#13
――帝都にある城の一室。
ポエーナ帝国の第一皇子であるシフェル·エンデーモの部屋には、二人の若い男がいた。
一人はバティーム·エイティンという黒いローブを羽織った魔術師だ。
彼は長い黒髪に女性のような容姿をしている第一皇子シフェル派の
それだけではない。
バティームはポエーナ国の魔術師の一団を任されており、軍にも内政にも力を持つ男でもある。
「シフェル様。まずは
その後ろでは、閉じてるかのような細い目をした男があくびを
腰に収めた剣をいじり、自前の短いブラウンヘアを手で撫でているこの男の名はパイモ·ナインズ。
彼もまた第一皇子派の者で、細身の軽装剣士ながらシフェルの護衛をしている男だ。
そして、自称アポストル大陸最速の剣士。
元々はポエーナ帝国内にある小さな村の出身だったが、シフェルが直々に彼を
「なあ、バティーム。シフェル様はそんなグダグダ長い挨拶はいらねーって顔してるよ。いいからさっさと報告しろよ。いちいち回りくどいんだよ、あんたは」
「貴様という奴は……。相変わらず礼儀作法というものを知らんな」
「そうか? これでも日々勉強してるんだぜ。それにさ。シフェル様が仲間だけのときは気を
「シフェル様の言葉に甘えが過ぎるんだ、貴様は! 大体なんだ、その態度は!? いくらシフェル様がお許しになっているとはいえ、主を前に無礼だろうが!」
バティームはその綺麗な顔を歪め、パイモに向かって声を荒げた。
それでもシフェル皇子の配下かと、もっと王族の護衛としての自覚と品格を持てと、
まるで息子を
シフェルはそんな彼らのじゃれ合っている姿を見ると、嬉しそうに椅子から立ち上がり、窓から外を眺める。
「相変わらずおまえたちは仲がいいな。まるで血を分けた兄弟のようだ。見ていて実に
少し
シフェルがこんなに内面をさらけ出すことなど、城内の者らは当然、ましてや父フェル―キにも弟シファールの前でもない。
その事実だけで、バティームとパイモがその能力だけではなく、人としてシフェルに気に入られているのがわかる光景だ。
「シフェル様お
「俺もこんな
「パイモ貴様、そこへなおれ! 今日という今日こそ、貴様の無礼な物言いを
「先に悪口いったのはバティームのほうだろ? 俺は言い返しただけで非力なあんたとやり合うつもりねぇって」
「誰が非力だ! 貴様と私はそう体格も変わらんだろうが! それと魔術師を舐めるなよ! なんなら今すぐに私の暴風で懲らしめてやる!」
凄まじい風が締め切った室内に吹き始めた。
まるで身を切り裂くような冷たい風が、バティームから部屋中を舞う。
すると、パイモはため息をつきながらも腰の剣を抜こうとし、このまま二人の
「もうその辺にしておけ。それよりもバティーム、おまえの報告を聞かせてくれ」
シフェルの一言で風は止み、パイモも剣から手を離した。
彼らの表情が一気に落ち着いたものへと変わる。
「では、報告ですが」
バティームは頭を下げて「失礼しました」と言うと、人が変わったかのような落ち着いた面持ちで話を始めた。
「実は以前からシフェル様に頼まれていた物が完成いたしました」
「ほう。それは大義であった。これであいつが言う……幻獣姫に頼る必要もなくなったということだな」
「それでも試作品のため非常に不安定ですが」
「構わん。丁度、式は明日だ。試しに使うのもよかろう」
バティームの忠告を気にせず、シフェルは窓から彼らのほうへ体を向けた。
明日のシェールス国とポエーナ帝国の歴史的瞬間――。
過去から現在へと続く、戦乱のアポストル大陸で行われるシファールとルモアの結婚式。
それがいかに無意味なことかを、父である皇帝フェル―キや弟に知らしめるのだと、シフェルは口角を上げながらも怒気の含んだ声で言う。
「大陸統一などできない。それはこの地に生まれた者ならば、誰でも知っている常識だ。それを改めて父上と、夢見る弟に教えてやる」
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