#4 ostracism

#4 ostracismオストラシズム


 赤間神宮から家に帰った上星はが、風呂に入ろうかと準備していると急に電話が鳴った。


 霊否からだった。


 「やあ、平等院さん、今日は楽しかったね・・・」


 「ウェボシー‥!大変なの!!」

 電話から聞こえる霊否の声はかなり焦っているように感じた。


 「どうしたの?」

 明らかな異常事態。思わず上星は身構える。


 「家で母さんが!!倒れてる!!!」


 「お母さんが?!」


 「家帰ったら車椅子から落ちてて、血も出てて!どうしたらいい?!?」

 霊否は明らかにパニックになっている。


 「平等院さん、落ち着いて」


 「早くしないとお母さん死んじゃうかも知れない!」


 「落ち着いて、大丈夫!大丈夫だから」

 上星は強く訴えてかけるように言った。

 「まずは、救急車を呼ぶんだ。そこでお母さんの状態をしっかり伝えるんだよ。」


 「わかった‥救急車ね‥‥おっけー、おっけー、」

 霊否は自分に言い聞かせるように言った。少し落ち着いたようだった。


 「俺もすぐに行くから!じゃあ切るよ、」



***

 「お母さん、救急車呼んだからね!もうちょっとの辛抱だからね!」

 救急車を呼んだ霊否は母に必死に呼びかける。すると、


 「れ‥‥霊否‥」

 虫の鳴くような声で母が霊否の名を呼んだ。


 「お母さん!」

 喋った、


 精神的な病気になってから一切喋れなくなった母が。


 数年ぶりに聞いた母の声はしゃがれ声で、けれども必死に訴えかけるように聞こえた。

 霊否も必死に聞き取ろうと母の口に耳を近づける。

 「何?どうしたの?!」


 「霊否‥お、お母さんの‥さ、最後のお願い聞いてくれる‥?」


 「最後とか言わないでよ、お母さん!お母さん!!」


 母は霊否の耳に口を近づけ、ゆっくり話した。

 

 話を聞いていた霊否は「は‥?」驚愕の声を上げる



***


 上星は部屋着のまま携帯だけ持って靴を引っ掛けた。

 おっと忘れることだった。自転車の鍵も引っ掴んだ。


 霊否の家は以前来たことがあった。記憶を頼りに自転車をかっ飛ばす。


 霊否の家の前に着くと救急車が止まっていた。


 ちょうどお母さんが運ばれているところだった。


 「ウェボシー!」

 霊否が泣きそうな表情で上星に駆け寄る。


 「もう病院行くって‥‥、ウェボシーもついてきて‥お願い」

 上星の服を掴んで必死に訴える。


 「わかった。一緒に行こう」

 上星は霊否と救急車に乗り込む。


 体になにやら点滴をつけた霊否のお母さんを前に、上星はどうしていいかわからなかった。

 ふと霊否をみるとずっと顔を両手で覆っていた。

 そうだ、いま一番怖くて、泣きたいのは霊否の方だ。せめて自分だけはしっかりしなくては。


 「大丈夫‥?」

 上星は霊否に呼びかける


 霊否は顔を手で覆ったまま首を振った。

 上星は携帯で母に遅くなると連絡した。

 


***

 霊否のお母さんは集中治療室へ運ばれた。

 上星と霊否は治療室の前のソファで待っていた。


 上星は何か霊否に声をかけるべきか迷っていた。


霊否はずっとうつむいている。長い髪で顔が隠れているせいで表情が見えない。

 霊否の鼻をすする音だけが、暗い静かな病院に響く。


 霊否の手元を見ると、白い紐のようなものを握りしめていた。


 「平等院さん。その紐は?」


 「ああ・・・これ・・」

 霊否がくしゃくしゃの顔を上げ、言った。

 鼻が真っ赤になっていて可哀想だった。


 「お母さんが倒れてたそばに落ちてた。白い髪留めっぽい。

 あたしのでもお母さんのものでもないから、もしかしたらお母さんを襲った誰かのものかもと思って・・・」


 「白い髪留めか・・・」


 霊否のお母さんも何者かに襲われたのか・・

 まさか・・・


 上星の中に嫌な予感が走る。


 


***


 数時間すると医者が出てきた。とりあえず一命はとりとめたがまだ油断できない。

 そのため、このまま治療を続ける必要があること。また入院になるだろうからその準備をしてほしいとのことだった。

 

 上星は一命をとりとめたことに安堵し、俯いている霊否に声をかけた。


 「平等院さん今日はもう遅いし帰りなよ」

 時刻は20時を回っていた。


 「やだ」

 霊否は俯いたまま言った。

 泣きすぎて疲れ切っているように見えた。


 「帰ったってお母さんがいないんじゃあたし1人だもん」


 そうだ。霊否は今ひとりぼっちなんだ。

 上星は自分にできることを考えた。


 そして____、


 「よし」

 と立ち上がった。


 霊否は上星の顔を見る。髪がかかった霊否のくしゃくしゃの顔は目が腫れ上がり、涙で潤んでいた。

 赤くはれた鼻頭。垂れた鼻水をずーーーっと音を立てて吸った。


 「平等院さん、うち、来ない?!」

 そう、上星は言った。



***

 「どうぞ、入って入って」

 上星の家は霊否の家から徒歩15分ほどの場所にある二階建ての一軒家だ。

 「お、お邪魔しまーす‥‥」

 霊否は遠慮がちに玄関を潜る。


 玄関を上がって目の前にある階段からパタパタと降りてくる音がした。

 「お帰り。お兄ちゃん柚希ゆずきの靴下‥‥」

 長い髪を後ろで一つ結びにし、部屋着姿の上星 柚希は帰宅直後の兄に話かけたところで言葉が途切れた。


 兄の隣にいる、黒髪美人の少女。

 あまりにも非現実的な景色にまん丸の目をパチパチさせ茫然とその場に立ち尽くす。


 「こ、こんにちは‥‥」

 霊否がとりあえず挨拶する。


 「お、、おがぁあさあぁぁぁぁっっん!!!お兄ちゃんが彼女連れてきたあぁぁぁぁっ!!!」

 バタバタとものすごい音を立て、大声で叫びながら階段を駆け上がった。


 「おい!!彼女じゃねぇよ!!」

 上星が叫ぶ。



***

 「びっくりしたよも~カズがいきなり女の子連れてくるんだもん」

 上星の母が夕飯を前にして言った。


 「まあ、お兄ちゃんがこんな美人と付き合うわけないよね。柚希は最初からわかってたけどね」

 妹の柚希が言う。


 「お前でかい声で彼女彼女言ってたろーが・・」

 と上星


 「さあ、大変だったでしょう。いっぱい食べてねー、霊否ちゃん」

 母が言う。

 母には霊否の母の件を説明し、今日のところはうちに泊めてあげてほしいとお願いした。

 母は喜んで霊否を出迎えた。


 「わたし霊否さんの隣で食べるー!一緒に食べよ、霊否さん!」

 柚希がそう言って霊否の隣に座った。


 霊否の正面に母が座り、上星は母の隣に座った。

 今日は父の帰宅が遅くなるとのことだったので今日はこの四人で夕食となる。


 今日の夕飯は里芋・大根・レンコン・鶏肉の煮物、レタス・トマト・セロリのサラダ、

 きゅうりの漬物、ご飯、わかめと豆腐のお味噌汁というメニューだった。


 「いただきます」

 霊否は湯気が立つ味噌汁をすすった。

 ほのかな煮干しの香りと素朴な味噌の味に冷え切っていた体が内側から温まるのを感じた。

 お椀を手にとり、里芋をほおばる。空腹が刺激され、思わずご飯をかきこむ。


 「う、、、っ、・・・」

 口にご飯を詰め込みながら霊否がうつむいた。


 「どうしたの霊否ちゃん?」

 「詰まった?大丈夫霊否さん!」

 母と柚希が心配そうに言う。


 「ち、違います、すみません大丈夫です・・・」

 霊否は涙を手で拭いながら言った。


 「こんなふうに誰かと話しながら夕食食べるの久しぶりで‥すみません」

 そう聞いた母は霊否の頭をやさしくなでながら言った。


 「いつまでのうちにいていいのよ」

 そういわれた霊否は「う・・っう・・」と声を上げて泣いた。柚希がそっとティッシュを差し出した。



***


 「お風呂沸いたよー、霊否さん入って入って」

 夕食後に母が言った。


 「霊否さん、一緒に入ろ!」

 霊否とトランプをしていた柚希が言った。


 「うん、いいよ」



 上星が歯磨きをしようと洗面所に入ると、

 浴室からキャッキャと笑い声が聞こえた。


 やばっ、今は霊否と柚希が入っている時間か。


 「えぇ?!霊否さんほっそ!!ウエストほっそ!うらやましぃ~~」

 「いやいや・・・胸に全然肉いかなくて困ってんだから」

 「そーお?形とか綺麗だと思うけど」

 「えぇ・・ありがと。てゆーか柚希ちゃんだって細いじゃんよ」


 霊否と柚希の会話が聞こえてきた。

 今ここにいるのが知られたらとんでもないことになる。

 すぐに洗面所を出ようとすると、


 浴室の半透明な扉越しに肌色の影が映っているのが一瞬見えてしまった。

 霊否の細いウエストと、腰のなだからかなカーブ。そして奥ゆかしい小さな胸のふくらみ

 

 即座に目を逸らすが、一瞬しか見ていないにも関わらず、その光景が目に焼き付いてしまった。

 70%くらいの罪悪感と30%くらいのラッキー感を覚えながら音を立てないようにそそくさと洗面所を後にした。



***


 「平等院さんのお母さんが倒れてた?」

 上星は今日の件を大宗平善に電話で報告した。


 「平等院さんが家に帰ったら血流して倒れてたんだって。命に別状はなかったけど。」

 上星が説明する。


 「で、平等院さんは?」


 「いまうちでお風呂入ってるよ」


 「・・・・・はあ!?」

 耳鳴りがするほど大きな声で大宗が叫んだ。


 「うちってお前の家だよな!?」


 「・・・・そうだよ」


 「お持ち帰りってやつだな」

 大宗がからかうように言う。

 「お前やるなあ・・・・・あの美人転校生の平等院さんを家に連れ込むとは。男子の中では結構人気だぞ平等院さんは。祟りの件があるから誰も手出さないだけで。」


 「うっさいなもーー。一人で家帰るの嫌っていうからうち呼んだだけだよ」


 「ラッキースケベの一つでもあるといいな。」


 「・・・・。」

 上星が言葉に詰まる。


 「ん?」

 大宗が言う。


 「・・・そうだな。」

 数秒間があったあとに上星がぼそりと言った。


 「まさかもうラッキーあったのか!?見たのか!?」


 「あーー、もう、うっさいうっさい!!俺が聞きたかったのは平等院さんのお母さんの件だよ。」


 「ちっ、つまらんな」


 「タイミング的にもいままで続いている祟りとなにか関係があるんじゃないかと思って」


 「平等院さんのお母さんも壇ノ浦学園殺人事件についての何かを知り、生徒会によって襲われたと。あり得そうだな。」

 平善が答える。

 「それこそ平等院さんのお母さんに聞けないのか?犯人の特徴とか。」


 「平等院さんのお母さんはしゃべれない。」

 上星が言った。


 「しゃべれない?」


 「なんか精神的な病気でしゃべれないんだと。平等院さんが言ってた」


 「なんか闇深そうだよな、平等院家は。」


 「ん?どうゆうこと?」


 「実は前から平等院さんに不思議に思ってたことあってさ。あの子って言葉遣いめっちゃ荒いしどこか喧嘩売ってるスケバンみたいな女の子かと思ったら中身は普通の女の子って感じでさ。なんつーか、言動と性格が一致してない感じがするんだよな。」


 「まあ確かに・・・」


 「言葉遣いって幼児期に誰かの真似をして覚えてくもんなんだよ。主に両親のね。平等院さんのご両親とか家庭環境とかが少しに気になってーーーー」



 「誰と電話してんの?」

 大宗の話の途中で霊否が上星に話しかけてきた。 


 「平等院さん!悪い大宗。また連絡する。」

 今の話を霊否に聞かれるのはまずいと考え、上星はすぐ電話を切る

 

 「あっ、おい!・・」


 風呂上がりの霊否は、タオルを肩にかけ、柚希の服を着ていた。

 さっきの風呂の件もあって、なんとなく霊否のことが直視できない。


 「柚希ちゃんいい子だね」

 霊否が話しかけてきた。


 「普段めちゃくちゃやかましいけどね」

 と上星


 霊否は長い髪を後ろに結わいて、顔も血色がよくなっていた。

 先ほどまで鼻を真っ赤にして泣きじゃくっていたが、少し落ち着いたようで上星は安心した。

 


 「そういえば平等院さんは兄弟いるの?」

 上星が聞くと、

 

 霊否は急にはっとして、顔を背け、

 「いない。」と冷たく答えた。


 なにか聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれないと上星が黙っていると


 「赤間神社行ったときさ、転校の理由話したでしょ。」


 「うん」



 「父はあたしを何が何でも壇ノ浦学園に入れたかったみたいで。

 母はなぜかそれに猛反対してて。母と父はよく喧嘩してた。

 父はある事件に巻き込まれて亡くなった。この刀をあたしに残してね。」

 

 霊否は置いてあった刀袋を持ち出した。

 中には古びた刀が入っている。霊否が常に持ち歩いているものだ。

 

 「高校生になってなぜ父はあたしを壇ノ浦学園に行かせたかったのか、この刀は一体なんなのか。ものすごく知りたくなって。

 それを知るためには壇ノ浦学園に行くしかないと思って転校したの。」


 「じゃあ、平等院さんはお父さんのことと、その刀の謎を知るために壇ノ浦学園に転校したんだね」

 上星は言った。


 「そう、」

 霊否はそう言ってうなづいた。



 「そういえば・・・・」

 霊否は思い出したように言う。



 「家に、一度も入ったことない部屋があってね。父が亡くなった後、お母さんから絶対入らないようにってきつく言われてて・・」

 

 霊否の家にそんなところが。


 上星は決意したようにいう。

 「平等院さん、明日家に行って、その部屋に入ってみようよ」


 「え、駄目だよ。入っちゃいけないって言われてんだから」


 「お父さんに関することで、なにかわかるかも知れないよ。」


 「・・・・・。」

 霊否はうつむいて黙っている。迷っているようだった。


 「平等院さん。お母さんの言われたことを守るだけじゃだめだ。お父さんのこと知りたいんでしょ?」



 霊否はしばらく黙って、

 「・・・・ウェボシーが一緒に来てくれるなら。」

 うつむいたまま言った。




***


 翌日、霊否と上星は二人で再度霊否の家に向かった。


 霊否の家に入り、開けてはならない部屋の前に立つ。


 「平等院さん。心の準備はいい?」

 上星は霊否に聞いた。


 霊否は大きく深呼吸し、

 「あたしが開ける。」

 と言った。

 茶色の扉の前に立ち、ドアノブにゆっくりと手をかけ、目を閉じる。



 お母さん・・・・


 あたしに何を隠そうとしたの?


 


 勢いよく扉を開ける。



 中は・・・・


 なにも置いてない。

 

 もぬけの殻だ。


 部屋は縦長の物置になっており、奥の方に小さな窓が一つあるだけだった。

 


 「からっぽだね・・・」

 上星は言った。


 霊否のお母さんが隠そうとした部屋。

 そこに霊否のお父さんに関する情報があるかと思ったが。アテが外れたのか・・?


 「そんな・・・・」



 霊否は力が抜けたようにへなへなと座り込んだ。 

 「お母さん・・どういうこと・・?もうあたしわけわかんないよ・・・」


 霊否はうつむいて言った。

 「あたしはどうすればいいの・・・?教えてよ・・お母さん・・」

 

 上星は霊否の肩に手を当てた。


 上星には、それしかできなかった。

 



***


 早朝、壇ノ浦学園


 火影刹那、縞井螺良子、他生徒会数名が2-Bにどかどかと入ってきた。


 「生徒会・・・?」

 「いきなりなんだ」

 教室内がざわついていると生徒会長・火影刹那が言った。

 「平等院霊否はいるか」


 霊否は刹那を睨みながら言った。

 「なんだてめえ。あたしいまイライラしてっからしゃべりかけんな。」


 「貴様は退学処分となった。」

 刹那は霊否の言葉を無視して冷たく言った。


 「は・・・?」


 「荷物をまとめろ。今すぐこの学園を出ていけ」




***


 2ーBに生徒会が来ているという噂を聞き、嫌な予感がした上星と大宗は急いで教室に戻る。


 教室では、霊否が泣きそうな顔でカバンに荷物を入れていた。

 クラスのみんなは黙ってそれをみている。


 「生徒会長!!これはどういうことだ」

 上星が叫ぶ。


 「平等院霊否には退学処分が下った。こいつはいますぐこの学園を去ってもらう」


 「なんだと・・・!」

 大宗が言った。


 「ふざけんなよ・・・!平等院さんがなにをした!」

 上星が怒りをあらわにして言った。


 「ちょ、あなた、生徒会長になんて口きいてんです?!」

 生徒会副会長の縞井螺良子が眼鏡を上げながら言う。


 「なにをしたか、だと?」

 刹那は上星に、淡々と言った。


 「この女は西門を潜ったじゃないか。転校生だからとお仕置きは免除してやったが、やはり祟りが起こってしまった。

  連日続いている不条理な殺人、一人また一人と生徒がいなくなっている。みんな思っているだろう、この女が来てから祟りが始まったと。

  そして、この女がいなくなれば祟りは終わる!!」


 刹那は霊否の机を蹴り上げた。机が音を立てて床に倒れる。

 霊否はその音にびくっとする。


 「祟りの原因が平等院さんのせいだって、そんなのわからないじゃないか!!」

 上星が言う。

 

 「そう思ってるのは貴様だけだ。」

 刹那が冷たく言う。


 2ーBのクラスメイトは霊否を誰もかばおうとしない。


 見ると教室の外にも野次馬たちがぞろぞろを集まり人だかりになっていた。


 「特別に教えてやろう。」

 刹那が言った。


 「この祟りはな、約20年前の昭和63年2月に起きた、壇ノ浦町女子高生連続殺人事件の被害者、泉美月の祟りだ」


 「泉美月・・・・!!」

 初めて聞いた名前だった。


 間違いない。生徒会は20年前の事件について知っている。


 平等院さんが学園から出ていけば、真実を明らかにするチャンスはなくなる。


 「荷物はまとめ終わったか。」

 刹那は霊否に言った。

  

 霊否は無言でうなずいた。

 

 「じゃあ行くぞ」




***


 生徒会に護衛のように囲まれながら霊否は歩く。荷物を肩にかけて持ち、下を向きながら。

 まるで連行されている犯罪者のようだ。


 霊否の隣には生徒会長ががっしり肩を掴んでいる。


 廊下には大量の生徒達で埋め尽くされていた。


 「出ていけ!!!」


 「佐藤はお前のせいで死んだんだ!」


 「お前が転校してこなければよかったんだ!!」


 「茜を返せ!!クソ女!」


 生徒達からの罵声が飛ぶ。ゴミを投げつけてくる生徒もいた。


 「出ていけ!!出ていけ!!」

 


 「はい、どいてー、どいてどいてー」

 縞井螺良子が先頭に立ち、生徒たちをどかしながら廊下を抜け、下駄箱の方へ向かう。

 


 「くっそ!」

 上星は人込みにもまれながら言った。


 このまま下駄箱を抜け、正門から霊否を追い出す気だろう。


 人だかりは校舎の外、正門の方までまでびっしりと続いていた。


 壇ノ浦学園全体を巻き込んだ理不尽な事件の終結となればみんな大騒ぎするだろう。


 「おい、平等院さん!」

 上星は人をかき分けて必死に霊否に呼び掛ける。


 霊否はこちらを振り返ることもなく、だたうつむいたまま生徒会と共に歩いている。


 「なにしてる!抵抗しろ!!おい!!」

 上星は叫び続ける、


 こんなとき教師はなにをしているのか。ただ傍観しているだけなのか。

 これも壇ノ浦学園の元御三家である火影家の圧力なのか。



 これだけの人数が、霊否を学園から追い出すべきだと言っている。


 もう、なすすべがない。


 本当に。もうできることはないのか。


 悔しい。ひたすらに


 「ウェボシー!!」

 大宗と姫子が人混みをかき分けてやってきた。


 「大宗!知念さん!玖源さんは!?」


 「さっき風紀委員見に行ったんだがいなかった!」

 玖源ならどうにかしてくれるかもと、大宗と姫子に呼んできてほしいと頼んでいたのだ。


 「こんな時に何してんだあの人は!」


 霊否は正門前までじりじりと連れて行かれる。


 「でーーていけ!!でーーていけ!!」

 大衆に罵声を浴びせられながら、ごみを投げつけられるその姿は断頭台に連れて行かれるマリーアントワネットのようだった。



 「平等院さん!だめだ!!」

 上星は必死に声を上げる。

 さっきから怒鳴りすぎて声がカスカスになっている。


 「おい!!平等院さん!!!」

 それでも声を上げる。霊否に呼び掛ける。


 「諦めちゃ駄目だ!お父さんのこと知りたいんだろ!!」

 大衆の声が大きすぎて上星の声は霊否に届いてないかも知れない。


 「刀の謎も!!まだ何もわかってないじゃないか!!」

 それでも。精一杯大きな声で、言った。


 「これからいろんなこと知っていこうよ俺達で!!だから諦めるな!!」

 霊否が上星の方を向いた。


 「平等院さん!!」


 これだけ人がいても、確実に自分を見ているように思えた。


 そして____


 「ありがとう」


 そう言った気がした。


 当然聞こえるわけもない。でも霊否の口の動きと表情から、そう言っているように思えた。


 「平等院さん・・・・」

 上星は肩を落とした。


 もう、声も出ない。のどが痛すぎる。


 霊否は完全にあきらめている。


 「平等院さん!」

 「霊否!!」

 大宗と姫子はあきらめずに霊否に呼び掛けているが、霊否を連れた生徒会はすでに正門を出ようとしている。



 上星はいつかの霊否の会話を思いだした。



============


 なぜ父はあたしを壇ノ浦学園に行かせたかったのか、この刀は一体なんなのか。ものすごく知りたくなって。

 それを知るためには壇ノ浦学園に行くしかないと思って転校したの。


============



 お父さんのこと知りたいんじゃなかったのかよ・・・・

 こんな理不尽なことで諦めていいのかよ。




============


 あたし、今日みんなと、ここに来れてよかった!


============


 俺だってそうだよ。


 俺だって嬉しかった。

 転校してきて、生徒会に酷い目にあわされて、クラスのみんなから嫌われて。

 きっと君はいままでも色々辛い目にあってきたんだと思う。


 そんな君があの時見せた笑顔は、とても素敵だと思った。



 だから、こんなところで終わるな。

 これから四人でもっと楽しいこと沢山しようよ。



============


 あたしね、ウェボシーにはちゃんと言わないとって思ってたことがあったんだ。


============


 

 霊否、俺は・・・



============


 あたしを助けてくれてありがとう。


============



 「霊否ぁ!!!!」


 君の夢を叶えたい。



 最後に大声で叫んだ。

 

 その時だった。


 「おい、火影刹那!!」

 玖源煌玉が刹那の前に立った。

 

 「玖源さん・・・・?」

 上星が驚いたように言う。


 あれだけ騒いでいた生徒たちが一瞬にして静かになった。


 玖源の傍らには頭から血を流している女子生徒がいた。


 「祟りに会うのは西門潜った時だよな?!」

 玖源は女子高生を抱えながら刹那の前で訴えかける。


 「いま、頭上から突然でかい石が落ちてきて、この子の頭に当たったんだ!!正門でだぞ!!

 これって祟りじゃないのか?!」

 そう説明する玖源。

 傍らの女子生徒はぐったりとして動かない。


 「祟りに会うのは西門通ったときだよな!正門は大丈夫なんだよな?!」

 玖源は続けて大声て訴えかける。


 刹那はずっと黙ったままだ。


 

 「おい、正門だって。」

 「正門潜っても祟りに遭うの・・?」

 「正門なんてほぼみんな潜ってるぞ!!」

 大衆がざわめきだした。



 「答えろ生徒会長!正門を潜っても祟りはないんだよな?!」

 玖源が再度声を荒げる。


 刹那はついに霊否をその場にほっぽりだし、

 「行くぞ」

 ざわめく大衆をかき分けて生徒会室の方へ戻っていった。縞井螺良子も後に続く。




***


 「くそっ!!」

 螺良子は生徒会室に入るなり椅子を蹴り上げた


 「いったいどういうことだ正門でも祟りが起きるなんて」


 「いや、あれは玖源の策略だ」

 刹那は落ち着いた様子で言った。


 「え・・・?」

 螺良子はよくわからないという風に言った。

 



***


 「自作自演!?」

 上星が驚いたように言う。


 「そうだ。みんな驚かせて悪かったな。」

 玖源が言った。


 霊否、上星、大宗、姫子の四人は大衆をかき分け、風紀委員の教室で話していた。



 先ほど玖源が抱えていた女子生徒は「ふぅ~」と言いながら顔をタオルで拭いていた。

血のりだ。

 


 「霊否・・・!!よかったぁ・・!」

 姫子が泣きながら霊否に抱きつく。


 「ヒメぇ・・・・!めっちゃ怖かったぁ・・・!ぜったい終わったと思ったぁ・・」

 霊否も泣きながら姫子にしがみつく。



 「俺も正直あの状態からはさすがに無理かと思ったが・・・」

 大宗も一安心という風に言った。


 「玖源さん、これは一体・・・・」

 上星は何が起こったのかわからず、玖源に聞いた。



 「なに、大衆を動かすためのテクニックだよ。」


 玖源が話し出した。


 「壇ノ浦学園の生徒のほとんどが20年前の事件について知りたいと思っている。

 なにしろ知らないと自分が危険な状態になるからな。

 そして、生徒会は壇ノ浦町女子高生連続殺人事件について多くの情報を持っている。にも関わらずそれを説明していない。


 生徒会に対する疑惑は生徒全員あったはずだ。ただお仕置きや権力の大きさから恐れて言えなかった。

 その憤りを祟りの原因と思われる平等院にぶつけていたわけだ。」



 上星は霊否に罵声をあびせていた大衆を思い出した。

 理不尽に命が狙われる恐怖。祟りの恐ろしさ


 玖源は続けた。


 「不可解なものがあるとき、人は何かに縋りたくなる。祟りの原因が平等院かもしれないならそれに縋りたいのさ。

 その原因がたとえなんの根拠もなくてもね。

 冷静に考えればなんの根拠もないことに気づけるはずだが、こういうときの人間は馬鹿だからなあ・・」



 玖源は教室の扉をガラッと開けた。

 「だからこそ操りやすい」


 上星たちは教室の扉から廊下を見る。

  

 廊下では生徒たちがさまざまな噂話をしていた。


 「正門もアウトなの!?」


 「俺、今朝も正門潜っちまったよ!」


 「どうなってんだよ生徒会!!」


 「だいたい祟りのこと説明しないのがおかしいよな!」


 「私たちこんな危険な目にあってるのに!生徒会がちゃんと説明すべきだよ!」



 生徒たちは完全に混乱していた。

 その不安の矛先は、なにも説明せず黙って生徒会室に籠っている生徒会長に向けられていた。


 もはや授業どころではない。学園全体が崩壊状態だ。


 「祟りに理由があるならそれが標的になる。でもその理由が崩壊したとき、標的は理由を説明した者に変わる。って理屈なわけだよ。」

 玖源は得意げに言った。



 そして廊下に飛び出し、大声で生徒たちに呼び掛けた。

 「おい、みんな。ちょっと力を貸してくれないか?」


 「玖源さん、どうする気です?」

 上星が聞いた。彼女は一体何をしようとしているのか。



 「日本人によくある考え方だ。赤信号、みんなで渡れば怖くないってね。」

 玖源はにやりと笑った。



***


 「会長‥、外を!」

 螺良子が生徒会室の窓をみて叫んだ。


 窓を見た刹那は驚きの声を上げる。


 「これが貴様の狙いか‥玖源煌玉・・・!」


 ギリギリと音を立てて、歯を食いしばる。



 西門前で数百人近くの生徒たちがこちらに向かって叫んでいたのだ。

 その数はどんどん膨らんで、500人近くに上っていた。

 

  

 「出てこい!生徒会!!」


 「祟りついて説明しろ!!」


 「20年前の事件のことをなぜ隠すんだ!!」


 「泉美月とは誰なんだ!」


 「説明しろ!火影刹那!!」


 

 ”説明しろ!”と書かれた看板を掲げて叫ぶ者、


 大きな垂れ幕に”説明しろ!”と書いて数人で持つもの。


 拳を掲げ、ひたすらに抗議するもの。



 「説明しろー!!説明しろー!!」



 学園の規律など完全に機能していない。

 デモ状態だ。



 抗議している集団の中心には、ベージュ色の髪をした風紀委員長、玖源煌玉の姿があった。

 

 「さあ来い、生徒会長。自分の無実を証明してみせろ」


 玖源煌玉はにやりと笑った。




***


 「さあ、これで一気に形勢逆転。」

 玖源煌玉が言った。


風紀委員・100人に加え、

生徒会に不満を抱き、玖源に声をかけられ途中参加した生徒・450人

合わせて550人が西門前に集まり、生徒会室にいるであろう、生徒会長・火影刹那と副会長・縞井螺良子に抗議している。


 「俺達も参加していいですか?玖源さん!」


その人数はどんどん増えている。

 


 「玖源さん・・この人凄すぎる・・!!」

 上星が驚きの声を上げる。


 人を動かす交渉術と、頭の回転の速さ、

 そしてこれだけの大衆を動かすことができるカリスマ性。


 絶対絶命のピンチから脱却しただけでなく、こちらが有利になるとは。

 

 こういう人が将来、みんなから尊敬されるようなリーダになっていくんだろうなあと思った。



***

 

 「会長・・・・・どうしましょう・・・・?」

 螺良子が刹那に言った。

 ここまで来て、もう隠し通すのは無理だ。



 「会長!!」


 「・・あれの準備をしろ。」

 刹那は冷たく言った。


 「あ、あれですか!?」


 「そうだ。急げ。」

 


 「・・はい!!」


 

 生徒会室に一人残った刹那は、首からさけている首飾りを取り出した。

 これはいつも刹那が肌身離さず持ち歩いているとても大切な物だった。


 紐の先には三日月のような形をした小さな勾玉が一つついていた。

 美しい翡翠色に宝石の装飾がされている。


 刹那はその勾玉を握りしめ、「師匠・・・・・」と呟いた。



============


 いいか、刹那、これは火影一族の犯した罪だ。


 お前が一生涯かけて隠し通す。それがお前の使命だ。


============


 刹那は険しい顔で、窓の外で騒いでいる風紀委員たちを睨みつける。


 「ええ、わかっておりますとも。」

 

 勾玉を懐の間にしっかりとしまい込み、刀を掴むと生徒会室を後にした。




***



 「でてきたぞ!」

 

 校舎から何者かが出てくるのが見えて、風紀委員の一人が声を上げた。


 みんな校舎側に目を向ける。



 すると、竹刀や薙刀、弓など、武器を持った生徒達がぞろぞろと校舎からでてきた。


 「なんだありゃ・・・・」


 その列はどこまでも続き、先頭から順番に風紀委員の前にキビキビと並ぶ。


 「一体何人出てくるんだ・・・・」

 

 玖源が言った。

 「火影家は壇ノ浦町では有名な御三家の一つ。おそらく剣道部部長の火影刹那は

 武道系の部活を掌握していたのだ。火影家の権力を利用してな。


 祟りに関連して、こんな生徒の暴動が起こった時の為の制圧舞台として。

 武道系の部活が全部奴の配下だ・・・!」


 玖源の言う通り、生徒会意外にも剣道部、薙刀部、柔道部、空手部、弓道部、テコンドー部など、武道系の部活がずらりと並ぶ。


 「なんて数だ・・・・」

 800人くらいはいるだろうか。

 規則的な並び方で風紀委員ら抗議陣の前に立ち、


 オウ!オウ!オウ!オウ!


 という掛け声とともに武器を地面に叩きつけながら威嚇してくる。



 「玖源さん!」

 風紀委員の一人が玖源に駆け寄る。


 「おう、どうだった?」


 「はい、プルームスパールスの二人なんですが・・・・」


 「なんだ、早く言え。」


 「・・・・今遠征中で不在です」


 

 風紀委員数名がざわめき出す。

 「なんだと!?」

 「あの二人がいない!?」

 戦力として期待していた飛来悠李と七海入鹿は不在のようだった。

 「あの二人無しで勝てるのか・・・?」


 「勝てるさ。」

 玖源がきっぱりという。

 

 その視線の先には____霊否の姿があった。



***



 「メドゥーサ行くぞ」

 霊否が声を上げる。


 「うん!」

 ひょうきんな声とともにメドゥーサが表れ、

 次の瞬間、霊否はキラキラと光りに包まれた。


 リボンとフリルがたくさんついた、ロリータファッション。尻から伸びた先のとがった尻尾。

 肩甲骨から生えた大きな羽がバサッと音を立てて広がる。



 「練習の成果見せる時が来たな。」


 「がんばろうね、霊否ちゃん!」


 「おうよ。」



 後方にいる火影刹那がスピーカーで言った。


 「無駄な主張はやめていますぐ教室に戻れ。全員稽古の打ち込みの練習台になりたいのか。」


 「ふざけるな!」

 「いつもそうやっていつも事実を隠蔽しようとしているだろう!」

 「暴力には屈しない!!」

 風紀委員側が口々に言う。



 火影刹那は「ちっ」と舌打ちしたあとにスピーカーで続けた。

 「いったん話し合いをしよう。そちら側の代表者二名を選出し、前に出てもらえるか。」


 「私が行こう。」

 玖源が言った。


 「平等院、一緒に来てくれるか。」


 「あたしも?」

 霊否が言う。


AstiMaitriseアスティメトライズ

 風紀委員側は、平等院びょうどういん 霊否れいな玖源くげん 煌玉こうぎょく

 生徒会側は、火影ほかげ 刹那せつな縞井しまい 螺良子ららこ


 四名が並ぶ。



 「ずいぶん大層なことやってくれたな。玖源」

 刹那があきれたように言った。

 

 「このままでは生徒会と風紀委員の全面戦争になるぞ。

 こちらとしてはできれば争いは避けたい。いまやめれば全員お仕置きなしで許してやる。」

 

 「その脅しはきかねえよ。火影刹那。」

 玖源が刹那を睨みながら言った。

 「風紀委員側は貴様が祟りについて説明するまで絶対に動かない。そっちが力でねじ伏せようとするなら断固抵抗するね。」

 

 「火影会長がせっかくお慈悲をくださったのに、それを無下にするなんて愚かな連中ですね!」

 螺良子が口をはさむ。

 

 刹那は玖源に近づく。

 「貴様の目的はなんだ?こんな大人数巻き込んで・・・なにがしたい・・?」

 三白眼で鋭く睨みながら言った。


 

 「もちろん、罪の告白だよ。20年前の事件の。そして祟りのこと。まあ20年前の事件についてお前に言及するのは見当違いかもしれないが。

 恨むなら火影家に生まれたことを恨むんだな。」


 「・・・?」

 火影家に生まれたことを恨む・・?霊否には玖源が何を言っているのかわからなかった。


 「・・・・ふん。」

 刹那は続けた。

 「私から話すことはなにも無い。学園の規律を乱す輩は誰だろうと叩き潰す。お前らのような雑魚が束になってかかってこようが、所詮は烏合の衆。私と生徒会にかかれば一瞬で終わりだ。

 私としてもお前のような目の上のたんこぶが早めに処理できて嬉しいがな。」


 「あんたたちなんか、火影会長と私たちに叩き潰されちゃえばいいんです!

 二度と逆らえなくなるくらいボコボコにしてやりますよ!ざぁーーこ、ざぁーーこ!!カス!カス集団!!」

 螺良子がまた口をはさむ。



 玖源は顔をしかめ、螺良子に顔を近づけて言った。

 「いちいちうっせんだよチビ。生徒会長がいないとなんもできねえモブが。」

 

 「なんですって・・!」

 玖源と螺良子が睨みあう。


 「聞いたぞ。頼りの戦力だったプルームスパールスの二人は不在のようだが、大丈夫なのか?」

 と刹那。


 「よく知ってるなぁ。こちらの戦力を抜かりなく調査してるなんてよほど余裕がないんだな。」

 と玖源


 「それにこっちには平等院がいるからな。」

 玖源は霊否を見ながら言った。


 「こんな小娘に何ができる?」

 刹那が嘲笑しながら言った。


 「それは戦ってからのお楽しみだ」


 刹那は「ちっ」と舌打ちし、もう話あっても無駄だという風にくるりと振り返った。

 「交渉決裂だな。」

 そう言い残し、生徒会側の軍勢の方へ戻っていった。


 玖源も風紀委員側の軍勢の方を向き、

 「最初から交渉する気などないよ。」

 そう言い残した。




***


 生徒会側は、西門前から第二グラウンドへと移動した。

 風紀委員側も追いかける。


 生徒会側:800人

 風紀委員側:600人


 双方、第二グラウンドで睨みあう形となった。



 「防御の陣形!」


刹那が生徒会側の大軍に向かって大声で叫んだ。


 すると大軍がぞろぞろと規則的な動作で動き出し、陣形が変わっていく。


 先頭一列に剣道部と弓道部。

 後方の中心部に刹那。その周りには空手部と柔道部が四角い輪を作って刹那を囲んでいる。

 四角い輪の両隣にそれぞれ二軍づつ、薙刀部、テコンドー部が構えている。



 「風紀委員側!全員武器を持て!バトルフレームで使っている武器でも、部活で使ってるやつでもなんでもいいぞ!!

  武器の無い者は私に言え!支給する!」

 

 今度は玖源が風紀委員側の軍勢に呼び掛ける。


 「並び方などどうでもいい!意思のある者から先頭に、配置につけ!」



***


 霊否は父からもらった古い刀を鞘に入れたまま、鍔の部分と鞘の部分を紐でぐるぐる巻きにしていた。


 「平等院、なにやってる?」

 玖源が不思議そうに聞く。


 「いや、刀が万が一にも抜けねぇようにね・・・っ、。歯がでて怪我でもさせたら大変じゃん」

 霊否が答える。



 「じゃあ、あたしも行くわ。」

 霊否が行こうとすると、


 「待て、平等院。お前は私と後方で待機だ。」

 と玖源が言った。


 「え・・?」



***



 上星はバトルフレームで使っていた木刀を持って構えていた。

 数十メートル先には生徒会側の軍勢が待ち構えていた。


 おびただしい数。自分より遥かに体格のいい男たちばかりだ。

 思わず体がガタガタと震えた。


 「いまからあんなのと戦いすんのかよ・・・・」

 声が漏れる上星


 「なんだお前びびってんのか?」

 上星の隣にいた風紀委員の一人が話しかけてきた。


 「いや・・、びびってねーし・・!」

 上星は決意を決めたように言う。


 そうだ。俺はこのためにいままで頑張ってきたんだ。

 真実を隠蔽し、暴力の限りをつくす生徒会を倒すために・・・!




 「いくぞ、風紀委員!!!」

 玖源の叫び声が響き渡る。



 「突撃ーーーーーーー!」


 ワアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!


 という掛け声とともに一斉に走り出した。





==============================================

【次回予告】


 玖源 煌玉だ。ついに始まった風紀委員VS生徒会の対決・・・・。


 プルームスパールスがいない中でどう戦うか。勝負の鍵を握るのは戦略と結束力、そして平等院の異能だ。

 待ってろ生徒会。勝つのは我々、風紀委員だ。


 次回、AstiMaitriseアスティメトライズ #5「|Head-On Confrontation《ハード オン コンペティション》」

 


 すべては、AstiMaitriseの名のもとに。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る