#5 Head-On Confrontation

#5 Headハード-Onオン Confrontationコンペティション



「突撃ーーー!」


 玖源くげんの掛け声が響く。


 途端に風紀委員側600人が「ワアアアアアアアーーーーーーーー!!」と唸り声をあげ、生徒会側に向かって一斉に走り出した。


 白色の制服に背中に黒い刺繍で風紀委員と書かれた、風紀委員独自の制服をみんな着ている。壇ノ浦学園の制服は黒だが、生徒会に反旗をひるがえすという意味で白色の制服に染め直したらしい。


 後方で待機していた霊否は緊張した面持ちで高く砂ぼこりを上げながら全速力で走る風紀委員を見ていた。


 「ウェボシー・・・・・・」


 上星うえぼしは確か、先頭あたりにいたはず。ということはあの列の中にいるのか・・・・


 霊否れいなはごくりと息をのむ。


「がんばれ・・!」




***


 「うおおおおおおおおお!!!」


 上星は吠えながら必死に走る。


 運動神経はまあ、平均的な方だが、足の速さにはそこそこ自信があった。なのでさっき玖源から「意思のある者から先頭に、配置につけ!」と言われたとき、先頭列に並んでいた。

 そんな自信に満ちた数分前の自分を今は恨んでいる。後ろからどんどん抜かされているのだ。「あ痛って!」後ろからぶつかられ、転びそうになる。


 「くっそ!」


 前の方にいたせいで余計に抜かされてる。


 足は速いはずなのに。


 ビビってんのか。


 屈強な肉体の生徒会と火影刹那に。


 それで足が遅くなっているのか。


 いや、今は余計なことは考えるな。


 風紀委員長である玖源煌玉の協力もあって、生徒会に次ぐ規模を誇る風紀委員を味方につけた。


 風紀委員と生徒会の全面戦争。


 いままで頑張ってこの状況を作り出せた。


 今日、生徒会を倒すことが出来れば、生徒会の支配から壇ノ浦学園を解放することが出来れば学園の隠された真実、20年前の事件の真相に大きく近づける!


 走れ!


 前だけ見ろ


 ひたすらに走れ!


 上星は地面を力強く蹴り上げ、加速する。




***


 「弓道部構え!」


 火影ほかげ 刹那せつなが叫ぶ。


 規則的に並んだ生徒会側に、弓を持った一隊があった。弓隊は弓を引き、矢を生徒会側に向ける。一斉に弓が軋む音が聞こえる。


 「あいつらまじか!」


 風紀委員の一人が叫ぶ声が聞こえた。こんなの当たったら大けがするぞ。


 「止まるな!いけー!」


 それでも走るスピードは落とさない。風紀委員はひるまず突き進む。


 生徒会側と風紀委員側の距離が徐々に近づく。


 まだ弓を打たないのか。


 その距離、40メートル、30メートル———


 「放て!!」


 刹那が叫ぶ。弓が一斉に放たれ、風紀委員側に大量の矢が雨のように降り注ぐ。


 上星は腰を引くくしながら走り続ける。上星のすぐ前にいた人物が矢を胸に受け、倒れた。次の瞬間、耳のそばをヒュンッと矢が通る。


 思わず足を止めそうになる。


 怖い。


 だが止まらない。


 「おりゃぁぁぁあああ!」


 再び叫んで気合いを入れ直す。


「第一軍、かかれ!」


 生徒会側の先頭列が木刀を抜くと、「ワアアアアアアア」とうなり声をあげながら走り出してきた。


 もう数秒もしないうちに激突する。


 どうしよう、こういうとき


とりあえず体当たりか?


 上星は目の前にいた剣道部らしき男に右肩から思いっきり体当たりした。


剣道部の男が持っていた木刀が上星の右肩に当たってものすごく痛い。


 他の風紀委員も次々に生徒会側に激突する。


 戦いというより、押し合いになっていた。


 木刀が、腕が、足が、ぐちゃぐちゃにぶつかり合う。


 胸が圧迫され、苦しい。


 あたり一面、砂埃が舞う戦場の中、黒色制服と白の制服がぶつかり合う。




***


 同時刻、知念ちねん 姫子ひめこは学校の屋上へ向かう階段を全速力で駆け上がっていた。


「早くしてよ大宗おおむね!おっそい!!」


 姫子は自分より遥か下の階段をのろのろと上っている大宗に向かって言った。


「うるさいな‥たかが50キロ前後の体重支えてるくらいで‥こっちは80キロ代だぞ・・・」


 大宗は大きなおなかを揺らし、ぜえぜえと息を吐きながら階段をゆっくりと上っていく。


「50キロもねぇわ!40キロ代だわ!」


「だから前後っつったじゃんよ・・・」


 姫子は屋上の扉を勢いよく開ける。


 屋上からフェンス越しに校庭を見る。校庭では大きな砂埃をあげ、白色の制服の風紀委員と黒色の制服の生徒会がぶつかっていた。


「やばい!もう始まってる!」


 大宗も息をぜえぜえ吐きながら校庭の様子を見る。


「・・・なんだあの数・・・・・・・・・・!?」


 双眼鏡を持って生徒会側を見てみる。黒色の制服の人数を確認する。


 生徒会側は、800人はいるか。


 「でも、風紀委員側も600人くらいいるし、大丈夫じゃない?」

 

 姫子が言うと、大宗はうーんと考え込みながら言った。


 「風紀委員側は600人、生徒会側は800人。数の差は200人か。風紀委員側はバトルフレーム経験者が多いから個々の戦闘力も高いだろう。玖源さんの実力はわからないけど、なにより平等院さんの異能がある。

 対して生徒会は剣道部、薙刀部、柔道部、空手部、弓道部、テコンドー部など、武道系の部活がそろっている。いうなれば全員格闘技のプロだ。

 そして生徒会長、火影刹那の強さは別格だ。壇ノ浦学園剣道部を全国大会まで導いた天才。個人戦では、三年連続全国優勝。一年生の時から三年生を蹴落として優勝してるんだ。」


  姫子はごくりと息をのんだ。


  「その天才っぷりからついた異名が、―剣聖けんせい刹那せつな———」


  いま、自分たち風紀委員が戦っている相手がどれだけ強大な力を持っているか。それをまじまじと見せつけられた。


 大宗が続けて言った。


 「火影刹那は、学園内で反乱があった時の為に、あらかじめ武道系の部活を手中に収めていた。これだけの兵力を事前に準備していたんだ。生徒会がここまでして守りたい秘密ってなんだ??」




***


 戦場はまさに混戦状態。


 「おらぁ!」


 「死ね!」


 と叫びながら制服の色だけを頼りに、敵と思われる相手を手当たり次第、木刀やら拳やらで殴り倒す。木刀をぶんぶん振り回しながら戦場を駆け抜ける風紀委員がいて、味方にも当たりそうになる。


 上星は剣道部相手に木刀で戦っていた。


 だが、上星がいくら体当たりしても、木刀で腕を打とうとも剣道部はまったく倒れる様子はない。上星はガタイがいいわけではないが、それでも男子高校生が思いっきり体当たりしているのだから、かなりの衝撃のハズだが。


 「第二軍、第三軍、」


 火影刹那が言った。


 「囲い込め。」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


 地響きがした。


 「なんだ!?」




***


 「おいおいおい、まずいぞ‥‥!」


 学校の屋上で待機していた大宗が、双眼鏡で戦場を見ながら言った。


「囲まれてる・・・・!?」


 風紀委員と生徒会が戦っていた戦場を、生徒会側数百人がぞろぞろと囲い込むように移動し始めた。


 「このままだと挟み撃ちにされるぞ!」




***


 風紀委員側は左右、後方からの攻撃に混乱状態となった。


 三人から袋叩きにされたり、後ろから竹刀で頭を割られ、倒れたところを複数の生徒会にめった打ちにされる。


 「くそ、みんな諦めるな!」


 「押し返せ!」


 すると、生徒会側の中心にいる火影 刹那が言った。


 「生徒会に刃向かった罰だ。貴様ら全員、私みずから制裁を与えてやる。」


 薄気味悪い笑みを浮かべ、

 「こんなに大人数だとやりがいがあるなぁ・・・!」

 と言った。


 それを聞いた風紀委員はぶるぶると震え上がる。


 「無理だろこんなの‥!」


 「生徒会に立ち向かうなんて、最初から無理だったんだ!」


 そう叫び、逃げ出す者も現れた。


 「おい・・・、こんなの勝てるわけねぇ!」


 風紀委員の一人がそう叫んだ。


 「逃げろ!」


 「早く!」


 「急げ!」


 「逃げろ逃げろ!」


 そう叫び、次々と逃げ出す。


 「おい!逃げるな!」


 上星が必死に止めようとする。その時、上星の額に強い衝撃が走った。頭を触るとぬるっとした感触がした。見ると手のひらが真っ赤になっていた。


 上星は自分の意識が遠退いていくのを感じた。




***


 戦況は早くも生徒会が優勢に見受けられた。風紀委員といえば、半数近くが逃げ出し、残りは額から血を流して倒れている者がほとんどでまだ戦える者はもう100人ほどしかいない。


 屋上から戦場を見ていた姫子が言った。


 「そんな‥!風紀委員のみんなだって強いのに!」


 「バトルフレームと武道の違いかな」


 大宗が言った。


 「ほら、バトルフレームは武道と違って戦いの型があるわけじゃない、なんでもありの喧嘩みたいなものだろ?

 対して武道は武器の持ち方・使い方、姿勢、足の動きなどちゃんと形が決まっているんだよ。古くから伝わる正式な型がね。

 ただ喧嘩しかしてなかった連中が、武道としっかり向き合い、技を極めようとしている人たちに勝てるとは思えない。

 そして、その武道家達を巧みな戦術で操る火影刹那‥やつは戦術家としても優秀だったのか!」



***


 「ウェボシー!、みんな!」


 後方で見ていた霊否が叫ぶ。


 「おい、あたしたちも助けにいこうぜ」


 霊否が玖源に言うと、


 「いや、ダメだ。」


 と玖源


 「はぁ?!めっちゃ押されてんじゃん。加勢したほうがいいだろ」


 「落ち着け、平等院。」


 すると、後方から


 「私を信じろ、」


 ドドドドドドドドド・・・と地響きが聞こえた。


 「・・・・?」


 霊否が後ろを振り返ると、背中に「風紀委員」と書かれた白い制服を着た軍勢がぞろぞろと走ってきた。その人物たちの顔を見た霊否は、驚きの声を上げる。


 「あの人たちは・・・・!」




***


——数時間前——


 風紀委員のストライキ開始から数分後。玖源煌玉と姫子はどこかに向かって歩いていた。


 「かなり人数は集まったものの、まだ600人くらいか・・・。壇ノ浦学園の全生徒は4000人。これだけ大規模なことが起こっても大半の生徒は無関心なんだな。」


 と玖源が言った。


 「そうですね。だから、こっちから動いて少しでも人数を集めないと。」


 知念姫子は、2ーB組の教室の前に立った。


 「それでこのクラスか?」


 「えぇ、」


 もう、周りに流されて、見えないものにビクビクオドオドするのはやめだ。


 「私みたいに後悔している人が多いと思うから。」



 変えていくんだ。私から。




 姫子は教壇に立ち、「みんな聞いて!」と叫ぶ。


 「みんなも知ってる通り、学校の生徒たちが次々に死亡・行方不明になってる。一部ではこの現象が20年前に壇ノ浦学園で起きた事件、その被害者の祟りなんじゃないかって言われてる。生徒会は西門を通るのを禁じるだけで何も説明しない。


 こんなのおかしいと思う。友達が次々に亡くなって、自分も危険な目にあってるのに。だから今、私たち風紀委員で生徒会に祟りの説明をするようにストライキを起こしてる。もっと多くの人がストライキに参加すれば生徒会も動かざるを得ないと思う。みんなの力を貸してほしい。」


 そういうと姫子は頭を下げた。


 「何言ってんだ。」


 クラスメイトは冷たく言った。


 「そんなの無理だ。」


 「生徒会に勝てるわけがないだろ。」


 女子生徒が立ち上がり、姫子を指さして言った。


 「だいたい、平等院さんが西門潜ったのが悪いでしょ。転校生だからってお仕置きをまぬがれたのが間違いだよ」


 「それにヒメだって、祟りの現況である平等院さんを怖がってたじゃない。」


 「それは・・・」


 姫子は言葉につまる。


 「知念。もういいだろ。」


 姫子の後ろで腕組みをしながら壁に寄りかかって話を聞いていた玖源が言った。


 「・・・・・・・。」


 姫子は下を向く。やはり自分の力では人を動かすことはできなかった。



 悔しい。



 「こいつらに何言っても無理だよ。期待するだけ無駄ってものさ。」


 玖源が続けた。


 「きっとこいつらは常に死の恐怖にさらされ、友達や恋人が理不尽に殺されてもなんとも思わないんだろう。生徒会からは何も説明もされないけど、そんなのはどうでもよくて殺されるのをじっと待っているんだろう。」


 2ーBの生徒たちの顔がゆがむ。


 玖源が生徒の一人を指さす。


 「明日はお前の友達が祟りにあって殺されるかもしれないけど、そんなのどうでもいいんだろう。もしくはお前自身が殺されるかもしれないけど、それも仕方ないんだろう。」


 さらに別の男子生徒に向かって言う。


 「お前の彼女は死の危険にさらされているけど別に彼女が死んでもなにも悲しくはないんだろう。」


 「なにが言いたいんですが玖源さん!」


 男子生徒がバンッと机を叩いて叫ぶ。


 「僕達だって友達が死んで悲しい!悔しいですよ!当り前じゃないですか!でも生徒会に歯向かうと一体どうなるか!火影刹那を敵に回すことがどれだけ危険か!あなたたちがおかしいんですよ。生徒会に歯向かうなんて。僕たちだって悩んでいるんですよ!何が正しくて何が悪いのか。自分たちはどうすればいいのか!」


 「悩んだ末、その怒りの矛先を平等院にぶつけているわけだな。」


 と玖源


 「それは・・・!」


 「お前たちはそうやって悩んで、行動せずにただじっと待っているだけ。やるせない思いを言いやすい平等院にぶつけているだけだ。彼女が悪い根拠がどこにある?悪いのは何の説明もなく、暴力で学園を支配しているあの忌々しい生徒会だろうが!!」


 玖源が声を荒げる。


 男子生徒は言い返す。


 「そりゃ色々言いたいことはあるけど、あの生徒会長に文句なんて言えないよ。」


 「それはなぜだ?」


 「なぜって・・・・とても勝てる相手じゃないし、負けた場合、きつい制裁が待っているだろう。そんなの嫌だよ!」


 「立ち向かう勇気なら私たち風紀委員が作ってやる。」


 玖源が言う。


 「平等院を見ろ。あいつはこの学校に転校してきたばかりだ。あいつが生徒会に立ち向かうのは祟りの真相を知るためだ。自分が祟りの元凶でないと証明するためだ。

 現状を変えたいなら恐怖に立ち向かう勇気を持て。その先にどんなリスクがあろうともやってみないと結果は分からない。もし生徒会に勝てたなら、祟りの真相に大きく一歩近づく。」


 姫子が言った。


 「私はみんなの言う通り、平等院さんを、霊否を祟りの元凶だって怖がってた。嫌ってた。みんなと同じだよ。でもそんな弱くて臆病な自分が嫌で、変わりたくて動いてる。」


 2-Bのクラスメイトはしんと静まりかえる。



 「みんなはどうするの!?」


 姫子が叫ぶ。



 男子生徒が立ち上がり、言う。


 「俺、ユカを守りたい。」


 すると、クラスメイト達が次々に立ち上がり、


 「俺も!友達がみすみす殺されるなんてぜってー嫌だ!」


 「黙って殺されるなんて冗談じゃねえよ!」


 「おーし!やってやろうぜ!!」


 「みんな・・・・!」


 姫子は玖源の顔を見る。玖源は笑顔でグッと親指を立てた。



 やった・・!




 変わっていく。一人の少女の行動から。



 変わっていく———





*** 


 軍勢はワアアアアアアアとうなり声を上げながら、風紀委員と生徒会が戦っている戦場へ突っ込もうとしている。


 「平等院さん、ごめん!」


 「君はなにも悪くないのに!仲間外れにしてごめん!」


 2-Bのクラスメイト達は後方にいた霊否にそう叫ぶ。


 「みんな・・・・!」


 霊否は泣きそうになりながら言う。


 軍勢はかなりの人数で、ぞろぞろと校舎から出てくる、


 「来るのが遅くなって悪かった!ほかのクラスにも声かけてみたんだ!」


 「生徒会に文句あるのはみんな同じだからな!」


 ざっと1000人近くはいるだろうか。


 白い制服を着た大軍が生徒会と激突する!


 虚を突かれた生徒会は、その数に気圧けおされる。


 「ち・・・っ小癪こしゃくな。」


 火影刹那は言う。


 「第四軍、第五軍加勢しろ!」


 生徒会側の第四軍、第五軍が動き出す。




***


 「もう・・・!来るの遅いよ・・!」


 屋上で見ていた姫子が言った。


 自分の行動で人を動かせた。現状を変えられたのがとても嬉しくて、思わず涙が出そうだった。


 大宗が言った。


 「おーし、これで人数ならこっちが上だ!そうだ!玖源さんに伝えねぇと」




***


 「さて、いい頃合いかな」玖源が自分の膝をパンっと叩いて「私たちもそろそろ出るかね。」と言いながらストレッチを始めた。


 霊否は何をしたらいいかわからず、とりあえず屈伸しておく。すると


「クイズだ、平等院。」


 と玖源が言った。


 「クイズ?」


 「なぜお前を後方に待機させたかわかるか?」


 「‥‥‥‥あたしが可愛いから?」


 「違う。」


 玖源は生徒会と風紀委員がわあわあと叫びながらぶつかっている戦場をゆっくりと指さした。


 「いまから私と一緒に火影 刹那を倒しにいく為だ。」


 「ん?」


 霊否は首をかしげる。


 「戦闘経験が圧倒的に上の生徒会といくら数で優っているとはいえ正面から戦ったら勝てるわけがない。だが、生徒会全員倒す必要はないんだ。ある1人を倒せば、この戦いは勝てる。それが、生徒会側の総大将・火影刹那だ。」


 「いやいやいや‥、どうやっていくんだよ。あいつの周りには敵がいっぱいいるじゃんよ。」


 「それがそうでもないんだよ。」


 玖源は地面に石で図を描いて解説した。


 「最初の突撃で、生徒会側第一軍と風紀委員側600人が衝突。その後、生徒会側の第二軍と第三軍で風紀委員側600人を囲い込んだ。

 だが、風紀委員側が加勢したことにより生徒会側は第四軍、第五軍も加勢させなくてはならなくなった。


 大宗と知念に校舎の屋上から戦況を報告してほしいと依頼しておいた。二人の情報によると、火影刹那を守る軍は第六軍のせいぜい数十人くらいだそうだ。

 私たちは右側から回り込んで戦場を迂回し、一気に火影刹那の首をとりにいく。」


 「そんなんでうまくいくかね。」


 「当然、私たち2人は間違いなく敵にマークされている。それに総大将が倒されれば勝ちなのは向こうも同じ。つまりは私が倒されたらその時点で風紀委員の負けだ。」


 「ほらぁ~~、やっぱ危ないってこの作戦」


 「そこで平等院、君の異能が必要なんだ。」


 「あたしの異能?」


 玖源は、ニカっと歯を見せて笑った。




***


 「っってえぇぇぇぇぇ・・・」


 上星は頭からぽたぽたと血を流しながら起き上がった。生徒会に額を割られてから気を失っていたのだ。


 今はどういう状況だ?風紀委員側の人数がかなり増え、生徒会も後ろに控えていた軍勢も総出で参戦している。「おい、あれ!」風紀委員側の誰かが指をさしながら叫んだ。


 声を聴いたほぼ全員がいったん戦闘を止め、指で示した方を見る。上星も見てみると、戦場を迂回して、猛スピードで走っている玖源煌玉と霊否の姿が見えた。


 まさか、あのまま火影刹那のもとへ行く気か!


 「おい、あいつらを生徒会長のもとへ行かせるな!」


 生徒会側が玖源と霊否のもとへ走った。


 「うわぁぁぁあ、なんかめっちゃ来た!」


 霊否はそう叫ぶ。




***


 玖源と霊否が突撃する少し前——


 「あたしが前?!」


 霊否が驚いて言う。


 「お前は先頭を走って、例の相手の動きを止める能力で敵の動きを封じて欲しいんだ。」


 「ええ・・・・、、できるかな。」


 「できるさ。これまで練習してたんだろう?」


 玖源は霊否の肩をポンと叩いて言う。そして腰に差していた刀をすらり抜く。

 

 「これは虞狼流ぐろるブレード。わたしがバトルフレームの際に使用している愛用の武器だ。平等院が敵の動きを封じてさえくれれば、あとは私の方で片づける。お前は目の前の敵だけに集中するんだ。できるだけ多くの敵の動きを封じてくれよ。」




***

 

 「うおおおおおおおおお!!!!」


 生徒会数人が霊否に飛びかかってくる。


 「おりゃ!」


 霊否は赤色の瞳を敵に向ける。


 「うわ!」「なんだこれ!!」「体が!!」


 生徒会数人の体が動かなくなる。


 だが、数人はそのまま霊否と玖源へ攻撃を仕掛けてくる。視界に入らなかったのか!


 「ごめん、何人か取りこぼした!」


 霊否が言った。


 「上等!!」


 玖源が虞狼流ブレードを真一文字に切り裂いた!


 すると、強烈な風圧とドオオォォォォォォンという強い衝撃が走る。


 異能で動けなくなった生徒会、動ける生徒会に関わらず、全員が吹っ飛ばされた。




***


 「すげえ・・・・!」


 上星は玖源の規格外の戦闘力に驚いた。他の風紀委員とは比べものにならない、圧倒的強さ。


 「カリスマ性もあって、戦闘力の高いとか、チートかよあの人・・!」


 玖源煌玉と、以前バトルフレームのエキシビションマッチであった飛来ひらい 悠李ゆうり七海ななみ 入鹿いるかの三人はプリームス・パールスという、バトルフレーム最強の称号も持ち主だ。


 「これがプリームス・パールス、玖源 煌玉の実力・・・・!」


 飛来と七海もこのくらいの実力の持ち主ということか・・・改めて玖源 煌玉を味方につけたことを心強く思った。


 ぼ―っと見ている暇はない。


 「おい、俺達も玖源さんたちの援護をするぞ!」


 そう上星が叫ぶ。


 「玖源さんたちの方に生徒会を行かせないように食い止めるんだ!」


 「おおーーーー!」


 そう叫び、風紀委員数人とともに走り出した!




***


 玖源と霊否の突撃は、屋上にいる大宗と姫子にもよく見えた。


 「すごいすごい!霊否と玖源さん!」


 姫子は手を叩きながら言った。霊否が前で敵の動きを止めて牽制し、玖源が攻撃。次々と敵を倒し、徐々に火影刹那のもとへと近づいている。


 時々、強烈な爆発音のような音が響き渡る。玖源の虞狼流ブレードが振り抜かれ、ドオォォォォォォォンという音が響く。


 上星たちの活躍もあり、霊否と玖源へ攻撃を仕掛ける生徒会の人数はかなり少なくなっている。


 「抜けた!」


 ついに生徒会側の猛攻を潜り抜け、玖源の目の前に火影刹那の姿が見えた!


 「死ね!!火影 刹那ぁ!!」


 玖源煌玉が叫ぶ。虞狼流ブレードを振りかざし、一気に刹那に飛び掛かった!


 「このまま勝てるかな?」


 屋上の姫子が言った。


 「いや、まだだ!」


 大宗が双眼鏡で戦場を見ながら言う。


 「え?」


 「この戦いでまだアイツの姿を見てない」


 「アイツ?」


 玖源の前に突如、黒い影が現れ、行く手をふさいだ。「なに!?」


 大宗が言った。「火影刹那の従順な副審、副会長・縞井しまい 螺良子ららこだよ!!」


 玖源の体に強い衝撃が走る。


「˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ!」


と叫びながら吹っ飛ばされた。


 「お前は‥!」


 霊否が玖源を吹き飛ばした人物を見る。


 「縞井 螺良子!」


 螺良子はメガネを直しながら


 「生徒会長には指一本触れさせませんよ。」


 と言った。


 彼女は縞模様のベレー帽をかぶり、背中にタンクを背負った戦闘用のコスチュームを着ていた。


 手には大きな筆型のバトルアックス。武器の先端はペン型のとげとげしい槍がついている。



 「どけ!!!カス共!!」


 頭から血を流した玖源が螺良子に飛び掛かる。




 玖源 煌玉VS縞井 螺良子




 玖源煌玉と縞井螺良子が激しくぶつかり合う。


 「玖源 煌玉・・・あなたは会長の元へは行かせない。私がここで引導をくれてやるわ」


 「相変わらず口だけは達者な奴だな。」


 螺良子のバトルアックスと玖源の虞狼流ブレードがギリギリとぶつかり合い、火花が散る、


 「この学園は私たち生徒会のもの・・・会長のものだわ!」


 「はあ・・・?なに言ってんだお前ら。」


 玖源が下がり、螺良子と間合いを取る。


 螺良子は細い腕で重量のあるバトルアックスを巧みにブンブンと振り回し、玖源に容赦なく襲い掛かってくる。


 二人の戦いを見ていた霊否に、生徒会と書かれた旗をもった人物が飛び掛かってきた。


 「うお!」


 霊否は攻撃をよけ、その人物みる。


 「お前は‥‥、大森!」


 霊否が転校した日に蛹虫になって正門に吊るされ、自分はお仕置きを受けたのに転校生だからとお仕置きを免れていた霊否を強く非難していたあの大森 聡だった。


 「お前、生徒会側についてたのか!」


 「平等院・・・!お前は、初めて会った時から癪に触ってたんだ!!」


「てめえはまじでしつこい野郎だな・・・!」




 平等院霊否VS大森 聡




 霊否は剣を構え、大森に飛び掛かる。 




***


 数で勝る風紀委員と、個々の実力が強い生徒会。両者一歩も譲らない激戦に血まみれ、砂まみれになりながら戦う。


 だが長引く戦闘にもはや戦闘開始直後の勢いはなく、戦いの末、疲労で倒れこむ者もあらわれる。


 戦場は高く砂ぼこりがまい、屋上からも見えにくくなるほどだった。


 「私たちも下に行こう!」


 姫子がそう言い、大宗と姫子も校舎に向かう。




***


 大森の木刀と霊否の剣が激しくぶつかり、鍔競り合いになる。


 「お仕置きにどんな効果があるか、お前は知らないだろう・・・!」


 大森が言った。


 「はあ?」


 「あれはな、この壇ノ浦町に古くから伝わる除霊儀式だそうだ。体を痛めつけ、強い衝撃を連続して与えることで体内に住み着いた霊を除去する。」


 大森は続ける。


 「火影会長は俺を祟りから救ってくださった!お仕置きを受けてないお前!そして反乱なんか起こしやがった風紀委員の連中も全員大変な目に遭う!祟りに遭うぞ!!」


 霊否の背中にぞわっと悪寒が走る。




***


 玖源は螺良子の攻撃をうまくかわし、虞狼流ブレードで攻撃する。攻撃をもろに食らった螺良子は地面にひっくり返る。


 「てめえは勢いだけだな。」


 玖源が螺良子を見下ろしながら言う。


 「くっそ」


 螺良子は歯を食いしばり、バトルアックスを振り回しながら必死に抵抗する。


 「所詮は火影 刹那あってこそのお前だ。お前ひとりじゃどうすることもできねえよ」


 玖源は虞狼流ブレードを振りかぶり、螺良子にとどめの一撃を食らわせようとしたその時———!



 「生徒会側!全員退却!!」



 と聞こえてきた。火影刹那の声だ。


 「ん?」


 玖源は思わず手を止める。


 「退却―――!」


 「引け!引け!」 


 生徒会側の軍勢がどんどん引いていく。


 「敵が引いていく!」


 「勝ったのか?」


 風紀委員側が言った。


 玖源にも何が起こったのかわからない。すると、火影刹那が言った。


 「玖源煌玉、兵の体力も底を尽きた。このまま戦っても、らちが明かない。ここは生徒会側・風紀委員側それぞれ代表者一名の一騎打ちにしないか?」


 途端に「おおおおーーーーー!」とどよめく。


 「代表者の一騎打ちだと・・・・?」


 玖源が動揺する。


 「生徒会側は私が出る。風紀委員側も誰か一人選べ」


 火影 刹那がゆっくりと前に出る。


 「ここは玖源さんだろ!」


 「我らが大将!」


 風紀委員側が口々に言いだした。すると玖源の前に霊否が現れた。


 「あたしが行く。」


 と霊否が言った。


 「なに?」


 玖源が驚いて言う。


 「あたしに行かせてくれ」


 霊否は再度言った。


 「いいだろう。平等院 霊否」


火影刹那はそう叫ぶと、背中に持っていた刀を勢いよく引き抜いた!


 「身の程知らずが、錆丸さびまるの餌食にしてやる」


 玖源は霊否の耳元でひそひそと言った。


 「平等院、正気か?相手は火影 刹那だぞ。いくら異能を持っていたってお前が勝てる相手じゃねえよ!!」


 「勝てる勝てないじゃない。あたしはあのクズに用があるんだ。」


 霊否はこれまでになく険しい顔をしていた。




***



 平等院 霊否VS火影 刹那




 二人が向かい合い、それを取り囲むように円状に生徒会・風紀委員総勢でギャラリーが出来上がる。


 校庭に降りてきた大宗と姫子もギャラリーから霊否の様子を見守る。


 睨みあう二人。


 火影 刹那が霊否に向かって言う。


 「転校初日に私に制裁されそうになったのを根に持っているのか?」


 「そんなんじゃねーよ。」


 霊否は、手に持っていた白い髪留めを突き出した。


 「あれは・・・・?」


 上星が言う。あの髪留めは霊否のお母さんが襲われた現場に落ちていたものだ。


 「これはお前のものか?」


 霊否が刹那に言う。


 「・・・・・・・・・。」


 刹那は答えない。


 「これがあたしの家に落ちてた。あたしの母を襲ったのはてめーか?」


 霊否は刹那に再度問いかける。


 「あぁ・・・」


 刹那が口を開く、長い黒髪がゆらゆらと風に舞う。


 

 「そうだ。」



 刹那の答えを聞いた瞬間、霊否はものすごい剣幕で


 「ぶっ殺してやる‥‥っ!」


 と言った。


 霊否が剣を振りかざし、火影刹那に飛び掛かった。





***


 私は町山まちやま 盛教せいきょう 55歳。壇ノ浦学園に勤務してもう30年ほどになる。


 未知な物を恐れるのは人間の本質だ。死や病を恐れるのは、それが未知だからだ。未知なものを前にした時の人間の行動は様々だ。



 見て見ぬふりをする者


 自分だけは大丈夫と根拠のない安心感に浸る者


 知った気になって未知の恐怖から逃れようとする者



 見て見ぬふりをした者は未知の物の正体を知らないまま、わけも分からず死んでいく。


 知った気になった者は知識の無い者を嘲笑ちょうしょうし、激しく批判し、自分の知識をひけらかす。


 どの人間の行動も結末はあっけなく死んでいく。



 だが、その中でも数人、未知に立ち向かおうとする者がいる。未知を正しく恐れ、己が無知であることを深く理解している。


 周囲の人間の根拠のない批判は気にも留めず、未知のものを知ろうとする探求心に取りつかれたように己の道を突き進む。



 そういう人間が、未知のウイルスのワクチンを開発する。


 そういう人間が、真相にたどり着く。



 私は職員室の窓から校庭を眺めていた。校庭ではなにやら二人の女子生徒が戦っている。その二人の周りを大勢の生徒たちが円形になって取り囲んでいる。


 私はしわが増えた自分の頬を撫でながら言った。


 「いよいよですな、AstiMaitriseアスティメトライズ様————」



 遠い日の記憶を思い出しながら




***


 「いってえぇぇ‥‥っ」


 霊否がひっくり返ってうめき声を上げた。


 「貴様の能力は相手の目を見て相手の動きを止める。つまり、お前の目を見なければ脅威ではない。」刹那は倒れこむ霊否を見下ろしながら言った。


 いままでわあわあと騒いでいた風紀委員はしんっと静まり帰っている。火影刹那と霊否の一騎打ち。この勝敗によって全てが決まる。


 もし負ければ風紀委員、玖源煌玉もろとも生徒会に制裁を加えられるだろう。祟りの謎はわからないままだ。


 風紀委員全員の運命が、霊否にかかっている。


 「いつまで寝ている。」


 刹那は地面にうずくまっている霊否の服を引っ張り、片手でひょいと抱え上げると、校舎側向かってぶん投げた。吹っ飛ばされた霊否は校舎の窓ガラスを突き破り、教室の中へ倒れこむ。

 ガシャンとガラスが割れる音がして、机や椅子がガラガラと音を立てて倒れる。


 上星は歯を食いしばって二人の戦いを見ていた。


 何が一騎打ちだ。


 こんな一方的な・・・!


 「見てられるか・・・・・!」


 上星は弓道部が落とした弓を引っ掴んで飛び出した。




***


 「いっっつ・・・くっそ・・」


 霊否は誰もいない教室でうずくまっていた。顔は腫れあがり、額から流れる血が目に入ってくる。足にガラスの破片が刺さり、太ももから血が出ている。


 体中が痛い。痛みで腕が上がらない。剣を握るのがやっとだ。


 それでも立ち上がる。あいつを・・・母を襲ったあいつを絶対に許すわけにはいかない。


 「威勢はよかったが・・・」


 刹那が割れた窓から教室に入ってきた。洗練された足取りで霊否に近づく。


 刹那が錆丸を振り下ろした。霊否は剣で受け止めるが、刹那の力に耐えきれず徐々に押される。


 「お前はなんなんだ・・・・!いきなり現れて、私の学園をめちゃくちゃにして・・・!」


 刹那の錆丸を握る手に力がこもる。


 「お前さえ転校して来なければ・・・・・!!」


 刹那の力に霊否はぎりぎりと気圧される。


 「くっそ・・・・!」




***


 上星は弓を持って校舎の中に入り、霊否の居場所を探す。



 いた。



 火影刹那に上から刀で押さえつけられている霊否の姿が見えた。刹那も霊否も上星の存在には気づいていない。


 上星は教室のドアの影に隠れながら、刹那に矢を向ける。


 狙うは奴の頭。競技用の矢でも頭に当たればただじゃすまないはずだ。


 一騎打ちに横槍を入れるのはルール違反だろう。だがそんなのは関係ない。相手は学園の生徒を何人も殺してるやつだ。


 このままでは霊否が死んでしまうかもしれない。



 思い出せ。



=================


仮に祟りが人の手によるものだとしたら、そいつは罰も受けず、祟りのせいにし、平等院さんに責任を押し付けている。そんな奴がいるとしたら俺はそいつを絶対に許さない


=================



 火影刹那・・!


 あいつだけは絶対に許さない。そうだ。最初からこうすると決めてたんだ。上星は矢の狙いを定める。

 



***


 痛い、苦しい。


 生徒会長が一騎打ちをすると言ったとき、大森の頭を剣でぶっ叩いてから即座に名乗り出た。


 火影刹那を前にしたとき、目の前が真っ暗になった。こいつをぶっ飛ばしてやりたい。


 母が味わった痛みをこいつにも味わせてやりたい。そんなことで頭がいっぱいになった。



 でもなぜか今は落ち着いている。


 あたしはなぜか。母のことを思い出していた。


 お母さん、お母さん


 ごめん、ごめんねお母さん


 泣き虫でわがままで、


 お母さんはこれまでとても辛い思いをしてきたんだよね。父からの暴力に耐え、痛みに耐え、私たちを守るために頑張ってきた。


 言葉を失うほど病むまで。


 そんなお母さんを助けたくてあたしも頑張ってきた。いままでお母さんに全部やってもらってたことを自分で出来るように。料理、家事、洗濯、掃除。あたしも頑張ったよ。


 だからこそ、余計にわからない。あの時、家に帰ったらお母さんが倒れていたあの日。お母さんがあたしに言った言葉が。




================


 「救急車をお願いします。はい、帰ってきたら母が倒れていて・・」


 上星に教えてもらい、119番へ連絡する霊否。


 「お母さん、救急車呼んだからね!もうちょっとの辛抱だからね!」


 「れ‥‥霊否‥」


 虫の鳴くような声で母が霊否の名を呼んだ。


 「お母さん!」


 精神的な病気になってから一切喋れなくなった母が喋った。


 数年ぶりに聞いた母の声はしゃがれ声で、けれども必死に訴えかけるように聞こえた。霊否も必死に聞き取ろうと母の口に耳を近づける。


 「何?どうしたの?!」


 「霊否‥お、お母さんの‥さ、最後のお願い聞いてくれる‥?」


 「最後とか言わないでよ、お母さん!お母さん!!」


 母は霊否の耳に口を近づけ、ゆっくり話した。


 「あの子を‥あなたのお兄さん、霊苛だんのうらを見つけて・・・・!」


 「は・・・?」


================



 なんで最後のお願いが・・・・あのクソ兄貴のことなんだ!




***


 「˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ!!!!」


 霊否は最後の力を振り絞り、剣に力を込める。


 刹那が少し動揺した。


 今だ。


 「くたばれ・・・・火影刹那!」


 上星が矢を放つ。


 「!」


 刹那はとっさにかがんで矢をよける。矢は刹那の首元をかすみ、首から下げていた首飾りの紐を切り裂いた。


 刹那が常に身に着けている小さな勾玉がするりと首から落ちる。


 「しまった・・・!」


 刹那が勾玉に気を取られている隙に霊否は剣を振りかぶる。


 すると、美しい翡翠色の勾玉と、霊否の持っていた剣が接触した、その時—————


 周囲が青白い閃光に包まれ、稲妻が落ちたような衝撃が走る。


 上星も何が起こったかわからず、突然の光に目がチカチカしていた。

 ようやく目が慣れてきたころ、再度霊否と刹那が戦っていた教室をのぞく。すると衝撃の光景が広がっていた。


 あたり一面、かすかに火が燃えていてパチパチと音がしている。


 窓ガラスはすべて割れてなくなり、カーテンはボロボロで焦げた先端が風になびいていた。


 机と椅子も二つに割れているもの、足の部分がひん曲がっているもの、燃えて黒くなっているものがあった。


 教室の壁はトラックかなにかが突っ込んできたのかと思うような巨大な穴が開いていた。壁の破片ががらりと崩れ落ちる。


 「一体なにが・・・?」


 ボロボロになった教室の真ん中で霊否が剣を持ったまま座りこんでいた。はあはあと荒い息をし、教室の有様にあっけにとられている。


 校庭を見るとかなり遠くの方で火影 刹那が気を失って倒れているのが見えた。


 これを・・・・・霊否がやったのか・・・?


 教室の壁ごと火影 刹那を吹き飛ばしたのか?


 あの非力な霊否が学校の壁を破壊し、その衝撃で窓ガラスや机や椅子を破壊したのか・・?


 すると、校庭から風紀委員が駆け寄ってきた。


 「平等院、よくやった!一騎打ちはお前の勝ちだ!!」


 先頭に立っていた玖源が言う。


 「やったー!勝った!」


 大宗、姫子も駆け寄ってきた。


 「この勝負、風紀委員側の勝利だぁ!!」


 玖源の言葉に風紀委員全員が「おおおおおおお!!」と吠える


 「平等院さんバンザイ!」


 「風紀委員バンザイ!」


 「バンザイ!バンザイ!」


 風紀委員側の大勝利となった。


 上星も大宗につられ、一緒に吠えた。




 風紀委員全員が勝利の喜びに浸っていた。


 その中でただ一人、平等院 霊否だけがひどく暗い顔をしていた。





==============================================


【次回予告】



 ついに生徒会を倒せたね!でも生徒会長がいなくなっちゃったから、次の生徒会長を決めないと・・・。


 生徒会長っていえば学園のリーダーだから、やっぱり強くてかっこいい人がいいよね!!

 とはいえどうやって決めればいいのかな・・・


 あっ!そうだ!! 私たちにはとっておきの競技があるじゃない!!



 次回、AstiMaitriseアスティメトライズ #6「Desuデス Festivalフェスティバル」!

 

 次期生徒会長をかけた血で血を洗う戦い、壇ノ浦学園体育祭が始まるよ!!



 え?私が誰かって?それは次回のお楽しみだよ!



 すべては、AstiMaitriseの名のもとに!


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