不幸な僕と健気な後輩ちゃん

テケリ・リ

ふっ、敵の敵は味方だなんて昔の人は良く言ったもんだね。



 はぁ、鬱だ。

 最近は何をやってもとんと上手くいかない。


 体調を崩して欠勤するし、別居している両親とは些細なことで喧嘩するし、たまに息抜きで行くパチンコは全然勝てないし。

 スマホでポイ活して小遣い稼ぎ……と思っても引き出し制限やら広告詐欺やらでちっとも僕の懐に入ってこないし。


 運気が下振れを起こしていそうな今日この頃、皆さん如何いかがお過ごしですか。僕は本当に運も何もかもが下向いているよ。


「一回お祓いでも行った方が良いのかなぁ……?」


 思わずそんな独り言が漏れるほどには、最近の僕はツイてない。


 昨日だって、たまたま拾ったお財布を交番に届けたら、ちょうど落とし主と鉢合わせてさ。それで『これ拾ったんですけど』って財布を出したら盗んだって怒られて、警察官の人も落とし主の手前聞かざるを得なかったんだろうけどさ、『どこでいつ拾いましたか? 中身には手を付けていませんよね?』ってちょっと高圧的に詰問されるし。


 我、善意の拾い主ぞ? 拾得物の一割と言わず三割くらい請求しちゃうぞコラ?

 ほんっと、ツイてないにも程がある。


 こんな調子の僕だけど……実はこんなのまだ可愛い方だ。


 一週間前の話だ。その日僕は、三年付き合っていた彼女にフラれた。


 好きな人ができて、付き合い始めたんだと。僕という彼氏が居るにも拘わらず、すでに肉体関係も結んだんだって。

 さらに言えば彼女とは同じ職場で社内恋愛だったんだけど、よりにもよって僕の直属の上司が相手だって。


 ホントやめてほしい。一体僕はこれからどんな顔をして、上司に報告やらすれば良いんだ。

 彼女は良いよ、同じ社内とはいえ違う部署だからさ。だけど僕は浮気相手と同じ企画部一課で、基本的に勤務時間内は会社に缶詰だ。朝から夜までそんな間男上司と顔を突き合わせている苦痛ったら無い。ホントに無い。


『なんて言うか……あなたと付き合っててもスリルが無いっていうか、ドキドキとか非日常感が無いのよ』


 これはそんな彼女……元彼女の言だ。

 ……いい年した大人がだよ? 二十代も半ばを過ぎてまで恋愛に非日常を求めないでほしい。そういうのは十代の青春時代でしっかり満足してきてもらいたかったって思うのは、僕のワガママなんだろうか……? きっとワガママなんだろうな……。


 それなりに先を見据えてお付き合いをしているつもりだった。安定した生活ができるよう貯えもしていたし、何ならプロポーズまで計画してコッソリ婚約指輪まで用意していた。だというのに。


 彼女が好きな青い色の、それなりに奮起して購入したサファイアの婚約指輪は、買ってから一度もその指に通される事無く……買ってからたった三日という短い期間で、無情にも過去の思い出の品へと早変わりした。

 僕の給料三か月分の指輪は見事に日の目を見る事無く、およそ十分の一のお金になってお財布の中に戻って来たのだった。


「神様……僕はそんなに悪いことをしたのかな。パチンコだって節度を守って打ってるし、そもそも行くのだって同僚の付き合いが多いのに。お酒だって毎日じゃなく飲み会やデートの日だけだし、タバコも生まれてこの方二十八年、一度も吸ったこと無いのに」


 憎らしいほどの晴天で、そんな街を照らすお天道様に向かって独りちる。

 そんな僕の独白が聴こえたのか、ソーシャルディスタンスを遵守して三メートルほど離れた位置で一緒に横断歩道の信号待ちをしていた名前も知らないお姉さんが、僕に振り向いて眉をひそめている。


 そんな目で見ないでくれ。見ず知らずの貴女にまでそんな顔をされたら、僕はいよいよ自分の惨めさを認めざるを得なくなってしまうじゃないか。


 歩行者用信号が青に変わったのを確認すると同時に、居た堪れなくなった僕は颯爽と歩き出す。

 幼い頃からの癖で、横断歩道の白い帯だけを踏んで渡るのはやめられなかったが。そんな僕の様子をきっとまた訝しんで見ているであろう名前も知らないお姉さんの顔を振り返って確認など、ついぞできないまま。僕はその場を歩み去った。




 さて、今日は日曜日である。本来ならスケジュール帳を埋め尽くすほどあった僕と元彼女のデートは叶う事無く、僕は何を目的とするでもなく、市街にあるショッピングモールへと足を運んでいた。


 最近のモールは本当にそこだけで何もかもが事足りてしまう。この便利さに慣れてしまうと、わざわざ田舎に引っ越そうという考えを持つ人達の気持ちが本当に分からない。

 服屋も雑貨も食品も、ゲームや玩具も、何でもある。いかがわしいお店は無いけど、ほんの少し前までリア充を自負していた僕には縁遠いモノだったので気にしたことも無い。


 いかがわしいお店といえば、僕はそういった風俗店には数えるほどしか行ったことが無い。もちろん飲み会の二次会とかで、付き合いで渋々お付き合いだ。

 キャバ嬢達は可愛いと思いはしても、特に熱を入れることはなかったものだ。何故ならその時分は、僕はリア充だったからだ。


 今だったらどうだろう……。寂しさを紛らわせるために、どうせ本名を名乗っていないだろう女の子に入れ上げて、大して飲みたくもないシャンパンのボトルを下ろしたりするのだろうか。

 ズンペリだとかモネだとかの、ピンからキリまであるお高いシャンパンを得意げに注がせて、それを一気飲みとかさせちゃうのだろうか。やだなぁ、そんな奴にはなりたくないなぁ……。


 思考が逸れた。結論から言えば、お酒もギャンブルもほどほどで、自分だけじゃなくて周囲も相手も楽しめるのが良いよね、ということだ。


 僕は今、ドーナツ屋の行列に並んでいる。

 好きなんだよね、ドーナツ。アイスも好きだな。味が色々あって色々試せるのが良いよね。


 お昼にはまだ早く、それでもお腹が空いてしまったので、小腹を満たすために立ち寄った。

 さすがに休日ともなれば、こういったお店は大変に盛況だ。特に家族連れの客と、それからどうしても目に入ってしまうカップルの客が多い。爆発しろ。


 まあ気にはしないさ。何だったら僕は彼女が居る時ですらも、一人でドーナツ屋やケーキ屋に入れたからね。大体が彼女の方に用事ができて、デートの予定がポシャった時なんかに来ることが多い。


 ……今思うと、そういった時に彼女は僕の上司と浮気をしていたのだろうか。

 いや、良くないなそういう考えは。きっと本当に用事があったんだ。そうでも思わなきゃやってらんないよマジで。


「あれ、先輩?」


 そんな風に悶々と、不幸を思い出し負の感情に支配されつつあった僕の耳に、背後から快活な可愛らしい声が届いた。


 だがそこは大人な僕だ、勘違いなんてしない。これで『なんだい?』なんて振り返ってごらんよ。きっと、八割方は違う人のことで、『うわ、何コイツきもっ』とか思われたり言われたりしちゃうんだ。だから僕は勘違いなんてしないんだ。だから振り向かないぞ。


 しかし、そんな勘違い相手はあろうことか、勘違いしている僕の肩に手を置いて。


「ちょっとぉ? 無視は酷いんじゃないですか、先輩っ!」


 ――――あれ? 勘違いじゃなかった?




 ◇




「うそぉ!? 先輩と付き合ってるのに!? エッチまで!?」

「ちょ、声大きいって、抑えて……!」

「あっ、ご、ごめんなさい……!」


 ドーナツをテイクアウトした僕と、声を掛けてきた後輩ちゃんの二人で連れ立って、ショッピングモールのフードコートへと移動した。

 そこで自販機で購入したそれぞれの飲み物と共に、プチドーナツパーティーこと不幸自慢大会が開催されていた。


 僕はもちろんココ最近の運気低迷も相まって、後輩ちゃんの笑いのツボに非常に効果的な口撃を展開できていた。

 彼女は快活に、非常に人好きのする笑顔でケラケラと笑い転げてくれていた――転げたは言い過ぎかな。でもお腹を押さえて苦しそうにはしてるよ?――のだが、お財布冤罪事件の辺りからだんだんと、キレイ系と言うよりカワイイ系の顔をしかめ始めた。


 そしてとうとう三年付き合って結婚まで考えていた彼女……元彼女に浮気をされた挙句先週フラれた話をしたら……先程の通りである。大声で驚かれてしまった僕、とっても恥ずかしい。


「信じられない……! 先輩、それ問い詰めた方が良いですよっ!」

「うん、そうだね。でもお願いだから声抑えようね? 公の場で大声で喋る内容じゃないからね?」

「は、はい、ごめんなさいっ……じゃなくて! え、それでその元カノさん、今ものうのうとその浮気相手とお付き合いしてるんですか!?」

「そうだろうねぇ。僕はもうLIMEもブロックされてるし、着拒までされちゃってるから知らんけど」

「うわ、サイッテー……!」


 ありがてぇ……! 僕の味方は君だけだよ……!

 まるで我が事のように怒りを露わにする後輩ちゃんに、僕は幾分救われたような気持ちになる。


 ちなみにこの後輩ちゃんは、僕の四個下だ。部署こそ同じ企画部だが、新卒の頃一年間教育係として僕が担当して、今では隣の第二課に移っている。

 何回か彼女……元彼女を交えて食事もしたくらいには仲良くしていた。そう思うと、割と良い先輩後輩の間柄だったんじゃないかな?


 新卒でガチガチに緊張していた後輩ちゃん。初々しくて今でも鮮明に脳裏に浮かぶその姿を思い出すと、とても和やかな癒されるような気分になる。

 何でも積極的に質問してくれて、一生懸命メモ取ってさ、ホント可愛かったなぁ……。


「先輩!? 聞いてますか!?」

「うんうん、聞いてる聞いてる。新人の頃の君は初々しかったよねぇ」

「そんな話してませんよッ!? っていうかやめてくださいよ、そんな恥ずかしいこと思い出さなくて良いですっ!」

「えー、あんなに楽しんで仕事してたのに?」

「ダ・メ・で・す・っ!」


 それは残念至極。まあ嫌がることをやり続ける趣味は無いし、揶揄からかうのはこのくらいにしておこう。

 ところで何の話だっけ……? ああ、元彼女を問い詰めるとかどうこうだっけ?


「いやあ、問い詰めるも何もさ……もう一週間も前の話だし。今さらかなって……」

「今さらじゃないです! 先輩のコト傷付けたんですよ!? それなのに謝罪も何も無しなんて! 婚約指輪まで用意してたのに……!」

「まあまあ、おかげでそれを換金して、今こうしてお昼前なのに贅沢にドーナツパーティーできてるから良いじゃないの」

「良くないですって……! 先輩の気持ちはどうなるんですかっ!? こんなに良い人が彼氏なのに裏切るなんて、信じられない……!! あ、ドーナツご馳走様です!」


 うむうむ、苦しゅうないぞ後輩ちゃん。そしてそこまで怒ってくれてありがとうね。

 ほら、きっとアレじゃないかな。僕は元彼女にとっては良い先輩で良い人ではあったかもだけど……良い彼氏ではなかったんだろうね。不甲斐ない姿を見せちゃってごめんよ……。


「まあ、何が苦しいってさ……その浮気相手の今彼が、ウチの課の課長ってことなんだよね。もうホント毎日居た堪れなくてさぁ……」

「え――――ッ!?」


 ん? どうしたのかな?

 いや、そりゃビックリはするだろうさ。まさかの同じ部署の同じ課の、直属の課長だもんね。どういう神経してんだって感じだよね。でも、そんなに後輩ちゃんが絶句するほどのことかな……?


「先輩……それって、マジですか……?」

「え……? う、うん。こんなコトで嘘なんか言わないよ……?」

「サイッテー……ッ!!」


 お、おお……!? 本日一番心の込もった『最低』を頂きましたよ……?

 いやまあしょうがないよね、普通に有り得ないもんね、そんなの。


 後輩ちゃんの鬼気迫る怒りのオーラに思わずたじろいでしまう。普段から明るくニコニコしているイメージしかなかった後輩ちゃんのそのあまりの迫力に、不幸自慢をした僕の方が逆に申し訳なさを覚えるほどだよ……!


「…………先輩」

「は、はいっ!? なんでございましょうか!? ドーナツ追加で買ってきましょうか!?」


 地の底から響くような……といった形容がしっくりきそうなそんな低い声で呼ばれ、咄嗟に可笑しなことを口走ってしまった。

 笑うことなかれ、マジで怖いんだよ。どうしちゃったんだよ後輩ちゃん……!?


 そんな僕の焦りまくる胸中などお構いなしに。後輩ちゃんはまるで陽炎のような怒りのオーラを幻視しそうな雰囲気で、上目遣い――ただし目付きは非常に鋭い――で僕を見据えてくる。そしておもむろに口を開いた――――


「作戦会議です!」

「…………はい??」


 作戦……? え、なんで??

 怒りも唐突なら提案も唐突な後輩ちゃんに、意図せず間抜けな声を返してしまう。


 いや、マジで。どーいうことだってばよ??


「やり返しましょう、先輩っ! ちょうど来週の金曜に会社の飲み会があるじゃないですか! そこで課長と元カノさんをギャフンて言わせてやるんです!!」

「え、ええ……っ!? ち、ちょっと落ち着いてよ!? そんな、公の飲みの席でそんなことしたらマズイでしょ!? っていうか何でそこまで――――」

「先輩は悔しくないんですかッ!?」

「――――ッ!?」


 悔しい……そりゃ悔しいさ……ッ!!

 あんなにも大切に関係を育んで、この女性ヒトとなら良い未来を描いていけるって思って、それを実現しようと頑張ってたのに……!


 なのにこんなのって……あんまりだよね……?


 後輩ちゃんの言葉に今さらながら、僕の心の中で燻っていた怒りが火を吹き返す。

 彼女の怒気に当てられたのもあるけれど、この怒りは確かに僕自身が感じているモノだ。


「……よし、やってやろう!」

「それでこそあたしの先輩ですっ! 大袈裟に騒いで、みんなから呆れさせてやりましょう!! あの……絶対許さないんだから……ッ!!」


 うむ、素晴らしいやる気だぞ後輩ちゃん! 君のそのやる気に満ちた姿をまた見れて、先輩はとても嬉しいよ……っ! 動機はなんだか不穏でしかないけど……。


 とまあ、そんなこんなで。

 たまたまプライベートで出会った僕と後輩ちゃんは、ついでにフードコートでランチを一緒しながら、来たる飲み会に備えて綿密に作戦を話し合ったのだった――――




 ◇




 さあ、そしてやってきた週末の華金!! 明日はお休みな飲み会当日っ!!

 日曜のショッピングモールで意気投合した僕と後輩ちゃんは、その場でプライベートな連絡先を交換して、今日この日のために微に入り細を穿つ勢いで計画を立ててきた。


 今日は会社内の全部署が協働しての一大企画が無事終了したという祝いの席。そこそこの料亭の大座敷に所狭しと座る社員達と、これまた所狭しと置かれるお膳――折敷おしきと言うらしい――の圧巻なこと。

 大体部署や課ごとに固まってはいるけれど、その中での席次は自由だとのお達しだったので、僕は課は違うが同じ部署の後輩ちゃんと向かい合える席へと腰を下ろした。


 心の準備はできている。真剣な目で僕を見据える後輩ちゃんと、覚悟を込めて頷きを交わす。


 そうして会食のお時間となり……社長を始め役員の長々とした訓示を聞き流し、注がれたビールグラスを掲げて。


 運命の飲み会がいよいよ、幕を開けたのだった――――




「いやあ、みんな良くやってくれた! 部長も他の部署からも、我々の企画をみんな絶賛してくれてたよ! これも我々、企画部一課の結束の賜物かな!? ははっ、なーんてねっ!」


 上機嫌でビールから焼酎、焼酎から日本酒へとチャンポンし、良い感じに出来上がりつつある僕の直属の課長が、調子の良い言葉をのたまう。

 宴席は盛り上がり続け、だんだんと部署を跨いでのお酌巡りも目立ち始めた。


 性格上、外面に非常に気を使う元彼女なら絶対に、順繰りに違和感を覚えられないよう、最後の方にこの課長……今彼の元へお酌をしに来るはずだ。

 僕だって、伊達に三年も元彼女の彼氏をやっていたわけではない。今思い返してみればだけど、彼女はそれこそ一年以上も前から、そうして僕のとこの課長に最後の方にお酌に来ては、宴会終了まで隣に居座っていた。


 彼女曰く『職場恋愛は良い目で見られないから、こうやって印象を良くしてかなきゃね』だってさ。アッサリ騙されてんじゃねーよ僕のバカヤロウ……ッ!!


 そうして怒りを再燃させているところへ、頃合いを見計らったのだろう元彼女が、僕のことなど歯牙にも掛けないような普段通りの様子で、極々自然に課長の隣の座布団へと陣取った。


 ――――作戦開始だ。


 すっかりマスターしたアイコンタクトで向かいに座る後輩ちゃんと意志を交わし合い、僕らは事前に取り決めて根回しをしておいた通りに、さり気なく上司や同僚達を誘導していく。


 僕らの会社は新入の若手社員以外は大体飲酒歓迎なので、こういう時には酔っ払ってて誘導しやすくて助かるね。


 そうして完璧な布陣が整った頃……僕と後輩ちゃんは肩を並べて、不貞の輩の元へと歩み寄っていく。

 ちなみにキッチリ断罪できるよう、僕も後輩ちゃんも実は最初からノンアルコールなのだ。


 そして――――


「いやぁ〜課長、いつも思ってましたけど随分と仲睦まじいご様子ですねっ! 妬けちゃうなぁ!!」

「な、なんだね、急に……ッ!?」

「はあ!? ちょっと、どういうつもりなんですか!? 私はただ課長にお酌を……」


 周囲に聴こえるように。大袈裟な声を出して近付き、僕の……いや、反撃を開始した。


「課長、やっぱりそうなんですね!? 怪しいなとは思ってたんですっ! 浮気なんて酷いです!!」

「ちちょ、き、キミ!? いきなり何を言い出す――――ッ!?」

「は……? どういうこと?? 何この女? ねえ、あなたフリーだって言ってたよね!?」


 困惑させ冷静にさせないように、今度は後輩ちゃんがを叩き付ける。


 そう。何を隠そう後輩ちゃんは、この僕の上司である課長とお付き合いをしていたのだ。

 そりゃあ、僕の怒りに共感しまくる訳だ。何のことは無い、僕も後輩ちゃんも相手に浮気されて、あろうことかその浮気相手がお互いの恋人だったのだ。


 怒りのドリームタッグの攻勢は終わらない。


「『フリーだって言ってたよね』……?? 良くそんな事が言えたね? 僕をフッた時どころじゃない。もっとずっと前から課長とイイ仲だったんだろ? 一人だけ被害者ヅラはずるいんじゃないの?」

「ッ……!? あんた、こんな場所で一体何言ってくれてんのよ!?」

「先輩に『スリルが無い』とか言ったらしいですね? どうでしたか二股課長との関係は? 浮気ですもんね、そりゃあスリル満点だったんじゃないですか!?」

「お、お前、なんてことを……!?」


 焦っちゃってまあ。でも手遅れなんだよねぇ。あんたらの周り、部長他役員さんや噂好きの社員やら、そういう人達で固めてるから。


「君……今の話は本当かね?」

「ひっ!? ぶ、部長!? ちが、違うんです、コレは……!!」

「ほらやっぱり〜! 怪しいと思ってたんだよね~」

「ちょ、ちがう、違うのよぉッ!?」


 もう遅い。これだけの上司や同僚達の前で醜聞を披露したんだ。社内での二人の評判は大暴落だ。


「部長、僕達はこのような理由で気分が優れないので、お先に失礼します」

「そうかね、気を付けて帰りたまえよ」

「はい! お疲れ様でした!」


 戦果を確認した僕は、後輩ちゃんと揃って席を辞して店の外へ飛び出した。


 やった、やってやった……! 興奮冷めやらぬ様子の後輩ちゃんと、思わずハイタッチをかます。

 これで課長なんかの当たりは強くなるかもしれないけど、知ったことか。僕は正当な怒りをぶつけたんだから。


「あー、スッキリしました!!」


 後輩ちゃんも満面の笑みだ。彼女も被害者だったもんね、スッキリできて何よりだよ。


「先輩……スッキリしたらなんかあたし……お酒飲みたくなってきちゃいました……」

「あー、僕ら飲まずに我慢してたもんね。どこかで一杯やってこうか?」

「ホントですか!? じゃあ、先輩のオススメのお店連れてってください! あ、もちろん元カノとまだ行ったこと無いお店で!」

「えぇぇ? あったかなそんなとこ……?」

「じゃあじゃあ、今回はあたしのオススメのお店で! 先輩の方は次までの宿題で!」

「ははっ、了解だよ。それじゃあ、案内よろしく?」

「はい! 任せてください、先輩っ!」



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