#11
それから二人は話をした。
まずは結婚式の日取りとその流れ、そして式の規模を。
なんでもシファールが言うには、それほど大々的な式にはならないようだ。
話を聞いたルモアは疑問に思った。
なぜならば彼女は、どうせ結婚式をあげるのならば、もっと大規模なものにして他国へアピールすると思っていたからだ。
別に自分が豪華な式を望んでいるわけではないが、長年いがみ合っていた両国の王族同士が夫婦になるのだ。
これは大げさにいっても歴史的瞬間。
アポストル大陸でも、かなりめずらしい出来事のはずなのにと。
「おかしいと思っていそうだな。まあ、そう考えるのが当たり前だが」
シファールはそんなルモアの心情を察し、その理由を説明し始めた。
どうやらポエーナ帝国では皇子とルモアとの結婚をよく思っていない者が多いらしく、あまり派手にやろうとすると、貴族や民の反発を
たしかに、これまで血を流す以外に関りのなかった両国だ。
皇帝フェル―キが病床に伏しているとはいえ、見え見えの政略結婚に不信感を覚える者は多いだろう。
さらにシェールス国は軍を持たない国だ。
おまけに
同盟国としての旨味は少ないし、頼りにならないと思われるのも仕方がない。
「私たちの結婚、この国の人たちは喜んでくれないんだね……」
笑みを見せながらも
わかっていたことだと自分に言い聞かせていても、やはり祝ってもらえないというのは
二人の結婚は、平和への第一歩ともいえることなのに……。
ルモアは胸を痛めていた。
この結婚に裏があるのは誰の目に見ても明らかだが、それでも……。
争いをなくすためのものだというのに、それを受け入れるつもりが、ポエーナ帝国側にはなかったということに。
「そんな顔をするな。俺はおまえがここまで来てくれただけでも、十分嬉しいんだから」
シファールが俯いたルモアに身を乗り出してきた。
そのときの彼の表情は、先ほどの作りものではない、自然な笑顔にルモアからは見えた。
こちらが彼の本性なのか?
ルモアはそう思いながらシファールのことを見ていられなくなり、慌ててテーブルに置かれた紅茶を飲み干す。
「そ、そう! そうならよかったよ! まあ、こうなることは予想できたし、気にしてもしょうがないよね!」
そのせいで、まるで頬袋にドングリを詰め込んだリスのような顔になっていた。
そんなとても王族とは思えないルモアを見て、シファールはつい吹き出してしまう。
「おいおい、そんな慌ててなくても菓子は逃げないぞ」
「ふぐッ!? な、なにか飲み物をッ!」
案の定、ルモアは焼き菓子を喉に詰まらせて
シファールはそんな彼女に呆れながらも、優しく背中を叩き、彼女に水を渡した。
渡された水を飲み、
「落ち着いたか? もう大丈夫なら話を続けたいんだが」
「大丈夫! まだまだ話すこといっぱいあるもんね! ドンドン話して!」
ルモアが声を張り上げると、シファールは笑みを浮かべながら再び話し始めた。
それは、ルモアの身の安全についてだ。
やはりというべきか。
敵国との結婚をよく思わない者が多いだけあって、ルモアを狙う
屋敷の中なら危険はないが、外に出るときは絶対に一人にならないようにしないといけない。
力強く
よく思われていないのだから当然だと頭では理解していても、そこまで嫌われているのだなと。
「一応ベアールが直属の兵と共に屋敷周辺を守るが、それでも万が一ということもある。だから十分に気を付けるようにな」
「ううん、それくらい覚悟してたよ。だって最近までずっと戦争してたんだし」
口角を上げ、精一杯の強がりを見せるルモア。
だが、彼女の震える体から不安がにじみ出ていた。
そんなにシファールは言う。
「そんな心配するな。俺の目が黒いうちは、たとえ刺客が父上や兄上だろうとおまえを守ってみせる」
ルモアは見つめられながら思う。
この男は、どうしてここまでして自分を守ろうとしているのだろう?
いや、その答えを自分は知っている。
そんなことはわかりきっている。
それは彼の夢――世界を平和にし、大陸を統一するため……。
自分は偶然、一国の主という立場だったということと、シファールと同じ夢を持っていて、それを彼がどこかで知ってこうなっているだけだ。
(ダメダメ、こんなこと考えてちゃ……。今はこの人と一緒に、シェールス国とポエーナ帝国を繋げることだけを考えなきゃ……)
自分たちは、あくまで大陸統一を目指す協力者同士。
夫婦の契りはそのための取り引きであり、互いの夢を叶えるための契約なのだ。
シファールの優しさを勘違いしてはいけないと思い、ルモアは気を引き締めた。
「聞いているか、ルモア?」
「えッ? ああ、うん! ……
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