第2話 VTuberになる過程①

「ってな感じで俺、VTuberになるらしい」


 クラスメイトの人気配信者 九重かりんとVTuberになってコラボを約束した翌日。

 俺は隣のクラスにいる唯一の友人にそのことを昼休みに相談しに行った。


「え? 最高じゃん」


 こいつの脳内処理はどうなっているんだろうか。

 俺の言葉に優馬はコーラを飲みながらあっけらかんとした表情でそう返した。

 相変わらず腹立つ顔だな、ほんと。


「でもでも、Vって結構かかるっていうよね。絵を依頼するだけでもかなりっていうけど、その辺大丈夫そ?」

「一応九重さんがなんとかするって」

「まぁ儲けてそうだしな、あの人。…てかなんで死体撃ちされた相手とコラボするんだろ、九重さん頭大丈夫そ?」

「その『大丈夫そ?』って腹立つからそろそろやめろ。まぁ、それは俺も思うけど。なんで俺なんかとってのは昨日寝る前にずっと考えてた」

「ぷぷ、まるで恋する乙女だね!」


 こいつ一回くらい殴っても、勢い余ったって言ったら全人類納得してくれるかな。


「冗談はさておき。SPEX世界一ってのはバラすの? まぁ、本気でするなら隠し通せないよね」

「でも隠さないと初配信で炎上するだろ? せっかくコラボするのに、九重さんに顔に泥を塗るだけな気がする」

「まー、そうだよな」


「「…………うーん」」


 この課題はかなり難しい。

 優先すべきは実力を隠すことか、あるいは炎上しない方法。

 どちらをとってもVTuberをやるなら先は長くない気がする。そもそも俺には突出した特技も魅力もない、自分で言うとすれば、ゲームの才くらいだろうか。いや、それだけだ。


 今じゃ大手企業やフリーを含めて大量にいるVTuber。その中でも決して多くないプロゲーマー並みにゲームが上手いVTuber。

 ただでさえ、魅力のないVTuberは見られない世界で、唯一の特技を隠してやっていけるだろうか。いや、それを隠してVTuberをやる意味なんてあるんだろうか。


 大量にお金がかかる仕事の土台を、九重さんが誘って、九重さんが作ってくれる。

 九重さんを傷つけないためにもここは本気で考えなければならない。


「あ、ならいっそ煽り系VTuberでいけば? 最近多いよ、そういうの」

「煽り系? そんなの見て何が楽しいんだ?」

「んー、僕もよくわかんないけど、リスナーが怒ったり、それを見て楽しんだり。あるいは煽ること自体好きな人とかは見るんじゃない?」

「いや、それは却下だな。せっかく九重さんが依頼して作ったキャラクターがそんなのしてたら九重さん悲しむだろ」

「はは、さすが少女漫画の恋する乙女。言うことが一味違うね」

「お前なら気にせず死体撃ちできる気がする」


 九重さんを悲しませまいとしたことで結果的に悲しませていたら、それは本末転倒だ。

 とはいえ、意外と優馬の言う通りかもしれない。

 最近多いというのは、それだけ需要があるということの裏返しでもある。

実際俺はゲームが上手い。実力がないやつの煽りは負け犬の遠吠えに等しい。だが、実際俺はゲームが上手い。実力があるやつが多少性格悪くても、逆に清々しくて人気でたりとかは……俺ゲーム上手いし……


 物は試し、ってわけにもいかないのが難しい境界線だ。

 素人の思う需要は案外間違ってたりする。


「まぁ、昨日の今日だしね。イラストが届くのもまだまだでしょ。とりあえず色んな配信者とかVTuber見て勉強してみたらいいんじゃない?」

「そうだな、そうする」


 まとまった解決案が出ることはなく、昼休みは終わった。

 じゃあねー、と手を振る優馬を見送り、俺は教室に戻る。


 明確な候補は一つ。


「煽り系か、俺できるかな。死体撃ちくらいしか煽り思いつかないんだが……」


 その日はSPEXを休んでVTuberの勉強をすることにした。

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