死体撃ちしたら、めっちゃバズった件。~相手はクラスメイトの人気ゲーム配信者なんだが、何故か俺がVTuberになってコラボすることになった。ほかの配信者とコラボ?彼女が多分許さない~
月並瑠花
第1話 死体撃ちダメ、絶対
「ほんっとうに! 申し訳ありませんでしたぁああああああ」
放課後の喧騒が響く校舎裏。
部活に励む者、補修を受ける者、委員会の仕事を務める者、そしてここに一人、土下座する者――春科冬慈〈はるしな とうじ〉
熱い日差しから逃げるように校舎の陰に潜る彼女――九重かりん に、俺は人生最初で最大の土下座をかます。
傍から見たらまるで告白しているようなシチュエーションだが、そんなことはどうだっていい!
全身全霊で砂におでことプライドをこすりつける。すると彼女は同情したようにその場で腰を落とした。
「私はそんな気にしてませんよ」
見上げると空のように美しい青い瞳と目が合った。
後ろで束ねられていた金色の髪が右耳の方へと流れると、こちらを心配したような表情を浮かべた彼女。まるで外国人のような容姿は、実際にイギリス人の母親から受け継いだものらしい。
彼女の表情に俺は更なる罪悪感に、齢16ながら女の子の前で大泣きしてしまいそうになる。
「そんなことより顔をあげてください。わたし、本当に気にしてませんから。それより、今後ほかの人に『あれ』はしないでくださいね」
『あれ』というのは遡ること、昨日。
それはいつものルーティンだった。
学校から帰り、自分の部屋に入ると俺は真っ直ぐゲーミングチェアに座る。
PCを起動し、とあるゲームを開いた。
――『SPEX』
最近流行りのよくあるシューティングゲームだ。
ルールは簡単、最後の一人になればいい。一試合六十人。全員敵のサバイバルゲーム。
ちなみにこれは自慢ではなくもないが、俺はこのゲームの現在ランキング世界一位、所謂王者【キング】というやつだな、うん。自慢じゃないよ。
おおよそ十万人のアクティブユーザーがいるといわれているこのゲームにおいて、トップ500が貰えるランク称号【プレデター】に入ることすら難しい。
だが、俺はその【プレデター】の頂点というわけだ。
一応いくつかのプロゲーマーチームからスカウトも来た。
けど、すべて断った。
理由は身バレしたくないから。
年齢、性別、共に不詳。要するに【正体不明〈アンノウン〉】になりたいわけだ。
高校二年生にして、そんな中二病な一面が俺にあるとは、中二の時でも思ってなかっただろうな。
でも憧れてしまった。事実俺は世界一位、自分にゲームの才能があると驕った。
話を戻すが、俺は家につくと毎日のように寝るまでSPEXをしている。一日大体八時間、多い日は十時間くらいだろうか。もちろん休みの日ならその時間はさらに増える。
昨日は大体九時間くらいか。
ランクに必要なポイントを順調に増やしていたが、かなり上手いプレイヤーに試合序盤、俺は倒されてしまった。おおよそ九時間のポイント消失。
もちろん分かっている。悪いのは負けた俺で、決して彼ではない。
「くそ、次殺してやる」
分かってはいたが、深夜まで頑張った苦労と世界一の自分に酔ったプライドで、俺は彼に八つ当たりしていた。
ユーザー名は【天使のあかりん】。絶対忘れない。地の底まで覚えてやる。
俺を殺したことを後悔させる。その思いで試合開始ボタンを押す。
「なんだよ天使って、ふざけんな! この悪魔!」
次にあかりんに出会ったのは三試合後。
最終局面。あかりんとの一騎打ちになった。
「はっ、やるなあかりん。だが、お前は世界一には届かないんだよ!」
俺は照準を合わせ、顔を出したあかりんの顔にショットガンをかます。
一撃だった。
さっきのいらいらが一気に弾けた気がした。
その感動と発散のあまり、俺は勝利のテーマソングに合わせてあかりんの死体にショットガンを乱射。球が切れたらサブマシンガンに切り替え、ワンマガジン打ち切ったところで画面は切り替わる。
「ふっ、こんなもんよ」
俺は満足げに意識を落とした。
目覚めたのはスマホの通知音。
学校で唯一仲のいい友人――優馬からの着信。見るともう十件ほど来ていたらしい。
なんとかスマホに焦点を合わせて電話に出た。
「朝からうるせーな。なに?」
『お前やらかしたな!』
「あ? 何が?」
優馬の嬉々とした声が電話越しに響く。
『お前あのかりん様を死体撃ちしたんだって?』
「いや、してねぇよ。つか、かりん様ってクラスにいる配信者だろ? 接点すらねぇよ」
『そーそー。ユーザー名覚えてない? 【天使のあかりん】。まぁ、殺したのがお前って知ってんのは、世界一位を正体知ってるのは僕だけ。だから安心してね、隠してあげるから』
「まじか…?」
『お! 思い出した!? まぁ、かなり派手にやったよね。僕もかりん様の配信見てたけど、かりん様半泣きでコメント欄大激怒だよ。最高に面白い配信だったよ?』
昨日の確かに【天使のあかりん】を倒して、かなり派手に死体撃ちをした。
でも冷静になったらそうだ。クラスメイトにいる有名な配信者があかりんって名前で配信活動してて…
やばい、状況を整理すればするほど冷や汗が湧き出てくる。
『よかったなー、正体不明(笑)で活動しててさ! まじでさいっk――』
俺はそこで通話を切った。
こいつが本当に友人かって聞かないでほしい。
もはやゲーマーの学生にとって友人関係は消去法なんだ…
そんなこんなで、時間は現在。
土下座している俺に戻る。
「えっと、もしあれでしたらお水を買ってきましょうか! あ、炭酸いける系ならコーラでも! 好きならドクターペッパーを外で探してきます!」
「い、いらないです! き、昨日はびっくりして少し泣いただけで、あのゲーム結構ああいうの多いので…」
「言い訳じゃないですけど、俺あれするのは初めてなんですよ。……いや、これは言い訳だな、本当にすみませんでした」
この歳になるまで。
いや、九重かりんと話すまで、俺は女の子と話したことがなかった。
厳密には話したくなかった。
少女漫画みたいな例えだけど、女の子って存在自体が壊れやすいもののような。
話せばいつか傷つけてしまいそうな。だから女の子と話すこと自体避けていた。
でも、遠からず、俺は九重かりんを泣かせてしまった。
ぶっちゃけ男友達も少なく、喧嘩もほとんどしたことがないから謝り方もいまいちわからない。
多分九重さんの顔を見る限り、土下座は間違いだったかもしれない。
「て、提案なんですけど――」
「は、はい。なんでしょう、なんなりとお申し付けください」
「まずその喋り方やめてもらっていいですか!?」
「そんな提案なら改まって言わなくても大丈夫ですよ」
「え? これが提案じゃないですよ!?」
なんというか反応がかわいい。
俺はこんな子に死体撃ちしたのか…うっ、罪悪感の波が押し寄せてくる。
「その、あんまり春科くんの声聞いたことなかったんだけど、なんていうか、かっこいい、みたいな!? 感じだから、良ければコラボしてほしいんだけど、どうかな。それにSPEXも超うまいし!」
「うーん、それは」
「だめだった? 無理にとは言わないし、いやだからって今回の件は全然許すから!」
「いやいや! そういうわけじゃないけど。仮にもこうなって、九重さんのリスナー俺に怒ってるでしょ? しかも世界一位ってばれてるみたいだし」
「う、うん?」
「俺が炎上してないのは誰も俺を性別も年齢も知らないからじゃん? もし配信に出たらめっちゃ怒られそうな気がして。まぁ、怒られることしたのは完全に俺なんだけどね…」
確かに配信者になりたいと思った時期は俺にもあった。
プロゲーマーのように結果ばかりじゃなく、まるで過程をみんなで楽しんでいる感じがして。
でも、人を楽しませるコミュ力があるかと言われたらNO。人を集める魅力もNO。顔もかっこよくないし、なんたってコンプレックスはこの声だ。
「じゃあVTuberになろう!」
「へ?」
「知り合いに絵師さんもいるし、私も何回か他のVTuberさんとコラボもしたことあるし!」
「急に言われても!」
「ごめんね、強引すぎたね。この話はやっぱり…」
「心の準備! き、急に言われても心の準備がね! や、やるのは全然OK!」
これが体は正直ってやつか。
全然OKじゃないのに九重さんの悲しい顔にべらべらと口が動く。
「ほんと!? ありがとう! じゃあ知り合いの絵師さんに頼んでおくね!」
「あ、う、うん。お願いします――――」
俺、なんかわからないけどVTuberになるらしい。
お金……ないのに……
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