『異端の中の異端』 (下)


 やがて、異端尋問官による、抜き打ち検査が、わが組合に入ったのである。


 ぼくは、対面尋問を受けたが、場所は、幸いにしてセクトの鑑賞部室だった。


 『あー、あなた。今の心境を、包み隠さず述べたまえ。』


 ぼくは、用意していた、ワルターさまが指揮し、パツァークさまとフェリアーさまが歌った、マーラーさまの『大地の歌』を、かなり大きな音で鳴らした。


 尋問官は、中央のコンピューターさまに直結されている。


 すぐに、ぶん殴られるだろうと思っていたが、意外にも審問官は、全曲聴いてしまったのである。


 それから、こう言った。


 『わかりました。』


 審問官は、それで、立ち去ったのである。



    😱😱😱😱😱



 二日後、コンピューターさまは、自決した。


 大総統さまは、動きが取れなくなり、同じシステムの某国に亡命した。


 それで、国内では内戦が始まったのであるが、ぼくは、あまりその先は生きなかったのだ。


 この情報は封鎖され、異端の中の異端が、何をしたのかは、まるで知られていないが、やがて、内戦は停止されて曲がりなりにも選挙が実施されたらしい。


 マーラー先生、畏るべし。



        おわり


 

      🙇


 

 


 



 


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『異端の中の異端』(または、マーラーさまの反撃) やましん(テンパー) @yamashin-2

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