第4話 VTuberになる過程③

 4 VTuberになる過程③



「とりあえず〈俺のサイダー返せ〉さんからいただいたデザインはこんな感じになります……どうでしょう?」


 放課後ということもあってか、お客さんのほとんどは学生で、かなり賑わっている人気ハンバーガー店。

 その片隅で、カバンから封筒を取り出し、九重さんは緊張したような表情でこちらにそれを差し出してきた。


 ちなみに〈俺のサイダー返せ〉ってのは九重さんの知り合いのイラストレーターの名前で、こんな名前だけど女性らしい。

 SNSでは結構人気みたいで、ライトノベルとかのイラストも担当してたりする、なんてことも九重さんから聞いた。


 そんな有名イラストレーターさんが俺のために書いたキャラクター……

 なんかドキドキする。



「あ、ありがとうございます。拝見します」



 九重さんが謎の緊張を見せるせいで、俺まで緊張してしまう。


 封筒の中を開けると、数枚の紙が入っていた。紙には色んな角度で書かれた白と黒のツートンカラーの頭髪をした、小学生くらい?のショタだった。


 その髪色だけでもかなりの特徴だが、他にも眼帯をつけている、背中には髪色に合わせた白と黒の翼がそれぞれに2枚ずつ生えている、などなど。

 なんというか、個性の詰め合わせのようなキャラクターだった。



「えっと、これが俺? めっちゃイラストは綺麗で、キャラもかっこいい。けど、俺がこの子の声に合わせるって変じゃない? 知ってると思うけど一応高校生だよ、俺」

「そ、そこは大丈夫だと思います。低くてかっこいい声ですけど、逆にそこがショタの容姿とのギャップ、みたいな!」

「かっこよくは無いと思うけど……VTuberってこういうのが今流行っているのか」


 俺はもう一度そのショタに視点を落とした。


 うん、かっこいい。それに可愛い。

 見た目はショタだし、好きな人は好きだろうな。


「うーん」


 それにしてもイラストの完成が早かった。VTuberの誘いを受けて大体一週間くらいだろうか?

 ネットで調べたりした感じだとイラストの完成はもう少し時間がかかるものだと思っていたが、依頼したイラストレーターが九重さんの知り合いということもあってか、俺の予想より断然早い。


 せっかく九重さんが依頼して、イラストレーターが書いてくれたけど。

 俺がこの子になるのは……


「その、ダメですか……?」

「全然やれます」

「ほんとですか! よかったです!」



 九重さんにこの顔本当にずるいと思う。



「コンセプトっていうのが一応あってですね。まず名前なんですけど、〈天魔るい〉くんっていいます。


 まぁその名の通り、天使と悪魔の二重人格って設定です!」

「え? 二重人格?」

「はい! 二重人格です!」


 色んなVTuberとか配信者見て、色々勉強したつもりではあったけど、こんなに難しい設定で活動している人いなかった気がするんですけど、気のせいですかね?


 煽り系でいくかとか、逆にめっちゃおちゃらけた感じでいくかとか、いくつか考えてたんだけど。


「正確に言えば、天使みたいに優しい性格と悪魔みたいな性格の時があるのを使い分けてください、ってのがサイダーさんの意見みたいです」

「なるほど、コンセプトは案外しっかりしてるんだなー」

「そりゃそうですよ! サイダーさんは他にも何人か、人気VTuberを手掛けてるんですから!」

「そ、そうなのか」

「私も最初はVTuber会社から打診きてて、その時にサイダーさんとは知り合ったんですけど、結局顔出しで配信者になる方がいいと言われて……」


 まぁ正直、俺が相談されたら同じように言うだろうな。

 漫画から出てきたような容姿に加えて、素でこの性格だもんな。

 下手にコンセプト作るより、多分九重さんは今のやり方の方が、あくまでにわかリスナーの俺の意見としては向いていると思う。


「最終確認なんですけど、このキャラクター像で進めても大丈夫ですか?」

「そうだね、よろしくお願いします?」


 ここからまだまだ時間はかかるみたいだけど、とりあえず俺のキャラクターは決まった。


〈天魔るい〉


 設定は難しいけど、煽り系でいこうかなんて悩んでた俺には逆にありがたいかもしれない……

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