第5話 歓迎会
「着いたよ。」
案内されたのは一階の階段の後ろだが、そこには壁しかない。
「此処ですか?」
「うん、あと少しで開くから待っててね。」
アリアはそう言うと腕に付けている植物をモチーフにした時計を見つめた。エラルドも自分の時計を見るが今は18:48と微妙な時間だ。
18:49__
「それじゃあ開くよ。」
ボーっと秒針を見ていたが、アリアの声で現実へと引き戻された。
「は、はい!」
返事をするとアリアがパチンッと指を鳴らした。何が起きるんだと壁を見つめると金色の光の粒子が集まり、ゆっくりと扉を構成していく。扉は完成するとギィーと音を立てて開き、眩い光が放たれ、エラルドとアリアを包んだ。眩しくて目を瞑り、光が落ち着くとともにゆっくり開くとそこには
「エラルド=フォリア歓迎会!!」
と書かれた横断幕が天井から吊るされており、みんなグラスを持っていた。飲み物は人それぞれでシャンパン、ワイン、日本酒、ジュースなど、自分の好きな物をグラスの中で踊らせていた。
「エラルド君は何を飲む?」
「じゃあシャンパンでお願いします。」
「OK!」
傾けられた瓶からシャンパンが、グラスの中へ滝のように流れ落ちる。入れて貰ったグラスを持つとリアムがグラスを掲げて、大きな声で
「エラルド=フォリア、君を今日からエリミネイトの一員として歓迎する!乾杯!」
と乾杯の音頭を取り、みんなもそれに合わせて
「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」
お互いのグラスをぶつけて、透き通った音を鳴らした。
「ラルくーん♪」
酔っ払ったメオに抱きついてくる間、他の方々を見ていた。
「ねぇ気になっていたんだけど、メオは何飲んでいるの?僕が嗅いだことのない匂いのお酒なんだけど。」
「あ〜そっかぁ、知らないのかにゃぁ~ 猫人族はねぇ、マタタビ酒しか飲まにゃいんにゃ〜」
「そっか、マタタビか…」
「ラル君も飲むにゃぁ〜?」
「いや、遠慮しておくよ。」
「そっか〜あっ!アリニャ〜!」
エラルドの返事が気に食わなかったのか、それとも興味の対象が変わったのか分からないが、メオはフラッとエラルドからアリアへと絡む対象を変えた。
メオが居なくなりエラルドはちびちびと飲んでいると輝く金色の髪に金色の瞳、切れ長な釣り上がった目、髪と同じ光沢のある艶やかな狐の耳と尻尾が付いている狐人の女性が近づいてきた。隣にはふわふわな灰髪に、狐人の女性と同じ金色の瞳。髪と同じ色の狼の耳と尻尾、ぱっちりとしていながら少しツンとした目や血色のいい艶やかな肌、ほんのりと桃色に染まった頬、背も低いため全体的に可愛らしい男の子がいる。
「こんばんは、わっちは夜桜紅と申す。そしてこっちが息子の。」
「雷牙だぜ!可愛いって言うなよ!」
裾の方に行くにつれ黒から紅色に変わるグラデーション生地に、月夜に輝く桜の絵が描かれた着物の袖で口元を隠し、目を細めてエラルドを見ている。雷牙はニカっと笑い、尻尾をふりふりと揺らしている。
「初めまして、エラルド=フォリアと申します。」
「よろしゅうな。エラルドはちゃんと飲んでおられるか?」
「飲んでないならこのジュース飲みなよ!美味いぜ!」
「まあまあ飲んでますよ。ちょっとほわほわしていますしね。」
「そっか、意外と酒に弱いのか…一緒に飲み語りたいと思っていたが無理そうだから、リアムに絡みに行くとしようか。」
「ほわほわしているなら飲めよ!美味しいぞ、リンゴジュース」
「んふふ。かわ…ん゙ん゙んかっこいいね雷牙くん。」
にっこり笑い、手に持っている多分飲みかけのリンゴジュースを渡そうとする姿に、つい可愛いと言いそうになったが咳で誤魔化してかっこいいねと言い直した。雷牙が少しジト目で見ているような、いないような……。
「ふ〜ん、まぁ飲まねぇんなら俺が飲むぜ!」
「そうだね。今は要らないから雷牙くんが飲みな。」
「おう!」
「それじゃあ、わっちはリアムの所に行っておるから、ソフィアちゃんとでも遊んでおれ。」
「分かった!じゃあな、エラルド!」
2人はそれぞれ別の人の所に行った。
これでゆっくり出来るなぁ。楽しいな…みんな笑顔で、これからこの人達と一緒に仕事をするんだ。まだ数人としか話してないから不安もあるけど楽しみでもある。
ゆっくりとグラスを傾けてシャンパンを飲み干す。繊細で濃厚な泡が弾けながら喉を通り、胃へと入っていく。酔いがゆっくりと体を回り、思考が減速していく。
「これから楽しみだよ。ねぇ兄さん。」
「まさかあいつの弟が来るなんてな。」
感慨深そうに言うリアムの声が執務室に響く。隣にいるティアモは静かに立っている。
「ヘイズ=フォリア… これは定められし運命なのか?」
静寂が漂う。ただ静かに時間だけが過ぎていく。
「どうでしょうね… 偶然か必然か。そんな事を私達が考えたところで、流れに逆らえず流されるだけだと思います。」
さっきまで静かだったティアモが静寂を切り裂くように言葉を発した。
「まぁそうだな、ティアモ。」
「はい、リアム様。ただ貴方が流れに逆らうと言えば、私は道を切り拓きます。貴方の前には “不可能” と言う言葉は無いのですから。」
片膝を床に付け、忠誠を誓うように頭を項垂れて言う言葉に、リアムは口角を上げた。
「そうだな、その時が来た時には頼むぞ。」
「はい、私の全てはリアム様の物ですから。」
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