに今期俺のおすすめは〈俺の妹はドラゴンでした〉ってやつだな」
「あ、それリスナーさんにもおすすめされてたんですよね。どんな感じのアニメなんですか?」
「まぁあらすじはタイトルのまんまだな。原作の漫画よりもぶっ飛んでて、アニメオリジナルの内容も多い。完全にギャグアニメだね」
「春科くんにおすすめ、見なきゃですね!」
別にそういったつもりで言ったんじゃないんだけど……まぁ俺の下手な説明で見たくなったのなら良かった。
色々VTuberの準備とか勉強で今シーズンのSPEXのランクは世界一が厳しそうだ。
上位ランクの〈プレデター〉さえ維持できればランキング一位になれなくても別に良かったりする。
ぶっちゃけランキングなんて自己満足だし。
「そういや、九重さんって配信で普通に顔出ししてるよな? こういう店で顔とかって隠さなくて大丈夫そ?」
「あ、いつも気をつけてるんですけど!」
なんかチラチラと気付いた人間が数人。
同じ学校の人間は学年問わず全員九重さんのことを知っているが、見てきているのはうちと違う制服の学生だ。
「す、すみません、私のせいで」
「いや、全然おっけー。寧ろ自分がスターになった気分で。今ならクリボーにも勝てる気がする」
「どういうことですか?」
「なんもない」
伝わらない、つまらないボケは言わなかったことにしろ、と昔おばあちゃんに言われたことあったっけな。
「ほ、本題なんですけど!」
「びっくりした、なに? 本題はVTuberのイラストでしょ?」
「は、話を戻すと、私私も歌自体は好きなんですけど、自分が歌うのは自信ないんです。その、このあとお時間あるなら……私と一緒にカラオケ行きませんか!?」
「全然いいけど。俺も下手くそで教えられることなんてないけど、それでもいいなら?」
どうせ帰ってもSPEXしかすることないし。
「ほんとですか! ありがとうございます!」
なんだ、この可愛いリスみたいな生き物は。
「じ、じゃあ行きましょう!」
「そうだな、人も多くなってきたし。ほら、変装モードに入って」
「そんな変なモードはありません!」
ちょうど手元のポテトがなくなったので、俺と九重さんは店を出た。
向かうはカラオケ。
あれ、女の子とハンバーガー店に行ったあとにカラオケへ向かう。
………これって、いわゆるデートってやつではないのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます