立体文字

スパゲッちぃー

第1話


ある日、空から立体文字が降ってきた。

降ってきた立体文字はそれから人の頭の上に浮かんだ。

その立体文字はスライムでできており、その人の抱く感情を表しているらしい。

何とも空想科学的な現象だ。

でもこれが夢の中ではない事がとても恐ろしい。


朝の通勤ラッシュ。

改札から出る会社員の上には(鬱)という文字が無数に浮かんでいる。

何ともシュールな光景だなと思い、不思議な感覚がした。



夕方の黄昏時。

帰路の途中、無人の公園で男子高校生がスラックスを履く女子高校生に何かを言おうとしている所を見た。

その男子高校生はちらちら下を俯いている。

告白でもしようとしているのだろうか。

それよりも気になるのはその女子高校生がスカートを履いていない事だ。

やっぱりジェンダー平等が説かれている時代だからなんだなと思った。


「せ、先輩!俺ずっと好きでした!付き合って下さい!!」


男子高校生の震えながら言う声に、自分まで緊張してその成り行きを見守る。


「ごめんね。私、恋人がいるから付き合えないんだ…。

でもね、好きっていう気持ちは嬉しいよ、ありがとう!」


「はい………」


振られて落ち込む男子高校生の頭の上には(ぴえん)という立体文字が浮かんでいる。

どうやら神様はネット用語にも対応しているらしい。


*********************

それから、1ヶ月…2ヶ月………そして1年が経った。

頭の上に浮かんでいる文字はある日を境に(30)という数字に変わった。

人々は謎の(30)という数字に立体文字の時よりも怯えていた。

ノストラダムスの大予言の何かだのオカルトチックな事ばかり話すようになった。

そして突然、その(30)という数字からカウントダウンが始まる。


30 29 28 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11


一体何のカウントダウンなのか…………。


10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0。


(0)になった瞬間、想像できない事が空の上で起きた。


空から無数の机が降っている。

目の前で起きている事が理解不能すぎて、一時その場に立ち尽くす。


「キャー!!!!!」

「うわあああ!!!!」


辺りに居る人は悲鳴を上げながら建物の中に逃げ込んでいく。

あぁ、今日はあいにくの曇天だなぁ……。

建物に入って身の安全を確保するのはもちろんだけれども、それは勿体ないと思う。

こんな現象はオーロラや金環日食と比べものにならないくらい摩訶不思議な現象だ。

そう思い、無性に騒ぎたい衝動に駆られてくる。

随分前に見た女子高校生みたいに普通に囚われずに、自分が思うがままに行動しても良いのではないだろうか。

多分、自分は頭のネジが1つ、2つ、いや10個外れている。

普通の人間はこの非常事態にこんな発想には至らない。

それでも異常な人間で良いや。

普通を気にして、したい事を我慢する事は死ぬ寸前に後悔するに違いない。


「いくぞー!!!!!」


僕はそう叫びながら道を颯爽と走る。

僕は今、希望に満ち溢れている。

対照的に、見上げた空は無彩色に覆われている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

立体文字 スパゲッちぃー @20060928

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ