第5話


朝、遅くに目を覚ます。リビングの窓を開けると気持ちのいい風が流れ込んできた。


気温がぐっと下がり、過ごしやすい日になっている。


十畳ほどのリビングには、テーブルと、冷蔵庫、テレビしかない。テレビはほとんど見ないが、沙耶が昼間見て時間を潰しているという。見ていいと、恭介が許可していた。


朝食は食べず、コーヒーを淹れる。


「気持ちいいですね」


沙耶も風を感じているようだ。だが、それに反して髪も服も揺れない。


「コーヒー飲むか」

「いえ。苦手なので。福田さんはゆっくり飲んでください」

「そういえば沙耶が着ている服って、亡くなった時のものじゃないよな」


全身白のワンピース、なんて女性が普段着として着るものではないような気がする。


「死んだらこの服になっていました。死に装束ってやつでしょうか。死んでも自動的に服着せてもらえるんだって感動しました」

「そうか……」


本当に純粋な子だ。殺されたことに対して何も思っていないのだろうか。

沙耶の両親も悲しんでいるだろうに。


「なあ――」

「コーヒー飲んだら連れて行ってくれるんですよね。ステーキ屋さん。だから朝食いらないんですよね」

「ああ」


楽しみにしているのだろう。その表情を見て、たくさんの訊きたいことが薄れた。


昨日、個室のある店を予約したから、訊きたいことはそこでじっくり聞いてみよう。

さすがに平日なだけあって、予約は取りやすかった。


「楽しみです。こんなに楽しみなのは久しぶりです」

「その前にやること、覚えているか」

「もちろんです!」


コーヒーを飲み終え、歯を磨き、身なりを整えると、窓を閉めて出かける準備をする。


午前十時半。


「そろそろ行こうか」

「はい!」


家を出ると、沙耶は廊下を浮きながらついてくる。


家にいるときは歩き回っていたのに、外に出るとやはり浮くのだな、と思う。

重力が関係しない。人間の理屈の常識外にいるということだ。やっぱりやるせない。

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