第2話 レプリカ
「なるほど、そういうことなのですね」
説明を聞き終わったわたしは、この世界と自分の役割について、なんとなく理解できた。
ここは「レプリカ」と呼ばれる場所。
「レプリカ」はこの惑星の名前であり、この星唯一の国の名前でもある。
レプリカは、汚染に飲み込まれつつあった別の惑星から避難してきた人々によって作られた国らしい。
何もない星に、いちから国を作るため、最も高い知能を持った「イクス」という名を長とした。
イクスはその優れた頭脳で多くの規則を制定し、「レプリカ」を理想の国として維持するため国民たちに守らせた。
しかし、イクスの規則は非常に厳格だったため、国民の中には窮屈に思い、逸脱した行動を取ろうとする者も少なくなかった。
イクスが作り上げた秩序は乱れていき、「レプリカ」はイクスの理想の国からどんどん遠ざかっていった。
イクスにとって、それは許容できないことだった。
「レプリカ」は、故郷を凌ぐ理想の国であるべき。
自分の作った規則は完璧であるはずなのに、なぜ国民たちはそれを守ることができないのか。
一週間にわたり熟考した彼は、ある結論に至った。
この世界には、愚かな国民を監視し、規則を守らせるための管理者が必要だ。
そして、国民の質も上げていかなくてはならないと。
イクスは自らの遺伝子を使い、イクスのコピーを作った。
管理者という重要な役割を、他の愚かな国民に任せることはできない。
優秀な自分のコピーを作り、そのコピーに管理を任せるのが一番良い。
コピーは遺伝子操作により老化を遅らせ、長寿命化。心臓は機械と融合させ、コピー間で通信・同期可能な生体ネットワーク機能を構築した。
コピーたちは「レプリカ」の管理者として、イクスの期待どおりの働きを見せた。
国民を監視し、規則から逸脱するもの、秩序を乱す国民は容赦なく捕らえて排除した。
こうすれば、国民の質も上がっていくと信じて。
始祖であるイクスはもう何百年も前に亡くなったが、イクスのコピーたちは何度かコピーを繰り返しながら、今も理想の国を維持するために管理者としての使命を果たしている──。
わたしは、クロの説明を反芻して、複雑な気持ちになった。
「あの、クロさん」
「クロで構いません」
「では、クロ。わたしがイクスのコピーで、史上初の女性型で、管理者としての使命を負っているというのは理解できたわ」
「それはよかったです」
クロが安心したように微笑む。
「理解はできたけど」
「けど……?」
「この国のシステム、なんかおかしくない?」
正直、イクスの思考は異常だと思う。
理想を持つのはもちろんいいことだろう。
でも、国民を監視して、少しでも理想と違えば排除するなんて、やりすぎではないか。
いくら国の長だとしても、そこまでの権限が彼にあったとは思えない。
「みんなは、それでいいの?」
わたしがクロに尋ねると、クロはあからさまに慌てて首を勢いよく左右に振った。
「い、いけません! そんなことを仰っては……! 始祖イクス様のお考えはこの国の根幹です。みな当然のことと思っております」
「ええ……でも」
わたしがさらに食い下がろうとすると、クロは必死な顔で口元に人差し指を当て、これ以上は言わないようにと訴えてきた。
「iks-099様は始祖コピーのはずなのに、なぜそのようなことを仰るのですか……」
心底困ったように眉を下げるので、わたしももう意見はやめようと口をつぐむ。
「……では、ご説明は終わりましたので、僕は失礼いたします」
「うん、ありがとう」
丁寧に頭を下げて退室するクロを見送ったあと、わたしは近くにあった椅子にどさりと腰を下ろした。
「わたし、
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