第126話 卒業

ケイトは、朝から緊張で食事が喉を通らなかった。


ウィンダムに滞在する事数日、アリッサの両親と食事中に、ひょんな事から孫の話になった。


アリッサの両親は2人とも、早く孫が見たい、どうなのだと言った踏み込んだ質問をしてきた。


その質問に、ケイトとアリッサは返す事ができず、顔を赤くして黙ってしまった。


その後、質問攻めに合い、初夜もまだだと言う事がアリッサの両親にバレてしまった。


その事を知った2人は、それはいけないと言って、寝室を用意して初夜の準備を整えたのである。


それに、夕食も精のつくものをたっぷりと使った料理を沢山用意されていた。


それだけではなく、なんとこれから、まさかの初夜の為に家のメイド達に風呂で全身くまなく洗われると言うのだ。


貴族であれば、当然の事らしいが、こちとら貴族でもなければ向こうの世界でも幼少期以降に女性と風呂に入った事も無ければ現れた事もない。


しかし、これを拒否すると言う事はアリッサを拒んだという事になる。


ケイトは意を決して風呂の脱衣所へと入室した。


「ケイト様、本日は私達わたくしたちが準備を務めさせていただきます。私達は私がアリッサ様の乳母を務め、他の2人はアリッ様の世話係だったものです。アリッサ様の世話係としての最後の務めとして、アリッサ様の初夜のお手伝いができる事をとても嬉しく思います。では、衣類から失礼いたします」


若いメイドではなく、アリッサの乳母を務めていた使用人の為、一安心と言えば一安心だが、アリッサの母のシャディ同様、この世界の女性は年齢に反して若く見える。


ケイトは出来るだけ心を無にして、反応しないように頭の中で念仏を唱え、雑念を振り払う。


ケイトが無になっているうちに、ケイトは服を脱がされ、湯船に浸かりながら頭を洗われ、そして体も念入りに洗われていった。


準備が完了し、バスローブを着せられて、メイドの1人、アリッサの乳母の案内で用意された部屋に向かう。


「アリッサ様も、準備が出来次第いらっしゃいます。ケイト様、貴方も初めてでしょうがアリッサ様も初めてでいらっしゃいます。無理にリードする必要はございません。アリッサ様を傷つけないように丁寧に。それに2人は王と王妃、2人で国を導いていくお二人です。独りよがりはいけません。格好をつけず、分からなければ2人で相談し、時には相手の意見を聞くのです。言葉にしなければ相手に分かってもらえません。分かってるはずだは絶対にダメです。これが、男女が上手くいくコツでございます。愛とは、独りよがりではいけないのです。分かりますか?」


乳母のアドバイスをケイトはしっかりと聞いて頷いた。

上手くやらなければいけないと、アリッサのことも考えず、向こうの世界で見聞きした事で頑張ろうとしていた。


アリッサの乳母の話を聞いて自分が初めてなのだから、背伸びする必要は無いと考え直した。


「ありがとう」


顔つきの変わったケイトを見て、アリッサの乳母はにっこりと微笑んだ。


「大丈夫ですよ、立派な物をお待ちなのですから」


「な!」



アリッサの乳母はそう言い残すと、ほほほと笑いながら去って行った。


数分後に、準備を済ませたアリッサが部屋へとやって来た。


緊張する2人であったが、先ほどのアリッサの乳母の言葉を思い出し、格好はつかないかもしれないが、2人が共に思い出に残る夜を過ごして、ケイトはついに、卒業を果たした。


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