第26話 なぁに?!

26 なぁに?!


機械的に身体を動かせて、仕事をする。・・・無表情に貼り付ける表情。

桜田は自分の存在価値すら、分らずにいた・・・。

夜になっても眠っているのか、いないのか・・・現実と夢の境界線が分らないまま。

ロッキングチェアに身体を預けて、少し揺らしながら呟いてみる。


「佐藤・・・佐藤・・・。」


すると後方から「なぁに?!」と声が聞こえる・・・空耳か。それとも夢?

実感の沸かないままに、振り返ると・・・そこには笑顔の佐藤が立っていた。


思わず抱擁をする。抱きしめて、それでも消えない存在を確認するように。


「???ただいま。」佐藤は訳が分らずに、取り敢えずそう言ってみた。

「どうしたの?怖い夢でも見たの?」憔悴しきっている桜田を心配そうに見つめている。


桜田は佐藤にキスをした。無我夢中で・・・夢なのか、現実なのか計っている。

・・・覚えている、佐藤の息遣い。そして、温もり。それを思い出して確信する。

今、自分の腕の中にいる佐藤を独占して気持ちが満たされている。


「佐藤・・・私の側にいて。もう何処にも行かないで。・・・1人は嫌だ。」懇願するように佐藤を見た。


「桜田様は、1人ではありませんよ?私が帰って来た時、皆が心配をしていました。」

桜田を諭す様になだめながら、言う。

「コバちゃんも、美作君も、松井部長も・・・。」


「松井部長、来ているの?知らなかった。」


「ちゃんと回りを見て下さい。私達は皆に愛されて、皆に助けられています。」


「うん。後で皆に、謝ってくるよ。」


「今日は、随分と素直ですね(笑)」


「佐藤も・・・随分と優しいよ。」


「それは、そうでしょうね。皆の心配の仕方が尋常では、ありませんでしたから。」

「一体、何があったのですか?」


「!!!佐藤が黙って居なくなるからでしょう?」


「えっ!たかが3日の休暇を貰っただけで?・・・大げさな。」ため息混じりに言った。


「そうなの?早く言ってよ~。」逆に驚きの様子である。


「言おうとしたら・・・桜田様が怒って部屋に籠もりましたので。」

「でも、伝言を頼みましたよ。コバちゃんに。」


「そっか、ごめん。」と言いつつ思い出してみる。

伝言って『実家に戻られました』ってやつ?!誤解するでしょう?寧ろ、誤解しか無いでしょ?

少し心の中で、小林の事を責めた。


   ***


でも佐藤が居なくなったと思い込み・・・佐藤を愛している事を思い知る。

そして佐藤と出会えた事に、感謝する。



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