第8話 研究所

「これが…」


 例の研究所に辿り着いたが想像以上に巨大な建物だった。こんな大きな施設で堂々と実験をしているのかという驚きと、ここは狂気の無法都市だからという納得の気持ちが渦巻いていた。


「行くぞ。」


 着いていくと違う場所だが見覚えのある所に連れて行かれた。それは…


「また下水道なんですか!?」


「静かにしろ。もう此処は敵の根城なんだぞ。」


「うっ…すみません。」


 眉を下げて謝るが、まだ怒っているのか怒っていないのか分からないが、ずっと冷淡な瞳は先の道を見ていた。今回も下水道だが昨日行った所とは違い、溝と言うより薬品の臭いが強かった。数十メートル歩くと上に上がれる梯子があった。少し錆び付いているが、問題なく登れそう。そう思っていたがセラスは梯子を見なかった。見落としているのかと聞こうと口を開いた瞬間


「そこから上がるつもりはない。罠がある可能性があるからな。」


 と先に言った。そっかと思いながら、また静かにセラスの後を歩いた。静寂が2人の間に漂う。その空気を切り裂けるほどの勇気はないし、場所も考えてエラルドは口を閉じた。もう数十メートル歩くと急にセラスが立ち止まり、壁に触れた。そのままゆっくりと横にズレていくと、突然手が壁に減り込んだ。


「ソフィアとアリアが作った隠し通路だ。」


「かなり高度な隠し通路ですね。」


「まぁそうだな。これを作るのも大変みたいだったらしい。それじゃあ行くぞ。」


 壁の中へ入り込むと綺麗な銀色の梯子が掛かっていた。音を立てないように一段一段慎重に上っていく。自分が何処にいるのか分からないまま、只々上り続けた。上の方まで来たのかセラスが止まった。上を見ようとするがセラスの体で見えず、この先がどうなっているのか分からない。どうするのかと様子を窺っているとセラスが急に退いた。正確には横のダクトに進み始めた。ダクトを進むと部屋の天井についてある長方形の換気口から室内が見えた。さっき上っていた方を見たら壁があり、多分この部屋と隣の部屋の間を上っていたんだと思う。


 もう少し進むとセラスが手招きしてきた。何があるのかとセラスに近寄るとさっきと同じ換気口があった。覗けばそこには成人以下の子供が十数人居た。


 セラスと視線を交わすと頷いた。救出するためにもう一度よく室内を視る。監視カメラが4台、熱感知機が一台、子供達の首には金属製の首輪、鉄壁な守りをされているため救出するにも出来ない。一番厄介なのがあの首輪だ。毒針がしこまれているのならいいのだが、もし小型爆弾だったらこちらにも被害が出る。しかも一つではない。17人、全員が着けている。


 救出の最善策を考えていると肩を軽く叩かれた。顔を上げセラスを見ると、顔を近づけてきた。そしてエラルドの耳元に口を寄せ、小さい声で囁いた。


「お前の能力はなんだ?」


 そう言われれば言っていなかったのに気がついた。


「《緑の世界モーンドヴェルト》植物の魔法です。」


「それは何か制限があるか?」


「いえ、条件無く何処でも発動可能です。」


「じゃあ、あの首輪を同時破壊は?」


「多分いけます。」


「それじゃあ強引に行くぞ。」


「えっ!」


「降りると同時に能力を発動だ。」


「分かりました。」


 かなり不安な作戦だけどセラスにも考えがあるはずだから、信じて自分のする事だけに集中しようと心の中で誓った。小さく深呼吸をすると換気口のカバーを外した。


「3、2、1、0」


 掛け声と同時にセラスが降り、すぐにエラルドも降る。それと同時にお互い能力を発動させた。


「銀世界。」


「アイビー。」


 セラスは部屋一面を白銀の雪の世界へ変え、機械系と唯一ある扉を凍らせ、停止、施錠をした。エラルドは丸みのある星型の葉のツル植物“アイビー”を生成し、首輪に絡ませ、強引に外した。成功かと安心したのも束の間、外れて空に浮く首輪がピピピッと音を鳴らした。予想通り爆弾が仕組まれていた様で爆破まで2秒ぐらいだ。だがエラルドには打つ手はなく、どうすることも出来なかった__


氷零花ひょうれいか。」


 後ろを見るとセラスが首輪の方へ、空へ一の字を描く様に腕を振るった。その瞬間、空中に浮いていた首輪は氷の花で包まれた。カランと音を立てて、床に落ちた。セラスの機転のおかげで爆破は免れた。だがまだ終わっていない。どうやって此処から出すのかを。


「この子たちはどうするのですか?」


「安心しろ。すぐ来る。」


 子供達に背を向け壁を見ていると、歓迎会の時と同じように金色の光の粒子が集まり、ゆっくりと扉を構成していった。扉から出てきたのは。


「この子達が目的の子達ね。それじゃあ此処は任せて!」


「安心してください。向こうまで安全に連れて行きます。」


 笑顔で元気よく言うアリアと何を考えているのか分かりづらいティアモ。真反対の2人だった。


「それじゃあ、ティアモ任せる。エラルド行くぞ。」


「はい!」


 何でティアモにだけ頼んだのか、疑問に思いながらもセラスの後についていくが。


「堂々と行って良いんですか?」


 敵の陣地だと言うのに、今普通に廊下を歩いている。


「監視カメラは全て停止している。これから他の奴が居ないか調べる。ついでに研究者も皆殺しだ。」


「は、はい。」


 ハッキングでもして監視カメラを停めているのかな?など思いながら一つ一つ扉を開けて調べる。2人で探すには広すぎるため、一時的に別れそれぞれ探すことになった。


「トリカブト。」


 唱えると紫の鎧を着た騎士が2体現れ、エラルドを守る様に動く。名前の通り毒を持ち、騎士の剣で切り裂かれた者は痙攣して死んでいった。


 開くたびに実験機材や実験後の血塗れの部屋など、実験の非道さが窺えた。数十個扉を開いたが何処にも人は居なかった。


「あれ、此処は__」


 エラルドはとある部屋を開き立ち止まった。そして小さく笑みを零した。







「何か見つけたか?」


「いえ、ありませんでした。」


「そっか…」


 セラスと合流するとお互い情報共有をした。セラスの方には実験体にされていた子達が居たらしく、救助と研究員を殺していたらしい。自分の方は実験体を人間から動物へシフトチェンジしていたらしく、研究員しか居なかったと伝えた。


「地上は制覇したなら次は地下だ。」


 地下は地上の建物の1/4ぐらいしかないらしい。その分、此処より厳重らしい。入り口の目星はついているらしく、敵を殺しつつ目的地へと歩いた。

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