#23

ポエーナ城へ攻撃を始めた飛竜三匹。


さらにはそこへ待機していたケルベロスまで加わり、城は火に包まれる。


すぐにポエーナ帝国の兵士が集まって応戦するが、ろくな準備をしていない状態では難しく、すべなく蹂躙じゅうりんされてしまう。


どうやら魔導具は試作品のいきを出ておらず、実戦に投入するには早かったようだ。


「おお、フォレトーナ。無事だったか!」


「ベアール……。相変わらずあなたが絡むと、ろくでもないことが起こりますね」


飛竜に振り落とされたフォレトーナは城内へと入り、皇帝フェル―キを救出したベアールと合流した。


それからベアールは、彼女に共に幻獣を止めてくれと頼んだが――。


「はぁ? なんで私がそんなことをしなければいけない?」


「そう言うな。頼むから手を貸してくれ」


「まあ、この状況では仕方なし……といったところですか。このままではルモア様も危ないですからね」


「息子の心配はせんのか? 冷たい母親だな」


「あの子は“私たち”の子ですよ。それに、この程度で死ぬようなやわきたえ方はしていません」


かくしてフォレトーナはベアールと共に、ポエーナ軍を指揮して幻獣を止めるために動く。


――その頃、城を出たルモアは、幻獣たちが暴れ出したことで、再び中へ入ろうとしていた。


かといって、正面から入ればアルボールと戦闘中のパイモがおり、それにポエーナ帝国の兵士たちも幻獣の迎撃に集まっている。


不用意に侵入するのは危険だが、この状況を放っておくわけにはいかない。


「そうだ! うちのお城には裏口があったし、もしかしたらここにもあるかも!」


大陸の西側地域の建物は、基本的に似た構造でできている。


それは城も同じではないかと思ったルモアは、すぐに壁に張り付くように移動し、他の出入り口を探した。


そして、彼女の予想が的中し、再び城内へと入ることに成功したのだが――。


「ルモア·エートスタイラー!? 貴様ぁぁぁッ!」


裏口から中に入ると、そこにはシフェル一人でがいた。


おそらくは傍にいた魔術師バティームが、主である彼の心配をして逃げるように進言したのだろう。


それぐらい今の城内は、幻獣たちの攻撃によって危険な状況だった。


「ひぃッ!? シフェル皇子!? なんでこんなところに!?」


「フフフ……。これは日頃の行いのおかげとでもいうのか。貴様さえ捕らえれば、フォレトーナ·アルヴスピアを、シェールス国、幻獣どもを黙らせることができる」


「今はそんなことをしてる場合じゃないでしょ!? 早く幻獣たちを止めなきゃ!」


「黙れッ!」


シフェルは剣を抜き、ルモアへと斬りかかった。


下段の構えを取り、下半身に向けて刃を突きつける。


足を斬り、逃げれなくするのが狙いだ。


ルモアは、このまま再び捕まってしまうかと思われたが――。


「ルモアに手を出すな!」


シフェルの剣は弾かれ、辺りに金属音が鳴り響いた。


そこには、シフェルと同じく銀色の髪に赤い瞳を持った男――シファール·エンデーモが現れた。


剣のぶつかり合いの後に馬の鳴き声が聞こえ、ルモアが振り返ると、そこには幻獣ユニコーンが立っている。


一体どうしてシファールとユニコーンがこんなところに?


ルモアが混乱していると、シファールがシフェルを押し返して言う。


「ユニコーンがおまえいる場所まで連れてきてくれた」


「この子が……?」


「もう安心しろ。俺がお前を……絶対に傷つけさせない!」


声を張り上げたシファールに、兄シフェルが襲いかかった。


再び刃が重なり、激しく打ち合いながら、間合いが広がると同時に両者共に炎魔法を放つ。


業火ごうかがぶつかり合い、互いを勢いで飲み込もうとうなりを上げていた。


その光景は、まるで炎が肉食動物同士の決闘かのように、互いを喰らい合っている。


さすがは軍事国家ポエーナ帝国の皇子。


シファールとシフェル二人は、そこらにいる並の戦士や魔導士よりも実力は上だった。


「負けないで、シファール! 私のためじゃない……あなたの夢のためにッ!」


ルモアが叫んだ次の瞬間――。


シファールの放った炎魔法に変化が起きた。


真っ赤な業火が次第に蒼炎そうえんへ変わっていったのだ。


この変化にルモアが驚いていると、シファールは彼女に向って叫ぶ。


「そうだな……。おまえのためだけじゃない……“俺たち”の夢のためにッ!」


「バ、バカな!? 魔力ならば私のほうが上のはず!? まさか幻獣姫の声で力が増したというのか!?」


驚愕きょうがくするシフェルの赤い炎をシファールの蒼炎が飲み込み、その勢いのまま兄の体を吹き飛ばした。


壁に叩きつけられたシフェルは倒れ、まだ息はあるものの、もう動けそうになかった。


ルモアはシファールへと駆け寄り、二人は笑みを交わし合う。


それからルモアはユニコーンを撫でながら、、酷い火傷やけどを負ったシフェルの傷をいやしてほしいと頼んだ。


ユニコーンの額の角には強力な治癒、解毒の力があり、そのことを知る者らがこぞって欲したと言われている。


ルモアにお願いされたユニコーンは、最初こそ不愉快そうにした。


だが、結局は彼女の頼みを聞き入れ、シフェルの傷を癒してやった。


その様子を見ていたシファールがユニコーンに礼を言った後――。


ルモアは、彼にこう声をかけた。


「シファール……。次は私の覚悟を見ていて!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る