第6話 崇高な振る舞い

「次世代に復讐の連鎖を残したくない」


ハマスに両親を殺害され、悲しみに涙するマオズ イノンさんの言葉だ。

両親も生前、壁の向こうの人々が安心して暮らせるように願っていた、と。

この美しくも崇高な精神に心は揺さぶられる。


イスラエルにマオズ イノンさんのような人がいたのに安心する。

二つの国には、互いに疎み憎しみ合う関係しか無いのか、、

そういう暗澹とした思いだったから。


ヘブライとアラブの子供達が仲良く学ぶ学校は襲撃される。

戦争ではなく平和を目指す人々を邪魔者とみなすのは誰なのだ。

当然と言える怒りに囚われ、まさに復讐を手放せない人々。

そういう人々が、領土や権利に固執する一部の層に踊らされる。

なおかつアメリカや露中の思惑にも踊らされる。


互いに謂れの無い攻撃を受け、又謂れの無い報復をする。

反転して自分側の人々を殺しているようなものだ。

そこに未来は無い。


双方のより良い未来のために怒りを手放すには壮絶な覚悟がいる。

その姿を見たのは初めてではない。


広島にエラノゲイに乗っていた元米兵が訪れたことがあった。

被爆者との会談の様子がテレビで放映された。

この時被爆者が、核の悲惨さと二度と使わない世界をと訴えた。

生まれたばかりの子供になんの罪があるのかと。

この時の返答が、敵の子供に生まれたことに罪があったんだというものだった。


唖然として怒りに駆られた私だったが、、

少しのぎこちない沈黙の後、この人たちは又穏やかな声で説得を始めたのだ。

多分その沈黙の一瞬、手の平に爪を食い込ませたのではないだろうか。

それらを超えた崇高な振る舞いに頭が下がった。


怒りや復讐に囚われず、未来を見据える姿を再びマオズ イノンさんに見た。


このような振る舞いができる人々に畏敬の念と最大の賛辞を贈りたい。



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