#6 Desu Festival
#6
風紀委員と生徒会との激闘から1週間が過ぎた。
6月になり、少しづつ汗ばむ気温になってきた。衣替えの季節だ。
夏服に身を包んだ
生徒会がいなくなってからこの学園は大きく変わった。
立て続けに起こっていた生徒が殺される・行方不明になる事件は生徒会との戦い以降、ぱったりと無くなった。
やはり事件の犯人は生徒会で間違いなかったようだ。
これまでの緊張感はなくなり、生徒・先生ともに意気揚々とした明るい雰囲気に包まれていた。
あちこちで生徒たちの楽し気な笑い声が聞こえてくる。ようやくこの学校も普通の高校らしくなってきた。
そして西門は誰でも通過して良いことになった。
まだ呪いが怖いのか通る者はそこまで多くないが、呪いが無いことがわかれば時期に多くの人が通るようになるだろう。
これまでの壇ノ浦学園とは大きく違う。
俺たち風紀委員が変えたんだ。
20年前の事件を利用してありもしない祟りの噂を流し、恐怖と暴力で学園を支配していた生徒会長・
その火影刹那を倒し、学園に自由と安心をもたらした。
風紀委員のみんな、
みんなが頑張った功績だ。
これは大いに称えられるべきことだ。
上星はこの達成感にしばらく浸っていた。
自分のしたことがものすごく誇らしかった。
「おう、ウェボシー」
達成感を味わっているところに水を差すように
相変わらずの独特な喋り方のせいで、せっかく自分の功績を目一杯感じていたのに台無しにされた気分だ。
特徴的な黒縁メガネに、寝癖とフケが残る髪。ぽっちゃりとしたお腹は前よりも大きくなっている気がする。
「なにやってんだ?玖源さんのとこ行くんだろ?」
「・・・・・・・おう、」
もう少し余韻に浸りたかったがまあいいだろう。風紀委員に向かおうと振り返ると視線の先に
「霊否!」
白いワイシャツに紺色のベスト、胸元には水色のリボン。黒のスカート。
壇ノ浦学園の夏制服に身を包んだ霊否は「おう、ウエボシー」と片手を上げながら答えた。
目鼻立ちのくっきりした整端な顔立ちと青白い肌。
鋭く吊り上がった紫色の瞳。
上星が霊否に駆け寄ると、それよりも早く数名の生徒たちが霊否に駆け寄ってきた。
上星はその生徒たちに蹴っ飛ばされてしまう。
「平等院さん!!」
「握手してください!」
「一緒に写真撮って!」
霊否は生徒たちに囲まれて一緒に写真を撮ったり握手したりしていた。
そう、霊否はちょっとして有名人になっていたのだ。
なにせあの火影刹那を倒した英雄なのだから。
「火影刹那を倒した時、すごかったです!一瞬パァッってなって!気づいたら火影刹那が吹っ飛ばされててて!!!それで校舎が破壊されてて!あれはどうやってやったんですか?!」
「いや〜、あれはその‥」
霊否が答えに戸惑っていると
「はいはい、もう終わりだよ」
大宗が間に入った。
「ちょ、なによあんた!」
「どきなさいよデブ!」
生徒たちが大宗に文句を言うと、
「うるせぇな!俺たちこれから行くとこがあるんだよ!」
と言い返した。
***
「お、来たか。」
風紀委員の教室にようやくやってきた上星たち四人を、風紀委員長の玖源 煌玉が出迎えた。
玖源は背が高く、凛とした顔立ちをしている。
ショートのベージュ色の髪は毛先に向かって無造作に跳ねている。
霊否たちの一つ上の3年生だ。
「霊否が人気者になっちゃって大変でしたよ~」
そう言ったのは知念姫子だ。
栗色のショートボブの髪にピンク色の髪留めがチャームポイントの女の子だ。
「あたしが知らない不特定多数の人から認知されてるとか怖すぎ・・・・」
霊否はうんざりしたように言った。
大勢の人に囲まれるのは苦手なのだろう。
風紀委員の教室には
玖源煌玉の他にも
「霊否ちゃん、すっかり人気者だにゃ~羨ましいにゃ。」
七海は霊否をからかうように言った。オレンジ色の髪に童顔の女で、背が高い。
飛来は色白でクールな顔立ちの男だ。相変わらずのすまし顔で、霊否たちに無関係なのか、頬杖をついてそっぽを向いている。
「プリ―ムス・パールスの二人もおそろいで・・・どうしたんですか?」
上星が不思議そうに尋ねた。
「今日の話は2人にも聞いてもらった方がいいと思ったんだ。」
玖源が答えた。
「よし、それじゃあ現在の状況をまとめてみよう。」
玖源がホワイトボードになにやら書き始めた。
「まず、壇ノ浦学園でこれまで立て続けに発生していた、生徒を狙った連続殺人についてだが、
我々が生徒会を倒して以降、一切発生していない。
おそらく連続殺人は終わった。そして犯人は火影刹那と見て間違いないだろう。」
「やはり彼女が犯人だったのか・・・・!」
上星は怒りが込み上げてきた。
「あーーー、ごめん。ここで少し気になることがあってな。」
大宗が口を挟んだ。
「気になること?」
玖源が言った。
大宗は立ち上がり、玖源からペンを借りてホワイトボードに書いていく。
「これまでの事件をまとめてみるとこんな感じだな」
第一の事件
被害者:2-F
壇ノ浦学園西門にて倒れているところを同じく壇ノ浦学園1年C組
第二の事件
被害者:2-B
壇ノ浦学園にて血だらけで西門に倒れる。
第三の事件
被害者:3-D
行方不明。現在警察が捜索しているが見つかっていない。
第四の事件
被害者:2-A
行方不明。現在警察が捜索しているが見つかっていない。
第五の事件
被害者:
平等院さんの母。自宅で倒れているところを平等院さんに発見され、一命を取り留める。
「で、気になることってなんだよ。」
上星が聞いた。
「この5件の連続殺人事件、一貫性があるようで無いと言うか、全部同じ犯人の仕業だと思えなくてな」
「・・・・・・・?」
上星は大宗の言っていることがわからなかった。
「ウェボシー、もしお前が殺してやりたいほどめちゃめちゃ人を憎んだとして、その人を殺してしまったとする。そのあとお前はどうする?」
大宗が聞いた。
「なんだその質問・・・・」
「まあいいからいいから。仮にやってしまった場合を想像してみてくれ」
「ええ~・・・」
上星はやや嫌悪感を覚えながら、自分が人を殺してしまった場面を想像してみる。
「俺だったら、我に返って・・・・捕まりたくないから、ばれないように隠すかな。埋めたりして。」
「そう。俺でも死体を隠す。殺人じゃなくても何か失敗してしまったら弱い人間はそれを隠したり嘘をついて誤魔化そうとするだろう。
でもこの事件の犯人は違う。第一の事件では西門に死体が放置されていた。
学校の生徒が西門の前を通るし、近所の人だって見る。なぜわざわざ人目に晒すようなことをしたのだろう。」
「確かに・・・・・・」
上星が言った。
「また、第二の事件では、致命傷の早川をわざわざ西門前まで歩かせていた。
血まみれの生徒が廊下を歩き回った上に目の前で息絶えるなんて衝撃的すぎてトラウマものだろう。」
上星は恐ろしくなった。
「わざと死体を見えるようにしている・・・?」
「そうだ。だがそんなことをすれば事件が明るみに出るし、犯人も特定されやすいだろう。
犯人は事件を隠す気がまるでない。むしろ多くの人に見てほしいと言っているようだ。つまり犯人は異常なまでに自己顕示欲の高い人物ということが考えられる。
実際早川が死んだときは学校中が大騒ぎになってた。血まみれで歩くあの光景が忘れられないという生徒も大勢いるくらいだ。」
そうだ。クラスメイトや友達でなくとも自分と同じ学校の生徒が目の前で死ぬ。
そんな非日常的な光景を目にしたら誰だってトラウマになるだろう。
事件の被害は、殺された人たちだけではない。学校中の生徒みんななにかしらトラウマを抱えてしまっているのだ。
大宗は続けて言った。
「ところが第三以降の事件から急に犯行の方向性を変えてきてる。」
上星たちは改めて大宗が書いたホワイトボードをみる。
第三の事件、行方不明。
第四の事件、行方不明。
第五の事件、自宅で倒れているところ発見
「今まで我々に注目させていた派手な犯行と比較すると、犯行の状態もわからないし
死体も見つからない。第五の事件なんかは被害者の自宅で犯行などコソコソと陰湿なものになっているだろう」
「確かに‥」
姫子が納得したように言った。
「俺はこの犯行の違いから、第1、第2の事件と、第3~第5の事件は同じ犯人による犯行ではないと考える。」
「犯人が二人いる・・・?」
そんな。せっかく火影刹那を倒せたのに。
もう1人の犯人はまだ見つかってない‥?
大宗が続けた。
「平等院さんとの一騎打ちの時、火影刹那は平等院さんの母親を襲ったのは自分だと言っていた。」
=================
霊否は、手に持っていた白い髪留めを突き出した。
「あれは・・・・?」
上星が言う。あの髪留めは霊否のお母さんが襲われた現場に落ちていたものだ。
「これはお前のものか?」
霊否が刹那に言う。刹那は答えない。
「これがあたしの家に落ちてた。あたしの母を襲ったのはてめーか?」
霊否は刹那に再度問いかける。
「あぁ・・・そうだ。」
=================
上星は霊否と火影刹那の一騎打ちの時に二人が会話していた内容を思い出した。
大宗が続けた。
「それから火影刹那を拘束して以降、連続殺人がピタリとやんだことを考えると第三~第五の事件の犯人は火影であると考えられる。
つまり、第1の事件~第2事件を実行した別の犯人がいる。しかもそいつは死わざと体を晒し、学校を恐怖を混乱に陥れるような・・・・」
上星はのどをゴクリと鳴らした。
「火影刹那とはくらべものにならない、猟奇的な奴だ。」
***
「その犯人と火影刹那はなにか関係があるかもしれない。火影刹那に聞いてみればなにかわかるかな。」
上星が提案した。
「ところでいま火影刹那は?」
大宗が尋ねると玖源が答える。
「今は南校舎1階に拘束している。」
風紀委員と生徒会の戦い以降、生徒会は解散。生徒会長の火影刹那は危険人物であるため、南校舎1階に拘束している。
「彼女に事件について色々と質問したんだが、彼女は一切口をきかない。」
そう、数日前から拘束した火影刹那に何度が質問している。
「佐藤や早川が殺された事件の犯人はお前か?」
「・・・・・・・・・・。」
「20年前の事件について何か知っているか?」
「・・・・・・・・・・。」
主に玖源が質問するが、何もしゃべらない。
「副会長、縞井螺良子はどうなってる?」
上星が尋ねた。
「奴は放っておいてる。いまは教室の隅っこで目立たず大人しくしてるよ。」
あの毒舌メガネの縞井螺良子が。いつも火影刹那の横でピーピーわめいていた生徒会副会長は
今はただの地味なおさげ髪の女の子になっていた。
「もともと火影刹那あってのあいつだ。副会長のあいつ一人ではなにもできないさ。」
縞井螺良子単独では危険性はないと判断され、特に拘束等はせずに放っておいている。
他の生徒会メンバーも同じく自由にさせている。
火影刹那から情報を聞くのは難しいだろう。もし彼女から情報が得られない場合、
縞井螺良子や他生徒会メンバーに問いただすしかあるまい。
***
「そして、前回の戦いで判明した新たな謎‥」
上星が立ち上がって話し始めた。
そして霊否が持っていた古い剣と火影刹那が持っていた勾玉を机の上に置いた。
「霊否の古い剣と火影刹那の勾玉。この2つが接触した時、一振りで教室が火の海になるほどの力が発動した。
壁を一瞬で破壊するほどの威力・・・・そしてあの生徒会長、火影刹那を一瞬で戦闘不能にした。」
そう、霊否と火影刹那の戦闘時、偶然霊否の古い剣と火影刹那の勾玉が接触した瞬間があった。
その瞬間、周囲が青白い閃光に包まれ、稲妻が落ちたような衝撃が走った。
教室はあたり一面、火が燃えていてパチパチと音がしていた。
窓ガラスはすべて割れてなくなり、カーテンはボロボロで焦げた先端が風になびいていた。
「ほぉ‥‥、」
大宗が驚いて言う。
「接触する前はこの通りただの古い剣だ。このまま剣を振ってもなにも起こらない。勾玉と接触した時だけ力が発動するらしい。」
上星が補足する。
「あれがこの剣の本当の力なのか‥?」
大宗が剣を見つめながら言った。
「平等院さん、この剣は親からもらったって言ってたよな。」
上星が霊否に尋ねた。
「うん」
霊否が答える。
「平等院さんのお父さん、一体何者?」
大宗が言った。
「ひとまず剣と勾玉、この2つが接触しなければ力は発動しない。」
玖源が口を開いた。
「平等院、その力はむやみに使うな。いざというときだけ使うんだ。」
そう玖源が言った。
***
「私からもみんなに話したいことがある。」
玖源が話し始めた。
「生徒会との戦いで生徒会が解散になったことで、生徒会室になにか情報がないか、大宗と二人で調査してみたんだ。」
「生徒会室!?」
上星が身を乗り出していった。
確かに盲点だった、生徒会室。
生徒会メンバー以外は立ち入り禁止となっている場所だった。
20年前の事件につながる重要な情報が隠されている可能性は充分にある。
「なにかわかったんですか?」
「いや、生徒会室は生徒の名簿だの学校行事の資料ばかりで祟りについての資料や20年前の事件に関する資料は出てこなかった。」
「なんだよ・・・」
上星は残念そうに言った。
「話はここからだ。生徒会室の奥にもう一つ謎の部屋があった。」
「謎の部屋?」
「ああ。だが入ることは出来なかった。なにしろ扉にはかなり高密度の施錠が施されていた。
開くには火影刹那の指紋認証、指静脈認証、顔認証式が必要だった。
それに人が一人通ったら扉が閉まる仕組みになっている。つまり認証を行った者だけが部屋に入ることができるようだ。」
「どう考えても怪しいな。」
上星が言った。
「ああ、私もこの部屋に20年前の事件に関するかなり重要な情報があると考えている。
なんとしてもこの部屋を開けて中を見たい。」
玖源が言った。
「さっき認証を行った者だけが部屋に入ることができるって言ってましたよね?
つまり解錠には火影刹那本人の認証が必要。かつ部屋に入れるのは火影刹那だけってことですか?」
上星が言った。
「そうだ。」
「そんな・・・どうやって我々がそこに入るんです?絶対無理じゃないですか。」
「たった一つだけ方法がある。」
玖源が目を細めて言った。
「生徒会長が変わった場合の認証変更方法がある。
つまり火影刹那から次期生徒会長の誰かに認証権限を変更するんだ。それを実行すれば次期生徒会長がその部屋へ入ることができる。」
「生徒会長になった者はもれなく、生徒会室奥の謎の部屋へ入ることができ、真実を知ることになる・・・ってわけか・・・・」
大宗が言った。
「問題は誰がその次期生徒会長になるかだな。」
上星が言った。
「そこで提案なんだが、今度開催される壇ノ浦学園の体育祭。この大会で優勝した者を次期生徒会長にするのはどうだろう。」
玖源が言った。
「体育祭?」
上星が尋ねた。
「ああ。壇ノ浦学園体育祭は今まで火影刹那の監視のもと、組体操だのダンスだのしょうもない内容だっただろう。
今年は我々風紀委員主催の体育祭だからな。
優勝したチームの中から1名が次期生徒会長になる権利が与えられるってのはどうだろう。」
「体育祭か・・・・」
大宗は言った。
「体育祭で優勝した者が壇ノ浦学園の新生徒会長になる。そして生徒室の奥の部屋へ入り、真実を知ることができるってわけか。」
上星が言った。
「そうだ。まだ出場者は募集中だが、君たちも出るよな?」
玖源がニヤリと笑って言った。
上星たちは当然というように頷いた。
***
話し合いが終わり、玖源と飛来、七海の3人は風紀委員の教室を後にした。
「おい、玖源。どういうことだ。」
階段の途中で飛来が玖源に言った。
「ん?」
玖源が振り返る。
「生徒会を倒した後には俺を生徒会長にする約束だったはずだ!」
飛来が声を荒げる。
玖源は腕組をして、淡々と言った。
「生徒会の暴力的な支配から解放されたこのタイミングでの次期生徒会長・・・・。
この大事な時期の生徒会長に誰がふさわしいか。全生徒が見守っている。
生徒会と風紀委員の戦い。あの戦いに参加してないお前を生徒会長にしてみんなが納得すると思うか?」
「それは遠征に行ってたから‥!」
飛来が言い返す。
「生徒たちはそう思わないだろう。それよりも、火影刹那を倒した平等院の方がはるかに壇ノ浦学園の生徒会長にふさわしい。」
「平等院が・・・・・!?」
飛来は驚いた。玖源は平等院霊否を次期生徒会長にしようとしているのか?
「あいつが生徒会長を倒したのは剣の能力のおかげだ。あの戦いの場に俺がいれば、火影刹那は間違いなく俺が倒していた!」
「ならばそれを証明してみろ。」
玖源が飛来に近づいて言う。
そうだ。体育祭で優勝した者は次期生徒会長になる権利を与えられる。
俺が体育祭で優勝すれば俺が次期生徒会長に最もふさわしい人物であると学園中に知らしめることができる・・・・!
「平等院に勝てばいいだけだ。それとも平等院に勝てないとでも言うのか?プリ―ム・スパールスたるお前が」
「くそっ・・・!」
飛来はそう言い残して去っていった。
「平等院霊否・・・・」
飛来はぽつりと呟いた。
「この俺が直々に貴様を倒してやる・・・・!」
***
風紀委員を後にした上星と大宗は職員室に向かっていた。
「町山先生!」
職員室にて町山先生を呼び出す。
「町山先生!俺たち生徒会を!火影刹那を倒せました!」
上星が町山先生に言う。
「これで先生の恐れるものを何も無いはず。教えてくれませんか?先生が見たと言う事件の真相について。」
上星が町山先生に言う。
町山先生は壇ノ浦学園の勤続年数が長く、20年前の事件があった日も学校にいたと言っていた。
前回は生徒会を恐れ、何も教えてくれなかったが、生徒会がいなくなった今、話してくれるのではないかともう一度駆け寄ってみたのだ。
町山先生は落ち着いた口調で言った。
「ああ、君たち、よくやったね。本当に素晴らしい」
と笑顔でほめてくれた。
「いいだろう。私が知っていることを全て話そう。」
「やった!」
上星と大宗はガッツポーズをした。
「だが、私も教員の仕事がある。話せるのは体育祭がある6/14だ。その日になったらまた職員室へ来なさい。」
と町山先生は言った。
「あの日あったこと。全てを話そう____。」
***
「というわけで、6/14。この日が町山先生から20年前の事件について話が聞けるチャンスだ。」
大宗が言った。
放課後。
霊否と上星、大宗、姫子の四人は下校せずに教室で話し合っていた。
大宗はさっき町山先生から言われた内容を霊否と姫子に話した。
「6/14って体育祭の日じゃん!」
姫子が言った。
「というわけで、ここで体育祭のスタメンを決めるのはどうだろう。」
大宗が提案した。
ストライカー:2名
デイフェンダー:1名
補欠:1名
最低補欠抜きの3名でエントリーできる。
「つまりこの中の4人でポジションを決めて、補欠の奴が体育祭に出ずに町山先生の話を聞きに行くと。」
上星が言った。
この中から一人だけ体育祭に出れない人を決めるのは酷だ。
「平等院さんは異能があるからストライカー向きだろう。上星はこの4人の中で唯一のバトルフレームの経験者だから出た方がいい。」
大宗が言った。
「ということは・・・・大宗か知念さんのどっちかが補欠?」
上星が言った。
「俺じゃね?男だし。女のお前よりは戦力になるだろ。」
大宗が言う。すると姫子がきっと顔をしかめて大宗を睨みつけた。
「女とか男とか関係ねえから」
厳しい口調で大宗に迫る。
「はぁ・・・・。」
大宗があきれたようにため息をつく。
「出たいなら出たいってはっきり言えよ。
俺は別に補欠でもいいけど、お前はなんか出たい理由があるんだろうから・・・・・」
そういって大宗はちらっと上星の方を見た。「ん?」上星が不思議に思っているとガタッと音を立てて姫子の座っていた椅子が倒れた。
「そういうの・・・・」
姫子が急に立ち上がり、椅子が倒れたのだ。姫子は顔を真っ赤にして目に少し涙を浮かべていた。
「そういうのまじでうっぜーーから!!」
震える声でそう叫んで教室で教室を飛び出してしまった。
「知念さん!」
上星が姫子を追いかけようと立ち上がると霊否が止めた。
「ヒメはあたしが追いかけるから。ウエボシーは大宗と話してよ。」
と言うと霊否は「ヒメ~~!」と言いながらパタパタと姫子を追いかけて走っていった。
上星と大宗は静まり返った教室に二人で残っていた。
「まあ、言い方が悪かったとは思ってるよ。」
大宗がすねながら言う。
「体育祭に出たいとは思ってないさ。平等院さん、知念、ウエボシーの3人で出てくれよ。
俺はあいつが言いたいことがあるのにはっきり言わないところにちょっと腹が立っただけ。」
「そうか」
上星が言った。大宗は冷静になればちゃんと話し合いができるタイプなのになぜあの時あんな感情的になったんだろう。
「なんだよ。」
上星はニヤニヤしながら大宗を見ていた。
「スタメンは知念に譲る。それでいいだろ。」
「あと言い過ぎたことも謝っとけよ。」
「っち・・・・」
大宗は舌打ちをしながら頭を掻いた。
「そういえば・・・・・霊否って。下の名前で呼んでたな。」
大宗が思い出したように言った。
上星はさっき風紀委員の教室に向かうときに霊否に会って思わず「霊否!」と下の名前で呼んでしまった。
「やめろ触れるな。」
上星は急に恥ずかしくなって言った。男の友達に恋愛事情を探られるのはめちゃくちゃ嫌だ。特にこいつには
「順調に進んでいるようだな。」
大宗はからかうように言った。
「で、いつなんだよ。」
大宗が聞いてきた。
「なにが」
「決まってんだろ。平等院さんといつデート行くんだよ。」
「はぁ?デートなんて無理だろ」
「何で無理なんだよ」
「誘えるわけないだろ、デートなんて」
「お前、平等院さんと付き合いたいんだろ?」
「まあ。そうね」
「付き合ったらデート行くだろ。」
「そう・・・なのかな。」
「なんだハッキリしないな。平等院さんとデート行きたくないのか」
「いきたいに決まってんだろ」
「じゃあ誘えよ」
「どう誘えばいいのかわかんねんだよ」
「そんなもん、ご飯食べに行こうでいいだろ。」
「狙ってるみたいじゃん」
「実際狙ってるんだからいいだろ。」
「オマエさ」
「まあ、なんでもいいけどさ。」
大宗は立ち上がって続けた。
「この時間がいつまでも続くと思うなよ。いつか言おう、来週言おう、美容室に行ったら言おう。そんなことやってるとあっという間に卒業しちゃうぞ。」
「まあ、そりゃそうなんだけどな。」
「じゃあ、こうしよう。俺は知念に謝る。そしたらお前も平等院さんをデートに誘え。」
「はぁ?!やだよそんなの。」
「お前、俺に謝れ謝れって言っといて自分は逃げんのかよ。」
「謝るのとデートに誘うのは明らかにハードルが違いすぎるぞ」
「お前がデートに誘わないなら俺も知念に謝らない。」
「・・・・・・・・・・・・・・、、」
大宗め。
上星は大宗にうまくはめられた気がした。
でも確かにこいつの言う通りだ。
いつかデートに誘おう、もっと関係がよくなったら言おう、なんて言い訳して
結局断られるのをビビってるだけだったように思う。
大宗はそんな俺を見て背中を押してくれているのかもしれない。
「・・・・・・わかった。頑張ってみる。」
そう、上星は言った。
「よし、男と男の約束だぞ」
***
「お待たせしました。キャラメルソフトです」
「ありがとうございまーす。」
霊否と姫子は唐戸市場の近くにあるソフトクリーム屋に来ていた。
「んん~~、冷たくて甘ぁ~、」
霊否はキャラメルソフトを一口舐めると美味しそうに言った。
「はぁ・・・・」
姫子はため息をつきながらソフトクリームをもって近くのベンチに腰掛ける。
「うんしょと」
霊否もその横に座る。
2人で瀬戸内海の美しい景色を眺めながらソフトクリームを食べる。
漁業が盛んなここ下関は、激しい上に複雑に入り乱れた瀬戸内海の潮流により、独自の生態系が形成されている。
激しい潮流は植物プランクトンの成長を促し、その栄養たっぷりのプランクトンを小魚や貝、エビが食べる。元気で健康な小魚たちを目標に鯛、スズキ、ハマチ、サワラなどが集まってくる。
そうして健康で筋肉の発達した活きのいい魚たちが獲れるここ瀬戸内海は、日本でも有名な漁場となっており唐戸市場は毎日多くの観光客が訪れている。
霊否は黙ったままソフトクリームを食べ続けた。
「私、謝らないから」
姫子が口を開いた。
「ヒメはなんでそんな大宗のこと嫌いなの?」
霊否が聞いた。
「キモいから。生理的に受け付けない」
「そっかぁ~、まあ見た目もうちょい気を使ってもいいかもね」
そう言って霊否はソフトクリームを舐めながら海を眺めた。潮風に霊否の艶やか黒髪がなびく。
「霊否はどっちがいいの?私と大宗。」
「んーーーーー・・・」
霊否は少し考え込んで言う。「選べないなあ・・・二人とも友達だし・・・あっ・・・」霊否はなにか閃いたように言った。
「あたしが町山先生のとこいけばいいんじゃね!?あたしバトルフレームとか興味ないし。めっちゃ名案じゃん。これ。」
すると姫子が慌てて言った。
「それはダメ!霊否はその・・・異能の力があるしダメ!」
「ちぇっ、いい案だと思ったのにな」
霊否は口を尖らせた。
そしてふと姫子の方を見て、「あ、」と言った。「ヒメ、アイス溶けてるよ。」
「え」姫子の持っていたソフトクリームが溶け始め、姫子の手に、溶けて垂れたソフトクリームがつきそうだった。
すると、霊否がそっと姫子の白く小さい手に顔を近づけ、姫子の手についたソフトクリームを舐めとった。
霊否の唇が姫子の指に触れた。
とたんに姫子は驚きのあまり顔を真っ赤にして「・・・なっ・・・・・っ」
と、言葉にならない声を上げる。
そして真っ赤な顔に半泣きになりながら
「・・・・・・なにやってんの、ばか!!霊否のばぁか!!」
と言った。
「えぇ!ごめん・・・そんな食べたかったのアイス」
慌てて謝罪する霊否だったが、
その顔はみるみる
「唐戸名物のウニソフトだけど」
姫子が言った。
「ウニ!うえぇ・・・きっも」
霊否が顔をゆがませて言った。
***
—翌日—
大宗と姫子は、霊否・上星の立ち合いの元二人で話合った。
「おま・・・・・知念がスタメンでいいよ。俺が町山先生に話を聞きに行く。」
大宗がしどろもどろになりながら言った。
「・・・・・・おう。」
姫子は大宗から目を背けながら言った。
「あと、悪かった。」
大宗は頭を掻きながら小さい声で言った。
「悪かった?」
姫子は怖い顔で聞き返した。
「ごめんなさい。」
大宗は言った。
「ヒメ。」
霊否が小声で姫子に言う。ガッツポーズをしてなにやら伝えている。
「・・・・・・・・・・。」
姫子は恥ずかしそうに
「私も言いすぎた。ごめん。」
と言った。
「・・・おう。」
大宗が言う。
これで仲直りだ。
霊否と上星は顔を見合わせて笑った。
***
——翌日——
体育祭を明日に控えたこの日、
体育祭で行われる
校舎のいたるところにトーナメント表が張り付けられており、出場するメンバーは自分たちのチームの初戦の相手などを確認していた。
霊否たちもトーナメント表を確認する。
「なに・・・・・・!?」
トーナメント表を見た上星は驚愕した。
霊否も、自分たちの初戦の相手の名前を見る。すると
飛来 悠李
七海 入鹿
玖源 煌玉
の3名の名前があった。
「初戦の相手がプリ―ムス・パールスの3人だと!?」
3対3のチームで、互いの陣地にある旗を取り合う格闘技。
壇ノ浦学園ではBattle Flameの最強のチームにはある称号が与えられる。それが“プリームス・パールス”だ。
飛来 悠李、七海 入鹿、玖源 煌玉の三人はその最強の称号が与えられている。
一回戦で学園最強のチームと対戦しないといけないのか・・・・・!
と上星は思った。
***
霊否は学校が終わったあと、
壇ノ浦西総合病院に向かった。
「お母さん・・・・」
病室で寝ている母に話しかける。母のお見舞いに来たのだ。以前よりもだいぶ容態は安定しており、退院できる日も近いとのことだった。
母が襲われたあの日。
学校から帰ってきたら母が倒れていたあの日。
数年ぶりに母がしゃべったあの日。
母が言ったことが霊否の頭の中でずっと響いていて離れない。
================
「あの子を・・・・あなたのお兄さん、
母は震える声で言った。
「はぁ・・・・・!?」
霊否は驚いて言う。
「なんで急に霊苛の話を‥?そもそも霊苛はお父さんと同じ事件に巻き込まれて死んだはずじゃ‥!」
「違う・・・・、違うのよ霊否・・・・!」
母は霊否の服を掴んでものすごい剣幕で言った。
「あの事件、お父さんの遺体は見つかったけど霊苛の遺体は見つからなかった。霊苛はきっとどこかで生きてる!」
「そんな・・・・!」
母は何を言ってる。
「今もきっとどこかでお腹を空かせてるわ・・・・・あの子ほっとくと自分のことなんにもしない子だったでしょ?
お腹の弱い子だったらどこかのトイレでうずくまっているんじゃないかしら・・・・」
母が霊否の服をものすごい力で掴む。母の細い腕では考えられないくらい強い。
「お願い霊否、あの子を見つけて・・・・・もう一度あの子に会いたい・・・・あの子の顔を・・・・」
================
結局喋ったのはあの一度きりだった。
霊否がまだ中学生の時だった。父がある事件に巻き込まれ命を落とした。
その時、父と一緒にいた兄の霊苛も亡くなったと言われていた。
母は息子を亡くした悲しみから頭がおかしくなっているのだろう。
遺体が見つからなかっただけで霊苛がまだ生きていると妄想するなんて。
あたしの兄、
あたしたちの
小さい頃、生まれつき体が弱く、病弱だった兄は母から特に優しく扱われていた。
あたしは大好きな母が兄に取られたように思えた。
だからあたしは兄が大嫌いだった。
父が死んだあの日。
あの日もちょっとしたことで兄と喧嘩になった。
原因はよく覚えてない。
たしか霊苛のおもちゃをあたしが勝手に使って遊んでいたからそれで霊苛が怒ったんだっけか。
でも、仲直りはできなかった。
父と兄は帰ってこなかった。
あの日から母はどんどん病んでいった。父と最愛の息子を同時に失った悲しみからか、
それとも手のかかる娘一人を女手一つで育てることによるストレスか。
母は次第に外に出なくなり、歩けなくなり、しゃべらなくなった。
どうしてこんなことになったのか。
あたしの父は一体何者だったのか。
霊否は剣を見た。
父が残したこの剣は一体なんなのか・・・?
「お母さん・・・・・、あたしどうすればいいの・・・?」
霊否は母が眠るベットに顔をうずめた。
***
「あれ・・?」
霊否は病室の窓から漏れる朝日で目が覚めた。
あのまま寝てしまったのか。気づいたら朝になっていた。
あわててスマホを確認する。6/14(土)・・・・今日は体育祭当日だ。
「やべっ」
急いで病室を後にする。
「行ってくるね。お母さん」
そういって母に手を振った。
***
ワアアアアアアアアアァァァァァァァ!!という歓声が響きわたる壇ノ浦学園闘技場。
収容人数2000人のすり鉢状の巨大なドームには
壇ノ浦学園の生徒はもちろん、先生や生徒の保護者、地元の人たちなど大勢の人々が手を掲げて歓声を上げていた。
そしてそのドームの中心には長方形のフィールド。四隅には炎が立ち上っている。
バトルフレームのフィールドだ。
「さあ、さあ始まりました、壇ノ浦学園体育祭!!」
フィールドに少女が一人、マイクを持って叫び出した。
黄色いポンポンを両手につけ、チアガールの恰好をしている。
「壇ノ浦学園の次期生徒会長を決めるため、バトルフレームでしのぎを削る壮絶大バトル!!」
フィールド上をぴょんぴょんと跳ねながら観衆をたき付けるように叫びつづける。
緑色にピンクのエクステをつけた長い髪をサイドテイルにしている。
ふんわりと巻いた毛先が、彼女がぴょんぴょんと跳ねるたびに風になびく。
スカートがひらひらと揺れ、彼女の太ももや
「この戦いで一番になった者が生徒会長になる!生徒会長の座をかけて、今こそ!血沸き肉躍る戦いを!!」
彼女が叫ぶと観衆がワアアアアアアアアアァァァァァァァ!!と声をあげた。
ものすごい盛り上がりだ。
「というわけでこのバトルフレームのラウンドガール兼、実況をしていくよ!
みんなのアイドル、
そういって海星 萊夢はウインクした。
再び観衆が沸き上がる。
「いやあ・・・最高だな。萊夢ちゃん。めちゃめちゃ可愛いしスタイルいいし。」
大宗はそう言ってカメラでパシャパシャと撮っていた。
大宗と上星は開会式を見に闘技場の観客席に来ていた。
「いやあ、めっちゃ可愛いな。」
「ほらみろよ。あんなに細いのに胸大きいよな。」
大宗は取った写真の萊夢の胸の部分をズームして上星に見せた。
壇ノ浦学園一の美少女といわれる
その萊夢が本体育祭のラウンドガール兼実況を担当するということで、開会式だけでも見に来たのだ。
見ると大宗たちと同じように学園一の美少女の姿を一目見ようと大勢の人がギャラリーに集まっていた。
主に男子が。
大宗と上星が撮った写真をニヤニヤしながら見ていると
「男子ってなんでこうもバカなの?」
姫子が後ろで二人の様子を見ながら言った。
「ほら、私たちの試合すぐなんだから準備するよ。」
そう言った。
「ちっ、残念だな。」
大宗と上星が戻ろうとすると姫子の後ろにいた霊否が突然上星の脇をドスッと突いた。「いっだ!」上星が叫ぶ。
「なんだよ、霊否!!」
「別に。」
霊否は不機嫌そうに言うと、自分の胸を見てため息をついていた。
四人がギャラリーから外れると萊夢が「壇ノ浦学園体育祭、開催!!!」と開会宣言をした。
ワアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!と大歓声が上がる。
***
霊否、上星、大宗、姫子の四人は闘技場下の控室にいた。
「よし、ここでバトルフレームのルールのおさらいだ。」
上星が言った。
「バトルフレームコロシアムは3人1組のチームが2チーム、計6人が長方形のフィールドの中で戦う。
ポジションは
主に敵陣の旗を取りに行く攻撃手:ストライカー(2名)
敵のストライカーから自陣の旗を守る守備型:デイフェンダー(1名)
お互いの陣地にある旗を取ったら勝ち。 旗の獲得で1点入る。
旗の取り合いで戦闘になり、相手を失神させるなどして審判の10カウントの間に立ち上がれなかった場合、戦闘不能と判定される。
相手を戦闘不能にした場合、20点入る。」
「20点!そんなに入るのか。」
霊否が言った。上星は頷いて続けた。
「武器は事前に申請したものを持ち込むことが可能。
制限時間は10分。10分間で得点の高かったチームの勝利だ。」
霊否たちの試合は第2試合。開会式が終わって今は第1試合の真っ最中。その試合が終わればすぐ霊否たちの番だ。
「じゃあ、3人とも頑張れよ。」
大宗が言った。
「そっちこそ、頼んだぞ。町山先生から話聞いてきてくれ。」
上星が言った。
「おうよ。任せろ。」
そういって大宗は去っていった。
これから職員室へ行って町山先生と話をするのだ。
***
「はああぁぁぁぁぁ~!もー緊張するぅ~」
姫子が言った。
「ヒメ!ダイジョブだよ!」
霊否が姫子を励ました。
霊否と上星、姫子の3人は控室で出番を待っていた。
霊否は父からもらった剣を握り占めていた。
バトルフレームコロシアムは武器の持ち込みが可能となる。霊否の申請した武器はあの剣なのだろう。
上星と姫子は木刀だ。
「ダメだ。ちょっと私トイレ行ってくる!」
姫子は言った。
「おい、もうすぐ出番だぞ!」
上星が止めた。
「わかってる!すぐ戻ってくるから!」
そういって姫子はトイレの方へ駆けていった。
「まったく・・・・・」
姫子がいなくなったおかげで霊否と二人きりになった。
上星は大宗とした約束を思い出した。
============
「まあ、なんでもいいけどさ、この時間がいつまでも続くと思うなよ。
いつか言おう、来週言おう、美容室に行ったら言おう。そんなことやってるとあっという間に卒業しちゃうぞ。」
「じゃあ、こうしよう。俺は知念に謝る。そしたらお前も平等院さんをデートに誘え。」
「男と男の約束だぞ」
============
いつまでも言えないままでいいのか。二人きりの今がチャンスだ。
「平等院さん!」
上星は勇気を振り絞って言った。苗字呼びに戻っていたのは緊張していたからか。
「ん?」
「平等院さんってさ、甘いもの好き?」
事前に考えておいた内容を話す。
「おう、好きだけど。」
「この前さ、おいしそうなケーキ屋さん見つけてさ。」
ケーキ屋の写真を見せる。
「へぇ~おいしそう。」
「そう!今度一緒に行ってみない?」
「・・・・・あたしと?」
「そう!どうかな・・・・?」
上星はドキドキしながら返答を待っていた。
「いいけど」
霊否は以外にもあっさりと答えた。すると
「いやぁ~、ごめんごめん」
そういいながら姫子が控室に戻ってきた。
「じゃあ、日付とかまた連絡するね。」
姫子が帰って来たのでこの話はまた今度することにした。
よっしゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!
上星は心の中でガッツポーズをした。
***
大歓声に包まれる闘技場。その中心のフィールドにて海星 萊夢がマイクを持って叫ぶ。
「さあ、続いて第2試合!さっそく波乱の予感だぁーっ!」
萊夢が手を大きく掲げ、「白チーム!」と叫んだ。
言わずと知れた壇ノ浦学園最強の3人!
学園最強たる称号、プリ―ム・スパールスの名は伊達じゃない!
今回の体育祭でも圧倒的No.1の優勝候補!!
飛来 悠李、七海 入鹿、玖源 煌玉チームの登場だ!!」
プリ―ム・スパールスの3人が登場した。3人がフィールドに現れると途端に大歓声が起こる。
特に女子のキャーキャーした甲高い声が多く目立つ。
「対する赤チーム!壇ノ浦学園を長年支配してきた元生徒会長・火影刹那。その火影刹那を倒した
今注目の謎の転校生!平等院 霊否!そして生徒会との戦いで見事活躍した上星 和成、知念 姫子!」
霊否、上星、姫子の3人もフィールドに立つ。
「来たか・・・」
飛来 悠李が霊否を睨みつけながら言った。
「・・・・・・?」
霊否はなぜ自分がこんなに睨まれているのかわからなかった。
上星は木刀を構えた。
体育祭に優勝して壇ノ浦学園の生徒会長になれば、事件の真相についての核心的な情報を手に入れられるかもしれない。
俺か平等院さんを生徒会長にして、絶対に生徒会室奥の謎の部屋へ入るんだ。
「メドゥーサ。いくぞ」
霊否が言う。
「うん!」
メドゥーサが陽気に返事をすると途端に霊否の体にキラキラとした閃光が走る。
大きなリボンがついたハットと底の厚い靴。胸元から足までフリルがたくさんついたロリータファッション。
悪魔のような大きな羽をバサッと広げ、尻から先のとがった尻尾がちょこんと伸びる。
変身が完了し、霊否はさらに父からもらった剣を構えた。
プリ―ムス・パールス相手では到底勝てっこないが、霊否の異能を駆使すれば一矢報いるチャンスはあるはずだ。
「さて、俺達も準備するか。」
そう飛来が言った途端、飛来と七海の体にキラキラとした閃光が駆け巡る。
霊否はあまりのまぶしさに目を閉じた。
次に目を開くと____
「なんだと・・・!?」
霊否は二人の姿を見て驚いた。
飛来 悠李は肩甲骨から巨大な翼が生えていた。フードの着いた服装に頭にはゴーグル。手首にはゴツい手甲がはめられていた。
七海 入鹿は頭から大きな耳が生え、手足から毛がふさふさと生え、まるで獣の手足のように変化していた。
その手足からは巨大な爪が生えていた。服は中国の衣装のように変わっていた。
「あれは・・・・・!?」
上星も声を上げる。
「あたしと同じ・・・・・!?」
霊否が叫んだ。
「異能か・・・・!?」
「勝負だ、平等院霊否。」
飛来はそう言って霊否を鋭く睨みつけた。
「この戦いに勝利して。俺がこの学園の次期生徒会長になる・・・・・!」
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【次回予告】
大宗 平善だ。
壇ノ浦学園体育祭、プリ―ム・スパールスと平等院さんたちとの対決がついに始まった。
そして俺は町山先生に20年前の事件について話を聞きに行く。俺はかつてないほど危険な領域に片足を踏み入れることになる。
次回、
ついに語られる事件の真相。俺たちはなんとしても真相にたどり着くんだ。
それがたとえ、開けてはならないパンドラの箱だったとしても____。
すべては、AstiMaitriseの名のもとに。
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