第118話 都合のいい話

「リボルよ、数年前に私が言った事を覚えているか?」


リボルは、父がどの事を言っているのか分からずに、顔を顰めた。

今はそんな事よりも、平民が国を作り、しかもアリッサを拐かしていることの方が問題であり重要である。


「父上、そんな事よりも___」


「そんな事ではない。お前が数年前に学園で問題を起こした時に言った事を覚えているのかと聞いているのだ!」


リボルは父の剣幕に背筋が伸びた。

そして、自分の記憶を掘り返し、学園で何か問題を起こした事があったかと考えた。


「えっと、あの、私が問題を起こした事などありましたでしょうか?」


リボルは、学園では上位の成績を取ってきるし、これまでに教員には褒められた記憶はあれど、怒られた記憶はない。


本当に分かっていない様子のリボルに、父は静かに一言「私が注意した事があっただろう」ともう一度確認したが、リボルは結局わからなかった。



「お前が1人の生徒を学園から追い出した事だ!」


痺れを切らして怒鳴った父の言葉を聞いて、リボルはその事は覚えていた為、父に言い訳を始めた。


「あ、あれはケイトが学園にふさわしくない程に落ちこぼれだったので、ウィンダムの将来の為だと言ったではないですか」


リボルはケイトを追い出した後、学園から報告を受けた父に、追い出そうとしようとした理由を聞かれて同じ言い訳をした。

その時は、平民が貴族に対して礼を尽くさない上に平等などと言うルールがある学園のルールを貴族優先にすべきだ。平民など、貴族の道具であればいいとまで発言した。


その事で、父に平民が学園に通うメリット、そこで見出した才能が国に召し上げられる事で起こりうるウィンダム王国の国力の強化について教えられ、まだ成長を見込める生徒を追い出す事のデメリットについても教えられたはずであった。


しかし、これまでのリボルの話は、その事を忘れて、まだ平民を蔑ろにする発言をしている。


それどころか、事実を確認せずに、自分の我を通す為に都合のいい話ばかりし、ウィンダム王国の意思を考えない発言であった。


「リボル、私は言ったな。平民にも平等の教育を施す事で、今まで芽吹かなかった才能が芽吹き、最終的にはウィンダムの為になると。そして平民をそこまで差別すべきではないとも教えた」


「しかし、あのケイトは___」


「最後まで聞きなさい。お前がウィンダムから追い出した才能は、五大大国全ての王に認められてその中心に国を作る程の才能であった。その才能、国との繋がりを得る為にマグノリア様はアリッサとエルサを妃にと送った。そして、ケイト王は我が国の民も拉致被害にあっていたアンクリシア王国との問題を解決して、その後処理の為にウィンダムにご滞在中だ。お前が言った様なアリッサ王妃様が拐かされた事実はどこにもないし、お前が起こそうとした行動は国の意思に背く反逆罪と取られてもおかしくない。問題が大きくなれば、私も庇う事などできん。 事の重大さが理解できたか?」


父の話を聞いて、リボルは顔を青くした。


「そ、そんなバカな、アイツの言う事が本当だなんて」


リボルは、認めたくない一心でそう呟いた。


「2人とも、いつまで話していますの? ディナーが冷めてしまいますわよ」


話の腰を折るように、リボルの母が扉を開けて入ってきたのであった。


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