第19話
気づくと、白い天井が目に入った。
「店長!」
朝岡と迫田が、心配そうに顔を覗き込んでいる。
「どうした? 二人とも」
「どうした? じゃないっすよ。店で倒れたんすよ。帰ろうとしたらドスンという音がして、振り返ったら店長が倒れているじゃないすか。びっくりして慌てて他の店のかたに手伝ってもらって救急車呼んだんです。朝岡さんに連絡したらすぐ来てくれて。レジの奥まった、隠れたところで倒れていたので俺がいなかったら、多分朝まで発見されていませんでしたよ」
迫田が立ったまま、今にも泣きそうな顔で言う。
そうか。倒れたのか。それで今は病院にいるのか。
「すまない。世話をかけた……」
看護師がやって来た。
「意識が戻りましたか? 先生呼んできますね」
そう言って去っていく。
「もう、強制的に除霊します。退院したら俺、福田さんの家に行きますからね」
朝岡が凄んだ。でも。沙耶の心残りを外してやりたい。大体除霊して、本当に成仏できるのか。ただ、自分から離れたところで帰る場所もなく彷徨うだけではないのか。
「朝岡と会わせる。でも除霊は待ってくれ。お願いだ」
「この期に及んでまだそんなことを言うんですか」
「彼女は除霊したところで、成仏できないから。亡くなった人を迎えに来る仏に無視されているくらいだ。彼女が行き場をなくすだけだ」
「……それもう怨霊じゃないですか」
「怨霊とも思えないんだ」
「とにかく早く会わせて下さい」
「わかった」
医者がやって来る。ライトで瞳孔を確認された。
「運ばれたときに色々調べましたが、特に異状はなかったです。明日、精密検査をしましょう。それでなにもなければ退院ということで」
医者はそう言って去っていった。
「倒れたのに異状なしっすか……」
納得していないような様子で、迫田が言う。
「医学や科学でなんでもわかるわけじゃないからな。多分福田さんは異状なしか、適当に心因性のもの、と診断されて終わるよ」
朝岡が、迫田にそう言っていた。
「なんでですか」
「霊が憑いているだけだから」
「やっぱりそうなんすね」
「今、何時だ」
朝岡と迫田の会話を遮り訊ねる。迫田がスマホを見る。
「十時です」
「二人とも、もう帰れ。面会の時間も過ぎているはずだろう」
「でも、心配っすよ」
「いいから帰って休んでくれ。すまなかった」
そう言って、朝岡のほうを見る。
「明日、店を頼んだ」
「わかりました。でも退院したら連絡をください。あと家の住所教えて下さい」
住所を口頭で伝えると、朝岡はメモをしていた。
「必ず家に行きますからね」
「わかった、わかった」
苦笑すると、二人は帰っていった。起き上がればふらつくし、寝ていても頭がぐらぐらして眩暈がする。病院は、大部屋なのに静かだ。恭介はそのまま、眠りについた。
翌日、朝目覚めると本社に一報を入れ、有休を使って休んだ。
検査に追われたが、やはり朝岡の言ったとおり異状なしで退院することになった。
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