第9話 地下研究所
進む、進み続ける。只々真っ白な道を。隣には双子の妹と自分より大きな白衣を着た大人達がいて、大人は無表情で自分達を何処かへ連れて行く。連れてかれたのは大きなガラス張りの部屋だった。
「ねぇ君達は誰?」
「誰?」
ガラス張りの部屋に入れられるとそこには2人の少年?がいた。ちょっと中性的で分かりずらいけど、自分より5、6歳上の少年。多分2人は顔が似ているから双子、又は兄弟だと思う。2人は自分と同じ目線にしゃがんで質問してきた。
「分からない…」
自分が誰なのか、此処は何処なのか、全てが分からない。ただ分かるのは妹だけ。妹は自分の後ろで隠れている。
「そっか。」
「じゃあ、しょうがないね。」
微笑み、優しく頭を撫でてくれた。何だか心がほわほわする。懐かしい暖かさに少し笑みが溢れる。
「ねぇ、お兄さん達は?」
「僕達は「実験体F-387とF-344出て来い。」」
彼らの声を遮る様に鋭い声が謎の番号を言った。
「呼ばれたみたい。」
「また後で会おうね。あっ、待ってよ!兄さん!」
2人は笑顔を見せると、小走りで呼ばれた方に向かって。これが2人との出会いだった。
「何処に居るのかな、お兄ちゃんは… いけない、自分の事しないと…」
そう呟くと部屋に収納されているファイルを見始めた。それには全て実験体名や実験内容など実験に関することがまとめられていた。
地下への入り口は資料書倉庫の本棚を退けるとあった。壁や階段全てが真っ白で、時々階段を踏み外しそうになる。一段降りていく度に緊張が走る。どんな事が行われているのか、どんな奴がいるのか、ちゃんと救出は出来るのか。不安が心の中で渦巻く。だけど、成功させないとという強い気持ちは揺らがなかった。
階段の終わりが見えてくると2人は警戒を強めた。手には銃を握り、お互い能力の発動を準備していた。セラスは少し冷気を発して、白い靄が体を包んだ。
降りるとそこに広がっていたのは、大きなガラスで出来た筒状にそれを操作するためのパネルが付いている土台がある機械だった。その筒の中は液体で満たされていて、ホルマリン漬けされた様な人間が入っていた。
「まさかこんなに酷いとはな。」
「えぇ…」
1つや2つじゃない、数十人もの入れられた機械が広がるその景色に、何とも言葉に出来ない気持ちが込み上げてくる。エラルドは警戒せずに機械に近づき、パネルを操作した。
「やっぱり…」
パネルには個体の情報が入っており、見ると何日にどの実験で死亡したのか書いていた。分かりきっていた事をもう一度突きつけられたこの気持ちは何処かに発散したかった。ずっと心の中がモヤモヤする。
「セラスさん。行きましょう。」
「そうだな。」
自分が指示する立場ではないと自負しながらも、それでも今は言うべき時だった。今自分はどんな表情をしているのだろう。分からない、いや、知らなくていい。自分がどんな表情をしていたとしても、任務の遂行は必須だ。
数メートル離れた次の部屋へ行こうと、背を向けた瞬間、ドンッと大きな音と共に強い振動が床を走り体を駆け巡る。
「何だ!」
「あら可愛い坊ちゃん達だ・こ・と♡」
振り返るとそこに居たのは真っ白な羽に包まれた腕、鶏の様なゴツゴツとした足、蛇の様な尻尾、その姿からは想像出来ない端麗な顔立ち、鮮血の様な赤い髪、まるで伝説上の生物“コカトリス”を擬人化させた様な見た目の女が立っていた。
「氷雨。氷柱。」
セラスは焦りの表情は見せず、淡々と敵に攻撃を撃った。霰が上から降り注ぎ、半径1mの氷の円柱が下から攻めてきて、逃げ場が一切無いと思われた。
「あらあら、血の気が多い子ね。」
だが、そんなのは気にせず、私困るわ〜と言いながら後ろに飛び、軽々と避けた。だがセラスもそこを見逃す筈もなく、空中にいる敵へさっきよりも多い数で全方位から攻撃をした。これで決着がつくかと思えたが、女は強靭な足で空を切り裂く様に回し蹴りをすれば、氷は粉々になり地へ落ちていく。もう一度攻撃をしようとした瞬間、女は視界から消えたのと同時にバサッと何かが開く音がした。上を見上げると女が腕に付いている真っ白な羽を広げて、空中を飛んでいた。天井近くまで飛び上がると今度は天と地を変えるように、天井に足を着けて蹴り上げた。落下と天井を蹴ったことによりスピードが上がり、一気にセラスに向かって頭から落ちてきた。
「氷壁。」
地面に手を着き、唱えると厚さ2、30cmある氷の壁が聳え立つ。
「こんな氷如きで、わたくしの道を遮られるはずが無いでしょ!」
高らかに言う声と同時に氷壁は砕かれ、あと数メートル先へと近づいてきた。流石に焦ってきたのか、セラスは強く奥歯を噛み、女を睨みつけた。
「これでわたくしの勝ちね!」
確信したかの様に宣言すると、体を回転させセラスの頭部へと踵落としをするが氷の剣で受け止められた。だけど、此処までのスピードや勢いが削がれることは無く、強い力が剣を持つセラスの腕や肩にのしかかる。
「クッ…」
食いしばった口から呻き声が漏れると、女は嬉しそうに笑みを零し、より足に力をかける。力は段々と女へと傾き始め、ジリジリと後退させられていく。セラスも負けじと力を振り絞るが、最初に限界を迎えたのはセラスでも女でもなく、セラスの氷剣だった。ピシリと走った小さなヒビは雪崩れの様に止まることを知らず、蜘蛛の巣の様に亀裂が走る。そのヒビが剣を覆い隠した時、終わりを告げる様に砕け散った。
この戦いが終わる、そう思えた__
パンパンパンッ
3回発砲音が響き渡ったと思った瞬間、女の背中に3つの紅い穴が空いた。
「あ゙あぁ!」
女は悲鳴をあげ、力無く無様に地へ堕ちた。女は銃声音がした方を怨めしそうに視線を向けると、無表情で銃を構えたエラルド=フォリアが立っていた。
「ハハッ何故貴方が此処に…」
女の乾いた笑い声と震えた声が口から漏れた。さっきの怨めしそうな表情から青ざめた顔へと変わり、口は戦慄き、瞳は恐怖の色に染まっている。
「あぁやっぱり君か。まぁどうでもいいや。兄さんは此処にいるか?リーユ=ヘンネ。」
銃口を女「リーユ=ヘンネ」に突き付けると、冷淡な声色で問いかけた。
「いえ、ヘイズ様は此処には居ませんッ!」
「そっか。じゃあ別の質問にしよう。兄さんがどこに行ったのか知っているのか?」
「いえ、わたくしは何も知りません!ここ数年ずっと此処にいた為、外の情報は殆ど入ってきませんでした!」
全て答えるとお許しくださいと涙を流し、懇願の言葉を述べた。だが許すことはなく、引き金に手をかけた瞬間。
「何故その女を知っている。」
セラスの鋭い声が飛んできた。
「あぁ、彼女は元仕事仲間です。兄さんについてはリアムさんが知っていると思うので、気になるなら聞いてください。」
引き金に手をかけたまま、セラスに背を向けて淡々と語った。
「その女は殺すな。尋問する。」
「尋問ですか?う〜ん、多分意味ないと思いますけど良いですよ。ねぇ、良いよね?リーユ?」
「は、はい。生かしてくださるならどんな事でもッ!」
目を細め、口角を上げ、首を傾げながら問いかけと、涙でクシャクシャな顔で何度も生かして下さるならと呪文の様に唱えた。
「ヤマホタルブクロ。」
エラルドはリーユの首に人差し指を突き立て唱えると、俯いたように釣鐘型の花が咲いている植物がリーユの首に巻き付いた。リーユの瞳から光と涙が消え、虚ろな眼には微笑むエラルドが映った。
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