第13話 ハコフグが手を振る

私には若い頃からの持論がある。

犬は間違いなく笑う。


こう言うと、ほぼほぼの人が、あ〜はいはいって顔をする。

別に私はペットを飼う人でもないし、幻想を抱いている訳でもない。

これは実体験として間違いなく感じ取ったものだ。

昔、高校の下校途中、道を曲がった所で繋がれていた犬に遭遇した。

それはもう、とっても好きな人に出会えた〜という顔でニカ〜と笑った。

角度は変わっていないので、瞬間的に目を輝かせ笑ったのは間違いない。

(来る!)

私は咄嗟に理解して、繋いだ鎖の範囲外に身を引いた。

案の定、その犬は私に突進して前足を泳がせた。

相手してあげなくてごめんよ〜

その頃の私は子供の頃の熱狂的な犬好きは卒業していた、、


モーニングショーで専門家が、たまたま笑ったように見えるだけなどと言う。

口の構造上そうみえるのだと。

犬だけでなくいろんな動物で、結構な頻度で感情の豊かさを否定する。

専門家がいろんな知見を持っているのを否定はしない。

だが、生き物の知性や感情を馬鹿にしないでもらいたい。

人だけが知性に優れ、豊かな感情があるなんて思い上がりもいいところだ。



もうひとつの持論……魚には知性がある。

これは昔、慰安旅行先の賢島水族館で出会ったハコフグの行動による。


水族館では一面にはったガラスの向こうに大きな魚たちが回遊していた。

今ではよく見るようになったが、その頃の私には珍しいものだった。

ガラスの前に私は子供のように張り付いていた。

わっ…ハコフグ、でかっ! そんで可愛い、、

私が思わず手を振ったら、なんとハコフグも手(ヒレ)を振り返すではないか!

思考停止して固まったわたしは、気を取り直し再度手を振ってみる。

するとまたもやハコフグは私に手を振ってくれる。お〜

何回か繰り返しても同じだった。

しかもその間、回遊の動きを止めて私の視線の先に位置をキープしていた。


その時は楽しい思い出に過ぎなかったが、その後じわじわ感じ始める。

魚って、、頭ええんちゃうん?

実体験で確信していたが、そんな主張はバカバカしく思われる時代だった。

しかし、絶対魚は頭ええんやと信じてきたことが、なんと実証される時代になった。



ホンソメワケベラが鏡の自分を認識するのが分かったのは少し前。

今回のサボリという魚は両親以外(見習?)が子育てを手伝う協同繁殖魚である。

ところが手伝えない状況を作ってみると、両親から体当たりされて罰を受ける。

叱られた後はいっそう手伝いに励むなど、状況に応じて行動を調節している。

集団生活の中で、人のように相手の目的を推測する高度な認知能力が培われている。


ことは魚だけに収まらない。

ニシキテッポウエビとエビの掘った穴を隠れ家にするハゼとの関係も驚きだ。

隠れ家の提供のかわりに周りを警戒するだけと思われていたが、、

互いにエサを与え合い、ハゼの尻尾の振り方で危険か安全か伝えている。

利害関係は複雑で、高度な認知能力を駆使して関係を維持している。


ドイツの研究チームは魚に計算能力があることを証明した。

脳神経科学分野では、人と魚の賢さの共通基盤が発見された。

魚には人と同じパターンの神経回路が備わっているのが分かったのだ。

さらに、特有のショートカット経路まであるという。

私の持論はどんどん確立されるようだ。



イルカやクジラの知性を過大に評価し、仰々しく宣う風潮がある。

もちろん私も出来る限り自然な生を全うしてほしいほうである。、

しかし牛も鶏もそして魚も、全て生きものは同じで、それぞれ尊い命である。

菌に至るまで、延々現代まで生き残ってきた知性が詰まっているのだ。

その上で命をいただく覚悟を人は持つべきだと思う。

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