第5話 傍から見ても
藤野薫は小学校五、六年の時の担任だ。大學を一昨年卒業したばかりの二十二歳、採用されて最初の職場が隆の通う小学校だった。
どこか大学生のままみたいの彼女はよくミニスカートで学校に来ていた。ちょうど英国のツイーギーが来日したころで、日本中でミニスカートが流行りだしていた。
テレビの中や街中なら問題はないだろうが、小学校の先生は、立ったりしゃがんだりどころか、飛んだり跳ねたりすら日常だ。必然スカートの中身を見せることが多くなる。
セクハラなどという言葉がなかったころだ、男性教師は鼻の下を伸ばし、年配の女性教師はカリカリする。彼女はそのどちらも無視していた。
小六ともなれば男子児童の大半は、マスターベーションを経験している。そんな彼らの中でも彼女は見せまくっていた。というより後で本人から聞いたところでは、見られることを楽しんでいたという。
隆が薫と寝たのは、雨の降り続く梅雨の木曜日だった。図書室で誘われたのだ。なぜ隆をとも思ったが、ちょっと小生意気な彼を、からかってやりたかった、と本人から隆は聞いた。
藤野薫はそんな教師だった。ただその関係も隆の卒業で終わったはずだった。
「おはよ、昨日はありがとう」
隆のクラスは階段の横にある。その奥が美子のクラスだということもあって、彼女はよく階段脇で隆を待っている。
「今日一緒に帰ろ、誰もいないから」
それだけ早口で言うと、美子は自分のクラスの方に足早で言ってしまった。
聞き間違いかもと思ったが、はっきり誰もいないと言ったはずだ。
今日は体育に理科に技術ということで自分の教室にいることが少なかった。結局美子とは部活の時間まで顔を合わすことはなかった。
「葛城君、美子ちゃんとなんかあった?」
休憩時間に、上水流さんと、立石さんに尋ねられた。美子はクラリネットの上田とトイレかもしれない、音楽室にはいなかった。
「え、別に何も」
女子は本当に鋭い。正直なところ隆はドキッとした。
「昨日デートしたんでしょ」
「なんでそれを」
「みんな知ってるよ、駅で見かけた人いるもの」
そうだった、考えてみれば日曜の朝だ、遊びに行く人はみんな同じ駅を利用する。
「で喧嘩でもした?」
「いいえ、なんでそう思うんですか」
「ならいいんだ、何となくだから」
というところで美子が戻ってきた。
どうして、みんな一緒の方向なんだ。二人で帰るはずが、上水流さんと立石さんが一緒に帰ろうと誘ってくれた。逆に二人のために気を利かせてくれたのかもしれない。
まあ、みんなでワイワイ言いながら帰るのは楽しいが、何となく美子の機嫌がよくなさそうな気がする。
いつもより、笑い声が少ないと思うのは気のせいだろうか。
「じゃ、美子ちゃん、また明日」
美子の家が学校に一番近い、そこから十分ぐらい歩いて、上水流さんと立石さんの住む住宅地になる。
二人との話は楽しいが、今日に限っては不安があった。
「また明日、お疲れさまでした」
二人を見送ると、隆は自転車に飛び乗った。
美子の家の前で自転車に鍵をかけると、深呼吸をしてチャイムを押した。
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