第7話
「やぁ、どうしたの?」
不安と緊張で声が震えた。カヨは顔を伏せたまま話し出した。
「怖いの...。」
「怖いって、何が?」
僕はできるだけ優しい声で聞いた。あまりにもいつものカヨと違っていて少し戸惑っていたのもあるのかもしれない。
「...みんな、私を優しいとか、いい人だって言うんだけど、本当かな?...私はそうは思わない。だって、誰かを羨ましがったり、嫉妬したりすることもあるし...。でも、みんなに嫌われたくないの。だから、誰にも言わずにその言葉を飲み込むの。そうしたら、どんどん重くなって自分も抜け出せなくなったの。でも、自分を抑えるのってつらい。悲しくなってくる。本当の自分ってどこにあるんだろうって...。」
カヨは静かに、しかし確かにそう話した。僕は普段の、学校のカヨしか見ていなかったから、少し驚いた。でも、何を言えばいいんだろう。振り返ってハチの方を見たが相変わらず毛繕いをしている。僕は決心して再度、カヨを見た。ひとつ深呼吸をした。
「僕はそれでも、...カヨは優しい人だと思うよ。羨ましい、嫉妬する。それって自分がこうありたいって思ってる感情の表れだと思うんだ。たとえそれがカヨにとって負の感情だとしても。しっかりカヨの意思があるってことだ。その意思が積み重なっていくと自分というものが見えてくるんじゃないかな。そして、みんなに嫌われたくないって、きっと、誰かを傷つけたくないってことだとも思うんだ。それも、カヨの意思の1つだと思うよ。だから、自分の思いを否定しないであげて。カヨは誰かを思いやることができる優しい人だよ。自分にも優しくしてもいいんだよ。」
僕はカヨに伝えながら、何かに引っかかっていた。もちろん、話したことは全て本心なのだが。何だろうか。話しながら、誰かの視線を遠くで感じた気もした。
僕が話し終わると、ハチは近寄ってきた。
「見ときな。」
そうハチが言ったのと同時だった。カヨの回りの鎖に僕のことばが張り付いた。その瞬間、一気に鎖が崩れて消えていった。それはまるで、花びらが散っていくようできれいだった。
「これで終わりだ。今回はまずまずだな。行くぞ。」
ハチはそういうと、来た道を帰り始めた。僕はもう一度後ろを振り返った。そこにはカヨはもういなかった。しかし、あの澱んだ空気の代わりに、爽やかなそよ風が優しく吹いていた気がした。
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