第7話 夏休み

「隆くん、明日、疎水のプールに行こうよ」

 隆たちも二年になっていた。先輩たちが抜け代わりに新入生が今年は六人も入っていた。


隆も美子の教えもあり、後輩にサックスを教えられるまでになっていた。

八月に入ったある日、部活の帰り、いつものように美子との帰り道だ。

 疎水とは、琵琶湖から京都市内へ水を送る運河だ。その途中、岡崎の動物園の裏当たりに、プールが設置されていた。


 隆も何度か行った覚えがあるが、木立に囲まれた開放的なところで、夏は多くの市民が利用していた。

「え、ビキニ見せてくれるの」

「ばーか、そんなの持ってないよ、ビキニじゃないと行ってくれないの?」

 美子はちょっとすねた表情を見せた、可愛い。

「まさか、美子の水着かあ、どんなのだろ」


 隆たちの中学にはプールがなかった。あったとしても、人数が多すぎて授業にはならなかったかもしれない。

「あ、やらしい想像してる、スケベ」

 美子が笑う、けれど、ほんの少し違和感を覚えた。その違和感は美子の家の前でも感じたが、隆は気のせいだと思った。


 翌日は天気が良く、というより暑すぎるぐらいの日で、絶好のプール日和になった。

「最初のデート、動物園だったね。楽しかった」

「ね、美子、なんかあった」

 どこかいつもの美子とは、違う。

「ううん、男子の更衣室向こうだよ、私は見られてもいいけど」

 

 美子はビキニではないけれど、上下に分かれた、おへその見える水着だった。

 可愛い、隆は思わず周りを見渡した。ほかの誰かに見せたくないな、そんな純情なことを思ったのだ。

 疎水だけあって、ここのプールは流れがあった。浮いているだけで楽しい。


 水中に潜ると水が澄んでいるのか、はるか向こうまで見ることができる。

「だめだよ、よそ見しちゃ、私だけを見て」

 いつもながら勘が鋭い、プールサイドにはそれほど多くはないが、本当のきわどいビキニを着た女性たちがいる。


 水中では誰の目を気にすることもなく、きわどい部分を楽しむことができる。ついそっちを見そうになるのも仕方がないと思うのだけど。

 美子が、いつも以上にじゃれついてくる。セパレートの水着だということを忘れていないかと思うほどだ。素肌が触れるとドキドキしてしまう、海パンだと何を考えているかがばれてしまいそうで、少しばかり心配だ。


 夏とは言っても昼三時を過ぎると、木立の影は涼しい。さすがに半日はしゃぐと疲れてしまった。

「河原町よって帰ろうよ、あの喫茶店に行きたい」

 美子の言うあの喫茶店が、どこのことかは聞かなくてもわかる。薫と出会ってしまった場所だ、ただなぜかが隆にはわからない。

「今日、誰も家に帰ってこないんだ、うちに泊まって」

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