第4話 ばったり
鴨川べりに戻り、しばらく座ってとりとめもないことを話していると、なんか本当に恋人同士みたいな気分になった。
となれば喫茶店だ、寺町に戻り「リプトン」に入った。紅茶の専門店だけどパフェがおいしい。
「隆君、大人なんだ」
「え、なんで。来たことなかった?」
「うん、うちお父さんもお母さんも大阪方面ばっかりで、職場がほら」
中沢の父親も実は大学の教員だった、母親は公務員、今の隆からはちょっとまぶしい家族だ。
「そっか、梅田の方が多いか」
「なんだけど、あんまり連れて行ってもらってないかな」
二人とも忙しくてあまり家にいないということらしい。さっきとは逆に、今度は隆が謝る番だった。
意外と、みんな悩みや悲しみを抱えているのだと隆は初めて気づいた。いつも元気な美子にも、そんな寂しさがあるとは思ってもいなかった。彼女との距離は、格段に近くなった気がした。
「あれ、葛城君、久しぶり」
突然、背後から聞き覚えのある声がした。振り返りたくなかった、がそうもいかない。
「こちらは、彼女さん? 隆くん好みのかわいい人ね」
藤野薫だ、小六の時の担任。薫はざっと美子を値踏みするように視線を走らせた。
「先生、お久しぶりです。お元気でしたか
「中沢美子さん、一緒の部活の」
「部活、なに」
「ブラスバンドです」
美子が答えた。ちょっと声がとがっているように思える。
「あ、なるほど、隆君って、舌を使うのうまいもんね、楽器吹くのにピッタリかも」
誤解を招く、まあ実は誤解じゃないが、言い方だ。明らかに美子に聞かせている。
「じゃ、また連絡してね」
薫は意味深な視線を残して立ち去った。
美子は急に無口になった。薫と隆の関係に気が付いたに違いなかった。
「隆くんさあ、大人びて見えたんだよね」
そういうと美子はまた黙り込んだ。
帰りの電車は、行きとは違い会話が弾まなくなっていた。
「ね、疲れた? 一日歩いたもんね」
「うん」
「おそくなったね、怒られない」
「うん、大丈夫」
行きと違い、隆がいくら話を振っても話題は進まない。
阪急の駅から、美子の家までは歩いて五分余り。自転車を押して歩いたが、その間も美子は黙り込んだままだった。
「ここ。今日は楽しかった、ありがとう」
隆の住むぼろいアパートとは違い、庭のある一軒家。最初に見たときは、少々うらやましい気持ちがあった。
「隆くん」
美子の声に振り向いた隆に、彼女はいきなり抱きついた。ぐいと頭が引っ張られ唇が押し付けられた。
「愛してるから、お休み」
美子は、そういうと一目散に玄関のなかに消えた。
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